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弟と一緒⑤

ストックを出し切りたいです

「お父様!」

「…………」


 お父様はぼくを見ると、不機嫌そうな顔をさらに顰めた。部屋の温度がもっと下がり、お父様の周りを吹雪が吹き荒れる。


 な、なんで?


「さむい……!」

「お嬢様、こちらを」


 いつの間にか部屋に入って来ていたヴィーが、リオからぼくを引き剥がしてあったかい毛布で包んでくれる。


「なんかお父様、怒ってる?」


 はっ、もしかしてお部屋を壊したから?

 ここはお父様がお母さんと暮らしてたお屋敷だ。壊されたことにショックを受けているのかもしれない。


 まぁそのお部屋は今、お父様から吹き荒れる吹雪で凍りついてるけど……。


「旦那様は掌中の珠を傷つけられたわけですので……我々はしばらく離れていましょうね」

「え? なんで?」

「危険ですからね」


 ヴィーに抱っこされて部屋のはじっこに移動する。


「なんで……公爵様もヴィーさんも、おれの力で眠ってるはずなのに……」

「花守の力をこんな風に使うなんて、これには花の女神もびっくりだろうね」

「……おれの力を、おれがどう使おうと自由だ」

「その力はほとんど身についてない。そんな稚拙な力じゃ僕をコントロールすることはできないよ」

「う……うるさい。ねえさまとおれの邪魔をしないでっ」


 部屋を覆っていたツタが全てお父様の方を向く。

 鋭いトゲを生やした巨人の腕のようなツタ。あれで殴られたらきっとひとたまりもないだろう。


 リオはすっかり頭に血が上ってしまっている。なんとか止めないと……。


「はぁ」


 しかし、その心配は全く無用だった。

 ツタは一瞬で全て凍りつき、砕けて絨毯の上に落ちる。


「言ったでしょ。その程度の力じゃ僕とはやり合えない」

「う……な、なんで……っ」

「なんで? それは僕の方が聞きたい」


 ごっと部屋を吹き荒れる吹雪が強まる。前の景色もよく見えないくらい。

 ぼくが吹き飛ばないように、ヴィーがぐっと支えてくれる。


「僕の娘に手を出そうなんて、なんでそう思い上がってしまったんろうね? 君とはよく話す必要がありそうだ」

「う……」

「こんなに腹が立つのはいつ以来だろう。あの子に、あんな……」


 お父様がぼくをちらりと見る。ぼくというか、ぼくの腕?

 見ると、リオに掴まれたところが赤く腫れていた。痛いと思った。こんなに腫れるほど掴まれたらそりゃ痛いよ。


 でもそっかぁ。

 お父様、ぼくのために怒ってくれているんだ。嬉しいなぁ。

 あのお父様が、こんなにぼくのために親身になって……。


「僕の怒りが分かるか? 今すぐ君の腹を開き、その臓物を引き摺り出して地獄の責苦を与えてやりたいくらいだよ」

「……グロいよ!?」


 お父様!? なんでそんなこと言うの!?

 ぼくはそこまで怒ってないよ!


