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体育祭 悪感情はゲダツを育てて強くする

 

 怒涛のラッシュ攻撃でゲダツを瀕死の状態へと追い込むことが出来た加江須であったが、炎で全身を焼かれたゲダツは一度は倒れるが、その直後にゲダツの肉体は光り輝きだし、眩い光と共に復活したゲダツの拳が加江須の顔面へと勢いよく突き刺さった。


 「ぶあっ!?」


 鼻血を吹き出しながら先ほど以上に吹き飛んでいき、仁乃の隣まで背中を地面に引きずりながら滑って行く。


 「か、加江須大丈夫!」


 仁乃がしゃがんで加江須の身体を支えて上げる。

 鼻血を拭きながら加江須はゆっくり立ち上がると背中や膝の土を払ってゲダツを睨みつける。


 「俺なら大丈夫だ。殴られる寸前に顔面に神力を集中していたからな。それよりも……」


 加江須の視線の先には先程まで黒コゲであったゲダツがまるで何事も無かったかのように立ち上がっており、加江須の事を睨みつけていた。しかもただ立ち上がっただけでなく、加江須の負わせたダメージも綺麗に治っている。そして一番注目する点はゲダツの変貌した姿である。


 「アイツ…また姿が変わって…」


 先程と同様に身体が光り輝いたかと思えばまたしてもゲダツの肉体は変化していた。緑の肌は黒く長い体毛で覆われ、額に生えていた角も複数本生えておりもう完全無欠の化け物である。そして変化したゲダツの放つ気配の禍々しさも先程の倍以上に増していた。


 「うぐっ…!」


 吐き気すら催す気配に思わず仁乃は口元を手で押さえる。

 そんな彼女を庇うかのように加江須は仁乃の前へと壁の様に立ちはだかり、神力を一気に全開まで高める。


 「倒した矢先に強力な進化をしていく。不味いぞ……」


 現段階ではまだ自分の方が強いと思うのだが、もしここでヤツを倒したとしてもまた強くなって蘇ったらいずれは手に負えなくなる。しかしだからと言って何もしないわけにはいかない。

 どう対処すればいいのか判断に悩んでいると、ゲダツが加江須に指を差して口を開く。


 「オマエヲ…殺ス。生カシテ返サン」


 「なっ!?」


 ゲダツが少したどたどしくも、先程よりもハッキリと言葉を使いこなしている。

 

 「ちょっ…アイツまた喋ったわよ。それもさっきよりスムーズに…」

 

 「ああ…。蘇るたびに力や姿だけじゃない。どうにも知能も高くなっていっている気がする…」


 この時二人はゲダツが蘇るたびに姿を変えて行くのはあのゲダツの特殊能力かと思っていた。だが実際は少し違う。このゲダツの持っている能力は自己再生能力であり、蘇っても基本姿も力も変化はしない。

 もしも相手が普通のゲダツであれば自己再生能力をもっていても同じ力、同じ姿で蘇るだけであった。しかし今回、加江須と仁乃が相手にしているゲダツは元は普通の人間。それが嫉妬と言う悪感情を取り込みゲダツとなった。それ故にこのゲダツには人間としての思考が微かにあり、その結果ゲダツになる前、人間であった頃の加江須に抱いていた嫉妬心が未だに根強く残ってしまった。その加江須に向け続ける悪感情がゲダツの力を増大させて、その結果姿も力もドンドンと増強して行っているのだ。

 つまり…仮に加江須がゲダツを戦闘不能にしなかったとしても、ゲダツに変わり果てた今でも加江須に嫉妬心を残し続けているあの元人間はこのまま行けば更なる進化を遂げてしまうだろう。


 そして、加江須に嫉妬心、つまりは敵意を抱き続けているがゆえにこのゲダツの最優先事項は加江須の抹殺であった。


 「殺スゥゥゥゥゥゥ!!!」


 ゲダツは大きくジャンプすると加江須の真上まで跳び、そのまま加江須の事を踏みつぶそうとする。


 「ちぃッ!!」


 「危ない!!」


 真上から降って来た巨体をその場から飛び跳ねて避ける二人。

 ゲダツの巨体が地響きを鳴らしながら地面に着地し粉塵が舞う。そして着地と同時に加江須の方へ襲い掛かるゲダツ。


 「こんのぉ!!」

 

 仁乃が糸の槍を大量に作り出しゲダツの背に向け大量に射出する。

 しかし先程は背中に突き刺さった糸の槍だが今度は体毛で弾かれてしまう。


 「くっ、硬!?」


 諦めずに連続で放ち続けるがまるでダメージを通せず、ゲダツ背後から攻撃されながらも加江須へと突き進んでいく。


 「アイツ…何で加江須ばかり狙うのよ!!」


 思い返せば先程自分があのゲダツに背後から攻撃をしていた時もそうだ。背中に槍を突き刺されていた時もあのゲダツは振り向く事なく加江須へと一直線に向かって行っていた。


 まるで加江須に対して強い恨みを抱いているかのように……。


 加江須の傍まで接近して来たゲダツは彼に対して拳の雨を降らせる。

 

 「くっそ…どうする」


 攻撃を回避しながら加江須はどう対処すべきか悩んでいた。

 加江須の認識ではここでもしゲダツを倒せばこのゲダツはより強力になって復活をすると思っている。だが実際のからくりは違う、加江須に対して嫉妬心を持ち続けているこのゲダツはこのまま加江須に悪感情を抱き続ければ放っておいても強く成長してしまうのだ。


