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幼馴染からの大胆過ぎる提案……マジか……


 「――以上が俺の口から語れる限りの真実だ。信じがたい事かもしれないがな…」


 加江須の今まで隠し続けていた真実が全て語られた後、黄美はしばしの間口を閉ざし続けていた。それはこの世界では自分の知らぬ所で転生戦士やゲダツと言う存在が苛烈な戦いを繰り広げていた事が衝撃的であった事もあるのだが、それ以上に自分の愛おしい幼馴染がその危険な戦いに身を置いていた事が何よりもショックであったのだ。


 そしてもう一つのショック…彼が一度死んだ事も彼女の精神に大きなダメージを与えていた。


 「ねえ黄美、大丈夫?」


 愛理が不安そうな声色で黄美へと話しかける。


 「うん…大丈夫だから…」


 とてもそうは思えない…と口にしたい愛理であったが、だからと言ってこの状況でどんな慰めの言葉を掛ければいいかも判らず黙るしか出来なかった。それは話をした張本人である加江須も同じことであった。自分の様に実際に転生を果たした訳でもない一般人の黄美にどんな言葉を掛けて上げればいいのやら……。


 「……ところでさ、花沢さんはいつ頃から転生戦士になったのかしら?」


 「うえっ…な、何で?」


 「いや単純に気になったからだけど…聞いちゃまずかった?」


 「いや別に…」


 仁乃としては加江須と黄美の間に流れる少し淀んでいる空気を払拭しようと言う企みがあったのだが、あまり自分を話題の中心に持っていってほしくない余羽は少し戸惑いつつも仁乃に自分の事を話し始める。彼女としてもこの重苦しい状況で沈黙はよくないと思ったからだ。

 しかしその間も加江須と黄美は互いに無言のまま床を見つめており、仁乃と余羽の話など頭に入っては来なかった。


 「………黄美、悪かったな」


 最初に口を開いたのは加江須の方であった。彼は何故か幼馴染に突如として謝罪を述べ始める。その理由が解らず黄美だけでなくこの場に居る他の者たちも首を傾げた。

 実際のところ加江須にも自分が謝罪した明確な理由は判らなかった。ただ今までこんな大事な事を近しい幼馴染に黙っていた負い目からのごめん…だったのかもしれない。


 しかし加江須に謝られた黄美であったが、彼女からすれば謝りたい衝動に駆られていたのは彼女のほうであったのだ。


 「カエちゃんが謝る理由なんて何もないよ。私こそ…何も…何も知らなかった」


 自分の幼馴染が体育祭に現れた様な怪物と裏では何度も戦っていた、それを知らずに能天気にも今日までのうのうと生きて来た。それがたまらなく許せなかった。


 「カエちゃんはずっと…ずっと戦っていた。それなのに私は何も知らないで毎日を過ごしていた。何も…何も知らないで…」


 「よ、黄美、別にお前が思い悩む事は…」


 言葉を連ねて行くうちに黄美の瞳からは次第に涙が訳も分からず零れて行く。それを見て加江須がわかりやすくオタオタとし始め、一体どうすればいいのか同じ転生者である仁乃に助けを求めるようにチラチラと見て来る。

 助けを求めて見つめる彼に対し少し呆れながらも仁乃が小声で返答した。


 「(はあ…とりあえず少し二人で話してきなさいよ。幼馴染のあんたと二人っきりの方が話しやすいでしょ)」


 「(…わ、分かった)」


 仁乃が小声で加江須に囁いて取り合えず黄美を連れ出すように促す。そのアドバイスに同意して加江須は黄美の肩を叩いて2、3何かを呟いた後に二人は一度マンションの外へと出て行く。その二人の後ろ姿を眺めていた氷蓮が仁乃に話しかける。


 「二人だけにしていいのかよ? 黄美のヤツ泣いてたけど…」


 「周りに私たちが居るよりも大好きな幼馴染と二人だけの方が落ち着いて話せるでしょ。それに……」


 「それに?」


 「いえ、何でもないわ。とにかく二人が戻ってくるまで待ってましょ」




 ◆◆◆




 仁乃に言われて部屋の外へと一度出た二人。

 部屋の扉の前で二人は並んで外の景色を眺めながら互いに口を閉じたままであった。


 「(いい天気だな…くそっ…)」


 今のまるで曇天の様な心とは裏腹に外は晴れ晴れとした快晴であり、その清々しさを感じる天気に苛立ちを覚える加江須。

 そんな事を考えていると隣に居る黄美が加江須の手を無言のまま握った。


 「黄美…」


 「……」


 黄美は無言のまま手を握り続け、そして加江須の胸に顔をうずめて来た。

 

 「カエちゃん…どこにもいかないよね?」

 

 「え…?」


 黄美のその言葉に疑問の声を出す加江須。別に自分はどこかに彼女や皆を置き去りにして姿を消すつもりなんてない。しかし黄美は加江須がゲダツと言う化け物と今日まで戦っていた事を知った時、彼がいずれは自分の前からいなくなる恐怖を感じたのだ。


 そう…化け物との戦いで彼が命を散らしてしまうのではないかと言う恐怖が……。

 

