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幼馴染から語られる真実

 

 白熱していた新在間学園体育祭であったが、結局は最後までやり通せずに途中で残念ながら中止となってしまった。しかしそれも無理はない事だろう。グラウンド内の居た人間が一部を除き揃って意識を失い、そして何より競技のリレーの最中に死人まで出てしまったのだから。


 加江須たちがゲダツを倒した後、一体どうなったのかを軽く話しておこう。


 加江須がゲダツを倒した後に黄美と愛理の二人が無事に目を覚ましてくれた。だが、目覚めたまでは良かったのだが二人に、特に加江須が転生者である事を知らない黄美に能力で変身した姿を見られてしまったのだ。そのすぐ後にグラウンド内に居た全ての人間が次々に目覚めて行った。しかし結局のところ、どうして加江須と仁乃以外の全ての人間が眠りに落ちてしまったのかは解からず終いであった。だが加江須にはそんな事を気にする余裕などなかった。それ以上に幼馴染に自分の正体を知られてしまった事のショックの方が強かったからだ。

 

 学園の大勢の人間が一堂に眠りに陥った不可解な現象を引き起こした犯人は加江須の戦闘を、そして虐殺を高みの見物をしていたディザイアと言う〝人間〟の仕業であるがソレを知る者は居ない。


 そしてゲダツの手で今回は加江須の学園の生徒が1人犠牲となった。その人間一人が死んだと言う事実を学園に居たすべての人間が目撃しているのだが、加江須や仁乃の転生者とは違い他の一般人達は死んだ生徒に関しての認識は学園に紛れ込んでいた見知らぬ少年と言う認識であった。クラスメイトも教師も死んだ生徒を〝新在間学園の生徒〟と認識していないのだ。

 

 ゲダツは生命や魂、そして何より存在を食らう異形。その異形に襲われた者に関する存在は世界から消失する事が基本である。だが今回のゲダツは元が人であった事から普通の一般人にも視認が出来ていた。しかし亜種とは言えゲダツには変わりない。ゲダツが視認できていたのでゲダツに襲われた生徒は殺された事までは認識されたが、殺されたと同時にその生徒に関する情報はすべての人間、世界から消失して学園に居た者達は見知らぬ他人が殺された、と言う認識となったのだ。


 ――その日、殺された生徒を応援しに来園して来た実の親ですらももう死んだ彼を息子と認識していなかった。そもそも自分に息子が居た事すら…もう記憶にはない。


 しかし見知らぬ他人となり果てたとはいえ人が死んだこと、そして人間がゲダツと言う異形な化け物に変貌した瞬間の光景を学園に居た全員が見ていた為、体育祭中断後に警察が学園に訪れた。しかし学園で見た化け物――つまりゲダツの話に関しては訪れた警察も理解しがたいような顔をしていた。しかし学園で事情聴取を受けたすべての教師がこの世の物とは思えぬ怪物を見たと訴え、良い大人が揃って悪ふざけをするとも思えず対応に困っている現状だ。

 当然このような状況では通常通りに学園を経営をするわけにもいかずに学園は一時閉鎖、現在は自宅待機を命じられた。




 ◆◆◆




 平日の昼間、本来であれば学園に登校している加江須はあるマンションへと訪れていた。いや、正確に言うなら彼だけでなく仁乃、黄美、愛理の4人がある人物の住んでいるマンションへと訪れていた。

 マンション内にある多くの部屋の中の1つの303号室、その部屋の中の広々としたリビングの中央では来客である加江須達4人、そしてこの部屋で生活をしている黄美と居候の氷蓮の2人、合計6人の人間が輪になっていた。


 「(な、何でこんな事に……)」


 この部屋の主である花沢余羽は今の状況に憂鬱な顔をしながら事の顛末を遡っていた。

 体育祭でのゲダツとの戦い後に加江須と仁乃は自分に接触して来た。その彼の後ろには一般人である黄美と愛理も……。

 一度集まってきちんと話し合いの場を設けたいと言う提案を加江須にされて余羽はソレを了承した。 

 だが話し合いの場としては一人暮らしをしている余羽のマンションが一番だと決められてしまった事に関しては若干の不満があったが、下手に断ればそれはそれで面倒な揉め事に発展しかねないので素直に折れる事にした。

 

 翌日になって約束通りに4人が自分の部屋へと訪れて来た。

 同居している氷蓮には前日に話をしておいたのだが、学園の体育祭での出来事を話すと複雑そうな表情をしていた。彼の学園で事件が起きた事もそうだが、それ以上に何も知らなかった幼馴染に加江須の素性がバレてしまった事の方が心配みたいであった。


 そして予定通りの人間が全員集まった事で話合いがスタートする筈であったが、こうして集まってからもう10分近くも経過しているにも関わらずに未だに誰も口を開こうとはしない。

 しかしこの重苦しい沈黙がここでようやく切り裂かれた。


 「……じゃあ…話してくれるかな?」


 しばし重い沈黙の中、最初に口火を切ったのは黄美であった。

 彼女は誰に話すように名前を出して促したわけではないのだが、名前は言わずとも彼女の視線は自身の対面に居る加江須へと向かっている。その視線に射抜かれた加江須は少し俯きがちになりながらも自分がこれまで隠してきた事を包み隠さずに話すことにした。


