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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第一章 同居開始編
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雨のち雷ところにより虹

 

 天気とは空の上で起こる現象を指す言葉ではない。


 太陽のような笑顔。

 雨のような涙。

 雷に打たれたような衝撃。

 雪のように冷たく。

 それから……


 人間の感情にも天気は当てはまるだろう。しかしテレビやネットの中の天気ばかり気にして、自分自身の心の天気にはなかなか気づかないものだ。


 それが他人の心の天気だと尚更。









 俺とソフィアは放課後生徒指導室にいた。もちろん昼休みの件で呼び出しを受けている。生徒指導の先生数人からこっぴどく怒られている最中なのだが……ここにはもうひとり、我々の救世主が座っている。


 煌びやかなロングの黒髪を揺らしながら、机に置いた資料をバシバシ叩いている。これまでのソフィアに対する噂、イジメ等を文書化した資料を手に、半ば喧嘩腰で先生達にくってかかっている彼女。


 我が学園の生徒会長、(すめらぎ)さつきである。この人を一言で表すと……正義の化身。


 昨日俺が相談に行った際、ソフィアの事を話して協力を取り付けたのだ。こうなるとわかっていたから。


 半日足らずででここまでの資料を用意するとはね、流石ッス会長。


 若干恐怖を覚えながら俺は身震いする。


 「――ですからっ! 先生方が少しでも彼女を気にかけていればこんな事にはならなかったのではないですか? 彼女とちゃんと話した事はありますか? 親御さんとの関係は? 家庭訪問は? 中学時代の事は?」


 矢継ぎ早に先生達に糾弾の矢が飛ばされる中、教師達は渋い顔をしながら返す言葉は投げやりなもの。


 「噂が真実ではないのかね?」

 「俺も如月(きさらぎ)が男と歩いているのを見たぞ」

 「陰口を言われたくらいで……」


 教師達はソフィアの噂を知っていた。

 信じてしまっていた。

 あろう事かソフィアに疑惑の目を向けてきた。


 俺の眉間がピクリと動いたのを感じ取ったのか、会長は深いため息を吐く。


 「はぁ……それでもあなた方は教職を預かる身ですか? だいたい……」


 コンコンッ


 会長が次の言葉を言う前にノックの音が聞こえる。


 「失礼するわね」


 入ってきたのはこの学園の学園長。妙齢の美魔女という言葉が似合うキリリとした人だ。彼女は机に置かれた資料を見るとこう呟いた。


 「話は聞かせてもらったわ。状況も理解しました。如月さんの件に関して、我々にも出来ることがもっとあったと反省しています。ごめんなさい」


 そう言って学園長自ら頭を下げたのだ。


「が、学園長!」


 オロオロしながら学園長の行動に驚く教師陣。そこで学園長がすかさずキツい一撃を放つ。


 「生徒数が多いとはいえ、この噂を知った上で放置していたあなた方には失望しました。先程からの言動もしっかり記録しています」


 凍りつく教師達。


 「あなた方がこの学園の教師だと思うと恥以外の何者でもないわ! 処罰を下すまで、停職とします。出ていきなさい」


 青ざめた教師達は、ライオンに睨まれた小鹿のように教室を後にした。


 学園長怖えぇ問答無用かよ。


 その後、会長と学園長は事後処理があると行って出ていってしまった。去り際に……




 「グッジョブよ! よくやったわ翔馬さん!」

 「流石、私の見込んだ男♪」


 上からと学園長、会長の言葉である。俺とソフィアは指導室に取り残され、居心地が悪かったので移動する事に。



 「少し風にあたろう」

 「……うん」



 茜色の光が空を埋め、風になびくスカートを抑え遠くを見つめる彼女は絵画のような美しさがあった。


 場所は屋上。


 「ショーマ……あのね」

 「うん」


 ゆっくりとソフィアが口を開く。


 「ワタシ怖かったの、このままひとりで皆からの視線に晒されながら生きていくのが辛かった」


 彼女は今までの思いを少しずつ口に出していく。


 「入学してすぐに好奇の目で見られて、居場所を無くして……ひとりで公園で泣いてた時にアナタに……アナタに会ったの」


 俺も覚えているよ。


 バイトの休憩時間によく行く公園に彼女は居た……泣いていた。


 だから咄嗟に食べようと思っていたケーキを渡した……その涙を止めてあげたかったから。そこからは俺が一方的に喋っていたと思う。


 でもバイトの格好をして、当時は今よりも体型が違っていたから学園では気付かれないと思った。事実、彼女はすれ違っても気付いてない様子だったし。


 まぁこれは俺の勘違いだったという事か。


 彼女にとって、あの瞬間の出来事が心の支えだったのかもしれない。


 そして彼女の言葉をまとめると、どうせ最後なら思い切って悔いのないように告白ようと思った。自分の事を覚えなくても、それでもいいと思った。誰かに取られたくなかった。


 そう語った彼女は泣いていた。どこかに感情のストッパーを置き忘れたかのように。


 落ち着くまでの少しの間、俺は彼女の手を握る。放課後の学園は活気に溢れていて、グラウンドや校舎から部活動生の声が木霊する。 それと対照的に俺達が居る場所は彼女の声だけが聞こえる。


 少し落ち着きを取り戻した彼女に俺は今日一番のサプライズをする事にした。


『お嬢さんお嬢さん何かお困りですか?可愛い顔が台無しですよ?そうだコレをあげましょう!』


 「えっ!?」


 そう言って俺が差し出したのは、あの時のケーキ。彼女の言葉を借りるなら。


 彼女に宝物のような時間をくれた。

 生きる希望を与えてくれた。

 耐える心を与えてくれた。

 あのチョコレートケーキ。


 彼女に初めて話しかけたあの言葉と共に。



 「覚えてて……くれたの?」


 俺はそれには答えず昨日の話を持ち出す。


 「昨日言ったよな! 明日の夕方にはきっと……」


 チョコケーキを受け取りながら、ソフィアは昨日の言葉を思い出して表情を変える。


 目から暖かな涙を流しながら。

 心の暗雲が霧散するような感覚と共に。

 精一杯の感謝を込めて頷くのだった。


 キミの笑顔は虹のように輝くだろう。

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