表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/335

夏休み編 プールに行こう 1


 学生達にとっての待ちに待った夏休みが遂に突入した。新在間学園の生徒である加江須も昨日で学園生活も一時終了し、今日から一ヶ月以上の長期休みに入った。

 そんな長い休日を貰った加江須はと言うと――


 「…よしっ、鍵もしっかりと掛けたな」


 自宅の玄関の鍵を掛けてある場所を目指して外出をしていた。

 彼の手には防水が施してあるプールバックが握られている。


 「このまま目的地まで歩いても待ち合わせ時間よりも20分は早く着くな」


 腕時計を眺めながら加江須が歩きながら独り呟いた。

 彼が現在向かっている場所は以前皆で遊びに行こうと約束していた巨大屋内プール場である『ウォーターワールド』であった。

 昨日学園が終了した後の下校時、黄美が明日このウォーターワールドに皆で行こうと言い出したのだ。

 確かに夏休みに行こうと約束はしていたがまさか初日からいきなり誘われるとは思っていなかったが、しかし自分を含めて誰も取り立てて用事があった訳でもないので特に誰の反対もなく皆が彼女の意見に賛成した。


 「おっ見えて来た」


 目的地付近まで近づくと前方にドーム状の巨大な建造物が見えて来た。その入り口付近には親子連れや男女のカップル、自分たちの様な学生の集団が入り口の近くにある受付付近で並んでいる。予想はしていたが夏休みとなればこういうレジャー施設、特にプールなどにはやはり人は集まるものだ。


 「ん…あれは…」


 目を凝らしてみると入り口の近くには自分の見知った少女が1人立っていた。

 加江須がドームに近づいて行くと、相手の少女も彼の存在に気が付いたようで腕を振ってこちらに大きく声を掛けて来た。


 「おーい加江須! こっちこっち!!」


 「おーっ、もう来ていたのか氷蓮」


 自分が一番のりかと思っていた加江須であったが彼よりも先に既に氷蓮が到着していた。合流すると氷蓮はぶっーと膨れつつ加江須に声を掛けて来る。


 「おせーよ、恋人を先に待たせんなよ」


 「一応約束の時間より20分近く早く到着してんだけどな…」


 余裕をもって家を出た自分よりも更に早く到着している所を見るとよほど楽しみだったのだろう。昨日に仁乃が氷蓮に連絡を入れ彼女も今日はこのレジャー施設に集まって一緒に遊ぶことが決まったのだ。加江須としても氷蓮だけ誘わないなどしたくなったので彼女も今日来てくれたことは素直に嬉しかった。


 「他の皆はまだ来てないみたいだな…」

 

 「ああ。たく仁乃のヤツ、昨日は自分から誘って来たのに俺よりおくれるなっつーの」


 「それは関係ないだろう」


 氷蓮の隣に陣取って他の3人の到着を待つ加江須。

 ふと隣に居る氷蓮を見てみると彼女の持っているバッグが気になってなんとなしに質問をしてみる。


 「氷蓮、そのバッグに入っているのって水着だよな。いつ買って来たんだよ?」


 「ん~? 昨日仁乃のヤツに誘われてから急いで買って来たんだよ。そ、その……お前に見せるために……」


 最後の部分は少し小声になって行ったが、加江須の聴覚はしっかりと彼女の言葉を最後まで拾っており何だか彼としても恥ずかしくなり視線を逸らす。


 「遅いなみんな…」


 「お、おう…」


 恋人と二人きりであるこの状況に加江須と氷蓮はそれぞれ視線を逸らしてむずがゆい気分になって行く。

 しばしの間は互いに無言を通していたが、静寂に耐え切れずに氷蓮が加江須のすぐ隣まで接近して話しかける。


 「その…後でちゃんと評価してくれよ水着…。自腹きって買ったんだからよ…」


 「お、おう」


 上目遣いでこちらを見上げて来る氷蓮に対して頷く加江須。

 気が付けば氷蓮はいつの間にか加江須の手を握っており、氷を操る転生戦士とは思えぬほどの温かな温もりに加江須の心拍数は上昇しドキドキと心臓の鼓動音が今にも外に響いて聴こえるのではないかと思う程に高まっていた。


 「(うぅ~…俺も俺で何してんだ。で、でも付き合ってんだからこれくらいは普通だよな? い、いきすぎてないよな!?)」


 自分から手を握っておいたにも関わらずに自分の行動が大胆過ぎないか緊張する氷蓮。しかし折角近しい関係になれたのだ。少しぐらいは大胆にならなければ交際前と何も変わらない。

 

 「(何も言ってこねぇな。か、加江須のヤツも意識してくれてんのかな?)」


 チラリと加江須の方を見てみると、自分の事をちゃんと意識してくれている証拠として若干頬が赤く染まっている。そんな姿を見ると自分をちゃんと女性として見てくれている事が分かり嬉しくなる。正直な話、普通の女性と比べると勝気で男勝りな性格と口調の自分を不安に思う事もあったがこうして意識してくれている事を知れると女として安心感が持てた。


 「(も、もーちょい位スキンシップは激しくした方がいいのかな? それッ!!)」


 「うおっ!」


 心の中で当たって砕けろと言った感じで思い切って大胆に加江須の腕を両手で抱き寄せる。

 突然の氷蓮の行動に声を出して驚く加江須であるが、決して無理に振りほどこうとはせずに彼女に急にどうしたのかと尋ねる。


 「な、何だ氷蓮。急に…」

 

