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執事と一緒②

「うん、今日も寒い!」


 でも今日は大丈夫。ヴィーに出してもらったコートと、昨日のマフラーを装備しているから。

 今日はお庭で遊ぼうと思ってヴィーに用意してもらったんだよね。


「どこでやろうかな〜。ここかな?」


 今日は何をするかというと、それはお花のかんむり作り! 素敵なアイテムを作ってヴィーにプレゼントして、あの鉄面皮を喜ばせちゃおうという作戦だ。


「やるぞっ」


 子供の頃はよくお花のかんむりとか指輪とか作っていたんだよね。って、今も子供か。


 作り方は覚えている。

 ぼくは庭の真ん中に座り込んで、地面に生える草を手に取る。

 ゆっくり、つるを組み合わせるように編んで……


「あれ?」


 そこでふと気づく。

 このお庭、お花が全然ない。


「昨日からなんとなく思っていたけど……徹底的に花が咲いてないな。こんなに一個も咲いてないことある?」


 一通り庭を回ってみたけど、やっぱり花はなかった。

 まぁないなら仕方ないかなぁ。

 妥協するしかないか。残念だけど。


 ぼくは花のない地味なかんむりを作った。



「ヴィー! 何してるの?」


 お昼を過ぎると、ヴィーがお庭にやって来た。


「庭の植物に水をやっているのです。お嬢様こそ、庭で何をしていたのですか?」

「なんでぼくがお庭で遊んでいたって分かるの!?」

「スカートに土がついています。仕方のない方ですね」


 ヴィーはそう言うと跪き、ぼくのスカートの汚れを払ってくれる。


「ありがとう。ね、ヴィー、そのままの姿勢でね」

「? はい」


 ふっふっふ、今ぼくの手には、自信作のこれがある!

 これでヴィーに感謝を伝えてみせる!


 ぼくはこの自信作を、ヴィーの頭にそっと載せた。


「これは……」

「草のかんむり! 本当はお花で作りたかったけど、全然咲いてなかったの」

「私にくださるのですか?」

「うん。いつも屋敷を掃除してくれて、美味しいご飯を作ってくれるヴィーにプレゼント」

「ありがとうございます」


 ヴィーは表情を変えずにそう言う。


 もっと喜んで欲しかったんだけど……仕方ないか。お花がないから、なんか地味な出来栄えになっちゃったし。

 出来栄え自体は良いと思うんだけどなー。


「本当はお花でいっぱいにしたかったんだ。次は春にリベンジするよ」

「……暦の上では、今は春ですよ?」

「……えっ!?」


 ぼくは庭の状況を見回す。

 この閑散とした、冷たい風が吹き荒ぶ、花のひとつもない庭が春の庭!?


「うそ」

「本当です。生憎ですが、春になってもこの庭に花は咲きません」

「なんで……?」

「この国は大陸の北端に位置する、とても寒い国です。滅多に花は咲きません」

「そんなぁ」


 じゃあリベンジする機会は来ないってこと?


「……そうだ!」


 ぼくはヴィーの頭から草のかんむりを掠め取った。


「やっぱり返して!」

「それは構いませんが……」


 いいこと思いついた。ぼくはかんむりを握りしめて部屋へと走った。



「ヴィー、さっきはごめんね」

「もうすぐお夕飯ができますよ」


 夜になると、ヴィーは厨房で夕飯の支度をしていた。


「ちょっとだけかがんで。すぐ済むから!」

「はい」


 ヴィーは鍋の火を止めて、素直にぼくの言う通りにしてくれる。


「はい、プレゼント。やり直し」


 ぼくはヴィーの頭にかんむりを載せる。花のかんむりを。


「これは……」

「あのね、紙を折って作った花なんだけどね、ないよりいいかと思って」


 折り紙の容量だ。紙を正方形に切ったものを何個も作って、折り紙で花を折って、かんむりにくっつけただけ。

 いかにも子供の工作って感じだけど、今のぼくの紅葉のような小さな手にはこれが精一杯だった。


「ぼく、ヴィーに花のかんむりをプレゼントしたかったの。ヴィーの白い髪によく似合うと思ったから」

「お嬢様……」

「ヴィー、いつもありがと。お仕事の邪魔してばっかりでごめんね」

「…………」


 ヴィーは自分の頭の上のかんむりを手に取り、じっと眺めた。


「……お礼を言われることなどありません。これが私の仕事ですから」

「でも……」

「お嬢様」

「わっ!?」


 ヴィーがぼくの腕の下に手を入れ、持ち上げる。5歳児の小さな体は軽々と持ち上げられてしまった。


「あなたのお世話をすることは、旦那様から申しつけられた私の仕事ですが……」

「うん」

「こんなに優しい主人を持てる私は、きっと誰よりも幸せです」

「ヴィー……」


 そう言うヴィーはいつも通りの無表情だったけど、心なしか嬉しそうに見えた。

 ぼくは嬉しくなってヴィーにたくさん抱きついた。


その日の夕食は、ぼくの好きなものだらけだった。



「ヴィー! 今日はお庭をお散歩したいの。付き合って!」

「かしこまりました」


 ヴィーを引っ張って庭へ出る。ヴィーが綺麗に管理してくれているから、落ち葉もなくピカピカだ。


「ヴィー、手を繋いで!」

「ですが……」

「お願い。ぼくが転ぶかもしれないでしょ?」

「……それは大変です。それなら、仕方がありません」


 ヴィーはそう言うと、そっとぼくの手を握ってくれた。やっぱり、ヴィーの手はびっくりするくらい冷たい。


「少しだけですよ。お嬢様の手が冷えてしまいますから」

「いいのっ。お庭を回り切るまでずっとこのままね」

「……かしこまりました」


 ぼくたちは手を繋いでお庭を回った。

 とっても楽しかった!

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