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口を滑らせる間抜けストーカー


 「お、お前何でここに居るんだよ!?」


 公園内に男の驚愕に満ちた声が響き渡る。

 石銘板に背を預けていた加江須は背中を離しゆっくり男の方へと歩きながらネタ晴らしを始める。


 「別に大した事なんてしていないさ。俺も何度か気味の悪い視線を感じていたからな。そして愛理もここ一週間得体のしれない視線に悩まされていた。愛理からの話を聞いて俺が視線を感じていたのは彼女と一緒に居た時だったからな。もしかして同一犯なんじゃないかと思ったんだよ。まあ、向けている視線の意味合いは俺と愛理じゃ違うだろうがな」


 そう言うと加江須は拳をボキボキと鳴らしながら話を続ける。


 「愛理と喫茶店でお前を捕まえる為の作戦会議を軽くしていたんだよ。まあ簡単に言えば二重尾行ってやつだ」


 実は喫茶店内で加江須が先に店を出たのは目の前の男を見つける為であった。愛理を残して先に店の外に出た加江須は目の前のコート男と同様に物陰に隠れて様子を窺っていたのだ。

 自分の後に愛理が喫茶店を出た後、彼女の後を露骨につける怪しげな風体の男が一定の距離を保ちつつ愛理の後をつけていたので発見するのは容易であった。男の方も愛理の事ばかりを見ていたので背後から尾行していた加江須の事など気にもしなかったのだ。


 加江須は男の前まで近づくと、不敵な笑みと共に目の前で狼狽えているストーカーに対して強気に告げる。


 「どうだった? 背後からいきなり声を掛けられる気分は? お前がずっとその娘に対して行っていた行為だ」


 「ぐ…」


 加江須が1歩近づくとソレに合わせて後ろに1歩後退するストーカー。


 「さて、話してもらおうか。お前が愛理の後をつけていた理由や俺を恨めしそうに見ていた理由をな。まあ大体は想像つくが…」


 加江須が男を睨みつけながら追求すると、観念したのか男はフードを脱ぎ捨てサングラスを剥ぎ取り逆上し始める。


 「お前が俺の天使の傍をブンブンとウロチョロするから悪いんだよぉ!! この公園の前で俺に微笑んでくれた天使をお前が独占しようと近づくからよぉ!!」


 醜い理由と共に外したサングラスを加江須目掛けて投げつける男。

 飛んできたサングラスを加江須は空中で踵落としの要領で地面へと叩き落してやる。飛散したサングラスの破片が男の頬へと跳ねて薄く彼の皮膚を切り裂いた。


 「ぐっ、やりやがったな!!」


 男は加江須に掴みかかろうとするが、それよりも速く加江須の蹴りが男の腹部を蹴りぬいて後ろの方へと蹴り飛ばした。もちろん愛理を巻き込まぬように彼女から少し横にずれた方へと蹴り飛ばしている。


 「うごげばっ!?」


 無様な声と共にゴロゴロと転がって行く男を見て愛理が少し不安そうな眼で加江須の事を見つめる。

 

 「や、やりすぎじゃないの加江須君?」

 

 「心配しなくてもかなり手加減しているよ」


 「いや…でも…」


 加江須はかなり手加減をしたと言っているが、正直あのストーカーの吹き飛び方を見てそうは思えない。人が蹴り飛ばされても普通は10メートル以上軽々と吹き飛ぶなんて一般高校生の芸当とは思えないのだ。そんな派手な光景は愛理もドラマや映画でしか見た事が無い。しかもソレでかなり手加減しているのであれば猶更だ。


 「(うすうす思っていたけど…加江須君の身体能力って少しおかしい気が…)」


 彼と一緒に接する機会が増えた愛理は日常の中で少し彼の動きが一般高校生とは思えない時が多々あった。噂では体育の授業などでは彼はスーパープレイなども何度か魅せているらしい。

 そんな事を頭の片隅で思っていると、加江須に蹴り飛ばされた男は蹴られた腹部を押さえながらゆっくりと起き上がる。


 「(…少し手加減しすぎたか?)」


 意識を奪い取るつもりで蹴りを放ったのだが、どうやら愛理の居る前とのことで転生者であるとバレるのを避けるために自分の想像していた以上に力を加減をしていたようだ。

 男は立ち上がると加江須の事を血走った目で見ながらギリギリと歯ぎしりをする。そんな興奮気味の男に対して加江須よりも近い距離に居た愛理がもうやめる様に男に対して促した。


 「あ、あのもうやめてください。これ以上は怪我をしますよ。それに私もずっと迷惑だったんです」


 『だから警察に行ってください』と言おうとする愛理であったが、彼女が最後まで言い切る前に男は信じられないと言った顔をしながら彼女の声を遮りながら叫んだ。


 「ど、どうしてそんな事を言うんだよ!? き、君はあの時失意していた俺を助けてくれたじゃないか!! それなのに…それなのにィ!?」


 「そ、そんな事を言われても…」


 「まさか俺の事を忘れたとでも言うのか!? ホラ、この絆創膏を見てくれよ!!」


 男はそう言いながら自分の指に巻かれている愛理が巻いてくれた絆創膏を見せつけた。

 男の指はもう日数も経っているので綺麗に治っているが、彼は彼女から貰った絆創膏を今でもつけ続けていた。

 ボロボロになって変色している絆創膏を見て愛理がハッとした。


 「あ、その絆創膏…もしかしてあの時の…」

 

