抹茶とチョコレート
弥生さんとの話は、驚きの連続だった。
俺の家に一緒に住むと言っていたがどうやら本気らしい。
「そう言えばあまり聞いた事ないですけど、弥生さんの住んでる所って近くでしたっけ?」
「私は大学の近くに住んでるんだ」
「だったらそのままの方が」
「でもここに住みたい! しょうくん達と一緒にいたいのダメ?」
今の弥生さんは駄々っ子モードで完全に甘えにきている。大人の色香を漂わせながらその攻撃はずるい。
「くっ……いやでもせっかく大学から近いんだし」
「でも実家はこの街にあるから、家族達は近くに住んでくれてうれしいと思うな〜」
「家族が喜んでくれるなら実家の方がいいんじゃ……」
「イヤッ!」
弥生さんは頬を膨らませて顔をブンブン横に振っている。
か……かわいいな。
「ショーマはああいう感じが好きなのね」
「ソフィアお姉ちゃん! 練習しましょう!」
「そ、そうね」
「はい、せーの!」
「「イヤッ!」」
この二人は本当に仲がいいな、時々アホだけど。
「ショーマ諦めなさい。多分意地でもここにくるわ! そして、それを応援するのがワタシ達!」
「ですですっ!」
ふんすっ
とやる気のある葉月。
「葉月まで賛成なんて珍しいな? どういう心境の変化だ?」
「あの、えっと……弥生さんも先輩の事が好きだから……あの、応援しようと」
「本音は?」
「お姉ちゃんが増えるのが嬉しい!」
本音を隠さなくなったな。
まぁ嬉しそうだからいっか。
「はぁ、わかりました。でも条件があります!」
「条件?」
「今から弥生さんの家に行って同棲の許可をもらいに行きます」
「結婚の挨拶って事?」
どストレート過ぎるだろ!
「あっいや、違うんですけど……でも形だけ見ればそうですよね」
俺は今迄やってきた事を思い出す。
ポクポクポク……ちーん。
あ、二人の時のやつ結婚の挨拶じゃん!
「弥生さん、そういう訳で両親の許可がないと家に住む事はできません! いいですか?」
「む〜両親かぁ……難しいなぁ」
弥生さんは頭を抑えながら唸っていた。
おっ! これは初めての同棲拒否パターンか! それはそれで俺の体の危機は去ると言う訳だ!
「まぁ一応俺も説得してみますけど、無理なら諦めて下さいね?」
「……うん、わかった」
渋々と言った表情で弥生さんは頷いた。
ちょっと電話してくると言って彼女は廊下の方に歩いていく。
三人になった俺達は
「どう思う? 許可くれると思うか?」
「う〜ん……あの表情を見てると微妙かも」
「です。私達の時とは事情が異なりますからね」
しばし黙って考えていたが
「それでも弥生さんの思いは尊重したいからな。失礼のないようにしなきゃな。二人共また今回もよろしく!」
「OKよ! ショーマの魅力バッチリ伝えてあげる」
「ふんすっ!」
弥生さんが戻ってきて、挨拶の許可が出たので俺達は菓子折りを買ってから向かった。
弥生さんに両親の好きな物を聞いたら
「普段和菓子ばかり食べてるから、洋菓子がいいんじゃない?」
なのでちょっと高めのチョコレート菓子を持っていった。
そして、弥生さんの父親に殴られた。
「貴様のような軟弱者に娘を任せるだと? ふざけるなっ!」
まぁこれが普通だよね。
弥生さんに導かれて訪れた家は古風な作りの家だった。格式高そうな作りの庭もあり葉月の家に似ていた。
そして、和服に身を包んだお母様と如何にも堅物なお父様に挨拶し、俺の今の状況を話した。
そして、殴られた。
「お父さん! 私は本気でしょうくんの事を愛しているの! 殴るなんてひどいじゃない! まだ退院したばっかりなんだよ?」
弥生さんは父親を睨み俺の方にやってくる。父親は最後の言葉を聞いて少し狼狽えていた。そして和服美人の母親に頭を叩かれていた。
だが、俺は弥生さんに手で待ったをかける。
「お父様のお怒りはごもっとも。殴られる覚悟も出来ていました。自分のしている事は自覚しています! しかし、僕には頭を下げるしかありません!」
俺は土下座をする。
「自分は今まで様々な人にたくさんの愛情を貰ってきました。そしてそれは今この場にいる弥生さん含め三人の女性からも同じです」
俺は今まで言ってこなかった事を告げる
「こんなに沢山の愛をもらって、それを自分独りが独占したくないんです! 好意を向けてくれる全員に幸せになってほしいというのはいけない事でしょうか?」
父親は叩かれて少し冷静になったのか黙っている。
「誰か一人を選んだら他の子は悲しい気持ちになる。恋愛においてそれは当たり前の事だとわかっています! でも自分は……俺は誰も悲しんで欲しくない!」
そこから先は俺の幼少期の話
「自分は産まれるのが早くて体が小さく病気がちだったんです。体もあまり動かせず外で遊ぶ子供がうらやましかった。同年代の友達なんてほとんどいませんでした」
俺は昔を思い出しながら語る。
「でも自分には家族や親戚隣人それに町の町内会の人達が居たんです。励ましてくれて色んな所に連れて行ってくれて、遊んでくれたんです!」
だから俺は続ける。
沢山の愛を返せる大人になりたい。
自分と関わる人達に笑顔になって欲しい。
無茶な道でも切り抜けられると信じてる。
だから弥生さんの思いを受け止め、この関係を理解して欲しい。
話し終わって二人の様子を伺う。
お父様、九条宗玄さんは黙ったままだ。
お母様、九条さゆりさんは微笑みながら俺の方を見ている。
そして、一時の静寂が訪れたのち宗玄さんが口を開く
「それでも……私は反対だ」
やはりダメか。
弥生さんは俯いて顔が見えない。
さゆりさんは笑顔のまま俺を見続けている。
ソフィアと葉月は説得してくれたが力及ばすと言った悲壮な顔をしている。
ここまでなのか?
そう思い俺が席を立とうとした時、襖が開き意外な人物が現れた
「話は聞かせてもらいました。翔馬さん」
現れた人を見て俺は驚愕する。
そこに居たのはなんと……
えっ? 時子さん?