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大公様と一緒①

遅くなりました。

「サスリカ、お城に行ってみたくない?」


 王都のタウンハウスの談話室、お父様のお膝でのんびりしていた時、不意にお父様が言った。


 今、ぼくらは王都に来ている。

 最初は王都にある中央学院の文化祭を見るためにやって来て、3日位で領地に帰る予定だった。


 けれどぼくが新しい友達を屋敷に呼んだりして、もうすっかり滞在が伸びてしまっていた。


「お城?」

「そう。王都に来たら顔を見せに来いって言われててね。まぁ、お前が気乗りしないなら行かなくてもいいんだけど」


 顔を見せに来いって、お父様に言うような相手?

 つまり……お父様のお友達!?


「行きたい! ぼく、その人に会いたい!」

「そう? お前が会って楽しい相手でもないと思うけど」

「そんなことないよ! ぼく、絶対絶対その人に会いたい! 絶対!」

「…………」


 お父様のお友達なんて、今まで見たことも聞いたこともない。だからぼくはお父様には親しい友人なんかいないんだと思ってた。


 けど、こんなお父様にわざわざ呼んでくれるお友達がいる! これはめんどくさがりのお父様を引きずってでも、お友達に顔を見せに行かなくちゃ!


 あと、ぼくの知らないお父様のお話とか聞きたいし。


 そう思ってぼくが食い気味に返事をしたら、お父様はにっこりと笑った。


「やっぱりやめようか」

「なんで!?」

「旦那様、お戯れがすぎますよ」


 そこへ紅茶を用意したヴィーがやって来た。


「このまま今日一日、僕と一緒にのんびりするほうが良くない?」

「えー? それは楽しいけど、その人とは王都でしか会えないんでしょ? 会っておいた方が良いよ」

「お嬢様のおっしゃる通りです。数年ぶりにお顔くらいお見せになった方がよろしいかと」

「まぁ、サスリカが言うなら行こうか……。お前とリオはまだ城に行ったことがなかったよね」

「うん、楽しみ!」


 そう言うわけで今日はお城へ向かうことになった。



「すっごー……大きい……」

「とっても立派なお城です……」


 タウンハウスから馬車で30分ほど。

 ぼくとリオは、お城の門の前でため息をついていた。


 天まで届くようなそびえ立つ城。白を基調として、金の装飾が施されている。クラシカルで真面目そうな迫力。


「どうしたの、早く行くよ」

「お父様、待ってよー」


 こんなすごいお城を前にしてすたすた入っていくお父様は本当に流石だ。


 長いお庭を抜けてお城の中へ入る。

 エントランスでは、立派な身なりをした男の人たちがずらりと待ち構えていた。


 なんかデジャヴ。学園祭の時みたいだ。


「ズィマレスター公爵家御一行様、お待ちしておりました」

「うん」

「大公様がお待ちです。ご案内いたします」

「うん」


 お父様は慣れているのか、気のない返事をする。


 ぼくとリオは手を握りあってびくびくしているというのに……。


 案内されてお城を進む。

 ぼくの住むお屋敷も大きいと思っていたけど、お城の比じゃないな……。


「すごいね、おっきいね」

「こういう建物が好き?」


 はしゃいでお父様にじゃれつくと、お父様はぼくの頭を撫でて言う。


「それならうちも大きなお城に改築しようか」

「えーっ、できるの?」

「やろうと思えばできるよ。このお城より大きくしよう」

「すごい!」

「公爵様、どうかご勘弁ください……大公家の威信に関わります……」


 案内役の人が汗を拭きながら言う。お父様はその言葉をスルーした。 


 ……なんだか、見られている。

 道ゆく人の視線という視線がぼくら、というかお父様を向いている……。


「あれは……!」

「ズィマレスター公爵がお越しになっているぞ!」

「ぜひご挨拶を……」


 身なりの良い老若男女がお父様の周りに集まり、次々に挨拶をする。

 お父様、人気者。


