如月家の食卓【ソフィアパパ】
娘が学校に馴染めていないのは気付いていた。中学に入った頃からだろうか、娘の元気が無くなったのは。それでも家族の前では気丈に振舞っていた。
しかしある日の夕方、妻の前で泣いている娘を見た。
容姿や見た目でイジメられていた事。それから私は学校側や教育委員会に掛け合ったが取り合って貰えなかった。
高校進学を控えたある日、私と妻は娘の将来を案じて引越しを考えていた。
もしかしたら……という希望は少しあった。妻と私が出会い、恩師に助けられたあの場所。そこに行けば娘もなにか変わるかもしれないと思ったのだ。
しかし現実は甘くなかった。
高校入学後もあまり現状は変わらなかったと聞く。でも4月のある日、娘はニコニコしながらケーキを持って帰ってきた。その時の娘は昔のように嬉しそうに話すのだった。
2年生になる頃には陰口が多くなったと言っていた。私は娘に「辛ければ日本を離れるか?」と問いかけたが首を横に振る。
理由を尋ねると、ケーキをくれた彼と一緒のクラスになれたという。
このチャンスを逃したく無かったのだろう。しかし娘の精神状態を考えると長くはもちそうになかった。
そこで妻がビックリするアドバイス送っていた。
無理矢理にでも彼をゲットしなさい。
振り向いて貰えないなら、体で攻めろ!
既成事実さえ作れば逃げられない。
体からの関係でもいつか心も付いてくる。
娘は妻からそんな事を言われて、初めは口を開けて驚いていたが、何かを決心したように妻にどうすればいいか色々と聞いていた。
娘が寝てから妻の晩酌に付き合いながら聞いていた私は苦笑いを浮かべる。確かに昔の妻は凄かったと、猛烈にアプローチしてくれた事を思い出した。
それはさておき。しばらくして……
娘から彼氏ができたと聞いた時は冗談かと思った。あんなやり方で受け入れてくれる人はいないだろうと思ったからだ。
しかし、彼女のはにかんだ顔を見ると、たとえ体の関係だが受け入れてくれた彼に少し複雑な心境を抱いてしまう。
それから数日たった頃だろうか。
「おかえり〜パパ!」
帰宅すると何やら妻と娘が楽しそうにキッチンに立っていた。そして食卓にはパーティなんじゃないかと思う程豪華な食事が並ぶ。
今日はなんの祝い事だろう?
食事をしながら娘が楽しそうに今日あった事を話してくれた。それを聞いていく内に私と妻の目頭が熱くなる。
娘の為に自分を犠牲にしてくれた人がいる。
娘の為に教師を相手に立ち向かってくれた人がいる。
娘の為に協力し噂の出処を突き止めてくれた人がいる。
娘の為に……
全てその彼が計画し実行してくれたと娘は泣き笑いを浮かべながら語ってくれた。親としては娘がどんなヤツと付き合っているのか知らなければならない!
その彼の名前と今日撮ったというツーショットを見せてもらった。
「名前は神月翔馬くん! ほら見て見てこの人!」
「……神月」
「……翔馬」
私と妻は画面の中にいる彼と名前を聞いて思考を停止していた。
「パパ? ママ? どうしたの?」
「あ、いや何でもない。優しそうな子じゃないか」
「ニシシッ! うん、とっても優しいよ」
娘の笑顔はどこか満足そうだった。
夕食が終わりソファでくつろいでいると、妻が隣に腰掛ける。
「ねぇアナタ……これって偶然なのかしらねぇ?」
「どうだろな。でも一つ言えることは……私達はまた先生に救われたと言う事だ」
「えぇそうね。私、この街に戻って来てホントに良かったと思うわ」
「私もだよ」
そう言って妻と共に青春時代を過ごしたアルバムのページをめくる。
「四季音さんあなたは……いいえあなた方は私達のヒーローです」
妻の肩を抱きながら……胸の奥から暖かいものが込み上げる。