「旦那様、お嬢様の前でそう言ったことは……」


 そうだよ。やっぱりヴィーはぼくの言いたいこと分かってくれるよね。


「始末は私にお任せください。お嬢様の見えないところでしっかり報いを与えますので」

「ヴィー!?」


 ぼくの安心を返してよ。


「私が日々丁寧に手入れして育てたお嬢様の美しい肌……それを傷つける不届き者を許してはおけません」

「そこまでの怪我じゃないよ……明日には治るよ……」


 猫の時といい、みんなぼくの怪我に大袈裟に反応しすぎだ。


「……ぐすっ」


 すると、リオが泣き出してしまった。

 ぼくは止めるヴィーを置いてリオに近づき、その手を取る。


 泣いてる弟を放ってはおけない。お姉ちゃんとして。


「ぐすっ……ひっく」

「リオ……」

「……どうして? おれは、かぞくがほしいだけなのに、どうしてみんなおれをおいていくの……」


 リオがぎゅっとぼくの服の裾を握る。そしてその目からさらにぽろぽろ涙をこぼした。


「ねえさまも、おれのことをきらいになったでしょ」

「何言ってるの。きょうだい喧嘩なんてよくあることだよ」

「きょうだい……げんか?」

「家族なんだから、喧嘩することだってあるよ。そんなことでいちいち嫌いになってたら仕方ないでしょ」

「でもおれ、ねえさまに怪我させて……」

「怪我ってほどじゃないけど……」


 まぁ痛い思いをしたのは確かだ。


「ぼくに何か言うことがあるんじゃない?」

「……ごめんなさい」

「うん、いいよ」

「いいの……?」


 このくらいなんてことない。


「だってぼくは、リオのお姉ちゃんだもの」

「おねえちゃん……」

「だれもリオを追い出したりしないよ。これからいくらでも時間があるの。たくさん喧嘩したり、仲直りしたりしよ?」

「ねえさま……」


 リオの涙に濡れた瞳がぼくを見る。ぼくはにっこりと微笑み返した。


「でも、公爵様はおれがきにいらないし」

「……? 別に、君に対して気に入るとか気に入らないとかはないけど」


 「サスリカをいじめたお仕置きはするけど」と続ける。

 そんなのしなくていいよ。


「ぼくもね、初めはお父様に無視されてずっと会ってくれなかったの。でも頑張ったら仲良くなれたよ! だからきっと、リオもお父様と仲良くなれるよ」

「あれは無視とかじゃなかったじゃん」

「でも避けてたでしょ?」

「それは……」


 お父様が視線を逸らす。


「その、ヴィーさんだっておれのこと……」

「えー? ヴィーはお父様みたいに意地悪したりしないよね?」

「意地悪など。叱りはしますがね」


 そう言って、ヴィーはリオの前にしゃがみこみ、目線を合わせる。


「お嬢様や我々とよくお話をせず、お嬢様を傷つけたのはいけませんでした」

「……うん」

「罰として、明日は私と一緒にお部屋の復旧作業をしましょう。君の力があれば早く済みそうです」

「…………うん」

「ぼくもぼくも! ぼくやる!」

「では、明日は3人で頑張りましょうね」


 そう言ってヴィーはぼくとリオの頭を撫でた。リオはくすぐったそうにしていた。


「ほんとうに、おれ、ここにいてもいいの……?」

「当たり前だよ!」


 リオの手を取り、その目をじっと見つめる。


「あらためて、我が家へようこそ、リオ。これからよろしくね」

「……うん」


 リオは天使のような可愛い笑顔を見せてくれた。



「さて、今日のお嬢様の寝る場所をどうしましょうか」

「そっか、壊れちゃったもんね」

「ごめんなさい……」

「そんなに気にしないの。よしよし」


 リオがしゅんとするので、よしよししてあげる。リオはそれでも申し訳なさそうにしていた。


「元通りになるまで別の部屋を使えばいいだけでしょ。家具はまた買い揃えればいいし」


 お父様が投げやりに言った。


「申し訳ありませんが、普段使わないベッドまでは手入れが行き届いておりません。お嬢様がお休みになるには相応しくないかと」

「じゃあどうしよう?」

「他の者のベッドをお使いになるのが良いかと思います。我々の中で一番広いベッドをお使いなのは……」


 ヴィーがじーっと視線で訴える。その先にいるのは、もちろんお父様。


「僕?」

「やった! お父様のお部屋にお泊まりだ!」

「えー、良いけどさ……」

「そうだ、リオもおいでよ。3人で寝よ」

「えっ、お、おれも……? でも……」


 リオはちらりとお父様の顔色をうかがう。


「? 僕は別に構わないよ。2人も3人も変わらないし」

「それじゃあヴィーだけ仲間はずれなのはおかしいよね。今日はみんなで寝よっか!」

「光栄です」


 そう言うわけで、今日は急遽お父様の部屋でみんなで寝る日になった。



「ヴィー、お前はもっとはじだよ」

「意地悪言わないでください旦那様。ベッドから落ちてしまいます」

「ヴィーもっとこっち来て良いよ。ぎゅーってしてあげるね」

「あわわ……」


 家族四人、お父様の部屋のベッドで川の字になる。

 向かって右からヴィー、ぼく、リオ、お父様の並び順だ。


「おれ、べつにソファでも……」

「馬鹿じゃない。風邪ひきたいの?」

「お父様、馬鹿とか言わないでよー」


 遠慮するリオをお父様がばっさり切り捨てる。言ってることは間違ってないんだけど、お父様は子供の扱いってものが分かってないよ。リオがびっくりしちゃう。


「ヴィー、おやすみのちゅーね」

「ありがとうございます、お嬢様」


 隣に横になるヴィーの額にキスをする。


「お父様も」

「はいはい……」


 そう言いながら、お父様もキスを返してくれる。


「リオも!」

「お、おれも」

「……いや?」

「いやじゃ、ないけど……」


 顔を赤くしたリオが視線を彷徨わせる。

 いやじゃないならいいや。やっちゃえ。


「!」


 リオのほっぺにちゅっとやると、リオはびくっと肩を震わせた。


「あう……」

「おやすみのキスだよ。おやすみ」

「…………」


 リオがぼくのパジャマのすそを引っ張った。


「なに?」

「ねえさま」


 ふっと、柔らかいものがぼくの頬に触れた。

 リオがぼくにキスしてくれたのだ!


「リオ……!」

「これは、おやすみのキス。それと……」


 リオがその頬に長いまつ毛の影を落とし、柔らかくはにかむ。


「あの時の、お返しのキスだよ」

「……うん! えへへ、うれしいなぁ」


 その夜、ぼくたち4人はくっついてぽかぽかのベッドで眠った。

評価、ブクマありがとうございます。

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