第28話 知らない人がお見舞いに来たらビックリしますよね?
「はぁ一週間か……」
俺は今、病院のベットで天井を見上げている。昨日の暴行事件のあと、救急車で搬送された俺はお医者さんにこっぴどく怒られた。
「キミはバカかね?正当防衛という言葉をしっているのかね?」
付き添ってくれた豪谷さんが事情を説明してペコペコと平謝りしていた。やりすぎたと、正直申し訳ないと思った。
「……ソフィ達は大丈夫かなぁ?」
骨折や打撲、裂傷がひどく最低でも一週間は入院しろと言われてしまった。
「ウチの温泉入れば、早く治るんだけどなぁ……」
翔馬の家には温泉があり、将来は音泉宿を開きたいというのが、翔馬の秘かな夢だ。
ちなみにしらたまとぜんざいは両親(養父母)が預かってくれている。
昨日入院の手続きに来てくれたとき頼んでおいたのだ!その際、豪谷さんから事情を聞いた二人の反応は。
「さっすが俺の子!傷は男の勲章だぜ!!」
「これで翔馬のファンが増えるわね!目指せハーレムエンド!今度紹介しなさい!」
なんて事を言いやがった!あの二人は基本アホなのだ。
「暇だ……」
コンコンッ
扉をノックする音が聞こえた。
「?どうぞ……」
返事をし、扉を開けた先にいた人物像は……見知らぬ男性だった。
「失礼するよ。キミが神月翔馬くんかい?」
「あっ……はい、そうですけど」
俺は訳がわからず呟いていた。
「すまない。自己紹介がまだだったね。私は如月想一という。ソフィアの父親だ」
「えっ?はっ、はい?」
俺はなぜソフィアの父親がここにいるかわからず素っ頓狂な声を出していた。
「いや、実はな……うちの娘からキミの事は聞いているんだよ」
「そうでしたか……すいません!改めまして、娘さんとお付き合いさせて頂いている神月翔馬です」
そう言って俺はベットの上でお辞儀をした。
「《《させて頂いている》》……か」
「えっ?」
「いや、何でもない気にしないでくれ!それよりも怪我の具合は大丈夫かい?」
何か言ったような気がしたが俺には聞こえなかった。話を変えるように、ソフィアの父親は俺の怪我を心配してくれた。
「見た目程ひどいわけではないので、一週間程入院して後は通院でなんとかなるみたいです」
「幸い、骨折も軽度でしたが……利き腕だったのでそこが痛い所ですね」
「そうか……実はな。昨日の出来事をソフィアの後輩……葉月くんと言ったかね?あの娘から聞いたんだよ。」
「げっ……」
「ハハッその顔は知られちゃまずいと思っているね」
実際にはあの光景を見て欲しくなくて隔離をお願いしてたからなぁ……まぁ時間の問題だったのか。
「あの……ソフィ……娘さんはどんな様子です?」
「正直に言おう……泣いていたよ。"なんでショーマが…… "って」
それを聞いて申し訳ない気持ちが少し込み上げる。泣かせるつもりはなかったんだけどなぁ
「……はぁ……泣かせるつもりはなかったんですけどね」
声に出してしまっていた。
「今日は学校を休んで家で妻と過ごしているよ」
「そうですか。すみません余計な事しちゃいましたね……」
俺は少し複雑な気持ちでそう呟いた。それを聞いて父親が目を見開く。
「神月くん!いや……翔馬くん!キミは娘を救ってくれた恩人だ!余計な事じゃない。私達家族には娘の傷を癒せなかった……だがキミは娘に寄り添ってくれた。そしてその原因までも排除してくれた。感謝してもしきれないよ!」
「……。そう言って貰えるとありがたいです。ただ…自分は娘さんに不誠実な人間なんです」
「……」
翔馬がこれから語る内容は、想一も予想できる。その内容は、娘からそして葉月くんから聞いているのだから。
しかし、それを初対面の父親の前で言う胆力を想一は評価した。
「実は……娘さんとお付き合いをしているのは本当です。ですが娘さんの他に……もう一人の女性とお付き合いしています」
俺はできるだけ失礼の無いように姿勢を正して想一さんに向かって言葉を紡ぐ。
「すみません、これは自分の我儘です。決して娘さんに魅力がないからという訳ではありません。単純に自分の優柔不断が原因です」
私は彼を見て驚愕していた。彼は頭をできる限り下げて真剣に真実を話してくれている。
(あぁ……やはり彼は娘から聞いてる通り……いやそれ以上に誠実な人だ)
娘達からは本当の事……体目当てで突撃し、半ば強引に彼を彼氏にしたと聞いている。あの葉月くんも強引に迫ったとは驚いたが。
「だから想一さんが思っているような、誠実な男ではありません。昨日の一件で娘さんに手出ししてくるヤツはいないと思います」
彼は続ける
「なので……娘さんの学校生活は今後平穏に過ごせるでしょう。娘さんの彼氏がこんな二股野郎でお怒りになる気持ちはわかります」
「想一さんが交際を認めないと言うのであれば自分は身を引きます。娘さんは魅力的な女性ですからすぐに理想の彼氏ができるはずです」
この男は……
想一は言葉にできない感情を抱いていた。決して真実を語らず、彼女達をかばい、まるで自分に非があるように立ち回る。
(やはり四季音さんのお孫さんは……)
「ククッ……アハハハハハハハッ」
「えっ!?」
想一が突然笑いだしたことに驚愕してしまった。
少しの間ここが病院だと言うことを忘れて笑っている。幸い個室なのであまり迷惑にはならないはず……
「はぁはぁ……いやすまない!実はね、全部知っているんだよ」
「……はい?」
俺は想一さんが何を言っているのかわからず尋ねた。すると返ってくるのは真実の話。
ソフィアから強引に迫った事。
もう一人彼女がいる事。
無理矢理体の関係に持っていこうとした事。
そして、その元凶がソフィアの母親である事。
「……」
俺は顔を伏せて顔が真っ赤になっていた。
「試すような事をしてすまない。まさかキミの口から直接聞くとは思っていなかった。そしてキミは私が思っている以上に素晴らしい人間だ!改めて娘をよろしく頼むよ!多少強引な所は妻譲りだけどね!」
そう言って想一さんはまた笑うのだった。
帰り際、明日は妻とソフィアを連れてくると言っていた。
そして最後に「ハーレム最高じゃないか!ハハハッ」と言い残して病室を後にした。
「オウチ……カエリタイ……」
俺の心の叫びは天井に吸い込まれていった。