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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第一章 同居開始編
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もてなす心とさぐる器

 九条家に挨拶に来たはいいが、弥生さんの父親からは認めないと言われた。席を立ちその場を離れようとした所に意外な人物が現れた。


「えっ……時子さん?」


 俺はなぜここに時子さんが居るかわからなかった。


「おばあちゃん! 来てくれてありがとう!」


 弥生さんが時子さんの元に行きしがみついている。


「えっ? おばあちゃん?」


 俺は未だに混乱の中だ


「お義母様どうしてこちらに?」


 宗玄さんが驚いた顔をしている。

 さゆりさんはその微笑みを崩さず静かに座っている。


「弥生から紹介したい人がいるからと言われたものでねぇ」

「そうでしたか……それは、その」


 宗玄さんは何処かぎこちなく視線を彷徨わせている。


「さて翔馬さん。改めて自己紹介するわね」


 時子さんは俺の前に来ると丁寧な座り方で正座をした。


「九条家現当主、九条時子です」


 現当主……その言葉を俺は理解出来ず口を開けたままポカンとしていた。


「そして娘のさゆり。娘婿の宗玄。それから孫の弥生」


 九条一家は時子さんの横に座り直し丁寧に頭を下げてきた。宗玄さんだけは渋々といった感じだ。

 俺は九条家の凛とした佇まいにアタフタしながら正座をし直し挨拶する。


「は、はい! 神月翔馬です。隣は如月ソフィアと白咲葉月です。両名とも自分の恋人です!」


 俺は真っ直ぐに時子さんの目をみて、恋人の部分を強調して言った。そこは曲げちゃいけない所だ。

 ソフィアも葉月も同じく姿勢を正して会釈する。


 少し静寂が辺りを包んで時計の秒針の音だけが響いていた。その静けさを解いたのは時子さんの優しい声だった。


「つい先日お会いしたわね? ソフィアさん葉月さん」


「はい! あの時は楽しかったです!」

「私もお茶の事教えて頂きありがとうございます!」


「ふふっ……気にしなくていいのよ。私も楽しかったもの」


 そういえば以前会長に呼ばれた時、公園に二人で向かうよう頼んだな。あの時は頭がいっぱいで聞いてなかったが時子と会ってたのか。


「ご当主……その、実はですね」

「宗玄さん……まずは翔馬さんに手を挙げたことを謝りなさい」

「ぐっ……しかし」


 時子さんの今までに見た事がない目に一瞬どきりとした。それは宗玄さんも同じだったよう。


「神月くん先程はすまない。頭に血が昇っていたようだ」

「いえ、先程も言いましたが自分もその覚悟は出来ていたので」

「翔馬さん息子がごめんなさいね。弥生、何か冷やすものを持ってきてちょうだい。それとさゆり、茶室の準備を」


 宗玄さんに続き時子さんも謝ってくれた。そしてそれぞれに指示をだしていた。


「翔馬さん。それにソフィアさんと葉月さんもお茶を飲みながら話しましょう」


 その提案に頷くしかなかった。



 案内された部屋は障子から入る明かりが暖かく雑踏がうずまく現代とは思えない程、静かな場所だった。


「あの……ワタシ作法が」

「わた……私もです」

「ふふふっ作法なんて気にしなくていいわ。好きに味わいなさいな。これはおもてなしの心なのだから」


 お茶を点てる時子さんの手さばきは見蕩れてしまう程美しかった。そしてそれに習うように、さゆりさん弥生さんが続いてお茶を用意してくれた。

 こうして三人の姿をみると座り方やちょっとした仕草など親子だと理解できた。


「それでは頂きましょうかね! 翔馬さん達が買っきてくれたチョコレートを食べながら」

「えっ? このお茶にチョコレートですか」


 俺は流石にツッコミを入れた


「せっかく頂いたんですもの! 皆で食べた方がきっと美味しいわ!」

「和洋折衷ですね、お母さん」


 ここで初めてさゆりさんの声を聞いた気がする。微笑んだ姿が弥生さんそっくりだ。


「い、いただきます。」


 俺の後に続いてソフィア達も口を付ける。


「お、美味しい」

「すごくまろやかな味」

「家の抹茶とは全然違うです」


 三者三葉の感想を言うと九条家の女性陣は顔を見合わせハイタッチしていた。宗玄さんは静かに目を瞑っている。


 それから買ってきたチョコレートを皆で食べながら少し世間話をした。


「翔馬さん。もう一度聞かせてくれるかしら? あなたの気持ちを」


 今までとは明らかに違う当主としての雰囲気をだしながら時子さんは尋ねる。ゴクリと喉を通るお茶が熱を持ったようだ。


「はい。俺は……」


 俺は宗玄さんとさゆりさんに説明した通りに時子さんにも話す。この気持ちに嘘偽りがない事。だから弥生さんの気持ちを尊重したい。そして出来るなら理解し一緒に住むことを認めて欲しいと。


 話し終えた俺は一気に喋りすぎたせいで汗をかいていた。そんな俺にさゆりさんは手ぬぐいを貸してくれた。


「あ、ありがとうございます」


 そして弥生さんは冷たいお茶を用意してくれている。


 いつも穏やかな印象だった時子さんは……とても険しい表情で俺の方をじっと見つめている。

 なにかを試すような、探っているような。俺も負けじと時子さんの目を見据える。

 数瞬の後時子さんは、するりと立ち上がり何も言わずに部屋を出ていってしまった。


「あっ……」


 それは誰の声だったか。俺は呆れられたのだろうか? その声はとても弱々しく伸ばした手は空を切った。


 残された者達は皆、ゆっくりと閉まっていく襖を眺めるしかなかった

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