ヴィーとお出かけ①
「…………」
なんだかこの頃、ヴィーが変だ。
いっつも無表情鉄面皮のヴィーだから、見かけ上は変わらない。
でも、なんだか圧というか……ヴィーから念のようなものを感じる。
一体何?
「ヴィー、どうしたの……」
「…………」
「何か怒ってる?」
「さぁ」
「怒ってるじゃん!」
なんだろう。ぼく、ヴィーを怒らせるようなことしたかなぁ。
最近は特に何もなかったけど。
リオっていう新しい家族もそろそろ我が家に馴染んできた頃だ。ぼくらは毎日のんびり過ごしている。
ぼくは最近はリオと遊ぶから、ヴィーのお仕事の邪魔もしてない。ぼくに構いたがるお父様にもちゃんとお仕事をするよう言っている。
ヴィーを怒らせる心当たりがない……。
「ねぇヴィー、考えてみたけど分かんなかった……。なんで怒ってるの?」
「別に怒ってなどいません」
「ヴィー……」
「ただ、気に入らないだけです」
ヴィーの目がじっとぼくを覗き込む。
「お嬢様はこの頃、私に構ってくださいません」
「……え?」
「リオ様や旦那様にかかりきりで、私とは全然遊んでくださいません。以前はヴィー、ヴィーと私に懐いてくださっていたのに」
「それって……!」
やきもち?
かわいい!
「ヴィー! ごめんね、お仕事の邪魔をしないようにって思ったの。けしてヴィーを蔑ろにしたわけじゃないんだよ!」
「他に遊び相手ができたら私は用済みですか。お嬢様は酷いです」
「遊ぶ! 今日はずーっとヴィーと遊ぶよ!」
「本当ですか?」
「ほんとのほんと!」
ヴィーがぱっと顔色を明るくする。
いつもクールなヴィーだから、そんな風に考えてるなんて思いもしなかった。
大好きなヴィーにさみしい思いをさせてたなんて、なんたる失態か!
*
「そういうわけで旦那様、今日はお嬢様と二人でおでかけして参ります」
「二人で?」
「はい、二人きりで」
ヴィーは胸を張って答えた。
そんなに得意げに言うようなことじゃないと思うけど……。
「お夕飯までには帰ってくるね。お父様、リオに意地悪したらだめよ」
「昼食にはサンドイッチを作りましたので、お腹が空いたらお召し上がりください。リオ様の好きなお魚のフライのサンドイッチですよ」
「あ、ありがとう、ヴィー」
リオがそう言ってちょっと笑う。
ちなみにサンドイッチはぼくも食べられる。何故ならお弁当としてヴィーがバスケットに詰めてくれたから!
「じゃあ行って来まーす!」
「行って参ります」
「えぇ……」
お父様とリオは理解の追いつかないような顔をしていたけど、ぼくたちは構わず屋敷を出た。
*
「ヴィーと二人きりなんて久しぶり! 今日は何をしよっか」
「お嬢様の行きたいところへ参りましょう」
「えー、どうしよー」
お喋りしながらヴィーが自然にぼくの手を取る。
手を繋いでお出かけ。嬉しいな。お父様だとこうはいかない。
今日もやって来たのはラウレルの街だ。
ここは屋敷からの距離がちょうど良くて、ほどよく賑わってるから勝手がいい。
「今日も賑わってるね!」
「ラウレルはいつでも活気がありますからね」
寒い土地なので、大通りには暖かい食べ物や飲み物の露店が多い。色んなところから良い匂いのする湯気が立って、なんとも素晴らしい街だ。
道端で買い食いする子供達に、それを見守る親たち。のどかな光景。
「それにしても、今日は子供が多いような……」
「あ! 見て、あれじゃない?」
ぼくは大通りの向こう、垂れ下がったのぼり旗を指さした。
『新春遊戯盤大会!!』
そうでかでかと書いてある。
のぼり旗の下、開けた広場では、テントで特設会場が設置されている。
「あぁ……毎年恒例のあれですね」
「恒例行事なんだー」
「ラウレルでは春になると遊戯盤の大会が開かれるんです。子供向けの大会で、毎年賑わいますよ。優勝者にはご褒美もあります」
「へー……」
なにそれ。とーっても楽しそう!
でも遊戯盤かぁ。つまりボードゲームってことだよね?
ぼくでもルールが分かるもの、あるかな? 参加したいなぁ。
会場は出入り自由だった。
中に入ってみると、みんなテーブルに向かって真剣に遊んでいる。ぼくと同じくらいの歳の子供が多いみたいだ。
どうやらゲームごとに卓が分けられているらしい。それを覗き見ながら、ぼくが分かりそうなゲームを探す。
「あ! これ……」
盤の上を闊歩するコマたち。
コマはコミカルにデフォルメされた女王、王様、馬、騎士なんかのキャラクターを模している。
これは……!
「これ、チェスでは?」
「ちぇす? これはシャトランジという遊戯盤ですよ。たしか旦那様のお部屋にもあったはずです」
「へーっ、お父様もやるんだ!」
じゃあぼくがチェス……じゃなくてシャトランジの強者だと分かれば、お父様と一緒に遊べるかな!
「これなら駒の動きくらいは分かるよ! 参加するする!」
「おっ、嬢ちゃんやるか!? 飛び入り参加もオッケーだぜ!」
大会の運営っぽいひげのおじさんが、ぼくの宣言を聞いて反応する。
「やるからには優勝するぞっ!」
「お嬢様、ファイトです」




