ふたりの密談と契約
「ヒーローは遅れて登場するものよ!」
そんな言葉をテレビや漫画の中で数多く見てきた事だろう。そしてそれが今現在の俺にとってどれだけありがたい事か。
「救世主ソフィ!」
「えっと……これはどういう状況なのかしら?」
彼女は困惑の表情を浮かべている。椅子に縛り付けられる俺。その目の前には葉月の顔。そりゃ誰でも混乱するよね。
「……あのあの、もしかして先輩の彼女さんですか?」
「そうよ。ワタシはショーマの彼女、如月ソフィア。あなたは?」
「……えと、私は1年の白咲葉月といいます」
「ご丁寧にどうも」
ふたりは昨日会ってはいるのだが、話すのは初めてなのでお互いに自己紹介をしている。
「それで? ワタシの彼氏に何をしているの?」
「先輩に彼女ができたって聞いたので、騙されているんじゃないかと思って尋問していたんです」
「なんの為によ!」
「……えと、あの先輩は私のだからです」
「はっ?」
「エッ?」
その言葉に俺とソフィは間抜けな声を出していた。
「如月先輩は先日先輩とお付き合いしたと聞きました。それも体が目当てだと……私はそれよりも前から。1年以上前から先輩の事を狙っていたんです! だから私が先に先輩を好きになったんです。諦めて下さい!」
普段のオロオロした様子はどこへいったと思うほど強い意思で語る葉月。
「はっ? えっ? ちょっと待った葉月! 俺達が初めて会ったのは部活動の仮入部期間だろ?」
「やっぱり覚えてないんですね」
彼女の横顔はどこか寂しそうだった。
少しの沈黙が訪れる。
「それでもよ! それでも彼と恋人になったのはワタシよ」
「はい、それはわかっています。先輩と如月先輩の関係を聞いて私も決心しました」
うわぁ嫌な予感がするなぁ。
「なので私も先輩と体の関係を築いて私に夢中になって諦めてもらおうと思います!」
「ストーップ! 待て待ておかしいだろ」
「何もおかしくありませんよ? 如月先輩ともそういう関係なんですよね?」
「いや違う、そうなんだけどそうじゃない。葉月お前は彼女がいるのに他の女になびけと言っているのか? 彼女の目の前で?」
「はい、そうですけど」
「おかしいよ、何考えてるの? ちょっとソフィアさんや、さっきから静かだけど何か言っておくれ」
「……葉月」
「はい」
「少し話をしましょう」
「わかりました」
頭にはてなマークを浮かべる俺を他所に、彼女たちは準備室を出て行った。
………………
それから暫くして戻って来た2人はどこか顔が赤く、それでいて満足そうな表情をしていた。今日何度目かの嫌な予感。
「ショーマ。男ってのは器の大きさが大事だと思うの」
「う、うん?」
「だから今回は特別に彼女権限で許可したわ!」
「許可って何を?」
ソフィの隣でアホ毛をみょんみょんさせながらにこやかに葉月は語るのだ。
「えと、あの先輩の体を一緒に手に入れる契約?」
「ふぁっ!?」
俺は訳がわからず意識を手放した。