サマーブルー
ワンライしてみたくて、書いたものです。
メモ帳に放置してたもので、削除するのも忍びなくて投稿しました。
テーマ「保健室」
ミーンミーンミン
セミの音が聞こえる。今を必死で生きている。キラキラと光る水面をバシャバシャと崩しながら顔を出し、そんな事を考えた。
…必死に生きている。1年と言う長い長い眠りから1週間しか生きられない彼ら。僕はまだ土の中。性別も年齢も受け入れられてもらえない感情を持て余しながら青い春と言う夏が…羽化できそうにない夏がやってきていた。
「先生ー」
ガラッと扉を開けると茶色いふわふわした髪の先生がこちらを不快そうな顔で見てくる。
「今日はどうしましたか?」
「ん〜熱くて?」
てへっとしたした様なふざけた返答をすると先生は余計に嫌そうな顔をした。
「はぁ…昨日もそう言っていましたが、ここは休憩所じゃないんですよ?」
知っている。本当は暑いなんてどうでもいい。クーラーは確かに涼しいが、家に帰った方が涼しいし、コンビニのが冷えている。僕がそんな事を思ってるなんて先生は知らないんだろうけど…。
「水泳部って部室ないんだよ? 休憩する場所もなく夏休みも動いてる僕…可哀想じゃない?」
「更衣室があるでしょう」
「更衣室はクーラーないもーん。あ〜クラクラしてきたなぁ〜熱中症かも〜」
全くクラクラなどしていないが、わざと手を額に持っていく。先生もそれが嘘ってわかるので、驚く様子もなく、呆れてため息が聞こえた。
「はぁ…またそんな事言って…心配したらウッソーって言って来るんでしょう?」
「あ、バレた?」
「夏休み入って毎日やられてますからね。そりゃぁわかりますよ」
「まだ、1週間だもーん」
実は水泳部は週3。1週間毎日ここに来るはず無い。少しは疑問点を持ってくれ。先生がため息をつくたびに閉じられる瞼がまつ毛を強調する。女の人より長いそれは、整った顔の先生に似合ってはいるが、やはり男の人だからか、儚いよりバサバサと逞しい。それでも僕にとっては誰よりも綺麗で、それを毎日見たくて…。
青い春。楽しいはずのそれは苦しく、高校1年の僕をギチギチと苦しめる。言えもしない言葉だけが、喉奥に絡み、嗚咽混じりにでも言ってしまいそうな言葉をグッと堪える毎日だ。せめて僕が3年生だったなら…卒業と同時に言えるのだろうかとも思うが、受験どころではないこの感情と少しでもいられる今には感謝しか無かった。
「髪の毛、汗で濡れてますよ」
バサッとタオルが顔に当たる。いつもなら濡れてようが気にしないのに珍しいなと思った。
「汗じゃありませんー! 水泳部なんだって水だよ!! 臭くない!」
抗議しながらもらったそれを首に巻く振りをしてスゥッと息をする。少し期待したそれからは部活の時に使う柔軟剤の香りがした。絶対備蓄品だった。
「ふっ、知っていますよ。元気無いよりはある方が貴方らしくて良いですよ。風引くので早くお拭きなさい。」
珍しく渡されたタオルは先程の僕の様子をくみ取ってくれたらしい。そんな、細やかに気づくところが僕は…。
濡れた髪を先生の前まで持っていき、頭を差し出す。
「拭きませんよ?」
無理だろうとわかっているけど、無言でアピールをする。
「…はぁ。今回だけですからね? 何かあったんですか?」
そう言いながら髪をワシャワシャとされた。乾かしてくれるにしては雑すぎるし、力強いし、男の人だとやっぱり認識させられた。大人だし、先生だし、世間体だとダメだって言われる事ばかり。
「別にー泳ぐタイムが良くないだけ。」
「そうですか。そのうち良くなりますよ。頑張ってるの知ってますからね」
「見てるの?」
顔をあげると近くにある先生の目と合った。ちょっと気恥ずかしいくて、目をそらす。
「貴方が男の子で良かったですよ。いろんな意味でセクハラって言われなくてすむので」
もう一度、先生に目を向けると、あちらの目もそらされていた。
「ふっ」
「あ、笑いましたね? 最近だと大変なんですよ? 肩がぶつかってもセクハラですからね?」
まるで言われたんだとばかり念のこもった言葉だった。
初めて男で良かったと思った。気持ちはまだ明かせない。セミの様に土にいる期間ばかり…それでもいい。それでも、男だから…生徒だから…今こうしてここで笑って、触れてもらえる。僕の夏は始まったばかり、羽化もまだ先だ。だからきっと、明日もここに…保健室に来るのだろう。どっかで水でもかぶって。部活後のふりをして。
1時間が短く感じた瞬間でした。
本当は先生目線で気づいてるんだよとか書きたかった〜!!
これからもワンライはやりたいなぁと思いますのでテーマなどあればよろしくお願いします。