ひとつの意思で波紋はどごでも伝播する〜決戦前日〜
「春樹と愛に頼みたい事なんだが……」
俺は作戦の概要を説明した。そして2人の役割についても。
「プ……アハハハハッ」
「ちょっと翔馬君本気?」
「あぁ本気だ」
春樹は爆笑、愛は心配そうな顔をしている。まぁそうなるよな普通は。
「いやでも、クククッ。なんか翔馬らしいな!」
「まぁ確かに、内容はアレだけど成功したら面白そう」
愛は若干不安を滲ませつつ乗り気のようだ。
「だろ? 成功したら明日にはこの学園に女王が誕生するからな」
「クククッ。そいつは楽しみだ!」
「だからふたりには今日のうちにある噂を流して欲しい。二人の人脈だったら余裕だろ?」
ふたりはサッカー部とそのマネージャー。マンモス校であるこの学園は当然部活も盛んだ。代表的な運動部も人数は多くなるというもの。
「まぁ……できなくはないけど、ホントにその噂でいいのか?」
「あぁ、これは明日への布石だ。噂の信憑性が不透明な程、真実を知った時の衝撃は大きいもんだろ? ふふふっ」
「翔馬……悪魔みたいになってるぞ」
俺の笑いに春樹は引いていたが気にしない。
「そして明日は扇動と人員確保をよろしく頼む!」
俺はもう一度頭を下げた。
「ワ、ワタシからもよろしくお願いします」
隣のソフィアも一緒に頭を下げる。そんなソフィアの姿を見て愛が微笑みながら優しく問いかける。
「ソフィアちゃん。私は今迄……あなたの事が少し怖かった。誰も寄せ付けず、誰とも関わろうとしないあなたを」
愛はとても優しく、そして申し訳なさそうに続ける。
「だけど今日真実を知って……翔馬君の傍にいるあなたを見て、あなたの事をもっと知りたいと思ったわ。傍観者でいた私が言えた言葉じゃないけれど……あなたの心が落ち着いたら」
愛はソフィアの手を握り慈しみのこもった表情で微笑み。
「私の友達になって欲しいの」
「……とも……だち」
彼女の両手が口元を包み、驚愕で目を大きく開いている。
きっと……ずっとこの言葉を彼女は待っていたのかもしれない。そう思わせる程の表情。
「ワ、ワタシも……と、友達に……なりたい!」
彼女は前を向こうとしている。
「うん! だけどそんなに焦らなくていいわ。落ち着いてからゆっくり友達になりましょう。その為に明日は何がなんでも成功させるわよ!」
愛の目もやる気に満ち溢れて燃えていた。どうやら、愛にも火が灯ったようだ。
そんなふたりを見て俺と春樹も笑い合う。
「他の連中にも声かけるのか?」
春樹からの質問に俺は頷き協力者の名前をあげる。
「あぁいるぞ。えーっと……演劇部と放送部の連中に、あとは会長と葉月とその友達にかな……」
俺の話の内容に春樹と愛が横から援護射撃をしてる。
「演劇部には知り合いがいるから俺から話しておくぜ! 衣装はまぁアレだもんな……」
「放送部には私が根回ししとくわ! 部長の黒歴史をネタに機材をせしめるから」
ふたりの頼もしい言葉に俺も自然と口角があがる。
「逞たくましいです愛さん! マジパねぇッス! 味方で良かったッス!」
そして俺は最後の詰めの話をする。
「会長と葉月には、ある程度連絡してあるからスムースだと思うぞ。多分終わったら生徒会手伝えとか、ケーキ作れとか言われるだろうけど……」
「まぁそれくらいで済むならいいじゃねぇか? 会長はこういった人間関係のトラブルを放っておけないだろ、お前みたいに」
「俺はそういうんじゃねぇんだよ……」
「どの口が言ってる」
ニヤニヤする春樹。
「俺はただ、彼女を助けたいだげだ!」
隣を見ると、ソフィアの顔が真っ赤に染まっている。
「…………もう」
更にニヤニヤする春樹と愛。
「「ごちそうさま!」」
言い残して春樹と愛は調理室から出ていくのだった。その後、明日に備えて早く帰るようソフィアに伝えてひとりで帰らせた。
離れる時は名残惜しそうにしていたが、このまま学校に居続けても好奇の目に晒されて辛いだろうという判断だ。
そして俺は大きく息を吸い気合いを入れ直す。
それは協力者のひとりであり、最大の難関である料理同好会の後輩、白咲葉月の元へ向かう為である。
それはもう、めちゃくちゃ頭を下げた。地面と一体化するほどに。葉月さんはドン引きしていたがなんとか協力してくれる事に。
会長は物分りがいいので、すんなり協力……というか黙認すると言ってきた。なにせ明日やろうとしている事は、生徒会としては看過できない事だから。
他にも協力という名の取引(甘いお菓子等)で人員確保を行い、明日に備えての準備は進んでいった。
決戦は明日。
女王の爆誕を楽しみに待つがいい!
「ふはははははっ!」