バイト先の化け物
人は自分と違うもの、周りとは違うものに最初に抱く感情はなんだろうか?
拒絶や嫌悪感だろうか?一体いつから周りと合わせなくちゃいけないと思い始めただろう……決してそんな事はないのに。
個性あってこそ人は輝き、生き甲斐を持って人生を謳歌できるはずだ!
周りの声など気にするな!
自分に正直に生きなさい。
これは祖父母の教えだったかな。
「先に言っておくが……店長は化け物だから」
買い物を終えた俺達は俺のバイト先に立ち寄る事にした。怪我の経過報告やシフトでの迷惑を掛けているからその挨拶だ。
「どういう事?」
「ん?」
「まぁ見りゃわかるさ」
俺は混雑の時間を避けバイト先に顔をだした。
カランッ
「いらっしゃ〜い……あらまぁ! 翔ちゃんじゃな〜い!!」
表れたのは、身長2mはあろうかと言う大男。服がはち切れんばかりの筋肉の塊。そしてその筋肉を覆う服は、フリフリのゴスロリファッションだ。
「ワオ!」
「ひゃあ!」
二人共いいリアクションをしてくれる。
初見ブレイカーだからな店長は。
「おい! オカマ! 服がバージョンアップしてるんだが客減るぞ?」
「誰がオカマよ〜ちゃんとオカマママって言いなさ〜い」
「言いづらいんだよ!」
オカマの案内で俺達は窓際のテーブル席に案内された。
「どうしたの翔ちゃん? こんな可愛い娘達を連れてきて! まだ怪我が治ってないんでしょ? シフトは治ってからでいいのよ?」
「この娘達は俺の彼女だ。ちゃんと紹介しとこうと思って。それに知らせなかったら弥生さんが怖い」
「あらそうだったの? こんにちはかわい子ちゃん。店長のオカマママよ!」
「さらっと浸透させんなや!」
「んもぅ! それに、やっちゃんは今日いないわ。でも確かに知られたら不味いわね!」
「弥生さんは大学か?」
「家族旅行ですって。お土産に期待しててって言ってたわ」
弥生さんはお見舞いに来てくれた日以来会ってないからなぁ。あの時は詳しく話せなかったけど、彼女達の事をちゃんと紹介しないとな…後が怖い。
「三人共メニューは決まった? 好きな物食べて行きなさ〜い! オカマママの奢りよ!」
「へっ? いや……そんな」
「あの、あのそれは流石に」
「気にすんな二人とも甘えとけ。オカマママありがとう! 大好きだオカマママ! 感謝するオカマママ!」
「現金な子ね〜まぁそういうとこ好きよ〜」
昼ご飯は食べていたのでデザートにした。ソフィアはティラミスと紅茶、葉月は苺のショートケーキとレモンティー、俺はモンブランとブラックコーヒーのチョイス。
運ばれてきたケーキを食べながらソフィアが尋ねてきた
「ショーマ、さっき話に出た弥生さんって?」
「…気になります。」
俺は若干悩んだが、二人なら受け入れてくれるだろうと思って話し始めた。
「弥生さんってのはここのバイト先の先輩なんだ。今は大学1年生って言ってたかな。それとなんというか、お前ら二人に近いものを感じる」
「どゆこと?」
「すごく気になります!」
二人は興味津々で俺の方を見てくる。
「俺がバイト始めた頃からだが……その……会う度にスキンシップが激しいんだよ。それもボディタッチの方の」
二人はまだキョトンと首を傾げている。
「忘れてないと思うが君達二人は俺の体が目当てだと言って、迫ってきたんだぞ?」
「あー! そういえばそうだった!」
「確かに先輩の体は魅力的です」
忘れてたなコイツら。
「それの先駆者というか恐怖の象徴というかだな……それが弥生さんなんだよ」
「益々意味がわからないわ」
俺はコーヒーを飲み喉を潤して言葉を続ける。
「ボディタッチの内容なんだがな、体に触る程度じゃないんだよ。葉月みたいに噛み付いたり舐めたりするの。しかも俺が着替えてる時に更衣室に入ってくるんだぞ? ヤバいだろ?」
「確かにそれはヤバいわね!」
「ですです!」
「おまえらも同じだけどな」
俺は更に続ける。
「それにな弥生さんは特殊な性癖なんじゃないかと思ってる」
「はっ?」
予想外の言葉だったんだろう、ソフィアが間抜けな声を出している。
「俺が入学した時結構いい体重だったのは知ってるよな?」
コクコクと頷く二人。
「バイトの面接に行った時、弥生さんの目が凄い輝いていたんだよ。そして、店長とハイタッチしながら『キタぁぁぁ!』なんて叫んでた」
弥生さんと一緒にバイトしている親友の先輩に聞いたのだが。
「大学でも結構告白されるみたいでさ、それの断り方がな」
前のめりになる二人
『あなたの体に興味はない。私の心と体は彼の物よ!』
「なんて言ってんだよ〜。自意識過剰かもしれないけど、それを考えると俺なんだよなぁ。しかも俺がジムに行きだした時なんか、あからさまに機嫌悪いし。バイトの賄いなんてカロリーの権化みたいなやつ作ってくるんだよ?」
二人はどこか遠い目をしていた。そして何を思ったのか。
「今度弥生さんを紹介しなさい!」
「ですです! 女子三人でお話ししたいです!」
と言ってきた。
「実はまだあるんだが」
「まだあるの?」
「うん。どっちかと言うとこっちが本題でだな。男にだけ興味があるなら問題ないんだが……その」
俺は乾いた唇で本題を告げる
「弥生さん多分どっちもいけるんだよなぁ」
「へっ?」
「ん?」
二人はその言葉に唖然としていた。