 「シネェ!!」


 ゲダツは自分よりもサイズの小さい加江須に剛腕を振るい続ける。

 耳元で風を切る音を聴き取りながら攻撃を避け続ける加江須であるが、このまま防戦一方ではいずれやられるだろう。仁乃の攻撃も今も背後から受け続けているにも関わらずまるでこたえてる様子もない。


 「(くそっ、どうする!!)」


 復活して強化される事を恐れて思うように反撃できない加江須であるが、今のこの瞬間にもこのゲダツは加江須に対して強い嫉妬心を抱き続けている。そして悪感情を高めれば高める程にこのゲダツの力は上がり続ける。


 「ウガアァァァァァァッ!!!」


 「しまっ!?」


 姿こそは変わってはいないが、ゲダツの力がまたしても増加し加江須のガードを力づくで崩す。そしてガードが破られた加江須の身体はゴムボールの様に何度も地面をリバウンドして転がって行く。


 「か、加江須!!」


 仁乃が加江須の身を案じて悲痛な大声を出す。

 急いで加江須の元まで駆けて行こうとするが、それよりも先にゲダツの方が動きをみせる。未だに転がり続けている加江須目掛けて地響きを鳴らしながら走って行く。


 「い、行かせない!!」


 仁乃が背後からゲダツの体を糸で幾重にも巻き付けて引っ張り足止めをする。


 「グギギ?」


 ちらっと後ろを振り返り一瞬だけ仁乃の事を見るゲダツであるが、すぐに視線を切ると加江須の方へとズンズンと歩いて行く。


 「ぐっ…と、止まれぇ…!」


 神力を全開にし最大限に足に力を籠めて踏ん張る仁乃であるがズリズリと引きずられる。

 しかし仁乃のお陰で加江須に追撃が加わることなく地面を撥ねていた加江須の体もようやく停止する。


 「いっつ…くそ…」


 立ち上がって腹部を押さえる加江須。

 腹部に鈍い痛みが未だに残り続け、気が付けば口からは血が零れ落ち吐血もしていた。


 「ごほっ…また力が上がった。復活するとパワーが増すと思っていたがどうにも違うようだな」


 ふと背後を振り向くとすぐ近くには意識を失っている大勢の生徒がいる。グラウンド中央から随分と飛ばされたようだ。


 「(不味いな、早く何とかしないと犠牲者が出かねないぞ)」


 そう思いながらゲダツに意識を集中し始める加江須であるが、ゲダツの体に糸が巻き付けられている事を今知った。どうやら追撃が来なかったのは仁乃が喰いとめてくれていたようだ。


 「でも何で…何で俺ばかりを狙う。まったく仁乃の事なんて見向きもしないじゃないか」


 先程から気になってはいたがあのゲダツはどうにも自分しか狙って来ていない気がする。今だって仁乃に糸で拘束され引っ張られているにも関わらずにあのゲダツ、自分しか見ていないのだ。いや、もっと言えば最初の犠牲者はともかく他に周辺に倒れている一般人にも手を出そうとしていないのだ。


 「(何で俺だけを…待てよ…)」


 そう言えばあのゲダツは元々は普通の一般生徒であった。そこからどういう仕組みかは定かではないが姿が変貌しゲダツと化したが…変貌する前はあの生徒、自分に対して強い嫉妬心を抱いて何度も絡んできていた。


 「まさか…だから俺ばかり…?」


 自分ばかりを狙い続けるあのゲダツの真意を考察する加江須であるが、すぐに頭を左右に振ってそれが今考えるべき事でない事を理解する。今最も優先すべきことはあのゲダツを退治する事だ。すでにもう1人の生徒が犠牲になっている、これ以上犠牲者を出すわけにはいかない。


 「(中途半端に瀕死に追い込んでもヤツは蘇ってしまう。ならば最大火力で一気に倒す! まだコントロールしきれていないが〝あの変身〟を使って一気に…!)」


 そう思いながら加江須はイザナミから貰ったもう一つの特殊能力を発動しようと意識を集中するが、目の前のゲダツは戦闘面だけでなく知能の方も上がっている事を加江須は見落としていた。

 仁乃に体を糸で巻かれていたゲダツは自身の体に巻き付いている糸を手繰り寄せると、そのまま糸を引っ張り仁乃の事を加江須の方へと放り投げた。


 「きゃあっ! どいて加江須!!」


 「な、なに!?」


 変身の為に意識を集中していた加江須も勢いよくこちらに飛んできた仁乃を避けきれずに二人は激しく衝突する。


 「ぐわっ!?」


 「きゃん!?」


 ぶつかってゴロゴロと転がる二人。

 立ち上がってすぐに変身しようと再び意識を集中する加江須であるが、加江須が起き上がった時にはもうゲダツは加江須の目の前まで迫っており右腕を振り上げている状態であった。


 「(コイツ…また速く…!)」


 加江須に抱き続けている嫉妬心がこのゲダツをどこまでも強くさせて行き、この時点でゲダツの力はもう加江須を僅かに超えてすらいた。その成長速度を見誤ってしまいゲダツの一撃がまともに加江須を襲おうと振るわれた。


 ――だがその時、加江須の体が何者かに突き飛ばされる。


 「え…?」


 自分が押し出された方を見てみると、そこには仁乃が両手を突き出して自分を突き飛ばしていた。


 「仁乃おま――」


 加江須が突き飛ばされた直後、ゲダツの振り下ろした腕が自分を庇ってくれた仁乃に直撃した……。




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