旅行帰りのあの人は
旅は道連れ世は情け。
どこかに旅行に行きたい。
その思いは退屈な日常を抜け出したいとの思いか……それともストレス社会にうんざりして心のオアシスを求める為か。
それは誰にもわからない。
一つ言えるのは知らない場所に行くと心躍るという事だ!
俺は今自宅のリビングで目を閉じている。そしてお土産で貰ったお菓子を食べ、その土地に想いを馳せている。
なぜなら目の前にいる彼女から目をそらすために
「ねぇ〜ねぇ〜しょうくん! これはどういうことかな?」
そんな素敵な笑顔で言われましても、目が笑ってない気がします。
俺の目の前にいるのはバイト先の先輩、九条弥生さんだ。
「どうと言われましても……俺の……いや自分の彼女です」
弥生さんと話す時は苦手意識があるのでついへんな敬語になってしまう。冷や汗が止まらないが……なぜ今の状況になったのか簡単に説明すると。
旅行帰りの弥生さん
俺への土産とお見舞いと
自宅強襲強硬派
ソフィアと葉月と鉢合わせ
俺の行動疾風迅雷
颯爽登場→全力退避
ソフィアに捕獲
葉月に束縛
俺自爆
今ここ↑
「ふ〜ん。私がいくら攻めてもなびかなかったしょうくんが彼女? それも二人も?」
確かに攻めたと言われればそうかもしれないが、物理じゃん。
「なにか言ったかしら?」
「なんでもねぇです」
冷や汗が止まらない!普段おっとり系お姉さんのイメージ(一部違う)があるせいか……こんなに怒っている弥生さんを見るのは初めてだ。
大人しい人が怒るとマジで怖い。
「あの……あの、く、九条さん……私とおねぇ…如月先輩は強引に先輩の家に押しかけてるので……それで先輩の優しさに甘えてるといいますか…先輩に惚れてまして。でもでも……それはあくまで先輩の体が目当てといいますか……だから、その……あまりイジメないで……ください」
葉月から先制攻撃を仕掛けるとは!有難い!そして今までで一番の長文じゃないか? そしてさらっと体が目当てと言いやがった……諦めてないようだ。
「葉月ちゃんと言ったかしら? 私は別にあなた達に怒ってるんじゃないのよ。怒ってるとしたらこの事実を隠していたしょうくんにね」
ここでソフィアが助け舟? を出した。
「あ、あの九条さん怒らないで下さい。実は連休中にバイト先に顔を出したんですけど、いらっしゃらなくて」
少し食い気味にソフィアが真実を話す。
「ほんとなの?」
「はい……まぁ、弥生さんに報告するのは、正直嫌だったんですけど。こんな事になるならもっと早く言っておくべきでした」
ソフィアも葉月もイマイチ理解してないようで不思議な顔をしていた。俺は二人にだけ聞こえるように囁く。
「多分……俺に彼女ができたから怒ってるんじゃないと思う」
「「?」」
「以前、バイト先に行った時覚えてるか?その時言ったと思うんだが……」
「なんだっけ?」
そこから先は弥生さんの言葉に遮られた。
「しょうくん!! なんでこんなに可愛い子達を紹介しないの? しかも一緒に暮らしてるなんてずるい! 私も一緒に住む〜」
弥生さんのキャラが崩れだした…
「毎日キャッキャウフフな事してるんでしょ! ソフィアちゃんの白雪みたいな肌で! それとも葉月ちゃんの、ぽよよ〜んな二つの果実で挟んでもらってるの? ず〜る〜い〜」
大絶叫である。
そして駄々っ子である。
いつもの弥生さんは何処へやら……今の発言で確定だ! 弥生さん貴方は百合趣味!
「それにしょうくん! あなたジムに行きだしてから体格もガッシリしてきて……」
おっ! 確かに少しずつ理想の体へと近づいてる気が。
弥生さんは特殊な性癖だと思ってたけどやっと俺の努力の結晶を認めてく……れ。
「お姉さんは……悲しい」
弥生さんは向かい側に座る俺を椅子から引きずり下ろし地面に組み伏せた。
表情と行動が一致しない。
葉月とソフィアはその光景に呆然となりフリーズしていた
「弥生さん! 俺けが人!!」
弥生さんは俺の服の中に手を入れて、ところ構わず触りだした
「ひぐっ……あのふよふよのお腹は何処へ行ったの? ぐすっ……あの頃の二の腕は? あぁぁぁぁ戻ってきてよぉぉぉ」
弥生さんは本気で泣いている。
女性の涙を見るのはこれで何度目かな。でも今回はなんか違う。
「弥生さん……前から思ってたんですけど」
「ぐす……なに?」
「弥生さんって特殊な性癖なんですか?」
俺は以前から思っていた事をストレートに聞いてみた。
「いや違うけど」
「えっ?」「はっ?」「ほぇ?」
弥生さんの回答が意外だったのか、俺だけでなく葉月やソフィアも驚いている
「いや……今までの行動を考えればそうじゃないかと」
俺が言い淀んでいると弥生さんは泣きながら叫んだ。
「そんなの! しょうくんが好きだからに決まってるでしょ!」
――でしょ!
――しょ!
これはデジャブか。