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女神に対する不満


 加江須がイザナミによって現世から呼び出されていた頃、目の前から忽然と消えた加江須の事を必死になって捜していた仁乃と氷蓮。先程まで捜索していた洋理の時とは違い、仁乃と氷蓮は目に見えて焦りの色を顔中に浮かべソレを隠していなかった。


 「どこよ…どこ行っちゃったのよ加江須!!」


 仁乃が両手を口に当ててメガホンの様にして彼の名前を必死に叫ぶ。そんな彼女に負けず劣らず氷蓮も加江須の名を叫び続ける。


 「ふざけんなよ加江須!! 悪い冗談やめて今すぐに出てこいや!!」


 ゲダツ女との激しい戦闘で二人は既に相当疲弊していたにもかかわらず、そんな戦いなど無かったかのように無人の校庭には二人の怒号が飛び交い続けていた。

 

 「うそよ…お願いだから返事してよ…ねえってば…」


 気が付けば仁乃の声色は僅かに涙交じりになりつつあった。


 「何だよ…全部終わって一件落着のはずだろうがよ…。何でこんな展開になんだよ…」


 仁乃だけではない。氷蓮の声も少し震え始めていた。

 

 「頼むから出てこいや…なぁ…」


 そう言う氷蓮は気が付けば拳を強く握りしめ、次に偽りのない想いを言葉にして叫んだ。


 「出てこいよ加江須!! 俺は…俺はお前が好きになったばかりなんだぞ!!!」


 氷蓮はそう叫んだ後に思わず口を両手で塞いでハッとなる。

 しかし隣を見ても仁乃は氷蓮の言葉に反応を見せず、相変わらず加江須の名前を呼び続けていた。


 「(き、聴かれなかったのか…?)」


 一瞬だけだが自分の秘めた想いを聞かれたのではないかと思った氷蓮であったが、今の心の吐露に関して何も言わなかった事に安堵するがそれも束の間の事、すぐにまた必死な面持ちとなり仁乃と同じく加江須の名前を叫んだ。


 もうかれこれ加江須の名前を何度叫んだのだろうか? しかし何度叫んでも加江須は返事をしてくれず、姿も見せてはくれない。一つの名前を何度も叫ぶその姿は哀鳴啾啾、まるで鳥が悲し気に鳴いている様であった。


 「加江須…うぅ…」


 とうとう我慢の限界が訪れて仁乃の瞳が微かに涙に濡れ始めた。そして遅れてそれに釣られるように氷蓮の目元も熱くなり始める。


 ――しかし二人が涙を地面に零す直前、悲しみに暮れた二人の前に加江須が出現した。


 「うおっ、戻って来た」


 少し驚きを混じった声を出しながら加江須が仁乃の前に突如として出現し、今まで瞳を潤ませていた仁乃は呆気にとられて思わず固まってしまった。


 「ん…おお仁乃、いきなり消えて悪かっ――」


 加江須が最後まで言葉を言い終えるよりも早く、仁乃と氷蓮が自分の腹へと飛び掛かって来たのだ。

 無防備な状態から二人の少女のタックルに近い飛び込みを受けてそのまま地面に背中をぶつけてしまう加江須。


 「いつつ…何して……」


 突然抱き着かれたせいで背中から雨で汚れた地面に倒れてしまい、痛みと汚れに対して不満を言おうとする加江須であったが、自分に飛び込んできた仁乃と氷蓮の表情を見て不満を述べようとしていた口が開ききる途中で閉じてしまった。


 飛び込んできた仁乃の瞳からは一筋の涙の零れた跡が見受けられ、氷蓮の方も瞳が僅かに潤んでいたのだ。


 「心配…かけてるんじゃないわよ。このバカ…ぐすっ…」


 「本当によ…。一件落着ムードだったのにいきなり消えんだからよぉ…」


 「悪い、心配かけてしまったな」


 地面で仰向けになって倒れながら加江須は二人を宥めようとそっと二人の頭の上に手を置き、ポンポンと軽く撫でる。

 仁乃と氷蓮の二人に押し倒されながら、加江須は先程までの自分の体験談を二人へと語り出した。




 ◆◆◆




 イザナミに現世から〝転生の間〟に呼びこまれ、彼女に願いは何かと問われた加江須。しかし彼には物欲と言うものは余り無く、そもそもが願いを叶える権利を得る為に戦って来た訳でもなかったので願いの内容を悩んでいた。


 「俺の願いは…そうだな…」


 イザナミに願いを問われておよそ1分程経過したが答えが出ず、考え込む加江須の事を律儀に待ち続ける彼女だが悩む彼にそれとなく意見してみた。


 「あ、あの…自分の欲しい物とかどうでしょうか? ちょ、ちょっとくらいは自分の為に我儘になってもいいと思います」


 少し自信なさげな表情を浮かべながらそう意見するイザナミ。

 今まで悩んでいた加江須であるが、イザナミのこの意見は参考になりここでようやく叶えたい願いの内容が決まった加江須。


 「なぁイザナミ、アレってまた用意できるか?」


 「アレ…ですか?」


 加江須の質問に対して小首をかしげるイザナミ。いきなりアレなどと曖昧な表現をされてもソレが何を指しているのか分からず困っていると、加江須も自分の言い方が悪かったと思い改めて言い直した。


