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お父様と一緒⑤

 それからもぼくのプレゼント作戦は続いた。


「ねぇねぇヴィー、今日のプレゼントはどうだった? お父様喜んでた?」

「喜ぶというか、面白がっているようではありました」

「……それって良いってこと?」

「さぁ」


 そして時たま親戚の男の子が遊びに来ることも増えた。


「それでね、昨日はお父様に川で釣った魚の魚拓をプレゼントしたの! でもヴィーは喜んでなかったって言うんだよ。自信作だったのになー」

「お前はどんどんアウトドアに熟達していくね……」


 少年は笑い半分、呆れ半分な感じで言った。


「釣りなんてどこで覚えたの」

「見様見真似と、あとちょっとヴィーが手伝ってくれたよ」


 木の枝と糸を使って釣り竿を作ったんだけど、一つ目は縛りが甘くてすぐ壊れてしまったのだ。

 だから、魚が食いついても壊れないように、頑丈なものをヴィーが一緒に作ってくれた。今使っているのはヴィーと共作した二代目。


「なんでお父様は喜ばなかったんだと思う? ぼくだったら魚拓を貰ったら絶対嬉しいのにな」

「貰っても邪魔だからじゃない?」

「なるほど……!」


 たしかに、魚拓って何にも使えない!


「君、良い着眼点だね! 次は役に立ちそうなものを贈ってみることにする!」

「今更その気づきを得たんだ。遅いね」


 少年のアドバイスを得て、次の日ぼくはお父様に二代目釣り竿を贈った。


「そういうことじゃない……!」

「え?」

「魚を釣る道具の方が欲しかったわけじゃない!」

「なんでぼくが釣り竿を贈ったことを知ってるの? まだ言ってないのに」

「……ヴィーに聞いたんだ」

「もー、ヴィーってば君になんでも話しすぎ」



 お父様には相変わらず会えなかったけれど、ヴィーの話を聞く限りお父様はぼくのプレゼントを受け取ってはくれているらしい。


 前よりお父様とのコミュニケーションが取れている!


 今すぐは会えなくても、このまま続ければ少しずつ仲良くなって、いずれ一緒にお散歩したりできるかもしれない。


 ぼくの中では、今すぐお父様に会いたいという気持ちが薄れつつあった。


「今日もヴィーのご飯はとっても美味しい!」

「光栄です」


 ヴィーの作ってくれた昼食のオムレツを頬張っていた時のことだ。


 リーン、と玄関のベルが鳴った。珍しい。ただでさえ来客の少ない我が家、少年は来てもベルを鳴らさないから、このベルの音を聞いたのは随分久しぶりだった。


「見て参ります」

「うん」


 ヴィーは広間を出て行った。


 一体誰が何の用だろう?

 お客さんだったら嬉しいな。


 待つこと10分くらい。ヴィーが一通の手紙を持って戻ってくる。


「郵便屋さんが来たの?」

「大公家からの使者でした。旦那様への通達をお持ちになったようで」

「お父様にお手紙? どんな内容?」


 ヴィーは少し考えてから手紙を懐にしまう。


「旦那様は養子を取ると仰せでしたから、おそらくその件でしょう。公爵家ともなると、養子を取るにもいちいち大公家の許可を取らなくてはならないのです」

「ようし……?」

「私はこのお手紙を旦那様にお渡しして参ります」


 ヴィーがそう言って本館へ向かう。

 ぼくはそんなヴィーの言葉を全く聞いていなかった。


 養子?

 養子、イズ、里子? よそのお子さん? 里親? 子供? 我が家の新しい子供?


「……そんなの……」


 そんなのって。


「浮気だ! ぼくとも話してくれないのに!」


 ぼくは食卓から立ち上がり、本館へ走った。


「旦那様、お手紙をお届けに……」


 本館2階、お父様の執務室の前。

 執務室の扉のノブを回し、ちょうど部屋に入ろうとしているヴィーの足元に滑り込む。


 ドアの隙間を縫い、ぼくは初めてお父様の執務室に入った。


「お父様! どういうことなの! ぼくというものがありなが、ら……?」

「え……?」


 いきなりだけど、ここで僕のお父様に持つイメージについて触れようと思う。

 5歳児のお父さんなのだから、少なく見積もって18歳の時に子供を作ったとしても23、4歳。まぁ成人した大人ではあるだろう。


 だから、ぼくはお父様というと、ヴィーくらい背が高くて、ちょっとがっしりとした、お髭なんかを蓄えたおじさんを想像していた。そういう人が執務室にいるのだと思っていた。


「親戚の少年……」


 しかし、執務室の真ん中の皮張りの椅子に、偉そうに足を組んで座っていたのは見慣れた銀髪の少年だった。


「えっと、お父様は?」

「「…………」」


 キョロキョロするぼくとは裏腹に、ヴィーと少年は揃ってひたいを抑えて俯き、深いため息をつく。


「どうしたの? ねぇ、お父様は?」

「「…………」」


 二人はぼくを無視して目配せしあうだけで何も言わない。

 だらだらと汗を流して、何か困っているみたいだった。


「……あっ! 分かった!」

「な、なにが!?」


 何故かびくっと少年が反応した。

 ぼくは少年を指差して、名推理を披露した。


「親戚の少年が、うちに来る養子」

「違う」

「なんだぁ」


 違うのか。


「そしたら毎日少年と遊べて楽しいと思ったのにな」

「うっ……」


 少年とヴィーが身を寄せ合ってこそこそ話し合う。


「もうそう言うことにしませんか?」

「無理だろ。今乗り切ったとしても絶対後々破綻する!」

「今乗り切れればいいじゃありませんか」

「他人事だと思って……!」


 ヴィーがくるっと振り返り、しゃがんでぼくに視線を合わせる。


「お嬢様、この際なのではっきり申し上げますが」

「ヴィー!」

「うん」

「この威厳のカケラもないちんちくりんが」


 ヴィーが少年を指さす。


「あなたのお父様です」

「ぼくの?」

「お父様です」


 この少年が。


「僕のお父様……」

「はい」


 少年が居心地悪そうに足を組み替える。


「えええぇっ!?」

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