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お父様と一緒③

「昨日はお父様にプレゼントできなかったな」


 あれからヴィーに徹底的に休まされていたので、もうお部屋から出られなかった。

 捻った手は利き手じゃない左だったから良かったんだけど、お尻が痛くて仰向けで寝れないのが辛かった。うつ伏せになって氷嚢を吊るしてもらって一晩休んだのだ。


 起きたら大分痛みがマシになっていて助かったな。回復の早い5歳児の体に感謝だ。


 しかし、心配性のヴィーに怪我が完治するまでは屋敷からの外出禁止を言いつけられている。

 早くお庭で遊びたーい。


 そういうわけで、今日は書庫で絵本を読む。もう何度も読んだけどこれしか絵本がないので仕方がない。

 「はなのめがみとふぶきのばけもの」。よくある童話って感じの話。


「今日はお父様に絵を描くっていうのはどうだろう」


 この絵本の挿絵を参考に、お絵かきをしてプレゼントしようかな。そしたら今日ぼくが絵本を読んだことも、絵を描いて楽しんだことも分かるだろう。


「さ、描くぞ!」


 気合を入れるべくガッツポーズを決めると、腕が机にぶつかり、がたりと揺れた。その衝撃でペンがコロコロと転がり、床に落ちる。


「あららら……」


 転がったペンは本棚の下の隙間に入ってしまう。ぼくは床に這いつくばり、手を差し込んでペンを取ろうとした。


「うーん、あとちょっと……取れた! ん?」


 ペンを掴んだと思ったら、何か硬いものが指先に触れる。


「他にも何か落ちてる。なんだろう」


 頑張って引っ張り出すと、それは皮張りの手帳だった。ぼくには大きいけれど、大人にとっては多分手のひらサイズの手頃な手帳。

 開いてみると、中のページはほとんど使われていて文字がたくさん書いてあった。


「女の人の文字っぽい……?」


 このお屋敷にはぼくとヴィーとお父様しか住んでいないはずだ。この手帳は誰の?


「まぁ今はいいや。早くお絵描きしよー」


 お父様にプレゼントする絵を描かないと。断じて細かい字を頑張って読む気分じゃなかったとかじゃないけど。


 窓際の席で陽の光を背に絵を描いていると、すっと光を遮る影があった。


「?」


 窓の外を見る。

 そこには、外からこっちを覗き込んでいる少年がいた。


 ぼくとおんなじきれいな銀髪で、アメジストのような目をしている。

 歳は多分中学生くらい。黒いシャツにズボン、そしてリボンタイを締めている。ぼくと同じくらい身なりの良い男の子だ。


「…………」


 男の子はばっちりぼくと目が合っているのに、何も言わない。


「えっと……」


 これは沈黙に耐えかねてぼくが言った台詞。


「……怪我をしたんだって?」


 少年がやっと口を開いた。


「ヴィーに聞いた。昨日、木から落ちたって」

「うん……」


 それはそうだけど、そもそもこの男の子は誰?

 髪や目の色から、おそらくぼくの血縁者だと思うけど。


「君、誰?」


 分かんないので、ぼくは素直に聞いた。


「……君の親戚だよ。ちょっと用事があって屋敷に寄ったんだ」

「ふーん。怪我は大丈夫だよ。昨日は痛かったけど、寝たらほとんど治ったもの」


 ぼくは窓枠から身を乗り出して少年とおしゃべりする。

 少年の髪は陽の光に透けてキラキラと輝いていた。


「最近面白いことをやっているんだってね」

「面白いこと?」

「虫を捕まえたり、泥団子を作ったり」

「それもヴィーから聞いたの?」


 この少年はヴィーと随分仲良しらしい。


「お父様にぼくのことを知ってもらおうと思ってね。あのね、お父様分かる? このお屋敷のご主人様らしいんだけど!」

「分かるよ」

「会ったことあるの!?」

「会ったことは……ないけど」

「なんだぁ」


 この少年もお父様とは会えないらしい。僕だけ拒否って訳じゃないんだ。

 お父様、実はシャイとか?


「面会拒絶されているのに、よくやるよね」

「だって会いたいんだもの」

「なんでそんなに会いたいの? 父親だから? 血のつながりがあるからって、親子の情があるとは限らないよ」

「そうかもしれないけど」

「君の父親はきっと、君に興味なんかないよ」

「ぼくは興味あるもん」

「会ってどうするの?」

「どうするって……」


 そんなの決まってる。


「お礼を言うの!」

「……お礼?」

「そう。見てみて」


 僕は立ち上がってくるりと回ってみせた。


「似合う?」

「まぁ……似合うよ」

「このドレスね、お父様が買ってくれたものなんだよ。ヴィーが教えてくれたんだけどね、お父様はぼくがこの屋敷で過ごしやすいように、いろんなことを考えてくれてるんだって。だからね、毎日楽しいよって言って、ありがとうって言いたいの!」

「…………」


 少年は面食らったとように目を丸くした。


「楽しいの? こんな辺境での暮らしが?」

「うん。毎日ヴィーが美味しいご飯作ってくれて、一緒に遊んでくれるもの。可愛いドレスが着られるし、お庭は広いし……」


 ちょっと娯楽は少ないけど、その分目新しいものも多い。


「お父様も遊んでくれたら、もっと楽しいんだけどね」

「……そのお父様が、心の冷たくて悪魔みたいに非道な男でも?」


 少年が足元に視線を落として言う。

 なんでそんなことを言うんだろう?


「そんなわけないよー」

「は?」

「だって、僕のお父様で、ヴィーのご主人様だもの。きっと、すごく優しいお父様だよ」

「……馬鹿じゃない?」


 少年は人差し指でぼくのおでこをはじいた。


「いった!」

「もう怪我なんかしないように。馬鹿」

「ひどい、馬鹿って言う方が馬鹿だよ!」


 ぼくが騒ぐと少年は少し笑って、「もう戻るよ」と言った。


「あっ、待って。これあげる」


 ぼくは描いていた絵を少年に押し付けた。


「なにこれ。描き損じ?」

「違う、芸術」

「へー……」

「本当はお父様にあげようと思ったんだけどね、あげるよ。今日の記念」

「いいの?」

「うん。お父様へのプレゼントは別なの探すから。また遊びに来てね」

「まぁ、気が向いたらね」


 少年はそう言うと、ぼくの絵をポケットにつっこんでさっさと歩いて行ってしまった。


「あれっ、結局名前聞いてないや」


 まぁいっか。後でヴィーに聞こう。

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