新しい友達と一緒②
最後のクラスの出し物はメイド喫茶だった。
ぼくは喜び勇んで入場した。
「メイド喫茶なんてはじめて! かわいいメイドさんがいっぱーい」
「貴族の子女が使用人のふりなんて親がよく許したね」
「なんであの人たち、侍女の格好をしてるんですか?」
お父様は呆れ気味だし、リオの反応も芳しくない。
やっぱりメイドさんが家に普通にいる環境だと、メイド喫茶って微妙なんだな〜。
でもメイド服は実用より可愛さ重視でデザインされてて、フリフリで、とっても良いと思うけどね!
「ご注文のつぼみクッキーです、お嬢様、お坊ちゃま」
そう言って注文を持って来たのは、さっきぼくを指さしたメイドちゃん。
メイドちゃんは可愛いお花の形のクッキーのお皿をコトンとテーブルに置いた。
さっきはいきなり名前を呼ばれてびっくりしちゃったけど、よく見ると可愛い子だ。
暗い茶髪を綺麗に巻いてハーフツインにした女の子らしい髪型で、ちょっと顔立ちはきつめだけどまつげばしばし、お肌真っ白のとっても可愛い子だ。
身長はぼくとおんなじくらい。吸い込まれそうなグレーの瞳も素敵。
こんな可愛い子には、リオもくらっと来ちゃったりするんじゃないかな?
「さっきねえさまを指さした人……」
「しつけがなってないね。家はどこ?」
「二人とも怖いよ!」
それどころじゃなかった。
リオもお父様も、メイドちゃんを脅さないでよ。静かに紅茶を飲んでるヴィーを見習ってほしい。
「……給仕の際は、音を立てないことは基本……」
だめだった。ヴィーもお姑さんみたいなこと言っていた。
子供の出し物にプロの目線を持ち込まないでよ。
居心地が悪そうにしているメイドちゃんに僕はとりなす。
「冗談だから気にしないで! それより君はなんでぼくのこと知ってるの?」
「えっと……」
「こっちに来てお喋りしようよ! 名前はなんて言うの?」
「あの……」
「ぼくはサスリカ! こっちは弟のリオでそっちがお父様、あとこの人がヴィー!」
「……ちょっと来い!」
「えっ!?」
メイドちゃんがぼくの腕をぐいっとひっぱり、仕切りで作られたスタッフルームに連れて行かれた。
ドンっとメイドちゃんは壁に手をつき、ぼくを追い詰める。いわゆる壁ドン。
「なになにっ?」
「単刀直入に聞くぞ」
「へ?」
なんか見た目のイメージより声低いね。
「お前、転生者だろ」
「……へ?」
*
あらすじ。
遊びに来た中央学院の学園祭で、可愛いメイドちゃんに裏に連れて行かれて壁ドンされるぼく。
以上。
「なになにっ!? ていうか君、なんなの?」
「原作とキャラが違いすぎる! お前も俺と同じ転生者なんだろ!?」
「俺と同じって……えっ、君も!?」
転生者ってことは、このメイドちゃんもぼくと同じで日本から転生して来たってこと!?
「わーっ! 同郷だぁ! 君も死んで転生しちゃったの? 日本の人? 享年いくつ?」
「やっぱり……! じゃああんたも!」
「初めて会ったよー!」
ぼくとメイドちゃんは同郷トークで盛り上がった。
「名乗りが遅れたな。俺はプラロー。プラロー・パーシヴァルだ」
「ぼくはサスリカ! サスリカ・ズィマレスターだよ」
「知ってる……」
「同じ転生者と会えるなんて嬉しいなぁ。ね、お友達になろ? もっとプラローとお話ししたい!」
「はぁっ?」
「そうだ、今度うちに遊びに来てよ!」
「お嬢様」
「ヴィー!」
いつの間にかついて来ていたヴィーが顔を出した。
「リオ様が心配しておられますよ」
「そうだね、戻ろっか。プラローも来て!」
「あ、おい!」
今度はプラローの手を引いて席に戻る。さっきと逆だ。
「お父様、新しい友達ができたよ!」
「へぇ、よかったね」
「なんでそんなことに……?」
お父様は穏やかに、リオは眉根を寄せてこっちを見る。
「お父様、今度お家に呼んでもいーい?」
「好きにしなさい」
「良いって! プラローはいつ暇? 明日? 明後日?」
「早い早い! 展開が早い!」
だって、早く遊びたくて……。
「はぁ、なんで俺が悪役令嬢の家に……」
学園祭の成果。
ぼくに友達ができた!
*
そういうわけで、初等部の出し物を全部回って学園祭からは撤収した。
「楽しかったー! けど疲れたねー、リオ」
「うん……とっても賑やかでした」
ここは王都のタウンハウス。
タウンハウスっていうのは簡単に言うと別荘みたいなもの。主にお父様がお仕事で王都に滞在する時ようにあつらえたものらしい。
ぼくたちの屋敷から王都へは馬車で片道半日はかかるので、日帰りは無理だった。
だから今回、お泊まり旅行なのだ!
「領地のお屋敷に比べて小さいねー」
「気に入らない? 欲しいならもっと広い屋敷を作らせても良いけど」
「ううん! 小さい分、みんなと距離が近いから、嬉しい!」
って言っても、現代日本的感覚からしたら全然広いんだけどね。
「お父様、今日は一緒に寝よー」
「あっ、おれも……」
「では私も」
「はいはい。それより先に風呂に入りたいな」
「ご準備いたします」
ヴィーは既に夕飯の支度も始めながら、お風呂の準備にも取り掛かる。本当にできる執事だ。
「プラローを呼べるのはお屋敷に帰ってからかぁ。すぐ遊びたかったな」
「ここに呼べばいいじゃない。もとは明後日帰る予定だったけど、伸ばせばいいし」
「ほんとっ?」
「パーシヴァル伯爵家の子だったよね? ヴィー、招待状を出しておいて」
「かしこまりました」
ヴィーの仕事が多い!
「ヴィー、なにか手伝うよ」
「では鍋を見ていていただけますか?」
「ねえさま、おれも」
リオと二人でお鍋を見た。
夕飯は美味しいシチューだった!
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