IF もしも仁乃が幼馴染だったら その2
仁乃が幼馴染だったらシリーズまた書いちゃいました!! こういう幼馴染…欲しいなぁ……。
「悪い悪い待たせたな!!」
「おーそーいー!」
日曜日の朝の10時を少し過ぎたころ、巨大なショッピングモールの入り口前に急いで駆け寄る少年の姿が1人確認できた。そしてその少年の姿が確認でき、入り口前で腕組をして不満げな顔で見ている少女も1人居た。
「はあ…はあ…お待たせ」
呼吸を乱しながら少年、加江須は走って来て乱れた呼吸を整えながら声を掛ける。
「何がお待たせよ。今もう10時23分。待ち合わせから20分以上も遅刻しておいてよく爽やかに『お待たせ』なんて言葉が出て来るわね」
パタパタと足裏を上下に動かし地面をせわしなく叩く少女、仁乃。
そのあからさまに苛立っている彼女を見て加江須は急いで頭の中で遅刻の理由を捏造しようと懸命に頭を働かせる。幾重にもありもしない遅刻の理由を千思万考する少年はその中でもっともありきたりな言い訳を選択した。
「実は目覚ましの電池が切れていてな、いやー悪い悪い。昨日セットしたのに今朝目を覚ましたら動いていなかったんだよ。いやー俺も焦ったよ、ははは…」
そう言って定番の言い訳を口にする加江須。何とも嘘くさい言い訳を口にしている自覚はあるが、証拠がない以上はこの嘘だって本当の出来事と思わせ、しいては納得してくれる可能性もある。
「ふ~ん…電池が切れていたんだ」
「そうそう、だから遅れた事は謝るから怒りを沈めてくれないか? じ、事故なんだしさぁ…」
加江須は一筋の汗を流しながらそう言うと、仁乃は少し不敵な笑みを浮かべ始める。
「おかしいわねぇ。私、昨日あんたの家に遊びに行った時にこっそりと取り換えておいたはずなんだけど。目覚ましの中の電池を新品の物へと」
「……え?」
仁乃の言っている事が理解できずに首を傾げる加江須。
昨日、加江須の家に訪れた際に彼に今日のデート場所を話している際、実は仁乃は目覚まし時計の電池を家から持参した新品の電池と交換しておいたのだ。
「昨日変えたばかりの電池が一日で切れるなんておかしいと思うんだけど?」
「な、何で俺の部屋の目覚まし時計の電池なんて変えているんだよ!?」
あまりにも予想外の行動に加江須が声を出して驚いていると、彼女は途端に冷めた目をしてその理由を語り始める。
「これまで様々なパターンであんたが遅刻した時に使う言い訳のパターンの中でコレがもっとも多かったから。目覚ましが壊れただの、セットし忘れただの、今回みたいに電池が切れていただのと…ね…」
「あ、あはは…自分で思っていた以上にこの手の誤魔化し方を使っていたのね俺は……」
「そーゆーこと♪」
そう言いながら仁乃はさわやかな笑顔と共に加江須の頬へとゆっくりと両手を伸ばし始めたのであった。
◆◆◆
「いづづぅ…あんなに本気で引っ張らなくても」
遅刻の罰として両頬を思いっきり左右に引っ張られた加江須。
彼の頬は真っ赤になっており、そんな彼の前では仁乃がいちごパフェを突っついていた。
「自業自得よ。それくらいで許してもらえてるんだからありがたく思いなさい」
「この苦痛プラス今スイーツを奢らされてるけどな…」
ショッピングモールの中へと入ると加江須は罰として店内のスイーツ店でパフェを奢らされる事となった。
予想外の出費に少し不満を覚える加江須。とは言えそもそも自分に非があるのだ。遅刻して自分の彼女を待たせてしまった罰として受け入れる事とする。それに……。
「ん~~~♪」
リスの様にパフェを頬張りながら幸せそうな顔をしている仁乃を見ていると思わず和む加江須。この笑顔を見れただけでも奢った甲斐があると思えた。
「あっ、クリーム付いてるぞ」
「ひあっ」
注意をしながら加江須は仁乃の頬に付いている生クリームを指で取ると、それを自分の口に入れて舐めとる。それを対面で見ている仁乃は顔が一瞬でゆでだこの様に真っ赤に染まる。
「な、何してるのよもう…」
「いいだろ、俺たちもう恋人同士なんだからさ」
加江須がニカッと口元に笑みを浮かべてそう言うと、仁乃はうーっと小さく唸って手元のパフェを一気にかき込んだ。
「んぐんぐ…ごちそうさま!」
