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弟と一緒②

「リオ、お庭に行こう?」

「サスリカ様……」


 別館2階の角部屋、僕の隣の部屋はリオの自室になった。

 私は次の日、さっそくリオを訪ねた。


「好きに呼んでって言ったけど、様付けはなんだかよそよそしいな。お姉ちゃんって呼んでよ」

「おねえ……おね…………」


 リオは丁寧な性格なのか、どうも砕けた呼び方は性に合わないようだ。


「ねえさま……って呼んでも良いですか」

「うん! 嬉しい」

「サスリカ……ねえさま」

「うん。なあに? リオ」

「ねえさま……ふふ」


 リオが可愛らしい笑顔を見せる。


「おれ、ずっとかぞくが欲しかったんです。サスリカねえさまみたいなきれいな人がおれのねえさまなんて、嬉しい」

「きれい……!」


 ヴィーもお父様も「かわいい」とは言ってくれるけど、「きれい」はなかなか言われない。ぼくはすっかり嬉しくなった。


「リオは見る目があるね!」

「そ、そうですか?」

「おいでリオ、ぼくがお屋敷を案内してあげる」


 リオの手を取って歩き出す。

 リオは握られた手を見て、頬を真っ赤に染めて笑った。



「ここがお庭! 広いでしょー。ヴィーがいつも綺麗にお掃除してくれているんだよ」

「すてき、です」

「こっちの木の上にはね、鳥の巣があるんだよ! 一度落ちちゃってから、木登りは禁止なんだけどね」

「きぞくの女の子が木登り……?」


 リオは怪訝そうな顔をしていた。


「サスリカお嬢様、こんなところにいらしたのですね」

「ヴィー」

「リオ様と遊んでいるのですか」

「お屋敷を案内していたの。ね、リオ」

「は、はい……」


 リオはぼくの後ろに隠れてもじもじしている。まだヴィーに緊張するみたいだ。


「大丈夫だよ、リオ。ヴィーはいっつもお面みたいに無表情だけど、中身はとっても優しいから。ね、ヴィー」

「光栄です」

「ヴィー、かがんで?」


 ぼくが言うとヴィーは屋外であるにも関わらず膝をついて目線を合わせてくれる。

 ぼくはそんなヴィーの頬に手を添え、キスをした。


「今日の大好きのキスだよ!」

「ではお返しのキスです」

「あははっ、やられたー」


 ヴィーがぼくのほっぺにもキスをする。ヴィーの髪が当たってくすぐったくてぼくは笑ってしまった。


 最近我が家ではキスが流行っている。おでこやほっぺに理由をつけてはキスする、それだけの遊び。ぼくとヴィーは特によくやる。お父様は急にキスされると、ちょっと微妙な顔をすることが多い。


「ほら、リオも」

「えっ、お、おれも……?」

「これからよろしくのキス」


 ぼくがリオの頬にキスをすると、リオは耳まで赤くなった。


「リオはぼくにしてくれないの?」

「え、えと……おれは……」


 リオは湯気が出そうなほど顔を熱くして目を彷徨わせる。ちょっといじめちゃったかな。


「ごめんね、無理してするようなことじゃないよね」

「あっ、えっと、そうじゃなくて……」


 リオはしどろもどろに言葉をつむぐ。


「な、なんでおれなんかに……こんな……」

「なんでって、リオはもう大事な家族だもの」


 家族なんだから、キスくらい普通だ。


「なにしてるの、おチビちゃん」


 そこへお父様がやって来た。


「お父様! 今ね、リオにお屋敷を案内してたの」

「そう、偉いね」


 ぼくが駆け寄ると、お父様はそんなぼくを受け止めて抱き上げてくれる。


「僕にはしてくれないの? キス」

「だってお父様は嫌そうにするじゃない」

「でもヴィーとその子にはしたでしょ」


 仲間はずれが嫌なのかな?

