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廃校での戦闘 新たなライバル


 「ゴガアァァァァァ!!」


 ガラガラの耳障りな声と共に前方に居る加江須達に光線を放つゲダツ。

 今までは人の姿をして軽口を叩いていたゲダツであったが、なりふり構わず人の姿すら捨てた女は最早言葉すら話さなくなり、言葉の代わりに荒々しい攻撃を口から放つ。


 「光線来たぞ、跳べ!!」

 

 加江須がそう言って上へと跳んで光線を避ける。左右に居た二人はそれぞれ右と左方向へと地面を蹴って同じく光線を避ける。


 上空へと跳んだ加江須は両手を後ろに向けるとそこから炎を噴射し、それをブースターの代わりとしてゲダツ目掛けて急降下する。

 しかし自分目掛けて降りて来る加江須を見上げたゲダツはすぐさま口を開いて次の光線を放つ準備を整え始める。


 「仁乃、脚を獲れ!!」


 ゲダツ目掛けて急降下しながら加江須は地上に居る仁乃へと指示を飛ばし、その指示を受けた仁乃は迷うことなく地面に着いているゲダツの四肢の内の1つに糸を巻き付けた。


 「そぉれぇ!!」


 大きな掛け声とともに仁乃はゲダツの四肢の1つに束ねた糸を巻き付け、ソレを思いっきり引っ張った。地面が雨でぬかるんでいたおかげか想像していたよりも簡単に糸を引くことが出来、仁乃に引っ張られた勢いでバランスを崩すゲダツ。

 体勢を崩されたゲダツであるが、顔だけは上空に居る加江須へ向けてそのまま二つの口から光線を放とうとするが……。


 「そぅらよっと!! 喰らいなバケモン!!」


 氷で作り出したハンマーを両手で持った氷蓮が、上空の加江須に意識を取られているゲダツの頭の1つを渾身の力で殴りつけた。

 ハンマー越しに伝わる生々しい感触と、メキョッと言う音と共に頭の1つから血をまき散らすゲダツ。しかしこのゲダツは双頭、1つの頭を弾く事は出来てもあと1つの頭は残っている。


 「グゴガァ!!」


 攻撃を受けていないもう1つのゲダツが氷蓮を睨みつけ、上空の加江須から氷蓮へと狙いを変更して今にも光線を放とうとしている大口を向ける。

 

 「ぐっ、やっぱそうくるかよ!!」


 氷蓮は手に持っていた氷で生成したハンマーを放り捨て、前面に神力を多量に練り込んだ氷壁を張ろうとする。


 だが、手から氷を作り出した瞬間――


 「(ぐっ…やべぇ…)」


 防御の壁を張ろうとする氷蓮であったが、ここまで大量に能力を乱発したツケがここに来て遂に彼女を襲った。氷壁を張ろうとした瞬間、全身が鉛の様に重くなり展開していた氷の壁が何もせずボロボロと壊れて行く。

 仁乃は合間に休息を取っているが、彼女はここまで加江須に付いて行きずっと戦い通しであった為とうとう体力が限界を迎えてしまったのだ。


 しかし氷蓮がもう戦えないとなったところでゲダツの口から放たれようとしている光線が中断されるわけではない。今彼女が行っているのはスポーツなどの試合などではない。動けなくなりましたからと言って相手がそれで攻撃を躊躇も中断もしないのだ。むしろそこに漬け込む事が戦いの定石とも言える。ましてや相手は今や理性を捨てた獰猛な獣ならば猶更だ。


 「ぐっ…やべぇ…」


 今にも放たれる光線を壁で防ぐのではなく避けて対処しようと考えるが、飛び退いてかわそうとする自分の意思に反して氷蓮の膝から下の力が一気に抜けその場でへたり込んでしまった。

 

 目の前の攻撃から逃げようともせずその場でしゃがみ込む氷蓮を見て仁乃が大声で叫んだ。


 「バカ! なに座り込んでるのよ!! 早くそこから離れなさいよ!!」


 「うるせぇ…それが出来たら言われずともやってらぁ…この乳お化けが…」


 仁乃に言い返すが強気な言葉とは裏腹に脚は思うように動いてはくれない。

 遠くから仁乃がこちらへと駆け寄って来ているが距離的に間に合いはしないだろう。


 「クソッたれが…」


 せめて少しでもダメージを軽減しようと考えた氷蓮は座り込みながら両手をクロスし、残りの神力を両腕に集約する。勿論、こんな物は気休めにすらならない事は自分でもわかっている。それでもこのまま無防備にこんな獣にやられたくはなく最後の悪あがきを見せる。


 しかしゲダツが光線を放つよりも一手早くそれを防ぐ者が居た。


 「どこ見てんだ腐れゲダツ!!! お前の相手は俺だぁぁぁぁぁッ!!!」


 両手から炎を噴射して下降していた加江須は、更に神力を両手に集約することで噴射する炎の量を倍以上にはね上げた。炎を噴射し加速していた加江須、その炎の量を増やすという事は必然的に下降していた加江須の速度も一気に跳ね上がる事になる。


 上空から聴こえて来た怒号に氷蓮と仁乃が同時に上を向いていた。

 しかし二人が上を向いた時には既にそこに加江須は居らず、光線を放とうとしているゲダツの頭部を勢いよく両脚で踏みつけていた。

 光線を放とうとしていた一歩手前でゲダツは上からの衝撃でいきなり口を閉じてしまい、内部で溜めこまれていたエネルギーは行き場を失いゲダツの口が風船の様に一気に膨らんだ。