 「ああ悪い悪い。俺が言っているのは初めてこの場所に来た際に引いたあのくじ箱の事だ。特殊能力を決めるときに使ったあの箱」


 加江須がそう言うとイザナミはもちろん用意をすることは出来ると答えると、加江須は自分の願いの内容を彼女に伝える。


 「それじゃあその箱、もう一度用意してもらっていいか? 俺の願いは二つ目の特殊能力が欲しいって事でいい」


 「ええ、そんな事でいいんですか!?」


 思わず数歩後ろに下がって驚きを露わにするイザナギ。

 過去に願いを叶えてあげた転生者は、やれ億万長者になりたい、やれ異性にモテモテにしてほしいなどと欲望の強い願いばかりであった。それに比べると何とも小さな願いに思わずソレが今回の願いで良いのか聞き直してしまう。


 「ほ、本当に良いんですか加江須さん? もう少し贅沢な願いを言っても……」


 「いいんだ。正直、欲しい願いが本当に思いつかないのは事実だ。それなら今後の戦闘を有利に進めるために新しい能力を手に入れる事を選ぶ」


 そう言った加江須の瞳は冗談ではないと悟ったイザナミは小さく『分かりました』とだけ言うと、手元に転生前に見た物と同じくじ箱が出現した。


 「で、では加江須さん。この中から一つ選んでください」


 「ん…」


 加江須は小さく頷いた後に箱の中へと手を入れ、その中に入っている紙をしばしかき混ぜる。ガサガサと言う音と共に指を触る紙の感触をしばし感じながらくじを選んでいたが、ようやく引く紙を選び終わりソレを箱の外へと出した。


 「これが俺の次の能力っと…」


 そう言いながら加江須は二つ折りに閉じていた紙を開き、その中に記載されている能力を声に出して読み上げる。


 「俺の選んだ能力は――」




 ◆◆◆




 「――という訳で、願いを叶える為にイザナミが俺を転生の間へと呼び出したんだ。俺もいきなり見ている景色が変わったから焦ったよ」


 加江須がこの場から消えていた際の出来事を話し終わると、仁乃は少し呆れ気味に、そして氷蓮は苛立ち気味の表情を浮かべていた。

 最初に口を開いたのは氷蓮の方であった。彼女は天を仰いで空の向こうに存在するイザナミに対して不満をぶつけ始めた。


 「たくっ、呼び出すなら前情報位はよこせってんだ。いきなりパっと人を消す様な真似しやがって…この腐れ神が!!」


 氷蓮はそう言いながら空へ向かって右腕を上げると、親指を立てて手を逆さまにして下へと勢いよく振った。


 「ぶっ!? やめろって氷蓮!!」


 氷蓮が空へと向かって送ったハンドサインに思わず吹き出してしまい、慌てて彼女の右手を自身の手で包んで彼女の汚いハンドサインを隠した。

 

 「何考えているんだお前は!?」


 「別にいーだろこれくらい。こっちはお前が居なくなって心配したんだからよ。たくっ…加江須が突然目の前から消えた時は眩暈がするほどの焦りに襲われていい迷惑だったんだからよ。そのイザナミ様とやらのせいでな」


 氷蓮はむくれながらそう言って頭上に掲げていた手を降ろすが、隣に居た加江須は自分の顔を見てどこか意外そうな表情をしていた。


 「…? 何だよその顔はよ?」


 加江須の視線が気になり何なのかと尋ねると、彼は頭を掻きながら少し照れ臭そうに視線を逸らしながら口を開いた。


 「いや…まさかそこまで俺の事を心配してくれていたとは…。なんか…悪かったな不安にさせて……」


 加江須がそう言うと、今までむくれていた氷蓮の顔は今度は真っ赤に染まって変化をし、そのまま加江須の肩をバシバシと叩きながら大声で叫んだ。


 「な、仲間だから心配しただけだ!! チームメイトだから不安に駆られただけだ!! へ、変な勘違いすんなよなボケ!!!」


 「へ、変な勘違いって?」

 

 「ん、んな事口にできるかボケ!!」


 そう言って氷蓮はぷいっとそっぽを向いて加江須に背中を向ける。

 どうにも戦いが終わった後の氷蓮はどこか様子がいつもと違って見えて気になる加江須。妙に顔を赤くする事が増えたような……。


 そんな事を考えていると今度は仁乃の方が加江須へと話しかけて来た。


 「でもそのイザナミって神様も少しはタイミングを考えてほしいものよね。一言位何か告げてから加江須を呼び出してくれればいいものを…」


 氷蓮の様なハンドサインで露骨な態度を見せてはいないが、仁乃も目の前から加江須をいきなり呼び出したやり方には文句があったようで軽く彼女の事を非難気味に言う。

 そんなモヤモヤとしている二人へ加江須が言った。


 「その事に関しては俺も最後に言っておいたよ。今度からは一度メッセージを事前に送るそうだ」


 「初めからそうしなさいよ。ところで…アンタが手に入れた能力って結局どんなものなの?」


 仁乃がそう訊くと、加江須は自分の手に入れた能力をこの場で公開し始めた。


 「ああ、俺の手に入れた特殊能力は――」


 


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