新しい友達と一緒⑥
「やっぱりこの組み合わせが最高だな!」
「うん! 靴はこれが一番似合うよ!」
ぼくら流パーフェクトコーデが完成したところで、ぼくたちは顔を見合わせて笑った。
「はー……この感覚久しぶりだな」
「久しぶり?」
「前世ではよく姉貴の服借りて出かけたりしてたけど、今世ではがっつり女装することなかったから」
「えー、なんで?」
「…………」
プラローが自分のつま先を見ながらつぶやくように話し出す。
「前は、親父とお袋に責められても姉貴が味方してくれた。でも……今はその姉貴もいないから……」
「うん」
「まぁ、なんだ、味方もいなくてビビってたというか……」
「味方がいないなんてそんなことないよ!」
プラローはこんなに可愛くて素敵なんだから、今世でだってプラローの味方はたくさん見つかるはずだ。
確かに、自分にとって大切なことって、受け入れてもらえなかったらどうしようと思うと話すのは怖いけど。
でも、思い切って切り出せば案外笑い飛ばしてもらえるものだったりする。
だからきっと、プラローの友達も、家族も、誰一人として受け入れてくれないなんてことはないはずだ。
「そうだな」
ぼくが言うと、プラローはぼくの目をじっと見て、それから優しく笑った。
すると、こつこつ、と廊下から足音が聞こえた。
「お嬢様、遅くなりました」
「ヴィー!」
良いタイミングで帰って来たヴィーがぼくの部屋にやって来たのだった。
「あのね、お願いがあるの。プラローのワンピースをシワにならないように乾かして欲しくて」
「……かしこまりました、お任せください」
ヴィーは姿見の前にいるプラローを一瞥してから、ワンピースを持って部屋を出て行った。
ぱたんと扉が閉まるや否や、プラローが床に崩れ落ちる。
「見られた……! 絶対頭がおかしいと思われた!」
「えー、ヴィーはそんなふうに思わないよ。可愛いなぁって思ったんだよ、きっと」
続いて玄関の扉が開く音がして、お父様とリオが帰ってくる。
「お帰りなさい、お父様、リオ!」
「おや、パーシヴァルの次男が来ていたのか」
「また女の子になってる……」
「街でばったり会ってね、びしょ濡れだったから連れて帰って来たの。風邪ひいちゃうからね」
「お、お邪魔してます」
プラローはかちこちになりながら言う。
「サスリカのドレスを貸してあげたの?」
「うん! とっても似合ってるでしょ?」
「良いんじゃない」
お父様は格好について尋ねるとだいたいこう言う。
「いくら女の格好をしたって、おれは騙されないです……ねえさまに近づく虫……」
「リオも似合うと思うよね? 一番似合う組み合わせを選んだの!」
「はい、とっても素敵なセンスです。流石ねえさまです」
よかった。二人とも褒めてくれた。プラローの格好にちゃんと言及していたかは微妙だけど。
二人は荷物を下ろすために部屋へ戻って行った。
「ほら、二人も似合うって言ってたよ!」
「言ってたか?」
言って……たよ! たぶん。
「まぁ……女装についてはびっくりするほど何も言われなかったな……」
まぁ、あの二人は細かいことは気にしないと言うか、自分の興味のあることしか気にしない人たちだから……。
*
そろそろ暗くなって来たので、プラローにはうちの馬車で家に帰ってもらうことになった。
馬車に乗って女装で帰ったら流石に家族にバレると言うので、帰りはリオの服だ。
「なんでこいつにおれの服……」
「ごめんね、リオ。ぼくの友達のためにありがとう!」
「ねえさまのためならなんでもないです」
リオはにっこり笑って許してくれた。優しい弟を持ててぼくは幸せだ。
「そうだ!」
「ん?」
プラローの帰り際、ぼくは思い立った。
「今日の記念にあのドレスをプラローにあげようと思うの。お父様、どうかな?」
「良いんじゃない」
あれはお父様のお金で買ってもらったものだ。なので相談すると、お父様はあっさりオーケーしてくれた。
「いや、貰えないだろ! あれいくらするんだよ」
「大した値段じゃないよ。うちの娘と仲良くしてくれているようだし、そのくらい構わないさ」
「い、いえ、その……」
「決まりね! ヴィー、箱に入れてあげて」
「かしこまりました」
中身が分からないように白い箱に入れてリボンを結んでもらって、プラローに手渡した。
屋敷を出て、馬車に乗り込もうとするプラローを見送る。
あたりはすっかり暗くなって、橙色の街灯がらんらんと輝いていた。
「今日は引き止めちゃってごめんね。また遊びにきてね」
「あぁ……」
プラローはちょっと視線を彷徨わせてから、ぼくをまっすぐに見る。
「……今度、うちにも遊びにきたらどうだ。ここよりずっと狭いけど、お前さえよかったら……」
「プラローのお家に行ってもいいの!?」
「友達……なんだろ。別に、好きな時に来たらいい」
「やったぁ! 絶対行くね!」
「あのね、ぼく、プラローとお友達になれて嬉しい。お洋服のお話ししてはしゃぐなんてこっちに来て初めてだったし……」
リオやお父様はたくさん遊んでくれるけど、同性のお友達はいなかったから、今日は本当に新鮮だった。
あ、同性ではないか。でも似たようなものだ。
「これからもよろしくね、プラロー」
「…………」
プラローの手を両手で包むように握ると、プラローは恥ずかしそうな、でも不満そうな不思議な表情をした。
「プラロー?」
「言っとくけど、俺は女装が好きなだけで男が好きなわけじゃないからな」
「え?」
「じゃあな!」
そう言うとプラローは馬車に乗り込み、さっさと行ってしまった。
「ぼく、そんな話したかな? 男の子が好きとか……」
「おれも意味分かんないです。気にしなくていいと思いますよ」
隣で一緒に見送っていたリオに聞くと、リオもよくわからないと言う。
まぁいいか、次会った時に聞いてみよう。
今度遊ぶ時はプラローのお家だ。
楽しみだなー!
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