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大公様と一緒②

 ぼくたちは謁見の間に移動した。

 RPGの最初、勇者が王様とお話しするために用意されたようなお部屋で、うさぎさん——大公様はどっかりと玉座に座る。

 かわいいなぁ……。


 もちろん、その横にはあの可愛いメイドさん。どうやら彼女はぬいぐるみの大公様を運搬する役目を担っているらしい。


「改めてよく来たね、メテオラス! そしてサスリカとリオ!」


 大公様はうさぎさんのぬいぐるみに似合わぬダンディなお声でそう言う。


 ちなみに、メテオラスというのはお父様のファーストネームだ。

 お父様にこんなに親しげに話しかける人をぼくは初めて見た。


「来たくて来たわけじゃないけどね。サスリカがどうしてもって言うから」

「ありがとうサスリカ! こいつはいくら余が招待しても全然お城に来てくれないんだ! ひどいと思わないかい?」

「ひどーい」

「もっと友達を大事にするよう君から言ってやっておくれよ!」

「友達? 誰が?」


 大公様はお父様にばっさり切り捨てられていた。


「そうだ、リオ! 元気かい。メテオラスにいじめられていないかい」

「な、ないです……」


 リオはまだ喋るぬいぐるみに目を白黒させている。


「おれのこと知ってるんですか……」

「もちろんさ! 君の里子手続きをしたのは余だもの。楽しくやってるかい」

「大丈夫、です……大好きなねえさまと、優しい執事さんと、あと父さんと一緒で、毎日楽しいです」

「それなら良かった! 困ったことがあったらいつでも余に言うんだよ。君は大切な花守なんだからね」


 花守。また出た。

 たまーに聞くワードだ。なんなのかはいまだによく分かんない。


「はい! 花守って何ですかー」

「良い質問だね、サスリカ!」


 大公様がそのふわふわの手で僕を指した。


「花守とは……」

「とは?」

「花守とは……!」

「とはとは?」


 大公様が重々しく言葉を切る。メイドさんがドラムロールを演奏し、さらに期待を持たせる演出を加えていた。


「花守とは!」

「花守っていうのは、花の女神の祝福を受けて生まれてくる人間のことだよ」


 重々しく切り出そうとした大公様を遮って、お父様がさらっと言った。


「なんで言っちゃうのさ!」

「だってくどいんだもの」

「花の女神?」


 どこかで聞いたことある!

 えっと……そうだ、書庫にあった絵本だ。


 「はなのめがみとふぶきのかいぶつ」。人々を困らせる怪物と、人間を愛する花の女神様の物語。


「……こほん、サスリカ、上を見て」

「上?」


 大公様に言われて天井を見上げる。気づかなかったけれど、天井にはいっぱいに絵が描かれていた。


 黒い獣のような怪物と、それと対峙する美しい女神様。女神様の後ろでは傷ついた人たちが涙を流している。


「これは我が国に伝わる昔話の一節を描かせたものなんだよ」


 そう言って、大公様は昔話について教えてくれた。



 その昔、人々は大地の恵みを分けてもらって暮らしていた。

 けれど人々の数が増えるにつれ、沢山の恵みが必要になり、大地は荒れ、人々は感謝を忘れていった。


 それに怒ったのはもっと昔からそこに住む吹雪の怪物だ。自分の住処を荒らす人々を滅ぼして、元の静かな大地を取り戻そうとした。


 人々は強大な力を持つ怪物を前に、なす術もない。そこで女神様に祈った。助けてくださいと。

 現れた花の女神様は怪物を宥め、約束をする。


 人間たちは必ず改心し、この大地を再び愛すようになるだろう。1000年の後、この地は花に満ちた美しい場所になる。それまで待ってくれないか。


 怪物は答える。

 ならば1000年だけ時間をやろう。その時に約束が果たされていなければ、もはや慈悲をかけることはない。


 そうしてなんとか人々は生き延び、美しい国を作るために力を尽くすようになりましたとさ。おしまい。



「というわけで、約束を果たすため、我が国ではたまに女神の加護を受けた花守が生まれてくるようになったのだ」

「なるほどー」


 大公様はうんうんと頷いた。


「そして花守は植物を育む力を持つ」


 植物を育む力! それは見覚えがある。


「リオはいばらを出せるもんね」

「はい、ねえさま。この力でねえさまを脅かすものを退治します……!」

「ありがたいけど、ぼくは何にも脅かされてないよ?」


 リオは優しすぎるせいなのか、たまに突飛な行動を取るからびっくりする。ぼくのためを思ってやってくれているんだって分かっているけどね。


「その通り、花守の力は命を育み隣人を守る素晴らしい力だ。しかし……女神の与えた力は、時に我々の手には余ることがある」


 リオがうちに来てすぐ、屋敷をぶっ壊した時みたいなことかな。


「ま、基本は素晴らしい力さ! 花の咲かない我が国で、唯一花守たちは美しい花を咲かせてくれる!」

「へー!」

「王都には、花守が管理する庭園がいくつかある。そこでなら花が見られるよ」

「ほんと、お父様! みたいみたい!」

「そのうち行こうか」


 お父様はにっこり微笑んでそう言った。楽しみ!


「城の中にも庭園があるんだ。帰りに見ていくと良いよ!」

「ありがとう、大公様! 早く帰りたーい!」

「もうちょっと遊んでって欲しいよ……」


 大公様はしょぼんとしてしまった。

いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます。

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