 「氷蓮!!!」


 踏みつけていたゲダツの頭部から降りると加江須は大声で氷蓮の名を呼びながら座り込んでいる彼女を抱え、その場から一気に仁乃の方まで跳躍した。

 加江須が地面を蹴りつけ跳んだ瞬間、光線を口内で溜めこんだゲダツの頭部が眩い光と共に弾け飛んだ。


 「よし、結果オーライ! 光線が口の中で暴発したぞ!」


 氷蓮を抱きかかえながら加江須がざまーみろと言った感じで得意げに笑った。

 そのまま仁乃の元まで移動を終え再び三人は一か所に合流した。


 「やったわね加江須、今の暴発でアイツの頭一つ消せたわ!」


 そう言うと仁乃は加江須の背中を軽くパシッと上機嫌に叩くが、氷蓮を抱きかかえているその姿を見ると途端に少し不機嫌そうな表情へと変わった。


 「……いつまで氷蓮の事を抱えてるのよ」


 「え、ああ、そうだな」


 自分の好きな少年が他の女性をお姫様だっこしているのは少し面白くなく思ってしまう仁乃の心は仕方が無いだろう。もっとも、加江須は彼女が氷蓮に嫉妬している事には気付かず、単純に降ろしてあげた方が良いと思っているのだが。

 

 「氷蓮、とりあえず降ろすが自分の脚で立てるか?」


 「………」


 「氷蓮?」


 返事の返ってこない氷蓮を少し不安そうに見つめる加江須。

 よく見ると氷蓮の様子が少しおかしい。何やら少し頬が赤くなりながらぽーっとした様子で自分の顔を見つめている。


 「お、おい大丈夫か氷蓮? お前少し様子が変だぞ」


 もしかして神力の消費し過ぎで何か体調に異常でも生じているのかと思い氷蓮の顔を覗き込むが、加江須が心配して顔を近づけると氷蓮の顔はさらに赤くなり、今まで反応しなかった彼女が慌てた様な感じで口を開いた。


 「だだだ、大丈夫だ! お、降りる。降りるから離せよ…」


 手足をバタバタとさせて加江須の手から降りる氷蓮。

 しかしやはりどこか様子がおかしい彼女の様子が心配であり、ゲダツに意識を集中しながらも加江須は改めて彼女の安否を確認する。


 「本当に大丈夫か氷蓮。明らかにお前、様子が何かおかしいぞ」


 「だ、だから何でもねぇよ! ちょっと神力の使い過ぎでふらついただけだっ!」


 そう言うと加江須から視線をずらしてそっぽを向く氷蓮。

 

 「そ、それよりもまだあのゲダツ生き残ってんぞ! 俺はもう体力限界だからお前が何とかしてくれよな!!」


 「お、おおう」


 返事がない事から喋れないほど疲弊したのかと思っていたが、どうやら自分の脚で立って話す余裕位はあるようだ。

 氷蓮の容態がただの神力の使い過ぎで疲れただけだと分かった加江須はゲダツへと全神経を集中させる。


 加江須の視線の先には頭を1つ失ったが、残り1つの残った頭をこちらへ向け血を滴らせながら加江須を睨みつけるゲダツ。

 加江須は両腕に神力を籠めると視線はゲダツから逸らさず仁乃に氷蓮の事を任せる。


 「仁乃、お前は氷蓮の事を守ってやってくれ。もう大分消耗して戦えないようだからな」


 「…分かったわ」


 「…頼む」


 そう言って加江須は一気にゲダツへと向かって行った。

 その後ろ姿を見ながら氷蓮はどこか熱のこもった眼で加江須の後姿を眺めていた。


 「(なんだよコレ…!)」

 

 無意識のうちに氷蓮は自分の胸を押さえていた。

 思うように身動きが取れず危機一髪の場面で救ってくれた加江須、自分を助けようと懸命な顔を向けて名前を呼んでくれた彼の姿を思い返すと顔がドンドン熱くなった。


 「(……いてぇ)」


 しかも顔が熱を帯びるだけにとどまらず、胸の内に突如として謎の痛みが発生する。しかし不思議な事にその痛みは自分を苦しくさせるだけでなく、上手くは言えないが温もりの様な物も胸の中にもたらしてくれた。


 「加江須…」


 気が付けば氷蓮は自分の視線の先で戦っている少年の名前を口から零していた。今もなお、あんな大型のゲダツと1人で戦っている。

 今まではそんな彼の姿を見て凄いヤツだと言う印象しか抱かなかったのだが、今はそんな彼を見て新たな印象が自分の中に湧いてくる。


 「カッケェなぁ…加江須のヤツ…」


 「へぇ、アンタがそんな事を言うなんてね」


 ハッとなって隣から聴こえて来た声の方向に顔を向けると、そこにはジト目で自分を見つめる仁乃の姿が映った。

 

 「そんなにカッコよく見える。あのバカが…」


 「ああ!? べべべ別にィ…今のはその、こ、言葉の使い方を間違えただけだ! カッコいいじゃなくて頼もしいって言おうとして間違えただけだっつーの!!!」


 そう言うと仁乃から視線を逸らして改めて目先の戦闘に視線を向ける氷蓮。その彼女の横顔を見て仁乃は心の中でため息をついた。


 「(もう…ライバル増えちゃったじゃないのよ…)」


 隣に居る少女の顔を見れば彼女が今、何に対して意識を向けているかなど丸わかりだ。

 熱のこもった彼女の視線は戦闘の行方などではなく、自分たちを庇いながら1人で戦う少年の姿しかその瞳には映っていない。

 

 自分と同じ人間を好きになった者だからこそ、仁乃は今の氷蓮が加江須にどのような感情を持っているのかバレバレであった。


 「まったく…あの女たらしめ…」


 そう言って仁乃は視線の先で戦っている加江須へと不貞腐れた様に小さな声で言ってやるのであった。

 


 

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