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新しい友達と一緒⑤

 ぼくたちを屋敷へ送り届けた後、ヴィーはまたお買い物に出かけて行った。


 ぼく、やっぱりヴィーの邪魔しかしてないな……。


「はいこれ、タオル。着替えがいるよね。リオのを借りたいけど……」


 今日はリオとお父様は屋敷を開けている。お父様は何かお仕事関係のお出かけがあって、リオがそれについて行った形だ。


 リオはうちの後継だから、お父様のお仕事を学ばなきゃならない。そういう時はぼくは混ざれないからちょっとさみしいな。


「勝手にクローゼットを開けるのは悪いしな。えっと……」

「もういい、タオルを貸してもらえただけで十分だ」


 その子が帽子を取ってがしがしと頭を拭く。


 帽子の下から現れたこげ茶の髪、灰色の目、そして見間違えようもない美少女フェイス。


「やっぱりプラローだ!」

「……そうだよ……」

「なんで今日は女の子の格好なの? 今日も罰ゲーム? すっごくよく似合ってて可愛いね!」


 ふりふりの白いワンピースを着て麦わら帽子を被ったプラローはまさに深窓の令嬢って感じ。避暑地で会えそう。この国は避暑する必要ないけど。


「……笑えばいいだろ」

「え?」

「男がこんな格好して気持ち悪いって言えばいいだろ!」

「ど、どうしたのっ!?」


 プラローが急に大きな声を出したのでぼくはびっくりしてしまった。


「別に気持ち悪くなんてないじゃない。どうしたの? 落ち着いてよ」

「そんなの……」


 プラローがぼくの顔をじっと見て、それから深いため息をつく。


「……ごめん……」

「大丈夫だけど……」


 もしかして、女の子の格好しているところを見られたのが嫌だったのかな?

 偶然とは言え、それなら悪いことをしちゃったかも。でもびしょ濡れなのを放置することはできないしなぁ。


「俺……前世から、その、女の格好したりとか……好きで」

「そうだったんだ」

「……馬鹿にしないんだな」

「えーっ、馬鹿になんてしないよ」


 ぼく、人の趣味を馬鹿にするほど意地悪そうに見える? 確かに今は悪役令嬢だけど……。


「本当に気持ち悪いなんて思わないよ? プラローはすっごく可愛いよ! そのワンピースもとっても似合ってる。あ、今は濡れちゃってるけどね」


 そうだ、こんなにおしゃべりしてる場合じゃない。プラローが風邪ひいちゃうよ。


「とりあえずぼくのシャツを貸すから、それ脱いで! シワを伸ばして干しておいて、ヴィーが戻ったら洗ってもらお?」

「いや、いいよ。体も拭いたしもう帰る……」

「だめ、風邪ひくよ」


 今は夏だけど、体感で言うと前世の秋くらいの気温だ。風はもう冷たい。濡れた服で出歩いてたら絶対風邪ひく。


「……そうだ! ぼくの部屋に来て!」

「はっ?」


 ぼくはプラローの手を引いて駆け出した。



「じゃーん、ぼくのクローゼット」


 ぼくが王都のタウンハウスに来るのは初めてで、この自室も急拵えでヴィーが用意してくれたものだ。

 部屋のクローゼットには新品のドレスがずらりと並んでいる。


「うわ……さすが公爵令嬢」

「領地のお屋敷にはもーっといっぱいあるけどね!」


 ドレスを引っ張り出しながら見聞する。


「これなんかプラローに似合いそうじゃない? ふりふりー」

「は?」

「服が乾くまでぼくのドレスを着ていたら良いよ!

「い、いやいやいや……こんな高そうな服借りられない……じゃなくて、なんでだよ!」

「女の子の服に慣れてるならぼくの服でも良いかなって思ったんだけど……だめだった?」

「だめっていうか」

「絶対似合うよ! 絶対絶対!」

「目をキラキラさせながらこっちを見るな……」


 プラローが困りきったように視線を彷徨わせた。

 プラローがこのふりふりで可愛いドレスを着たところが見たくて、ちょっと押しが強くなりすぎたかもしれない。


「お前が嫌じゃないなら……じゃあ、借りようかな……」

「何でぼくが嫌がるの?」

「だってこれ、お前もいつか着るわけだろ。男が着たやつ……まぁ、気にしないならいいけど」

「?」


 プラローは人の使用感が嫌なタイプなのかな?

 ぼくは前世から古着とかばんばん買っていた方なので、全然気にならない。


 話がまとまったわけなので、さっそくプラローに着替えてもらう。ぼくはお手伝いをしようとしたらプラローに追い出された。

 ぼくの部屋なのに……。


「おい」

「はーい、終わったー?」


 部屋の中から声をかけられて中に戻る。

 プラローはドレスを身につけて、後は背中のリボンを結ぶだけの状態だった。


「後ろ、締めろ」

「コルセットね。やっぱりお手伝いが必要じゃん」

「脱ぐところからいる必要はないだろ……」

「ちょっときつく締めるよー」


 いつもヴィーがぼくの着替えを手伝うところを見てるので、やり方はなんとなく分かる。

 ぼくはぎゅうぎゅうに腰紐をひっぱった。


「うぐぐ……」

「これ苦しいよねー。ぼくも最初の頃は正気かと思ってたよ」

「内臓出そうだ……」

「ヴィーがやったらもっと苦しいよ。はい、完成。姿見こっち!」


 壁にかかった姿見の前にプラローを引っ張っていく。プラローは慣れないドレスでよたよた歩く。


「ほら! すっごい可愛い!」

「…………」

「やっぱりこのドレスはプラローに似合うと思ったんだよね! 背中のリボンも可愛いの! 見てみてー」


 ぼくに言われてプラローは姿見の前でくるくる回る。


「…………」

「……あれ、気に入らない?」


 プラローがずっと黙りこくっているので、不安になってぼくは聞いた。


「……いな……」

「うん?」

「俺、すごく可愛いな……!」


 プラローの表情はキラキラ輝いていた。


「だからそう言ったじゃん! 多分今この国で一番可愛いよ!」

「あり得なくはないな……!」

「こっちの髪飾りもつけてみない? このバッグ持って!」

「どんどん持ってこい!」


 こうしてテンションが上がったぼくらのファッションショーが始まったのだった。

いつも閲覧、ブクマ、評価ありがとうございます。

そろそろストックが切れて隔日更新になります。

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