宣戦布告〜ドM魔王誕生〜
う〜んまだだなぁ……もうちょっと。
そんな事を考えながら迫り来る拳や蹴りを受けていた。中には棒を持ち出している自称イケメンがいる。
おっ! あの棒で殴られたら頃合かな。
「くそっ! なんで倒れねぇ!」
「あいつは何者だっ!!」
「どうなっている! 話が違うぞ?」
倒れない俺を見て息を切らせながら、悪態をつく連中。
「ちっ! こうなったらどうなってもいい! コイツで終いだ!」
「おい! それは流石に……」
その言葉を言い終わる前に、棒を振りかぶったイケメンは俺の頭目掛けて振り下ろした。
ボゴンッ
鈍い音がした……直撃だ。画面の向こうにいる連中は最早戦慄するしかない。
目を覆う者。食べた物を吐き出す者。泣きじゃくる者。それぞれ反応は違うが、抱いている感情は嫌悪感だろう。
計画通りだな!
頭に棒が当たったと同時に俺は、拳を頭上に上げる。反撃が来ると思ったイケメンは一瞬で後ずさる。
こんな体で反撃がくると思って引いたのか?やっぱり口だけだな。俺は反撃しないさ……俺はね。
「突撃っ!!!」
「「「おぉぉぉぉぉ!!!!」」」
拳を合図に怒号が辺りに響いた。
突然の声に辺りを見回す暴漢達……その声の先に居た者を見て青ざめる。
そこに居たのは武装した数十人の警官隊だった!あっという間に全員が拘束され、手錠を掛けられ地に頭を付ける。
「暴行の現行犯で逮捕する!」
あれよあれよという間に連行されて行った。
「翔馬くん無茶しすぎだ!こんなになるまで我慢するとは聞いてない!」
「突入隊の連中を抑え込むのに必死だったんだぞ!……いやそれよりも怪我の治療が先だ!救急車にのりたまえ!」
足早に俺の元に駆けつけてくれたのは、知り合いの刑事、豪谷強さんだ。
俺が電話で話した内容を簡潔に言うと。
・事件が起きる
・人数が多い
・合図したら突入して
の簡単なものだった。
「痛てて……豪谷さん、ちょっと待ってもらえます?もう少しやることがあって」
「……ふぅ。わかった……救急隊員をこちらに呼ぶまでだぞ!」
ため息を吐く豪谷さん。付き合いが長いからわかる、しょうがないという合図だ。
俺はその足で、放送部が用意してくれているカメラの方に向かい言葉を発する。
画面越しから見てる者は恐怖でしかないだろう。血みどろの、原型がわからないくらい顔が腫れているヤツがゆっくりと近づいて来るのだから。
「いや〜楽しんでくれたかな諸君?実に愉快な余興だっただろう?」
「えっ?どゆこと?」
「あれが余興?」
「……なんなの?」
一同は画面に映る血みどろの顔と言葉の意味がわかず動揺する。
「えー今見て貰った通り、彼らにはこの学園から……いや社会から退場してもらいました。彼らの家族も同じ運命を辿る事でしょう」
俺は笑いながら、それでたて胸に秘めた激情をあらわにしながら続ける。
「誰の彼女に手を出したのか、牢屋で一生後悔することでしょう」
彼のにこやかに話しているが、心の奥にある怒りの感情が読み取れる程聞いている者に恐怖を与えている。
「しかし彼らのような存在は氷山の一角に過ぎません。だから俺は俺の彼女を貶めた奴らを許すつもりはありません」
怒り……
「俺は自分の持てる全ての力をもって復讐します。この身が犠牲になろうとも必ず叩き潰します」
犠牲……
「画面の中のあなた……そうそう今震えてるあなたですよ!俺はどんな奴らでも手加減をしませんからね!」
決意……
「おやっ?まだ理解してない人がいるみたいですね?しょうがないですね!名前を言わなければわかりませんか?具体的には二年……」
事実……
そこからはクラスと名前をつらつらと読み上げる彼の姿が映るだけだった。
「以上の人数ですね! いや〜これ程いたとは異常ですね! あっ、教師も例外ではありませんからね!ホッとしないで下さいね」
名前を呼ばれた者は青ざめ、その場を逃げる事もできず地に伏している。
「まぁ何が言いたいかと言うと……」
一旦言葉を切り、カメラに目一杯近づく。
「俺の彼女に手を出してタダで済むと思うなよ?」
先程までの笑顔とは裏腹に地の底から響くような声で告げる。
一瞬心臓を掴まれたかと錯覚する程の殺気がその場を支配する。
「まぁ学園生活は長いですからね! 楽しんでいきましょう!ちなみに謝っても許しませんから! それでは!」
言葉と共に立ち去る彼。
「あぁそうそう! ちなみに一年四組の白咲葉月さんも俺の彼女なんで! 手出ししたら……わかってるよね?あと俺の周りの友達にも同じ事が言えるから。じゃあね〜」
今度こそ彼は画面から居なくなった。辺りに静寂が訪れる。
その日の午後の授業は早退する人が続出した。
後に、この事がきっかけでドM魔王という新たな称号を手に入れた。