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白髪の少女


 「グギャアアアアアッ!!!」


 奇声を上げながら狐の様なゲダツは9つの尻尾に黒炎を宿しソレを鞭の様に加江須目掛けて次々と振るっていく。炎を宿している尾をゲダツの様に拳に炎を纏いソレを拳で弾いて行く加江須。

 尻尾の連撃を全て弾くと逆に加江須の方がゲダツの腹部へ拳のラッシュを叩きこんでやった。


 「ドラアァァァァッ!!」


 雄叫びと共に炎の拳を連続で叩きこんだ加江須だが、叩きこんだ拳からはまるで岩でも叩いているかのような感触が手に残った。


 「……大して効いてねぇなこりゃ」


 吹き飛んだゲダツを眺めながら加江須が殴った自分の拳を見て呟いた。

 加江須の言っている通り吹き飛ばされたゲダツは何事も無いように立ち上がり、頭をブルブルと振って低い唸り声を牙の間から漏らしている。


 「頑丈な身体してるぜ、たくっ…」


 拳をポキポキと鳴らしながら構えを取る加江須だが、相手のゲダツも目の前の少年が先程まで戦っていた少女とは違い一筋縄ではいかない事を本能で察して迂闊に飛び込んでこようとはしてこない。


 「それなりに知性があるのも考え物だな。見境なく突っ込んで来る獣の方がやりやすい事もあるのによ…」


 警戒して距離を詰めてこないゲダツに対してそう口にする加江須。

 どう攻めるか思案していると彼の隣に今まで後ろに下がっていた氷蓮がやって来て隣に立つ。


 「こっからは俺も参戦させてもらうぜ加江須。アイツの炎とは相性がわりぃが注意を引く事は十分可能だ。俺が引き付けっからその隙にデカい一撃をお見舞いしてやれ」

 

 「よし、じゃあその策で行くか」


 そう言うと加江須は右腕に神力を一転集中して氷蓮より数歩後ろに下がり、氷蓮が陽動の準備に備え始める。


 「さて、じゃあ行くぜ加江須」


 「ああ、いつでもいいぞ」


 二人は顔を見合わせて頷き、そして最初にゲダツの注意を引くべき氷蓮がゲダツ目掛けて攻め入ろうと1歩踏み出した。


 ――だが次の瞬間、ゲダツの首が真上へと飛んだ。


 「なっ!?」


 突然首が斬り飛び断面から大量の赤い噴水をまき散らすゲダツに突撃しようとしていた氷蓮の脚がその場で止まる。

 後方で待機していた加江須は突然の異常事態に氷蓮を庇うかのように彼女の前へと出て警戒心を最大まで引き上げ構えを取った。


 上空へと跳ね跳んだゲダツの首はドンッと言う重量感のある音を立てて墓地へと転がり、その首を失った巨体はそのまま後ろに倒れ込んで行く。

 前方の視界を覆っていたゲダツが倒れ込むとそこには刀を持った一人の少女が立っていた。


 「……誰だ」


 加江須は氷蓮を自分の背で隠し目の前で佇んでいる少女を睨みつける。

 

 今のゲダツは間違いなくあの少女によって首を切り落とされたと見て間違いないだろう。一瞬だけだがキラリと刃物の光がゲダツの首をなぞった光景は加江須も見ていた。


 「……」


 少女は無言のまま僅かに刀の腹に付着していた赤い血を手のひらで拭い、ソレを勢いよく地面へと振り落とす。

 地面に赤い血が落とされると同時に絶命したゲダツの分離された首と身体が光の粒となり消えて行き、後に残ったのは一人の少年と二人の少女だけとなった。


 「……空に溶けて行きましたね」


 光の粒となり空へと溶けて行ったゲダツの行方を目で追いながら少女は小さな声でそっと呟いた。


 その少女はまるで白い雲を連想させるような白髪の長髪を靡かせ、まるでルビーの様な赤い瞳をしていた。たった今口から零れた声色はとても澄んでおり、仁乃にも負けず劣らずの自己主張をする腹部とスラリとした脚。まごうことなき美少女である。

 しかし相手の容姿がどれだけ美しかろうと加江須には何の関係もない。たった今異形の首を切り落とした目の前の少女は敵かどうかすら分かっていないのだ。何より気になるのは彼女の服装が自分と同じ制服姿である事だ。ただし彼女が身に纏っている制服はウチの学園の物ではない。


 「おいてめぇ、何とか言ったらどうなんだよ」


 加江須に続いて氷蓮も目の前で髪をかき上げている少女を威嚇するかのように低い声色でその正体を尋ねた。

 

