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ヴィーとお出かけ②

「うえぇ〜〜! 負けたぁ〜〜」

「お疲れ様でした」


 ぼくは惨敗した。

 一回戦で。


 所詮子供のゲーム大会と舐めてかかったのがいけなかったのか……。なんか強すぎ。ぼく、全く手も足も出なかったんだけど!


「お嬢様は知的遊戯には向きませんね」

「むっ、馬鹿にされている気配……」


 でも何も言い返せない。一回戦敗退だから。


「はぁ……優勝とは行くなくても、良い成績を残せたらお父様が一緒に遊んでくれると思ったのに」


 お父様は子供相手だからといって手加減してくれるタイプじゃ全くない。

 ゲームに誘ったら一度は遊んでもらえても、ぼくが手応えのある相手だと思ってもらえないと、次はないだろう。シビアなのだ。


「はぁ……行こっか、ヴィー。ごめんね付き合わせて」

「……いえ」

「ヴィー?」


 ヴィーの目がきらーんと輝く。


「ここは私にお任せください。お嬢様の仇は私が取ります」



 遊戯盤大会には二つの部門がある。子供部門と大人部門だ。

 ヴィーは大人部門にさっさとエントリーすると、おじさんたちに混じってシャトランジの卓についた。


「おうおう、若造が俺たちの相手になるかね?」

「まぁ一丁、お手並み拝見と行こうか……」


 卓のおじさんたちがにやにやと笑う。きっとみんな熟練者だ。ヴィー、勝てるのかな……。


「ヴィー頑張って!」

「お任せください。このヴィー、お嬢様の前で無様は晒しません」


 第一試合が始まった。


「大丈夫かな、ヴィーってゲームに強いのかな……」


 うちではいつもお仕事ばっかりのヴィーだ。ゲームをしているところは見たことない。


 そうしてハラハラしていたぼくだったけど、そんな心配は無用だった。


「け、決着! 勝者ヴィーさん!」

「お疲れ様でした」


 カンカンカーンと決着のゴングが鳴り響く。5分もしないうちにヴィーは一人目を負かしてしまった。

 負けたおじさんは悔しそうに地面を殴る一方で、ヴィーはいつも通りの涼しい顔。


「どんどん行きますよ」

「次は俺だ!」


 その後もヴィーの快進撃は止まらなかった。


「勝者ヴィーさん!」

「勝利!」

「決着!」

「お疲れ様でした」


 そしてついに最終決戦。


「今までのようにいくと思うんじゃぁねぇぞ。俺は大公家主催の遊戯盤大会で決勝まで進んだ男だ!」

「……そうですか」


 大公家っていうのは、この国を治める一番偉い家のこと。つまり王様のお家だ。

 大公家の主催する大会ってことは、この国中から強い人を集めた大きな大会ってこと。

 そんな強い人がなんでこんな北の田舎町にいるんだよ!


「ヴィー、気をつけてね……」

「お嬢様、私を信じてください」

「ぼくはいつもヴィーのこと信じてるよ」


そんな会話があったりなかったりして……、


「勝者、ヴィーさん!!!」


 カンカンカーン。

 ヴィーはあっさり勝った。


「くそっ! なんで……!」

「ちなみにですが、私は大公家主催の大会で審査員を務めたことがあります」


 ヴィーの完勝だった。



「お疲れ様、ヴィー! 凄かったよ!」

「光栄です」


 ぼくはヴィーに飛びついた。


 大会は無事に終わり、ヴィーは大人部門で優勝して表彰を受けた。

 ちなみに、子供部門で優勝したのは一回戦でぼくを負かした男の子だった。

 優勝者に負けたならぼくも鼻が高いってものだよ。いつか自慢しちゃお。


「あんなにおっきなトロフィー貰っちゃって……」


 表彰式で、ヴィーはぼくの身長より大きなトロフィーを貰っていた。


「流石に嵩張るので、帰りまで預かってもらうことになりました」

「ありがたいね」


 帰りに忘れずに受け取りに来なくちゃ。


「そうだ、優勝賞品ってなんだったの?」

「あぁ、それは……」


 ヴィーは懐から白い封筒を取り出す。中に入っていたのは……、


「これですね」


 ラウレル商店街のお買い物券だった。

 ま、こんなものだよね。


「それにしてもヴィーはすごかったね! あんなにゲームに強かったなんて! ぼく知らなかったよ」

「街の大会なのですから、人々の楽しみを邪魔してはいけないと分かってはいたのですが……つい大人気ない振る舞いをしてしまいました」

「えー、みんな楽しそうだったよ?」


 負けたおじさんたちも、表彰式ではヴィーを笑顔で讃えてくれていた。みんないい人たちだ。


「でも、ヴィーもゲームで熱くなることがあるんだね」

「それは……」


 ヴィーはちょっと気まずそうに目を逸らす。

 なんだろう?


「……お嬢様の前で格好つけたくて、つい、頑張ってしまいました」

「…………」

「お恥ずかしいです……」


 ヴィーが目を伏せる。

 なんでそんな風に言うんだ。ぼくはすっごく嬉しい!


「ヴィーかっこよかったよ!」

「光栄です」

「帰ったらお父様とリオにも自慢しようねぇ」

「それは……」


 ヴィーは恥ずかしがるけど、絶対話す。ぼくはもう決めた。


「私のせいで時間を取ってしまいました。そろそろ戻らないと夕飯の支度に間に合いませんね……」

「ほんとだ、そろそろ夕焼けだね」


 空はだんだんと茜色に染まりつつある。


「あー、でも、ぼく、一個だけ行きたいところが……」

「では、そこに寄ってから帰りましょう」

「うん!」

評価、ブクマありがとうございます。

うれしいです。

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