執事と一緒②
「うん、今日も寒い!」
でも今日は大丈夫。ヴィーに出してもらったコートと、昨日のマフラーを装備しているから。
今日はお庭で遊ぼうと思ってヴィーに用意してもらったんだよね。
「どこでやろうかな〜。ここかな?」
今日は何をするかというと、それはお花のかんむり作り! 素敵なアイテムを作ってヴィーにプレゼントして、あの鉄面皮を喜ばせちゃおうという作戦だ。
「やるぞっ」
子供の頃はよくお花のかんむりとか指輪とか作っていたんだよね。って、今も子供か。
作り方は覚えている。
ぼくは庭の真ん中に座り込んで、地面に生える草を手に取る。
ゆっくり、つるを組み合わせるように編んで……
「あれ?」
そこでふと気づく。
このお庭、お花が全然ない。
「昨日からなんとなく思っていたけど……徹底的に花が咲いてないな。こんなに一個も咲いてないことある?」
一通り庭を回ってみたけど、やっぱり花はなかった。
まぁないなら仕方ないかなぁ。
妥協するしかないか。残念だけど。
ぼくは花のない地味なかんむりを作った。
*
「ヴィー! 何してるの?」
お昼を過ぎると、ヴィーがお庭にやって来た。
「庭の植物に水をやっているのです。お嬢様こそ、庭で何をしていたのですか?」
「なんでぼくがお庭で遊んでいたって分かるの!?」
「スカートに土がついています。仕方のない方ですね」
ヴィーはそう言うと跪き、ぼくのスカートの汚れを払ってくれる。
「ありがとう。ね、ヴィー、そのままの姿勢でね」
「? はい」
ふっふっふ、今ぼくの手には、自信作のこれがある!
これでヴィーに感謝を伝えてみせる!
ぼくはこの自信作を、ヴィーの頭にそっと載せた。
「これは……」
「草のかんむり! 本当はお花で作りたかったけど、全然咲いてなかったの」
「私にくださるのですか?」
「うん。いつも屋敷を掃除してくれて、美味しいご飯を作ってくれるヴィーにプレゼント」
「ありがとうございます」
ヴィーは表情を変えずにそう言う。
もっと喜んで欲しかったんだけど……仕方ないか。お花がないから、なんか地味な出来栄えになっちゃったし。
出来栄え自体は良いと思うんだけどなー。
「本当はお花でいっぱいにしたかったんだ。次は春にリベンジするよ」
「……暦の上では、今は春ですよ?」
「……えっ!?」
ぼくは庭の状況を見回す。
この閑散とした、冷たい風が吹き荒ぶ、花のひとつもない庭が春の庭!?
「うそ」
「本当です。生憎ですが、春になってもこの庭に花は咲きません」
「なんで……?」
「この国は大陸の北端に位置する、とても寒い国です。滅多に花は咲きません」
「そんなぁ」
じゃあリベンジする機会は来ないってこと?
「……そうだ!」
ぼくはヴィーの頭から草のかんむりを掠め取った。
「やっぱり返して!」
「それは構いませんが……」
いいこと思いついた。ぼくはかんむりを握りしめて部屋へと走った。
*
「ヴィー、さっきはごめんね」
「もうすぐお夕飯ができますよ」
夜になると、ヴィーは厨房で夕飯の支度をしていた。
「ちょっとだけかがんで。すぐ済むから!」
「はい」
ヴィーは鍋の火を止めて、素直にぼくの言う通りにしてくれる。
「はい、プレゼント。やり直し」
ぼくはヴィーの頭にかんむりを載せる。花のかんむりを。
「これは……」
「あのね、紙を折って作った花なんだけどね、ないよりいいかと思って」
折り紙の容量だ。紙を正方形に切ったものを何個も作って、折り紙で花を折って、かんむりにくっつけただけ。
いかにも子供の工作って感じだけど、今のぼくの紅葉のような小さな手にはこれが精一杯だった。
「ぼく、ヴィーに花のかんむりをプレゼントしたかったの。ヴィーの白い髪によく似合うと思ったから」
「お嬢様……」
「ヴィー、いつもありがと。お仕事の邪魔してばっかりでごめんね」
「…………」
ヴィーは自分の頭の上のかんむりを手に取り、じっと眺めた。
「……お礼を言われることなどありません。これが私の仕事ですから」
「でも……」
「お嬢様」
「わっ!?」
ヴィーがぼくの腕の下に手を入れ、持ち上げる。5歳児の小さな体は軽々と持ち上げられてしまった。
「あなたのお世話をすることは、旦那様から申しつけられた私の仕事ですが……」
「うん」
「こんなに優しい主人を持てる私は、きっと誰よりも幸せです」
「ヴィー……」
そう言うヴィーはいつも通りの無表情だったけど、心なしか嬉しそうに見えた。
ぼくは嬉しくなってヴィーにたくさん抱きついた。
その日の夕食は、ぼくの好きなものだらけだった。
*
「ヴィー! 今日はお庭をお散歩したいの。付き合って!」
「かしこまりました」
ヴィーを引っ張って庭へ出る。ヴィーが綺麗に管理してくれているから、落ち葉もなくピカピカだ。
「ヴィー、手を繋いで!」
「ですが……」
「お願い。ぼくが転ぶかもしれないでしょ?」
「……それは大変です。それなら、仕方がありません」
ヴィーはそう言うと、そっとぼくの手を握ってくれた。やっぱり、ヴィーの手はびっくりするくらい冷たい。
「少しだけですよ。お嬢様の手が冷えてしまいますから」
「いいのっ。お庭を回り切るまでずっとこのままね」
「……かしこまりました」
ぼくたちは手を繋いでお庭を回った。
とっても楽しかった!