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またライバルが増えてるんだけど…


 自分の正体が転生者であることが愛理にバレた加江須であったが、それから特に彼の日常が取り立てて変化した事はなかった。愛理の方も加江須との約束通りこの事実を誰にも話しておらず、話を聞いたその日以降も特に愛理の方からこの手の話題の話を振ってくることもほとんどなかった。このことに関しては仁乃も意外と思っており、もっとグイグイと質問攻めにされると思っていたので少し拍子抜けに思っていた。もちろん無関係の彼女を巻き込みたくないので加江須も仁乃もありがたかったが。


 ただ、あの日以降日常の中で少し変化した部分もあった。


 学園の屋上では加江須と仁乃と黄美、そしてあのストーカーの1件以降に愛理が加わり4人で昼食をとるようになっていた。


 「はい加江須君、今日は私が作って来たから♪」


 「ああ、サンキュー。本当に悪いな」


 愛理が家で用意して来た自作の弁当を加江須へと手渡していた。

 その光景を傍で見ていた仁乃は少し不満げな顔で二人を見ていた。


 「(もう…何で愛理さんまであのバカにお弁当を作ってくるようになったのかしら…)」


 あのストーカー事件以降に愛理も3人の輪の中に加わり一緒に行動を共にする機会があからさまに増えたのだ。しかも仁乃と黄美が弁当を加江須に作っている事が分かるとこう言いだしたのだ。


 ――『じゃあ私もローテーションで加江須君にお弁当作ってあげるよ。ストーカーの1件で助けてくれたお礼もかねてね♪』


 ちなみに黄美はストーカーに愛理が襲われた話を彼女本人から聞いてはいるが、加江須が転生者である事は約束通りに伏せられている。

 

 「しかし何だか悪いな3人には。こうして弁当作ってもらって」


 「私は別に…それに助けてもらったお礼なんだから気にしなくて良いって。何なら黄美と仁乃さんの分も私が作ってもいいけど?」


 「「それはダメ!!!」」


 愛理が1人でトントン拍子に話を進めていたがソレを聞いていた二人が勢いよく喰いついてきた。


 「わ、私は元々作ってあげるって約束していたからソレを反故する訳にもいかないわ!!」


 「私だって幼馴染としてカエちゃんの偏った昼食の栄養問題を無視はできないわ!!」


 「あ、そ、そう…」


 予想以上に食い込んできた二人に少し圧倒される愛理。

 しかし仁乃はともかく今まで加江須の事を随分とボロクソに言っていた黄美がこうまで性格が豹変した事は愛理も改めて少し驚くものがある。確かに和解はしたのだろうがこうまで見方が変わるものなんだなぁっと思った。


 「(それだけこの幼馴染クンの事が好きで好きでたまらないんだろうなぁ。まあ和解後は私にも彼に対して好意を抱いている事を一切隠していないしなぁ…)」


 しかし不思議な物であった。今までは黄美や仁乃さんが加江須君の事を好きでいる事に対して特に何かを抱く事なんてなかったのだが、彼が自分の事をストーカーから救い出してくれたあの日以降から黄美や仁乃さんが彼を好きでいる事を素直に認めたくはない自分が居た。今だって自分も彼にお弁当を順番こで作ってあげる約束まで取り付けているのだから。


