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新しい友達と一緒③

 次の日。


「はー、まだかなぁ。なんだかソワソワして来ちゃった」

「約束の時間までもうすぐですよ。少し落ち着いてください」

「うん……ね、ぼくの格好変じゃない?」

「ねえさまはいつもきれいです。今日だって……」

「ありがと〜リオ〜」


 今日はプラローがうちに遊びに来る日。

 プラローっていうのはこの前学園祭であったメイドちゃん。ぼくのお友達一号。


 なんとぼくと同じ転生者で日本出身らしい。同郷ってなんか嬉しいよね。


 そんなプラローといっぱいお喋りするべくうちに呼んだんだけど、サスリカになってから友達を呼ぶなんて初めてだから、なんだか緊張しちゃう。


 すると、リンリンと玄関のベルが鳴った。


「お迎えして参ります」


 そう言ってヴィーが姿を消す。

 ぼくは今日のためにヴィーと片付けた自分のお部屋でドキドキしながら待った。


「お連れいたしました」


 ヴィーがお客さんを連れて戻ってくる。

 あのふりふりで可愛いメイドちゃんのことだ、きっとさぞ私服も女の子らしくて可愛いんだろう。


「……本日はお招きいただき、ありがとうございます。こちら、母からお土産にと……」


 チラチラと手元に視線を落としながら言うプラロー。あれ絶対カンペだ。


 っていうか……、


「えっ? えぇっ!?」

「……んだよ、なんか文句あんのかよ」


 プラローはジャケットにズボンという、完全に男の子の格好だった。


「……男装……?」

「違う、あっちが女装だったんだ!」


 「やっぱ勘違いしてると思ったんだよ……」とプラローがこぼす。


 聞けば、メイド喫茶でフロアの人数が女子だけでは足りなくて、「男子の中で一番メイド服が似合いそう」という理由で半ば無理矢理メイドにさせられたらしい。


 男の子は執事っていう選択肢はなかったのかな?


「ど、どうする、ねえさま。追い出す……?」


 リオも混乱したのか、そんなよく分からないことを言い出す。


 暗い茶髪を肩に下ろし、男子の服装で現れたプラロー。

 長いまつ毛も白い肌も大きな目も変わっていないけど、こうして見るとちゃんと男の子だ。


「そうだったんだ! 勘違いしててごめんね。さ、ぼくの部屋へ行こ! 今日のために頑張ってお掃除したんだよー」

「えっ、え?」

「ご案内します」


 ヴィーに先導され、当初の予定通りぼくの部屋へ移動した。



「君、日本のどの辺に住んでたの? 僕は千葉のねー……」


 窓際のテーブルにつき、ヴィーの用意してくれた紅茶とお菓子に舌鼓を打つ。


「……俺が男でも気にしないのか?」

「え?」


 すっかり同郷トークを始める気でいたぼくはプラローのそんな言葉に腰を折られた。


「男の子でも女の子でもおなじ転生者なのは変わらないし……」

「まぁ、そうか」


 プラローは頷きながらもなんだか居心地悪そうにしていた。


「あ、言っとくけど、今日は敵情視察のために来たんだからな! 俺は友達だなんて認めてねーから!」

「えー! 認めてくれてないの!?」

「当たり前だろ、悪役令嬢と友達なんて! っていうかお前、好き勝手やりすぎだから。攻略対象とラスボスを手名付けて何やってんだよ」

「攻略? ラスボス?」


 一体なんの話?


「お前さぁ、悪役令嬢になっちゃってハーレムルート、はぁと、とか考えてんじゃねーの? 俺そう言う勘違い女が一番嫌いなんだよ」

「はぁと?」


 プラローの言ってることが全然分からない……。


「……前からプラローが言ってるけど、その悪役令嬢ってなに?」

「……は!?」


 プラローが目を丸くする。

 え、常識? これって知らないぼくが変?


「異世界転生は分かるんだろ?」

「うん。トラックに轢かれて神様にチート貰って美女とウハウハする奴でしょ?」

「あー、そっちかー……っ」


 プラローは頭を抱えた。


「え、じゃあ、『花降る街で君を待つ』っていう乙女ゲームは……」

「乙女ゲーム? そっち系はぼくやらないよ」

「えっ! つまり、原作を知らない!?」

「原作?」


 いい加減らちが開かないので、ぼくはプラローに説明を要求した。



「つまり……」


 プラローの話をまとめると、この世界は『花降る街で君を待つ』という乙女ゲームの世界らしかった。

 以上。


「……いやいやいや、えーっ! そうなの!?」

「本当に知らないのか? 本当の本当に?」

「知らないよ。……いや、うーん、聞いたことくらいはある気もするけど……遊んだことはないな。今日まで全く考えもしなかった」

「マジかよ……」


 「転生悪役令嬢が原作を知らないって、フラグばっきばきじゃん」とプラローが呟く。

 さっきから思ってたけど、プラローくん君かなりオタクだね? そのうちオタクトークしたいなぁ。


 にしても、なるほど。

 プラローの話で腑に落ちたこともある。


 実はずっと気になってたんだよね。

 クレープはブリヌイ、チェスはシャトランジ。この名前に聞き覚えがあると思ってた。

 ブリヌイはロシアのクレープの名前で、シャトランジっていうのは確かチェスのペルシア語だったはずだ。


 前世で作られた世界観が元になった世界なら納得だ。


「異世界転生にも色々あったとは……」

「なんで男向けの奴ばっか見てんだよ」


 プラローの話によると、異世界転生にはぼくの知っているものの他に、女の子が乙女ゲームの世界に転生するというバージョンも存在するらしかった。


 そして、その中でも『悪役令嬢』というジャンルがあるらしい。


「じゃあぼくは今、その『乙女ゲームの悪役令嬢に転生』状態なわけか……」

「そう。俺も今『乙女ゲームのお助けキャラに転生』パターンにいる」

「へー、君お助けキャラなんだ」

「あぁ……そのせいかなんだか他の奴らの好感度情報が分かっちゃうんだよな……」

「なにそれ!」


 プラローの話によると、彼は他の人を見ると勝手に、五段階で好感度が見えるらしい。普段は人の自分に対する好感度だけど、意識すれば他人から他人への好感度も見えるとか。


「貴族社会なんか建前ばっかだからな。前世の分の人生経験があるとはいえ、流石にげんなりするぜ」

「大変そうだー……」

「まぁ、この家に来てみて別の意味でげんなりしたけど」

「?」


 どういうこと?


「この家、執事も弟もお前に対して好感度MAXなんだもん。下手なことしたら俺が消されそうだよ」

「えーっ、嬉しい! 照れるなぁ」

「ちなみにお前も……」

「ぼく?」


 ぼくがなんなのか聞きたかったけど、プラローは濁して教えてくれなかった。


 そのあと、ぼくらは気を取り直して前世トークに勤しんだ。

 プラローは東京住みの大学生だったらしい。お姉さんがいて仲が良かったとか、色々教えてくれた。


「姉貴がやってたんだよな、『ハナキミ』。それで俺も無理矢理やらされて」

「ハナキミ?」

「『花降る街で君を待つ』だから、略してハナキミ」


 とか。


「えーっ、鬼術廻戦読んでたの!? ぼくもぼくも!」

「え、本誌派? コミック派?」

「本誌!」

「俺も!」


 とか。

 久々のオタク仲間を前にして、ぼくは大盛り上がりで話し続けた。

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