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同居人の女の子達は肉食乙女  作者: トン之助
第一章 同居開始編
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大天使降臨〜決戦前日〜【如月ソフィア】

 息が出来ない、上手く呼吸が出来ない。彼に何を話していたかなんて、もう覚えていない。


 視界が薄暗い。それが涙だと気づいたのはいつだろう。


 ヒューヒューと風のような音が聞こえる。それが自分の口から出ていると気づくのに時間がかかった。


 「ちょ……ま………」


 彼が何かを言った気がする。

 でも私の耳には届かない。

 彼がおもむろに立ち上がった。

 その表情は見えない。


 待って! 行かないで! 見捨てないで……


 声に出そうと思う度に風の音が聞こえる。手を伸ばし彼を掴もうとしても、それは陽炎を掴むかのように空を切ってしまった。


 バタン


 扉の閉まる音だけがワタシの耳に鮮明に反響したのだった。


 失望しただろうか。

 呆れられただろうか。

 もう、ワタシの居場所はどこにも。


 不安・絶望・悲しみ・焦り・怒り


 波のように押し寄せたその感情は、ワタシの心を黒く塗りつぶし、目から溢れ、深淵のような暗闇に引きずり込まれる様だった。


 そうなるハズだった。


 「ミャー」

 「……えっ?」


 下を向いて泣いていたワタシの足元に、ふわりとした感触があった。それは暖かくワタシの足にフワフワの体を擦り寄せてきた。


 「ミャーミャー」


 ワタシの顔を見上げながら鳴き声をあげる白くてフワフワした存在。


 「ソフィ、抱っこしてやってくれないか? そいつ抱っこが好きなんだよ」


 ワタシは無意識の内にそっとそのフワフワを抱き上げていた。


 「……暖かい」


 ギュッと抱きしめ胸元に抱く。いつしか彼もワタシの隣にピタリと寄り添ってくれる。肩と肩がかすかに触れ合う距離。


 「うちの大天使しらたま様だ。存分に可愛がってくれ!」


 そう言った彼は、そっとワタシの肩を寄せ抱きしめてくれた。


 そういう所だよ。あなたがそういう人だからワタシは。


 ポロリポロリと、ワタシの目から涙が零れる。今度の涙は悲しみではなく、安心感と今までの苦しさを滲ませた涙だった。


 どれくらい泣いていただろう。気づけば登校時間を大幅に過ぎている。


 「ごめん……なさい」


 涙声になりながら彼に謝った。


 「気にすんな」


 ぶっきらぼうだがどこか温かみのある声色。


 「まぁなんだ。ソフィの噂の事も、その事で今まで悩んできた事も、軽々しくわかったなんて言うつもりはない」


 無言で頷くワタシ。


 「過去の事を忘れろとも言わん。過去の積み重ねで今のお前ができてるんだからな」


 ワタシの過去を否定しないでくれる。


 「だから今から話すのは、これからの……未来の事だ」

 「……未来?」


 彼が何を言おうとしているのかワタシにはわからなかった。


 「つまりだ。なんだその……ソフィは俺の彼女だろう? 俺の彼女がこんな悲しい顔してんだ。ここで見過ごしたら俺はお前の彼氏失格だ!」


 「――っ!」


 彼がワタシの目を真っ直ぐに見て真剣な眼差しで言葉を紡いでくれる。


 「例えお前が俺の体が目当てでも、それでも俺の彼女なんだから当然だ。それにちょっとばかし考えがあるんだ」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべ彼は言った。ワタシの真実に近付く言葉を。


 「俺に告白してきた時のあのドSキャラは演技だったって言ったよな?」


 コクリと頷く。


 あのドSキャラはワタシの最後の希望だった。彼が誰かのモノになってしまわないように、自分の存在を意識してもらえるように。


 物理的にでも繋がりたかった、藁をもつかむ最後の希望だったから。


 もうとっくにワタシの精神は限界だったのかもしれない。


 「今から話す内容はあのキャラが重要になってくる。利用すると言ってもいい」

 「利用?」


 聞き返すワタシ。


 「ソフィは噂によって今まで苦しんできたんだよな?」

 「……うん」


 「だったら今度はその噂とやらで意趣返いしゅがえしと行こじゃねーの。真っ向勝負だ! 作戦なんだが、よーく聞けよ――」



 「そそそ、そんなのダメだよ! そんな事したらショーマが……」


 作戦を聞いて唖然としてしまった。だってこんなのは普通じゃない。


 「まぁ待て待て。何も悪い話じゃない。上手く行けば同士が増えるかもしれない」


 彼が提案した作戦は正直馬鹿げていると思った。


 「でも、そんなの上手くいきっこないよ」

 「確かに今のままじゃ失敗するかもしれない。だが失敗してもソフィに悪意が向くことは無くなるだろう」


 「で、でも失敗しても成功してもショーマが……」


 それを聞いて彼はイタズラ好きの子供のように笑うのだ。


 「かかっ、気にすんな! 俺の立ち位置なんてどうでもいいからな。それに、有象無象の連中が言う事なんて気にしてねぇ」


 彼は笑いながら続ける。


 「俺は自分の目で見たことしか信じねぇし、俺に好意を寄せるヤツを見捨てる気はねぇ。 わかったな? 決定事項だから」


 まぁ家訓みたいなもんだと彼は続けた。


 彼のその勢いに、ワタシは黙って頷くしかなかった。


 「そうと決まれば、学校に行くぞ。やらなきゃいけない事が山ほどあるからな。とりあえず今日は印象操作と協力者を募る事だ」


 そう言って彼はスマホを操作して、誰かに連絡しているようだ。



 「よーし。ある程度の事は先に協力者には連絡してある。あとは学校に着いてから詳しく説明するだけだ。まぁ今日は準備期間と思ってくれ!」

 「うん」


 話がどんどん先に進む。


 「決戦は明日の昼休みだ。頼むぜ? 今日のソフィ次第で明日の成功率がアップするんだからな」

 「……うぐ」


 少し不安になるワタシ。そして彼は優しい微笑みで頭を撫でてくれる。


 「まぁそんな不安そうな顔すんなよ。それも今日までだ。明日の夕方頃にはきっと――」


 彼がその後に言った言葉は、一生忘れないだろう。


 そして実感する事になる。

 神月翔馬という人間の凄さを。

 そして彼の事をもっと好きになる。


「頼むぜ! 愛の監視者さん」


 ニコッと笑う彼の手に引かれワタシは歩き出す。明日の為……ううんワタシ自身と彼の為に。

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