 「(いや…そんな理由なんて本当はもう分かっているんだけどね…)」


 愛理は横目で自分の作ったお弁当を食べている加江須を見た。

 自分が作って来たお弁当を美味しそうに食べてくれるその様子を見るととても嬉しかった。


 「(私も黄美や仁乃さんと同じ…彼の事が好きになっちゃったんだろうなぁ…)」


 自分でそんな事を考えると無意識に頬が朱色に染まる。

 愛理の赤くなった頬、そして何より彼女の見せる表情を見ていた仁乃と黄美は互いに顔を寄せ合い小さな声で囁き合う。


 「ねえ黄美さん、もしかしなくても愛理さんって加江須の事を…」


 「うん、間違いないと思うわ。愛理もきっと私たちと同じでカエちゃんに対して同じ想いを抱いていると思う」


 意識されている加江須本人は未だに気付いていないのかもしれないが仁乃と黄美には愛理が彼に対して自分たちと同じ気持ちを抱いている事は丸わかりであった。


 「(もう…またライバルが増えちゃったじゃないのよ…)」


 仁乃は自分の気持ちなど露知らずな感じで昼食をとっている加江須に内心で疲れ切ったように嘆息した。

 しかし一方で黄美はライバルが増えた事に対してはそこまで危機感を抱いてはいなかった。


 「(愛理もカエちゃんの事が好きだとしたら…これはこれでチャンスなんじゃないかしら? もしも私を含んだ3人の女性に告白されれば選ばれない娘が2人も出る。そんな悲しい思いを複数人にさせたくないなら3人全員と付き合って欲しいとお願いすれば……うふふ……♪)」


 何やら独りでに怪しげな表情をする黄美を見て加江須と愛理が不思議そうな表情をするが、隣で見ていた仁乃は彼女が何を考えているのか大体察した。


 「(まさか黄美さん、愛理さんも含めて全員で加江須の彼女になれば万事解決…なんて考えてないでしょうね)」


 今仁乃が頭の中で考えているそのまさかである。

 

 「(もう、なんだかこの先も更にライバルが増えそうで不安だわ…)」


 この時はあくまで何となくと言った気分でそのような事を考えていた仁乃であったが、実は彼女のこの懸念は見事に的中する事になるのだがそれはまたこの先の出来事であった。




 ◆◆◆




 放課後になり加江須はいつも通りにパトロールへと繰り出していた。

 ちなみに仁乃は愛理と少し話し合いたい事があると言い学園に残り今日のパトロールは加江須だけに任せている。仁乃だけでなく黄美も少し愛理と話がしたいと言っていたから女同士で何か話し合いたい事があるのだろう。男の自分が居ても野暮だと思い大人しく独りで下校した加江須。まさか彼女達が自分に対して好意を向けている事に関しての議題で話をしているとは夢にも思っていたなかった。


 学園を出てからしばしパトロールをしていると加江須は不意に足を止めた。


 「(……少し遠いが感じるな。ゲダツの気配を……)」


 加江須が現在立っている場所から見て北東の方角、そこからゲダツ特有の嫌な気配を感じ取る事が出来た。

 

 「…行くか」


 周囲を見渡して人の目が無い事を確認すると加江須は邪悪な気配漂うその場所を目指して一気に跳んでいった。




 ◆◆◆




 加江須が気配を感じたのは多くの者達が眠っている墓地であった。

 そこでは転生者である1人、氷蓮がゲダツと交戦を繰り広げていた。


 「喰らえ!!」


 大量の氷柱を展開して一斉射出して攻撃を繰り出す氷蓮。

 彼女の飛ばした氷柱は前方の二足歩行で立っている狐の様なゲダツへと向かって行くが、ゲダツの体に氷柱が突き刺さる直前にゲダツの全身から黒い炎が身に纏われ氷柱は一瞬で溶けて水と化す。


 「ぐっ、マジかよ…!」


 氷蓮は冷や汗をかきながら目の前の化け物を見つめる。

 自分が今戦っているゲダツは黒炎を操る力を持っているゲダツらしく、その黒い炎は自分の持つ能力と相性が最悪であった。自分の放つ氷雪系の能力を操る攻撃はあの圧倒的な熱量で全て溶かされて無力化されてしまうのだ。


 どう攻撃をして切り崩すか必死に思案する氷蓮であったが、彼女にそんな思考をさせぬかのようにゲダツは自らの尾を氷蓮へと勢いよく振り下ろす。


 「ちぃッ!!」


 背後にジャンプして真上から叩きつけて来た尻尾を躱す氷蓮であるが、ゲダツから生えている尾の数は全部で9本もあり次々と行きつぐ暇もなく複数の尾が連続で叩きつけられる。