 これはしばらく時間がかかりそう。

 暇になったぼくが辺りを見回すと、廊下の向こう、曲がり角からひょっこりとうさぎさんが顔を出しているのが見えた。


 もちろん本物じゃない。メルヘンにデフォルメされたうさぎのぬいぐるみだ。

 うさぎさんはぴょこぴょこと体を折り曲げて、ぼくを手招きしているみたいに見えた。


「……? なんだろう?」


 興味を惹かれたぼくは、そっとお父様たちから離れて歩き出した。


「やぁ、はじめまして!」

「わぁっ!」


 曲がり角の向こうには、うさぎのぬいぐるみと、それを抱えるメイドのお姉さんがいた。


 そしてぼくがびっくりしたのは、うさぎのぬいぐるみから明らかに大人の男の人の声がしたことだ。


「腹話術……?」


 ぼくが恐る恐るお姉さんを見ると、お姉さんはふるふると首を横に振った。


「はじめまして、サスリカ。余はガルバール。ずっと君に会いたかったんだ!」

「なんでぼくのこと知ってるの?」

「もちろん噂に聞いていたからだよ。ズィマレスター公爵、あの氷のような男の愛娘だってね」

「お父様の……?」


 うさぎさんはぴょんぴょん飛び跳ねながら話す。

 ぬいぐるみが動いて喋ってる……。


「どういう仕組み? 中に機械が入っているの?」

「いたたたた! 耳を引っ張ったらダメだよ〜!」


 「め」と言う感じでメイドさんもぼくに静止をかけた。実際は何も言ってないけど。


 メイドさんはすっごく可愛いのに無口で無表情。こっちもお人形さんみたい。

 ちょこっとだけうちの執事を思い出すなぁ。


「乱暴にしてごめんなさい」

「わ、分かってくれたならいいんだ」

「…………」


 うさぎさんは身振り手振りで、メイドさんはこくんと頷いて返してくれた。


「君は公爵と仲が良いの?」

「うん! いっつもお膝の上で本を読んでもらうよ。あと、よく一緒に寝るの!」

「なるほど、なるほど。彼がそんなことをねー……」


 うさぎさんはうんうんと頷く。


「でも、あんまり仲良くしない方が良いかもよ?」

「えぇ?」

「彼は危険な男だよ。彼の持つ力を見たことがある? 彼は冷たい氷の力を持つ恐ろしい男さ。その力がいつか君にも牙を向くかもって、そう思わない?」

「それって」


 どういう意味? と聞こうとしたら、うさぎさんが突然宙に浮いた。


「人の娘を攫おうなんて、悪いうさぎだね」

「お父様!」


 うさぎさんが宙に浮いたのではなく、お父様が雑に耳を浮かんで持ち上げたのだった。

 うさぎさんはじたばたと暴れるけれど、逃げられない。メイドさんもおろおろしていた。


「サスリカ、お前にうさぎの氷漬けを見せてあげよう」

「氷……」


 そういえば、リオがお屋敷を壊した時、お父様は怒って冷たい吹雪を吹かせていた。周りの空気はあまりの寒さに凍りつき、リオのいばらでさえその極寒には勝てなかった。


 お父様が成長しないのがなんなのかとか、何その謎パワーとか、結局知らないんだよね。

 聞いても教えてくれそうにないから、聞くに聞けないというか……。


「サスリカ? どうかした?」

「あっ、ううん、なんでもないよ」

「このうさぎに嫌な目に遭わされたのかい。大丈夫、二度とお前の前に現れないようにしてあげるよ」

「しなくていいよ!」


 可愛いうさぎさんに何をするつもりなの。


 それにしても、お父様の態度は怒っていると言うより、なんだか冗談を言っているような、そんな軽さがある。

 このうさぎさんとお父様は……


「全く、勝手に人の娘に近づくなよ、ガルバール」

「だってお前が会わせてくれないんだもーん」


 やっぱり、なんか仲良さそう!


「お父様、そのうさぎさん……」

「あぁ、こいつ?」


 お父様はうさぎさんを振り回しながら言う。


「こいつ、ガルバール。今回僕を呼んだやつ。あと、この国の大公ね」


 大公っていうのは、つまり王様ってことだ。

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