 「カエちゃん…もう戦わなくてもいいよ。あんな怪物とカエちゃんが戦う必要なんてないでしょ」


 「黄美…」


 「私…すごく怖いの。この先もあなたがあの化け物と戦い続けて…そして…そしていつか命を落とすんじゃないかって…話を聞いてから不安が止まらないの」


 そう言いながら加江須の胸に顔を押し付けてる黄美の瞳からはまた涙が浮かび出す。そんな今にも壊れそうな彼女を優しく抱きしめながら加江須は彼女の頭を撫でる。


 「ありがとうな心配してくれて。でもゲダツと戦う為に俺たち転生者は蘇らせてもらっているんだ。だからこの先もこの消失市に出てくるゲダツを無視はできない」


 加江須がそう言うと黄美は加江須の胸の中で顔をうずめながら一度大きく身震いをする。その直後に彼女のすすり泣く声が聴こえて来る。

 胸の辺りが彼女の涙で湿って行く事を感じながら加江須は下唇を噛んだ。


 「(ゲダツと戦う為に転生戦士としてこの世でもう一度生を謳歌する機会を与えられた。なにより俺自身も自分の住んでいる町に居るゲダツを放置なんてしておけない。でも……)」


 自分の胸の中で泣きじゃくる幼馴染の嗚咽を聴くとこの先もゲダツと戦い続けると言った自分の決心が鈍りそうであった。


 「黄美…泣かないでくれ…」


 「そんな…の…無理…だよぉ…」

 

 ところどころが嗚咽で途切れ途切れとなりながら返事をする黄美。

 腕の中で震える幼馴染を見てると彼女が自分を心の底から心配してくれている事が痛いほどに伝わってくる。それが嬉しくもあるが同時に苦しくもあり、相反する感情が胸の中で渦巻き続ける。


 「黄美…俺はこの先もゲダツと戦い続ける。その為に俺は蘇ったから…。でも、でも約束するよ。俺は決してお前を置き去りにして勝手に死んだりしない。どんな戦いに赴くことになっても必ずお前の前へと帰ってくると誓うから……」


 そう言うと加江須は自分の胸の中に顔をうずめている黄美を引きはがし、彼女の目を見てどんな戦いに巻き込まれようが必ず生きて帰ってくると心に誓う。

 黄美の瞳は涙がとめどなく流れ続けているが、加江須の誓いを聞いて一度目を閉じ、そして再び涙に濡れた瞼を開いて加江須の目を見て言った。


 「じゃあ――証拠を見せて? 私を残していなくなったりしない証拠を…」


 「え…証拠って…」


 黄美に証拠を見せて欲しいと言われた加江須であるがどう証明すればいいのか分からず首を傾げる。

 どう答えれば正解か判らず右往左往と考えを頭の中で巡らせていると、黄美は加江須の手を両手で掴んで上目遣いをして来た。


 「カエちゃん言ったよね。私を残して死んだりしないって…生きて帰って来るって…」


 「あ、ああ…」


 「その言葉が本当なら…その想いが本気なら私から提案があるの…」


 加江須の手を両手で握りながら黄美は彼に自分の〝提案〟を述べた。

 

 「うえっ!? い、いやそれは…!?」


 黄美の口から出て来た提案を聞いて加江須の顔が真っ赤に染まり、喉の奥から変な声が漏れてしまう。しかし眼前に居る黄美は悪ふざけでもなく真剣そのものとしか言えない瞳をしており、彼女が本気で今口から述べた提案を望んでいる事が嫌でも理解できてしまった。


 「カエちゃん…私本気だから…」


 そう言うと彼女は加江須の手を決して離さぬように力を籠めて握り、そのまま不意打ち気味に彼の顔に自分の顔を近づけた。


 「!!??」




 ◆◆◆




 加江須と黄美が外に出ている頃、残ったメンバーの中で仁乃が氷蓮と余羽の関係を尋ねている最中であった。


 「それであんたは花沢さんとどういう経緯で知り合ったのよ? まさかあんたがここに居候しているなんて思いもしなかったわよ」


 「ああ、それは俺が余羽がゲダツに襲われていた時に偶然……」


 仁乃の質問に答えていた氷蓮であったが、玄関の方から扉を開ける音が聴こえて来た。恐らくは外に出ていた加江須たちが戻って来たのだろうと思い一度会話を切る氷蓮。

 予想通りに扉を開けると加江須と黄美の二人が部屋へと入って来たのだが、二人の様子に違和感をありありと皆が感じた。


 「…よう、お帰り。……なんかあったのかオメーら」


 氷蓮が部屋へと戻って来た二人を奇怪そうな眼差しで見つめるのは無理もない事かもしれない。何故なら部屋を出る前は涙を零していた黄美は少し、いやかなり嬉しそうに笑っており、そして加江須も部屋を出るときには黄美をどうなだめようかと困っていた顔をしていたのだが、今の彼はどこか少し照れくさそうな表情をしているのだ。


 「(上手く慰めれたのかしら…? いや、でもあの黄美さんの表情は……)」


 どこかうっとりとしている黄美の表情がどうにも気になる仁乃。

 よく見ると彼女はチラチラと加江須に熱っぽい視線を向けているのも気になる。


 「あー…仁乃、愛理、ちょっといいか?」


 加江須が頭を掻きながら二人の名前を呼んだ。その声に反応した二人が顔を自分に向けると、加江須は頬が赤く染まって自分から名前を呼んだにも関わらず俯いてしまった。


 「ど、どうしたの加江須君?」


 「あんた…なんか変よ?」


 明らかに部屋を出る前と様子が違う加江須に訝しむ仁乃と愛理。

 すると加江須とは違いどこか元気が宿っている黄美が二人にとんでもない発言をぶつけて来た。


 「ねえ仁乃さん、愛理。二人も私と同じくカエちゃんの恋人になりましょう♪」


 楽し気な黄美の口から放たれたその発言にこの場に居た女性陣達の身体が一瞬で石像の様に硬直した。

 その中で加江須は顔から火が出る思いをしながら俯き続ける事しか出来ないでいた。



 

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