4人の女性が送る愛情と受け止める1人の少年
とうとうハーレム展開になりました。少し強引な進め方でしたがカップルとなった加江須とヒロインの今後もこれでようやく書けそうです。結ばれるまで長かったぁ~…。
「……ごめんなさい黄美さん。もう一度同じセリフをお願いできるかしら?」
あまりにも衝撃的な言葉に黄美と加江須以外の全員は完全に数秒の間時間が固まり続けていたのだが、その中で一番最初に硬直から解放された仁乃が黄美に数秒前と同じセリフを繰り返してくれるように頼み込む。
そんな困惑気味の仁乃とは裏腹に黄美はまたしても笑顔のまま特大の爆弾発言を繰り返して場を混乱させる。
「だから、私と同じようにカエちゃんの恋人になりましょうよ♪」
「いや……イヤイヤイヤイヤイヤ!!!」
頭を高速で左右に振って頼むから待って欲しいとアピールする仁乃。いや彼女だけでなく他の女性陣達も皆が手を振って解りやすく説明をしてほしいと懇願している。その中で加江須だけは俯き続けている。
「よ、黄美、一から説明してくれない!? いきなりそんなぶっ飛んだ事を言われてもどう処理すればいいか分からないから!?」
愛理は立ち上がって自分の親友の両肩を掴んでブンブンと前後に揺らす。
ついさっきまでは幼馴染の隠されていた真実に打ちひしがれていて精神的に衰弱していたくせに外から帰ってきたらこの急変だ。一体二人は外で何を話していたというんだろうか。
混乱の極みに居る愛理と違い全く焦りも戸惑いも見せない黄美。ブンブンと自分の肩を掴んで揺らしてくる愛理の手を掴んで動きを止めると、先程の外での出来事を話し始める。
「さっき外に出てカエちゃんと話している時に約束したのよ。カエちゃんはどんな戦いに出向いても生きて帰って来るって」
「そ、そうなんだ。で、でもさ、何でソレが恋人になる事と関係が?」
「外で私が告白したの。私を残して死ぬ気がないなら生涯かけてその誓いを守ってほしいって…」
「えっと…」
黄美の話を聞いても完全には納得できない愛理。
幼馴染を残して死なない、そう誓ったからと言ってそれだけで恋仲になるのもおかしな気がするが……。
それは愛理だけでなく仁乃も同様であった。落ち込んでいる黄美を慰めさせようと外に出る事を促した彼女であったがまさか戻ってきていると恋人となっているなど納得できるわけがない。彼の事を同じく好いている立場からすれば尚更の事だ。
「あんた慰めるために黄美さんを連れて行ったんでしょ! それがどうして帰ってきたらカップル成立してるのよ!!」
ビシッと指を差しながら仁乃がウガーッと加江須に噛み付いて行く。
「……ああそうだな。でも…生きて帰ってくる、その誓いの為だけに黄美と恋人になった訳じゃない。ずっと…ずっと悩んでいた。俺を好きだと言ってくれた黄美の告白をいつまでも保留し続けて…答えを出すことに逃げ続けていた。だが…俺を心から心配してくれた黄美の眼を見て決心がついたんだ。俺は――この先の未来を黄美と一緒に居たいって……」
「っ…」
加江須の瞳は真剣そのものであった。真っ直ぐな曇りも迷いもない答えを出したその瞳を見て仁乃は一瞬息が止まり、そして悲しげに笑った。
「そっか…大事にしてあげなさいよ」
そう言って仁乃は悲し気に微笑んだ。
自分も彼に対しては本気で恋心を抱いていた。だが彼が選んだのは自分よりも長い時間を共に過ごした幼馴染である黄美であったのだ。ソレを理解して素直に身を引こうと考える仁乃であったが、ここで彼女は少し前の黄美の言葉を思い出す。
「(あれ…でもさっき黄美さん私と同じく恋人になりましょうって…)」
仁乃が先程の黄美の言葉の真意がどういう意味か考えていると、加江須が一歩前へと歩み出て仁乃と愛理の事を交互に見て衝撃的な事を口にする。
「仁乃…愛理…二人が俺を好きでいる事ももう知っているんだ。俺は――そんな二人を選ばないと言う選択が出来なかった」
そう言うと加江須は頭を下げて仁乃と愛理の二人へ自分の想いをぶつける。
「仁乃、愛理…俺と付き合ってくれ!!」
「「…ええっ!?」」
既に加江須は黄美と恋人同士になった事をカミングアウトしている筈だ。つまりすでに恋人がいるにもかかわらず彼は二人の女性に告白をして来たのだ。
加江須の告白を受けた二人は茹だこの様に顔を真っ赤にし、愛理に方はあわあわと声を漏らし続ける。しかし仁乃の方は何とか正気を保ち続けられ加江須に正気かどうか確認を取る。
「あ、あんた本気なの? 後ろに彼女が居るのに他の女とも付き合おうなんて…」
「ああ本気だ。俺は黄美、仁乃、愛理、3人と結ばれたいと本気で思っている」
間髪入れずに答える加江須。ついさっきまでは顔を赤く染めて恥ずかしがっていた彼であるが、今は仁乃の言葉と視線を受け止めて本気の顔をしている。その顔を見れば彼のこの複数人に行っている告白も本気だという事が分かる。
「黄美だけじゃなく2人も俺にとっては優劣をつける事の出来ない大切な人なんだ。だから、もし恋人を持つと言うのであれば3人を全員愛したい」
「「………」」
