彼女の本音〜決戦前日〜
女性の涙を見る機会は多くないと思う。
結婚式での涙。
出産した時の涙。
育ててくれた人の旅立ちに立ち会う涙。
最愛の人がいなくなる時の涙。
それから……
願わくば、それは悲しみの涙ではなく、嬉し涙であって欲しい。そう思う人はどれくらいいるだろう。
『この物語を愛してくれるあなたには、どうか暖かい涙を』
しかし現実は残酷で、目の前にいる彼女はどうやら悲しみの涙らしい。
マグカップの縁にミルクココアの跡が円を描いて残っている。彼女はゆっくりと、そして時折涙を流しながら語ってくれた。
中学時代から見た目の事でイジメられていた事。自分の容姿のせいで両親の悪口まで言われた事。
父と母の思い出の場所で高校生活をスタートさせた事。何かが変わると思っていた事。何も変わらなかった事。
告白してくる男はみんな体が目当てだと分かっていた事。
そしてその男子の中には、他の女子の憧れの先輩がいた事。だから、その女子が嘘の悪口を拡散させた。
夜になると如何わしい事をしてる。
誰にでも股を開く軽い女。
男に大金を貢がせている。
その他にも色々噂は絶えなかった。予想していた通りの事だが、実際に彼女の口から語られるのとでは言葉の重みがまるで違う。
「ぐすっ……それでも、ショーマがいたから……あなたがいたから耐えてこれた。ワ、ワタシ」
涙ながらに語る彼女はきっと1年前の事を思い出しているのだろう。
俺ももちろん覚えている。だけど今はまだ言わない。このまま流れに身を任せれば、きっと彼女は報われない。
それは俺が一番よく分かっている。
彼女はその先を言えずにヒューヒュー浅い呼吸を繰り返す。言いたいけど言えない……そんなもどかしさが彼女の口からこぼれ落ちるかのようだ。
「ちょっと待ってろ」
そう言って俺は席を立ち彼女に背を向けて部屋を出た。