口元のクリームをテーブルに備え付けてある紙ナプキンで拭き取ると、彼女はそそくさと店を出て行く。
「…ちょっとからかいすぎたかな」
だがそう思いながらも仁乃のああいった仕草も少し可愛いと感じる加江須。
机の上の伝票を手に取りレジへと向かう加江須。その姿を入り口の窓ガラスから眺めている仁乃は指をモジモジと合わせながら彼が出て来るのを待つ。
「もう…付き合ってからは何だか積極的になったわねあのバカ」
加江須と交際を始めたのは今から一週間前になる。
幼馴染として近い距離であった二人、そんな関係を心地よくも同時にもどかしく感じていた仁乃。しかしどちらかと言えば天邪鬼な性格をしている自分は素直に好きと言えずに日々を過ごしていた。しかし好きだと言う事実を告げる事は出来ずとも、彼に対して中々積極的な事はしていた。朝は家までおこしに行ったり、お弁当を作ってあげたりと……。
そして加江須もまたずっと自分と一緒に居た仁乃に対して好意を無意識化に抱いていた。しかし鈍くさい彼はその事に気付かず、彼女の事はずっと仲の良い友人として見ていた。
しかし彼が自分の中の仁乃に対して抱いている感情の正体を知ったのは一週間前の事であった。
いつも一緒に下校している仁乃がその日は教室からそそくさと出て行き、様子のおかしな彼女を気にかけて後を付けた加江須。そこで彼は校舎裏で他クラスの男子に呼び出されて彼女が告白されている現場を目撃した。その告白に関して仁乃は頭を下げて断っていたが、その光景を見た瞬間に加江須はようやく仁乃に抱いている自身の気持ちを完全に理解した。
――いやだ、仁乃を俺以外の男に奪われたくない!!!
そう思った瞬間、彼は告白した男子が立ち去った後、1人になった仁乃へと駆け寄り彼女の目を見て自分の素直な想いをぶつけた。
『好きだ仁乃!! 俺の恋人になってくれ!!!』
加江須からの完全な不意打ちの告白にこの時の仁乃はショートして倒れてしまったが……。
「あんないきなりの告白なんて…でも……」
仁乃は告白時の加江須の真剣な瞳を思い出すと頬に手を当てて嬉しそうに笑った。
自分の大好きな少年が偽りのない真っ直ぐな瞳で自分に好きだと言ってくれた。その思い出は彼女にとって掛け替えのない愛しい記憶。そして勿論、恋人同士となった今の時間だって……。
「お待たせ、会計すんだから次行こうぜ」
支払いを終えた加江須が店から出て来て仁乃に話しかける。その際に彼女のどこか嬉しそうな雰囲気に首を傾げる。
「どうした、何か嬉しそうだな?」
「へっ、べ、別に!」
何でもないと手を振って誤魔化す仁乃。
少し不思議そうに思いつつも大して気にもしておらず、彼女の手を掴んで加江須は歩き出す。
「ほら次、確か映画行くんだろ。それがメインだし」
「う、うん…」
加江須に手を引かれてショッピングモール内にある映画館へと向かう二人。元々このモールに来てメインにしていたのは最近人気とされている映画を二人で見る事であり、まだ放映時間に余裕があるとはいえ良い席を確保するために早めに移動を開始する。
「(…あったかいな)」
加江須に手を引かれながら彼の温かな体温を感じ取る仁乃。
付き合いだしてから随分と加江須が積極的になったのだが、それを迷惑には全く思わずむしろ心地よくすらある。何より、まだただの幼馴染と言う関係から抜け出せていなかった仁乃としては今のこの状況をずっと望んでいた。
目的の映画館に到着した二人、今回は仁乃が観たいと言った恋愛映画を観るつもりで普段なら加江須は興味がないのだが、自身の彼女が観たいと言うならば喜んで付き合う所存だ。それに…恋人同士で恋愛映画を見ると言うのも少し楽しみであった。
「よし、良い席確保できたぞ。飲み物でも買っていくか?」
「じゃあオレンジジュースでも…」
飲み物を購入して目的の映画が上映される5番スクリーンへと入って行く二人。中に入るとすでにそれなりの数の客が入場していたのだが、その客層を見て少し驚く二人。
恋愛映画という理由からなのか、入っている客層は加江須や仁乃と同じカップルが多かった。
「へぇ…カップル多いな」
「そ、そうね」
指定された席に並んで座り二人が周囲の客層を見てカップルが多い事を確認していると、急に仁乃が勢いよく視線を床に向ける。
「……?」