 

 「ちきしょうがッ!!」


 氷蓮は氷で形成した氷壁を展開して降り注ぐ尾の連撃をガードするが、氷の壁を叩いているゲダツは唸り声をあげると9本の尾に黒炎が纏われ尻尾が激しく炎上する。

 炎を纏ったゲダツの尾は1撃で氷壁にヒビを入れ、2撃目でいともあっさりと破壊した。砕かれて炎で溶かされた氷壁の水が氷蓮の頬へと跳ねる。


 「この、野郎!!」


 氷蓮は両手で氷の剣を形成し、鞭の様に振るって来ている尻尾を切り裂こうとするが尻尾と氷の剣がぶつかり合ってもものの数秒で剣の方が溶けてしまう。

  

 「くそ、相性悪過ぎんだろ!!」


 悪態をつきながらもう片方の氷剣をやけくそ気味にゲダツの顔面へと投げつけるが、飛んできたその剣を手でペンとハエでも払うかの様に弾くゲダツ。

 そのまま炎を纏った尻尾を勢いよく氷蓮へと振り下ろす。


 「やべっ!?」


 今までよりも一段階速い速度で振り下ろされた尾の攻撃に少し回避するタイミングがずれる氷蓮。なんとか直撃こそは避ける事が出来たのだが、すぐ傍で振り下ろされた尾は地面に大きな衝撃を与えて大量の石礫が飛んでくる。


 「ぐっ、いてっ」


 衝撃で飛ばされてきた砂利や石が頬を叩き少し顔を歪めるがゲダツの直接攻撃に比べればまだマシだ。すぐに大量の氷柱を展開して射出するが、相手も相手で煩わしくなったのか大口を開けると一気に口からどす黒い炎を吐いてきた。

 

 ゲダツの放つ火炎放射は自分に向かってくる氷柱の群生を一瞬で飲み込み蒸発させ、そのまま氷蓮まで伸びて行く。


 「ぐうぅぅぅぅぅ!!」


 巨大な氷壁を形成して何とか受け止める彼女であるが、氷の壁はみるみる内に溶け出していく。だが溶けて行く傍から氷蓮は神力を壁に送り込んでまた壁を形成し直す。しかしこのままでは完全なジリ貧、いつかは自分の体力も底をつきこの壁も突破されてしまうだろう。


 「(くそ…マジでやべぇぞ…)」


 壁に神力を送りながらどうすればいいのか必死に思案するが、そこまで賢くもない自分のおつむは良い妙案を思いついてはくれない。


 「ぐ…そろそろヤバいか…」


 氷の壁に神力を送り続けるが、ゲダツの火炎の威力は自分が壁を張り直す速度よりも炎で溶かされる速度の方が上回りジワジワと追い込まれていく氷蓮。

 そしてとうとう壁にヒビが入り始め、歯を食いしばって苦い表情をしていた瞬間――ゲダツの身体が大きく横へと吹き飛んでいった。


 「そこまでだ狐擬き」


 そこには炎を拳に宿した少年が拳を突き出した状態で空中から地上に着地した。


 「か、加江須…」


 「よっ、待たせたな」

 

 ニカッと笑いながら加江須は氷蓮へと一度微笑むと自分が吹き飛ばしたゲダツを見つめて言った。


 「頑張ったな。後は任せろ」

 

 「え…あ、ああ…」


 頼もし気な加江須の表情を見て氷蓮は大人しく頷く。その際に彼女は自分の胸を無意識に押さえていた。


 「(ま、またアイツの頼もしそうな顔を見てドキドキしてやがる。くそ、調子狂っちまうぜ……)」 


 先程まで危機的状況に焦りを見せていた氷蓮の顔は今は目の前の少年にときめく乙女の様な表情へと変わっていた。




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