 「………あ?」


 愛理は男の指に巻かれている絆創膏を見てようやく自分にストーカー行為を働いていた人物の正体が判ったのだが、彼女の今しがた気付いたと言わんばかりの反応に呆然とする。


 「な、何だよソレ。今の今まで誰だか記憶になかったのかよ」


 「え…あ…ご、ごめんなさい」


 何一つとして非の無い愛理であるが男の悲壮感に当てられ思わず謝ってしまう彼女。

 男に対して謝っている愛理に加江須は少し呆れ気味にオイオイと言った感じでため息を吐いた。


 「お前が謝る筋合いなんて微塵も無いだろうが。どう考えても一方的にお前の尻を追いかけていたソイツが悪いだろ」


 「ぐっ!? なんだその言い草は!! 俺が誰を好きになろうとそんな事はテメェにはカンケーねーだろーがッ!!」


 男は唾を飛ばしながら加江須に喚き散らすが、そんな男の反応に呆れながら加江須が言葉を投げかける。


 「誰かが誰かを好きになる事は罪じゃないさ。だがお前の様な悪質なストーキング行為は間違ってると言っているんだ。言っておくが犯罪だぞソレ」


 「うるせぇ!! たかだかストーカーくらいでとやかく言うな!! その前に俺の起こした殺人に比べれば……ああッ!?」


 感情の波を荒立てて頭の中で思った事を口からベラベラと吐き出した男であったが、彼はあろうことか自分の起こした殺人の事まで赤裸々に言葉にして叩きつけてしまった。途中で自分が言ってはならない事を言っている事を自覚した男は慌てて口を塞ぐが時すでに遅かった。


 「さ…殺人…?」


 「おい、何の話だ…」


 男の殺人と聞き愛理は口元を手で押さえながらゆっくりと距離を取り始め、逆に加江須は鋭い目でゆっくりと男の方へと歩み寄り始める。


 「ぐ……ぐがぁああああああああ!!!」


 「なに!?」


 男は突然奇声を上げたと思えば加江須よりも近い距離に居た愛理の方までいきなり駆け出し始めた。

 余りにも唐突の行動に加江須も一瞬だが戸惑ってしまい、その隙に男は愛理のすぐ目の前まで迫っていた。

 男は愛理の目の前までにじり寄ると彼女の首を腕で挟み込み、そのままコートの中に手を入れるとそこから新聞紙に包まれた包丁を取り出した。


 「な、よせ!!」


 「うるせぇ近寄るなぁ!!」


 男は愛理の顔に新聞紙を剝ぎ取った包丁を突きつけて加江須の動きを牽制する。

 背後から組み付かれている愛理は顔に突き付けられた刃物に短い悲鳴を上げるが男はそんな彼女に怒鳴って黙らせる。


 「うるさい! 少し静かにしていろ!!」


 包丁の切っ先で愛理の頬を軽く突っついてやり強引に彼女の悲鳴を封じる男。

 まだ大分距離のある加江須は片手をかざして男をどうにかなだめようとする。


 「お、落ち着け。頼むから落ち着いてくれ」


 「う、うるさい! それ以上1歩でも近寄れば…」


 男は愛理の目元に包丁の切っ先を向けて加江須を脅してくる。


 「(ま、不味い。まさか包丁を持ち歩いているとは想定外だった…!)」


 相手がゲダツや転生者でなかった事から加江須は心のどこかで少し気が緩んでいたのかもしれなかった。この最悪の状況に立たされた事で今更ながらに焦りを感じてしまう自身の間抜けさを恥じる。何故自分は相手が愛理の方を狙う事が想定できなかったのかと。そこまで考えが及んでいればむざむざ彼女があんな危機的状況に置かれる事も想定できていただろうに。


 しかし加江須の胸中での後悔など知らない男は益々興奮し始める。


 「おい離れろよぉ!! オレから離れろぉ!!!」


 包丁をブンブンと振り回して威嚇してくる男。

 あの様子では何時とち狂って愛理に包丁を刺してもおかしくはない。


 「(くっ…この距離、対処しようと思えば出来なくもないが…)」


 加江須は転生者だ。人間離れした身体能力をフルに発揮すれば男を取り押さえられるが、そんな事をすれば間違いなく愛理に自分がただの人間ではないとバレてしまう。転生者でもない普通の少女である彼女に自分の正体がバレるのは避けておきたいのだ。


 「(だがあの変態は一度人を殺していると自分でも言った。もう愛理に好意を寄せていた事なんて殺人を人に話してしまった事で考える余裕もなくなっている)」


 つまりあの男はいざとなれば逃げるために天使と言っていた愛理も刺し殺しかねないのだ。

 それに加江須は知らないであろうが何故男が包丁を常備していたのか、ソレは愛理の傍に居た加江須をいざとなれば闇討ちしようと考えていたからだ。一度殺しを経験した彼は初犯とは違い、二度目の殺人にはそこまでの恐れはなかったのだ。


 「(くそ、どうする!?)」


 拳を握りながら加江須は小さく歯をギリッと噛みしめる。

 唯のストーカーだと侮っていたがために起きてしまった危機的状況、愛理だけでなく加江須も追い込まれ始めていた。




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― 新着の感想 ―
[一言] 流石に茶番過ぎない? なんでこんならしくないミスをしてしまったのですかな。 向こうがストーカーだと知った以上、精神異常者であることは想定すべきでは?
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