 「……」


 謎の少女は手に持っている刀を地面に突き刺すと一切焦りを感じさせない落ち着いた口調でようやく加江須たちと会話を開始し始めた。


 「そう警戒しないでください。私は少なくとも貴方方の敵ではないのですから」


 そう言うと彼女はもう一度自らの長い髪をかき上げる。


 「そちらの男性の貴方、その制服は確か新在間学園の物ですよね。私は神正(しんせい)学園2年生の武桐白(ぶどうはく)と言うものです」


 ペコリと頭を下げて自己紹介をする彼女に少し拍子抜けとなる加江須と氷蓮の二人。

 得体のしれないと思っていた相手から頭を下げると言うオマケつきで丁寧に自己紹介をされるとは思っておらず、どう返したものかと二人は互いに顔を見合わせる。

 しばし考え込むかのような表情で加江須と氷蓮は互いを見つめ、先に加江須の方が小さく頷いて自分も挨拶を返す。


 「俺は新在間の2年、久利加江須だ。そして隣に居る彼女は黒瀬氷蓮――二人とも転生者だ」


 「ええ分かっています。私も転生者ですから」


 そう言うと彼女は刀を地面から引き抜いた。すると地面から抜いた刀は彼女の手の中からまるで初めから何も無かったかのように一瞬で消えた。

 突然手に持っていた刀が消えた事から氷蓮が少し警戒した様な顔つきになり、加江須はその光景を見て冷静に彼女の能力を分析しようとしていた。


 「(物を消す能力? それとも何か別の……)」


 加江須が相手の少女の能力について考えていると対面に居る少女、白は加江須と氷蓮へと語り掛けて来た。


 「私は先程この付近でゲダツの放つ邪悪な気配を感じ確かめに来たのです。するとこの墓地で貴方方が既に戦闘を行っている現場を目撃し加勢した次第です」


 「それは…まあ正直助かったよ」


 ここまでの会話の流れで少なくとも敵ではない事は分かった加江須は彼女に向けていた警戒を解く事にする。氷蓮の方はまだ多少警戒している様であるが敵でないことは理解でき無意識に高めていた神力を抑える。

 相手の白と名乗った少女も加江須たちが自分に多少は気を許した事を確認すると更に話を続ける。


 「私は家庭の事情でこの焼失市に最近引っ越しをして来たばかりで〝この消失市内〟で自分以外の転生者と出会うのは今日が初めてなんです。ですので貴方達に少し確認しておきたいことがあるのですが……」


 「確認したい事?」


 加江須が聞き返すと白は一度頷き、その内容を口にする。


 「以前私が在住していた町では転生者同士の縄張りの様な物が設けられていましてね、この消失市でもそのような区分けは存在するのでしょうか?」


 「いや…そんな話は知らないが。なぁ?」


 加江須が隣に居る氷蓮へと確認に意味を込めて尋ねる。自分よりも転生者として日数の長い彼女の方がそう言う事は詳しいのではないかと思い訊いてみると彼女は頷いて答える。


 「ああ、少なくとも俺は転生者の間でそれぞれ縄張りを決めているなんて話は聞いたことがねぇな。それに縄張りも何もそもそも転生者だって数える程しか居ねえんだからよ…」


 「なるほど…それは私としても大変ありがたい事です」


 この消失市にそのようなルールが存在しない事を知った白はどこかホッとした様な顔を見せる。


 「…武桐だったな。今の質問から察するにここに引っ越してくる前までは転生者同士の間でいざこざでもあったのか?」


 「ええありましたよ」


 加江須の疑問に対して白は間髪入れずに即答で答える。


 「私の元居た町では数は少ないものの皆が願いを叶える為に自分が1体でも多くゲダツを討伐しようと躍起でしたから。ときには転生者同士の殺し合いだってありましたよ」


 「な…殺し合い…?」


 白の口からあまりにもさらりと出て来たワードに思わず言葉が喉に詰まってしまう加江須。

 転生者とゲダツとの殺し合いが頻繁にあったと言うならばわかる。だがまさか転生者同士の殺し合いが彼女の元居た町で繰り広げられていたとは予想の斜め上であった。


 加江須だけでなく、隣に居る氷蓮も白の言葉には驚いていた。確かに自分も願いを叶える為に戦っている部分もあるが、少なくとも転生者を殺してまでゲダツ討伐を独占しようとは考えてはいないからだ。


 「随分とお前の住んでいた町の転生者達は血の気が多かったんだな。他を殺してでも願いを叶えたいかよ…」


 氷蓮は吐き捨てる様に言うと、白は疲れ切った様な溜息を吐き大いにその言葉に同意した。


 「ええそうです。元々はゲダツを倒す為に手に入れた力だと言うにも関わらず私の町の転生者達は報酬の願いに目がくらんで…浅ましい限りでしたよ」


 「な、何か随分と苦労して来たんだな」


 白のどこか憔悴している表情を見て少し同情的な言葉を掛けてしまう加江須。

 だがこの次に出て来た白のセリフに加江須は思わず息をのんでしまった。


 「ですが願い欲しさに他の転生者を蹴落とそうとする方たちの方がまだ理解できましたがね。単純に願いではなく――転生者同士で殺し合いをしたいがために勝負を仕掛ける〝彼女〟に比べれば……」


 「え…彼女? 誰の事を言ってるんだ? それに殺し合いをしたいがために…?」


 加江須が白の口からでた物騒な理由で戦いを仕掛ける〝彼女〟とやらの話に少し戸惑いを見せると、彼女はかつて自分の住んでいた町に居た1人の悪魔について語り始めた。


 「そうですね。もしかすればこの消失市にも彼女が現れるかもしれないので軽く説明でもしますか」


 彼女はそう言うと自分がかつて住んでいた町、そこに住んでいた1人の転生者について話し始めた。


 白が元々住んでいた町では彼女以外の転生者が複数人居た。それらは年齢も違えば性別も違い、学生や社会人など多種多様な転生者が居た。だが彼女と同じ学園に自分と同年代の転生者が1人存在したのだ。そんな彼女は一言で言うのであれば戦闘狂と言っても過言ではない性格であった。同じ学園の転生者同士と言う事もあり彼女とは何度か共に行動し、そしてゲダツと戦って来た。


 「…ですが、戦いの中で私はいつも見ていました。ゲダツの返り血を浴び心の底から命がけの戦闘を楽しむあの歪な笑顔をね。その都度、内心では恐怖を抱いていましたよ」


 そして、その少女の戦いに対する欲求は次第にゲダツだけでは抑えが効かなくなり、とうとう彼女は一線を越えてしまう出来事を起こしてしまった。




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