翔馬の歩み
うちの学園は文化祭の在り方が少し変わっている。
夏休みに入る前の三日間で開催されるのだ。
学園長曰く『お祭り気分のまま夏休みをフィーバーしたいじゃない!』との事。
うん、学園長もちょっと変わってる。
そんな訳で学期末試験は六月の頭にあり、それ以降は文化祭の準備期間だ。
もちろん部活動も夏の大会に向け積極的に取り組んでいるが、文化祭というスパイスが皆のやる気に火をつけるみたいだ。
「んで、なぜ俺に文化祭を手伝えと? 去年みたいに永遠とロールケーキ作るのは嫌ですからね?」
俺は服を着た会長と向かい合って話を進めていた。
「うむ、今回の生徒会の出店なんだが地域と交流を深めるという意味で町内の人達と共同出店にしようと決まってな!」
「はぁ……なんで俺なんすか?」
去年は料理同好会が俺と会長しかいなかったので俺は生徒会を手伝わされた。死ぬ程働かされたけど、売上も良かったし食べた人が美味しいって言ってくれたからいいけど。
「翔馬はこの学園の近所に住んでるだろう? だからだ!」
「意味がわかりません。それに俺引っ越してきてまだ一年っすよ?」
「まぁ慌てるな。なにもそれだけが理由じゃないさ。翔馬のご近所付き合いの凄まじさはこの学園にも伝わっているんだよ」
それは初耳だ。俺、なんか悪い事したかな?
「そう不安そうな顔をするな。悪い噂ではなくその逆だ」
「逆?」
「うむ。地域の人から色々とお礼の電話だったり手紙だったり、直接学園に尋ねてくる人もいるくらいだ」
「益々怪しいんですが。俺、なんかしました?」
「う〜ん言葉では信じないみたいだな。ちょっと待ってろ」
会長は自分の木製の机にある鍵付きの引き出しを開けて、紙をの束を俺の目の前に持ってきた。
「これでもほんの一部だがな。後は学園長室や職員室に保管されている」
俺は渡された紙を一枚取って見てみる。
『ポヨポヨのお兄ちゃんがお菓子をくれて遊んでくれた! ありがとう』
これは葵……奏か?
そして次々に目を通していく。そこに書かれていた内容はどれも俺に対する感謝を述べる言葉だった。
『荷物持ちをしてくれてありがとう』
『茶道教室に招待してくれてありがとう! 毎日が凄く楽しい』
『体を鍛え始めたらモテだした!』
『スイーツ教室を開いて下さい』
などなど。
「……」
俺は言葉が出なかった。
俺がガムシャラにやってきた事が誰かの笑顔に繋がっていると思うと胸の奥に込み上げてくるものがある。
会長は優しい表情で俺に言葉をかけた
「翔馬。キミのやってきた事は素晴らしい事だ。その行いをしっかり見てくれている人がこんなにいるんだ。実はこの取り決めは地域の方々の要望でもあるんだよ」
「そうだったんですね正直言葉になんないです……俺は祖父母が産まれ育った所だから好きになろうと走り回ってただけでしたから」
だから今回の事は俺に任せたいのだと会長は言ってくれた。
「まぁ少し早いと思ったが先に話だけでも通しておこうと思ってな。本格的に動くのは試験が終わってからになる」
「わかりましたよ! こんなもん見せられたらやるしかないでしょ」
「ありがとう! お礼は私のファーストキスでいいか?」
「要らないです!」
「じゃあバージンか! もぅっ早く言え馬鹿者め!どれっ早速!」
「ストップ!! どっちも要らないです」
せっかくいい雰囲気だったのに、この変態のせいで台無しだ。
「会長それよりお母さんは元気です?」
俺は話を変えるべく会長に尋ねた。
「ん? 母上か? すこぶる体調が良くなっている! なんか以前より元気になったと言っていたな! 感謝しているありがとう」
「そりゃ良かったです」
皇家とは昔色々あったのだ。そのおかげで俺の懐事情は潤っている訳だが。
「父上も今じゃ母上にべったりでな! なんか仕事場ごとあの温泉地に行ってしまったぞ!」
「皇グループ大丈夫なんですか?」
「心配ないさ。今は兄上が父上の変わりに色々引き継いでるみたいだ!」
「へえ……てか会長、兄さんいたんですか?」
「言ってなかったか?」
「はい、初耳です」
「今度紹介するよ! ビックリすると思うぞ!」
俺はその後、会長が服を脱ぐのを止めつつ談笑し、下着を脱ぐのを止めつつ笑い合い、全裸になるのを止めつ放置しその場を後にした。