新しい友達と一緒④
「泊まっていけばいいのにー」
「流石に無理だよ。迎えの馬車来るし」
時は夕暮れ。お別れの時間が迫っていた。
「また遊びに来てね!」
「……まぁ、気が向いたらな」
そんなつれない返事をしてプラローは帰っていった。
なんだか手持ち無沙汰になってしまったぼくは談話室に行き、ヴィーに紅茶を入れてもらう。
すると談話室に元からいたリオが、ぴっとりぼくにくっついて来た。
「どうしたの?」
「……ねえさま、すごくお話楽しそうだった……」
「うん! ぼく、友達を家に呼ぶなんてはじめて。すっごく楽しかったよ!」
「……むー……」
リオが可愛いほっぺを膨らませてぶすくれている……。
なんだろう、騒がしくしたから怒ってるのかな?
「リオ様はお姉様が取られた気がして寂しかったのですよね」
そう言いながら、紅茶を用意してヴィーが戻って来た。
「なんだぁ、そうだったの? よしよし」
「………」
「じゃあ、今からいっぱい遊ぼう! リオはなにしたい?」
「おれともお喋りしてほしい……」
「いいよ! 今日は寝るまでたくさんお話ししようねぇ」
「夜も一緒に寝てほしい……」
「よしよし、じゃあぼくのベッドにおいで」
猫のようにぼくの膝の上に乗ってくるリオを撫でながら考える。
まさかここが乙女ゲームの世界だったなんてな。
乙女ゲームはやらないぼくだけど、それがどういうものかくらいは知っている。
主人公の女の子が魅力的な男の子キャラたちと恋愛する奴だ。
そして、ぼくはそのゲームのお邪魔キャラ。
「そんなの……」
「ねえさま?」
「そんなの、とっても楽しそうだ……!」
悪役令嬢ってどんなことをするんだろう。
手袋を投げつけて「決闘ですわ!」とか言えばいいのかな?
うまくできるかなぁ。ドキドキして来ちゃった。
「……そんなに楽しかったの、男の子と遊んだの……」
「え?」
上の空だったぼくになにを思ったのか、リオが恨めしげにこっちを見上げる。
「男の子だなんて思わなかった……女の子に見えたから、おれ、反対しなかったのに」
「あははー、ぼくもびっくりしちゃった!」
「笑い事じゃないよ……」
前から思ってたけど、リオはちょっとシスコンっぽいというか……ちょっとお姉ちゃん離れできないところがあるね。
「もーっ、可愛いんだから」
「ねえさま……」
弟がこんなに可愛くてどうしよう!
その日の残りは、拗ねるリオあやして可愛がりながら過ごした。
*
次の日。
「ヴィー、今日のお夕飯は何を作るの?」
「お嬢様はなにがよろしいですか?」
「うーん、ヴィーのご飯はなんでも美味しいからなぁ」
ヴィーと手を繋いで王都の下町を歩く。
今はお夕飯の買い出しについて来ている。明後日には王都を発つから、少しでも見てまわりたかったのと、ヴィーのお手伝いをしたかったからだ。
うちの雑務は、慣れないお屋敷の管理からご飯の用意、プラローのお家とのやり取りまで、ヴィーが一人で担当してくれている。うちには他に使用人はいないから。
ヴィーは涼しい顔でこなしてるけど、今日の朝はちょっと寝坊していたし、やっぱり大変なんじゃないかと思う。だからぼくはできるだけヴィーのお手伝いをしたかった。
「そうだ! スープならぼくがお鍋を見ていられるよ」
「ありがとうございます。一緒に作りましょうか」
王都にはもっと富裕層御用達みたいな通りもあるんだけど、ヴィーはそっちだけじゃなく下町の方でも買い物をするそうだ。
よく探せば値段が高いだけじゃない、質の良いものを安く買うことができるらしい。
「お嬢様、はぐれないように私の手を離さないでくださいね」
「うん!」
王都はラウレルの街の何倍も人が多い。気を抜いたら人の波にどこまでも流されていってしまいそうだ。
「わっ、とと」
ぼくが歩いていた方の道のはじ、そこに店舗を構えた店先で、女の人が花に水をやっていた。
あんまりそっちによるとぼくも水をやられてしまう。そう思って体をよけると、
「っ」
「あうっ」
今度はすれ違った人と肩がぶつかってしまった。
「ごめんなさい、大丈夫?」
見ればぼくとおんなじくらいの背丈の女の子だ。深く被った帽子の下から、丁寧に巻いた暗い茶髪が……
「……プラロー?」
「っ!」
プラローっぽい女の子は、肩をビクッと振るわせると途端に駆け出した!
「あ、そっちは……」
「きゃあっ!」
「うわっ!」
前も見ずに駆け出したその子は、お花に水を巻いていた女の人の方に突進した。
起こる大衝突。
ぶちまけられたジョウロの中身と、それをかぶってびしょ濡れになる帽子の子。
「…………」
「……あの、うち来る?」
「……うん……」
女の人にみんなで謝って、ぼくらは屋敷へ戻った。