 「め、迷惑だったかこういう事は? カップルとかこういう事はよくやるだろ」


 「いや、迷惑じゃないが…その…」


 加江須は言葉にはせず視線で何を言いたいのか訴える。彼の視線の先には氷蓮の両腕で胸元に抱き寄せられている自分の腕があり、その腕が彼女の胸を軽く押しつぶしていた。

 かなり強く胸が腕に当たっている事をそれとなく告げる加江須であるが、氷蓮はその腕を離さずむしろ力を籠めて強く彼の腕を胸元に当てる。


 「い、嫌かこういう事は? その…仁乃ほどじゃねぇけどそこそこあるぜ」

 

 「ば、ばかそう言う事を言っているんじゃ!? 当たってるから離した方がいいって事だよ」


 「い、いやじゃねぇよ…お前ならさ…」


 そう言うと氷蓮は目をつぶりながらぎゅーっと力強く加江須の腕を抱きしめる。顔を真っ赤にしながら自分の腕を抱きしめる恋人の姿に加江須の顔も更に真っ赤になる。

 しかも腕に当たる柔らかな感触が彼の心臓音を更にけたたましく鳴り響かせてしまう。


 「(やべぇ! めっ、めっちゃ恥ずいけど何というかコイツと二人きりの今の感じがスゲー心地良い!)」


 出来る事ならもう少し二人だけのこの甘々な空気に浸っていたいと思う氷蓮であるが、そこへ自分と加江須の名前を呼ぶ声が聴こえて来た。


 「おーい加江須に氷蓮! 来たわよー!!」


 ぎゅっと目をつぶっていた氷蓮が目を開くと数メートル先に残りのメンバーである仁乃たちがこちらへ向かって手を振っていた。

 他のメンバーも来たので加江須も氷蓮から腕をそっと抜き取り3人の元まで歩いて行く。その後ろ姿と自分の胸元を交互に眺める氷蓮。


 「(もうちょっとアイツとふたりでくっついていたかったなぁ…)」


 元々今日は5人で遊ぶ約束をしていたので今来たメンバーに非難は無いが、出来るならもう少し位は二人っきりの空気を味わいたかったと肩を落とす氷蓮。

 そんな願望と共にため息を吐きながら彼女も加江須の後に続いて仁乃たちと合流する。


 「二人とも早いねー。私たちも10分前に来たのにもう待っていたなんて。そんなに加江須君と一緒にプールで遊びたかったのかなぁ氷蓮さん?」


 「う、うるせーよ愛理」


 口元を隠しながらニシシと笑う愛理にプイっとそっぽを向きながら答える氷蓮。

 そんな二人のやり取りをよそに黄美は加江須に手持ちのカバンを見せびらかしながら楽し気に話していた。


 「今日の為の気合を入れて選んだんだから期待していてよねカエちゃん♪」


 「ああ楽しみにしてるよ」


 そう言いながら頭の中で4人の水着姿を自然と想像してしまい少し照れ臭そうに笑う加江須。その姿を見ていた仁乃が肘で軽く加江須の腹を叩いてぼそっと呟く。


 「スケベ…」


 「なっ、俺は別に! その…!」


 「まっ、いーけど…」


 そう言いながら仁乃は自分の肩にかけているバッグを眼の端でこっそりと見た。


 「(う~ん…一応自信をもって選んだけど…もし似合ってないなんて言われたらどうしよ)」


 なんだかんだ言っても仁乃も自分の彼氏には褒めてもらいたいために自信をもって水着を選んだので似合っていると素直に言って欲しいと思っていた。その同様の思いは黄美と愛理と氷蓮にもあった。全員がそれぞれ時間の空いている時にわざわざ必要以上に時間をかけてじっくりと水着を厳選したのだ。


 待ち合わせ時間より早く全員が揃ったとは言えプールはもう開いているので5人はウォーターワールドへと入って行った。受付を済ませてそれぞれ男女の更衣室へと入って行く。


 女子更衣室では4人はそれぞれ水着に着替え始めるが、仁乃が衣服を脱いで水着を着ようとすると背後から視線を感じる。

 振り返るとそこには自分の他の3人の恋人がじっーっと自分の身体を凝視していた。


 「な、何よそんな見て…」


 同性とは言えまるで穴が開く程に見られては少し恥ずかしそうにする仁乃。

 一方で見つめている3人は仁乃が身体を動かすたびに揺れる豊満な胸を見つめていた。


 「服を脱ぐとよりデカく見えるわね」


 「そーだよな。着痩せってやつか? 乳魔人が…」


 「う~ん…私たちの中じゃぶっちぎりのトップだよねぇ~」


 「ど、どこ見てるのよ!?」


 3人のセリフから自分の何を見ているのか察した仁乃は顔を真っ赤にして脱いでいた衣服で身体を隠す。


 「もう…くだらない事を考えてないで早く着替えなさいな」


 「いや案外くだらない事じゃないかもよ。加江須君も大きい方が好きかもしれないし…」


 そう言いながら自分の胸を見つめて少し自信を失う愛理。

 世間一般から見れば彼女のスタイルは悪くないが、胸部の1点は仁乃と比べると自信を失ってしまう程に差がある。他の二人も自分と仁乃の胸部の差を比べると少し気落ちした様な雰囲気を纏う。

 人の身体を見て勝手に落ち込む3人に仁乃は呆れ気味になる。


 「スタイルなんてどうだっていいでしょ。それとも私たちの彼氏様は体の凹凸で見方を変える人かしら?」


 仁乃がそう言うとそんな訳が無いと首を横に振る3人。

 人の身体と見比べる前にまずは自分をきちんと見てもらおうと思い4人はそれぞれが選んだ水着に着替えて行く。


 「「「「よし、準備完了!」」」」


 全員が水着に着替え終わると更衣室を出て行き愛しの彼氏の元まで小走りで駆けて行くのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