 「今まで黙っていたが…俺は、いや正確に言えば俺だけでない。仁乃と氷蓮、そして彼女に関してはつい最近知ったばかりだがここに居る花沢は〝転生戦士〟なんだ…」


 「転生…戦士…?」


 聞いたこともないワードに黄美は眉をひそめて不思議そうな表情になる。

 もちろん加江須だってこれだけの説明で理解してくれるとは思っていないので更に詳しく詳細を話す。


 「信じられないかもしれないが転生戦士…つまりは俺たち転生者は一度死んでいるんだ」


 「……んん?」


 加江須の言っている事が良く理解できずに少し変な声が出てしまった黄美。

 

 「まあそう言うリアクションだよな…。でも事実なんだ。俺は一度交通事故で死んだ。だがその後に神の手によって生き返らせてもらえたんだ」


 「え…あ…」


 加江須の言葉に自分の言葉が上手く出てこない黄美。

 こうして今も自分と普通に話をしている加江須が実は一度死んでいた。そんな事を言われても受け入れる事に時間がかかった、と言うよりも信じられないと言った方が良いのかもしれない。勿論彼女は最愛の幼馴染が嘘をつくなんて思ってはいない。ましてやこんな小学生ですら信じない様な馬鹿馬鹿しい嘘ならば尚更だ。しかし今もこうして普通に生存している加江須を前にしてしまうとどう受け入れるべきか分からないでいるのだ。


 「信じられないかもしれないが事実なんだよ黄美。とりあえず一度死んで生き返った…この事実をまずは一応信じてくれ」


 「……うん」


 少し戸惑ってはいるが他ならぬ加江須の言う事だ。少し時間がかかってしまったが納得をする黄美。

 そして彼女が納得してくれた事で話を先に進める加江須。


 「一度死んで俺たち転生者は生き返るわけだが…ただ蘇る訳じゃない。その際に神力と呼ばれる力を受け渡されて超人と化して蘇ったんだ。他にもその際に特殊能力も貰っている」


 そう言うと加江須は手のひらを真上にし、そこから炎を発現させる。

 

 「本当に手から炎が出ている…」


 黄美は加江須の発現させている炎を息を凝らすようにじっと見つめる。

 まるでテレビなどのマジックショーを見ている様に一瞬錯覚するが、彼のしている事には種も仕掛けもない。

 しばらく炎を灯し続けていたがソレを一度消す加江須。


 「……仁乃さんもカエちゃんみたいな力が有るの?」


 黄美が仁乃に尋ねると彼女は無言で手のひらから無数の糸を出して見せる。

 

 「転生した際にはクジ引きで必ず一人1つの能力が与えられるわ。私は糸を操る特殊能力を、そして氷蓮は氷を操る力を」


 「…ちなみに花沢さんは?」


 ここまで無言であった愛理が余羽はどんな能力を持っているのか興味本位から訊く。


 「わ、私はこの手で触れた物を修復する力が有るわ」


 「そう言えばその能力で私は助かったのよね。あの時はありがとう」


 体育祭でゲダツに腹部に大きな損傷を受けた仁乃は彼女の力で修復をしてもらった。しかしその際のお礼を未だに述べていなかったのでこの場で感謝を伝える。

 それに対して余羽は気にしなくてもいいと言って軽く手を振った。


 「(あまり体育祭での出来事は蒸し返さないでよ。もし彼にどうしてあの時に戦いに参戦しなかったのかを咎められたら嫌なんだからさ…)」


 そう思いながら余羽は横目で加江須の事をひっそりと見る。

 今は幼馴染に事情を説明する事で頭がいっぱいのようだが、あの恐ろしい力を持っている彼が体育祭で自分が高みの見物をしていた事を追求してきたらどう言い逃れすべきか分からない。


 「(もう…心臓痛い…)」


 そんな余羽の気苦労など知らずに加江須は黄美に話を再開し始めた。

 

 「それで俺たち転生者が神の持つ神力と呼ばれる力を貰ったのはゲダツと言う異形と戦う為だ。黄美と愛理も見ただろう。グラウンドに現れたあの化け物を…」


 加江須の言葉に二人は揃って頷いた。一度彼が死んだと言う事に関しては提示できる証拠はないが、グラウンドにゲダツが現れた事はこの二人もしかと自身の目で見ているのだ。こちらに関しては疑う余地はない。


 「ゲダツは人の悪感情から生まれる化け物でな。そのゲダツに襲われた人間に関する情報は消失する。二人はグラウンドで襲われた人物は見知らぬ他人だと思っているが実際は違うんだ。襲われたのは俺たち新在間学園の同じ生徒なんだ」


 今回出現したゲダツは亜種なのだが、今はその事は置いておいてゲダツに関しての基本的な情報を二人に話す加江須。

 話を聞き終わった二人はかなり驚いた表情をしていた。


 「じゃあ私たちの知らないところでそのゲダツに襲われた人が何人もいるって事? しかも襲われ人に関しての情報は全ての人間が忘れちゃうなんて…」


 黄美は驚きの真実に口元に手を当てて怯えた表情を見せる。彼女の隣に居る愛理は事前に話を加江須から聞いていた為そこまで怯えた様子はないが、それでも改めて非現実的な話を聞いて不安げな顔をしている。


 「実は俺のクラスにも犠牲者が1人居るんだ。でも誰もクラスから人が1人消えたその事実に気付いていない。クラスメイトも…担任の教師もな……」

 

 加江須の言葉に息をのむ黄美と愛理。まさか体育祭の前にも自分たちの学園で犠牲者が出ていたなんて……。


 その後も二人は加江須の口からまるでアニメや漫画の世界の様なこの世界の隠されていた事実を告げられるのであった。




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