ハッキリと加江須の口から愛と言う言葉が出て来て二人は顔から煙を出して呆然とする。
そのショートしている二人に行方を見守っていた黄美が話に入り込んできて、彼女は二人の前に立つとそれぞれの手を握って満面の笑みを向ける。
「仁乃さん、愛理。二人がカエちゃんを私に負けない位に強く愛している事は私もよく知っているわ。そんな二人を差し置いて私だけが幸せを掴むなんて嫌なの。それよりも3人全員が幸せを掴める未来の方を私は望むわ」
「よ、黄美…」
親友の大胆過ぎる言葉に愛理は少し戸惑ってしまうが、自分も加江須の事を好きでいた、いや今だって好きでいる心は本物だ。だから黄美が彼と恋仲になったと言われた瞬間は胸が張り裂けそうであった。でも…でも自分も彼と結ばれるなら……。
「私も…良いのかな? 加江須君と恋人になっても…」
「あ、愛理さん…」
「私は…私だって加江須君が好き! 私だって彼の特別になりたい!!」
そう言って胸の内に秘めていた想いを全て吐き出す愛理。
我慢し続けていた彼に対する感情は堰を切った様に溢れ、周囲の目など気にせずに全てを曝け出す愛理。
そして彼女は加江須の胸に飛び込んでその勢いのまま自らの唇を加江須の唇へと押し当てる。
軽く唇同士が一瞬触れあっただけにもかかわらず、その触れ合いの刹那に信じられないほどの幸福が体の内側から溢れ出る。
「加江須君、私とも付き合ってください。あなたの事…心からお慕いしています」
「ああ、俺も好きだよ愛理」
加江須はそう言うと愛理を優しく抱きしめる。
それを見ていた黄美は親友も自分と同じく最高の幸せを手に入れる事が出来た事を心から祝福し、その光景を見て仁乃の方も押さえ続けた加江須に対する愛念が口から大声となって飛び出した。
「私だって――このバカの事が大好きなんだからぁ!!!」
そう言うと仁乃は眼の端に涙を溜めながらも愛理と同様に加江須の胸に飛び込み、そのまま勢いよく唇を合わせた。
触れ合った唇をしばし押し当て続け、そのまま唇を離した後に仁乃が羞恥心を感じつつも加江須に向かって約束をさせる。
「一人だけ特別扱いするんじゃないわよ。その…私も含め全員きちんと最大限に愛しなさいよ」
「ああ、勿論だ」
そう言うと仁乃の事を抱きしめる加江須。
暖かな彼の腕に抱きしめられながら夢心地に浸りつつ、彼女は今まで黙って告白劇を見ていた氷蓮に目を向けると彼女に話し掛ける。
「あんたもいつまで我慢して黙っている気よ」
「あ、あん? なんの事だよ?」
仁乃の言っている意味を理解できていないフリをする氷蓮であるが、そんな自分に負けず劣らず素直になれない彼女の後押しをしてやる事とする。
「あんただってこのバカの事…好きなんでしょ?」
「お、俺は! そ、その…」
そんな事は無いと口にしようとする氷蓮であったが口に出せなかった。
命がけのゲダツとの戦い、その窮地で自分を救ってくれた加江須。最初はただのチームメイトと言う認識でしかなかったがいつしか彼に惹かれて行った自分が居た。だからこそ、自分の眼前で彼と結ばれるあの3人が羨ましかった。
――俺だって…〝私〟だって彼と本当は結ばれたい。
本当はそう口に出して素直になりたい彼女であるが、中々その本音が口から出て来てくれない。
だがいつの間にか氷蓮の背後に移動していた黄美が後ろからトンっと彼女の背中を押し、その衝撃で加江須の腕の中へと包まれる氷蓮。
「か、加江須…その、俺はよ…」
腕の中でチラチラと彼の顔を何度も見ては逸らすを繰り返す氷蓮。
そんな彼女の頭を一度優しく撫でて加江須は優し気な声を掛けてくれた。
「氷蓮、お前が俺を本気で好きでいるなら…その想いを蔑ろにしたくない」
「か、加江須…」
すぐ目の前で好きな男に掛けられたその言葉で肩の力が一気に抜けて行った氷蓮。
「俺も…お前が好きだ…」
そう言って一瞬だけ躊躇うが、他の二人同様に喜びが一気に込み上げて来た。その幸福に身を任せて加江須の唇に自分の唇を合わせる氷蓮。
「今後ともよろしくってやつだ…♪」
上機嫌気味な声色でそう言う彼女に同じく笑顔で頷く加江須。
黄美たちが好きな人と結ばれた事に幸福を感じているのと同様に加江須も今はとても幸せであった。
「(ずっと決断を先延ばしにし続けてしまったが…もう彼女たちは俺にとってこの世の何よりも大切な存在だ。絶対に彼女達を残して戦いの中で死んだりするものかよ!!)」
その決意と共に加江須は4人の大切な恋人たちを力強く抱きしめた。
それに応えるように4人の女性も彼の事を抱き返す。
「黄美、仁乃、愛理、氷蓮……大好きだ」
「「「「私(俺)だって……」」」」
しばしの間5人はそれぞれ互いに抱きしめ合いながらその場で密着し続けていた。
その抱きしめ合う5人から離れて様子を窺い続けていた余羽は頬を搔きながら小さくツッコミを入れた。
「いやあの…ここ私の部屋なんですけど……」
少しは部屋の主の目を気にしてほしいと訴える余羽であるが、そんな彼女を放置してそれから数分間の間、5人は抱きしめ合い続けていた。
ネタバレになりますが今後もヒロインは増えますので……。