 お父様はたまに子供っぽいことを言う。


「仕方のないお父様。大好きのキスだよ」

「うん」


 ぼくがほっぺにちゅっとすると、お父様は満足そうにお返しのキスをしてくれた。


「いかがなさいました、旦那様」


 ヴィーがお父様には尋ねる。


「お前を呼びに来たんだよ。ちょっとこっちを手伝って」

「それは申し訳ありません。ベルを鳴らして呼んでくだされば良かったのに」

「どうせサスリカのところだろうと思ったから」


 お父様はお仕事の合間にやって来たみたいだった。きっとすぐお部屋に戻ってしまうだろう。


「ねぇお父様、お父様もリオにしてあげて」


 早くリオに、我が家に馴染んで欲しい。そう思ってぼくは言った。

 しかし、お父様はキョトンとして首を傾げる。


「……この子に? なんで?」

「なんでって……リオももう家族だもの」

「でも、この子は契約の元にうちに来ただけだよ。僕は跡取りになる男児が欲しくて、この子は世話をしてくれる家が欲しかった。そうでしょ?」

「は、はい、公爵様」


 リオはお父様に気圧されたように小さく頷く。


「ねぇ、お父様……」

「うん?」

「……うーん、ううん、なんでもない」


 ぼくは言いかけた言葉を引っ込めた。


 ぼくが言えば、きっとお父様は最後には折れてリオに優しくしてくれるだろう。でも、そんなことをしてもらったってお父様とリオにとっては何にもならない。


 お父様はなんだかんだで情があるから、時間が経てばリオとも仲良くなれるだろう。ぼくがなにか言うところじゃないな。


「じゃ、僕はもう戻るよ。案内もいいけど、はりきりすぎて怪我をしないように」

「失礼いたします、お嬢様、坊っちゃま」


 お父様はぼくを地面に下ろすと、ヴィーを引き連れて屋敷へ戻って行った。


「ごめんね、リオ。ぼくが変なこと言ったからお父様が」

「ううん、公爵様の言うことはただしいです……」

「お父様は悪い人じゃないんだよ。リオが嫌いなわけでもないの。ただ本当にああいう風に思ってるだけなの」


 お父様のすごいところは、冷たいことを言う時も全くそんなつもりじゃないところだ。なんというか、正直なんだよねー。ぼくはもう慣れて来たけど、リオはびっくりしちゃったかもしれない。

 そう思ってぼくは懸命にフォローした。


「だ、だいじょうぶ、です」

「ぼくがお父様の分までキスをするから、お父様を嫌いにならないでね」

「えっ……」


 リオには真っ赤になって逃げられた。残念。



「お二人とも、もうお休みの時間ですよ」

「えー、もう?」


 談話室でリオと本を読んでいたら、ヴィーにそう声をかけられた。


「もっとリオと遊びたいー」

「明日になさいませ」


 ヴィーが取り付く島もなく言う。ヴィーは優しいけど、こういう時は許してくれないのだ。


「ねえさま、また今度続きを読みましょう」

「んー……リオがそう言うなら……」


 仕方がないので今日はもう寝ることにする。


「ねえさま」


 ヴィーに連れられて談話室を出る時、リオが言った。


「今日……ねえさまと遊べて、おれ、すごくたのしかったです」

「ぼくもすっごく楽しかったよ! 明日もまたたくさん遊ぼうね」


 ぼくがそう言うと、リオはとっても可愛い笑顔を見せてくれた。


「今日はリオとたくさん遊んだよ!」


 部屋に向かう途中、ぼくはヴィーに自慢する。


「それは良かったですね」

「結構仲良くなれたと思うんだ」

「リオ様も嬉しそうでした」

「そうだったらいいなぁ」

「きっとリオ様も同じ気持ちですよ」


 ヴィーがぼくの頭を優しく撫でてくれた。


「聞くところによると、リオ様は早くにご両親を亡くされたそうです」

「そうなの?」

「そのためにご親戚と同居されていたようですが、ずいぶんな扱いを受けていたと聞いています」

「えっ……」


 リオにそんな過去が……。


「ぼく、全然知らなかったよ。なんで言ってくれないの。ぼく、何か無神経なことを言ったかも……」

「平気ですよ。リオ様はずっと嬉しそうでしたし」

「そうかなあ? リオ、本当はとっても悲しい気持ちなんじゃないかな。ぼくどうしたらいいかなぁ」

「お嬢様は、そのままのお嬢様で接して差し上げたら良いと思いますよ」

「そのまま……わかった!」


 明日もリオとたっくさん遊ぶ!

 悲しいことを思い出させないくらい、楽しくしてみせる!


 ぼくは心に誓った。

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