突然の彼女の行動に加江須が不思議そうにする。よく見たら彼女の顔は赤くなっており、気になって彼女が先程まで見ていた方角に視線を向けるとそこには他のカップルが座っていたのだが――
「(あ…そう言う事か…)」
加江須の表情はあまり変化していないが彼女が何を見て赤くなったのか理解した。
「(たくっ…大胆な奴らだな。こんな場所でキスとは…でも…)」
公共の場で堂々とキスをしているカップルに少し呆れるが、しかし同時にそのカップルの行為を羨ましく思った。
「……」
ちらっと隣で座っている仁乃を見つめる加江須。そして彼の視線は無意識に彼女の唇へと向かって行く。
「あっ、もうすぐ始まるわよ」
「…ああ」
シアター内が暗闇となり目の前の巨大スクリーンに映像が投影される。
こうして映画が上映されて二人の視線は目の前のスクリーンへと集中されるのだが……。
――ぎゅ……。
暗闇の中で今度は仁乃の方が加江須の手を握り、その柔らかな手を加江須も握り返した。
「(うぅ…勢いで手を握っちゃったけど…ドキドキして来たわ)」
「(仁乃の方から手を…やべっ、気になって映画に集中できん!)」
二人は互いにドキドキと鼓動音を激しく鳴らしながら視線こそはスクリーンへと向いているが、隣の相手の行為に内心では緊張しすぎて映画の内容があまり入ってこなかった。
◆◆◆
目的の映画を観終わった二人はショッピングモール内にあるゲームセンターの近くのベンチに腰かけていた。
「まぁ、中々面白かったな」
「そ、そうね…」
映画の内容は甘酸っぱい恋を題材としており、主人公の少年が幼馴染の少女と近い距離に居て両想いなのだが中々結ばれず、しかし最後は主人公の少年が少女に想いの丈をぶつけ、ラストにキスを交わして終わる少しありきたりなものであった。だが何だかその映画に登場すメインの二人が他人の様に思えなかった。
「でも何だかあの二人、俺たちにそっくりじゃなかったか?」
「え、そ、そう?」
「そうだろ。凄く近くに居るのに中々結ばれずもどかしい日々を送りつつも、最後は少年の告白で遂に結ばれる二人。少年の方から告白するところまでそっくりだっただろ」
「そ…そうね…」
「でも…一つだけ違う部分もあったよな」
加江須はそう言うと仁乃の手の上に自分の手を重ねて置いた。
「映画のラストシーン…まだ俺たちしてないよな」
「え、ラ、ラストシーンって…」
仁乃は先程見た映画の最後のシーンを思い返し、加江須の方を一瞬だけ見るが、すぐにあからさまに照れて伏し目になる。
すると加江須は仁乃の手を優しく掴むと、本当に消え入りそうな声で自分の正直な想いをぶつける。
「……俺も映画みたいにしたいな…仁乃と……」
「……え?」
仁乃はゆっくりと瞳を加江須へと向けるが、今度は彼が視線を地面に落としており仁乃と目を合わせない、と言うより合わせられなかった。自分が我ながら大胆な発言をしてしまったと少し後悔しつつあったが、そんな彼の手を仁乃は強く握り返すと、そのまま強く加江須の手を引いて勢いよくベンチから立ち上がる。
「仁…仁乃? どうした?」
もしかして怒らせてしまったかと不安を感じる加江須であるが、彼女は加江須の手を握ったまま人気の無いエリアまでずんずんと歩いて行く。
「ちょちょちょ…どうしたんだよ仁乃。もしかして怒らせちゃったか?」
「いいからついて来る」
そう言いながら仁乃は加江須を引っ張って行き、モール内の人がほとんどいない場所を見つけると、その付近に建っている大きな柱の陰へと隠れる。これで二人の姿は周囲に居る人間の視線からは遮られる。
「仁乃…?」
「…いいわよ」
仁乃は一言そう言うと目をつむり、すっと加江須に自らの唇を近づける。
「え…その…マジで?」
「人の目がない場所ならしてあげる。それに…私も加江須とそう言う事をしたい気持ちはあるんだから…。加江須は…したくない?」
閉じている瞼を開き、少し潤んだ瞳で自分を見つめる恋人を見て出て来る答えなど決まっている。
「…したい」
そう言うと加江須と仁乃は互いにゆっくりと顔を近づけ――二人の唇が一つに重なりあった。
今後もIFシリーズは出すかもしれません。主人公がこのキャラとこういう関係だったら…と言うリクエストがあれば教えてください。




