表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/335

廃校での戦闘 ゲダツの変化過程


 加江須達が必死で戦闘を繰り広げている頃、命からがら逃げ延びた不良達は全速力で廃校の外へと出ようと必死に走り続けていた。

 

 「くそッ! 何なんだよアイツ等!?」

 

 逃げている内の1人が先程の光景は夢だったのではないかと今でも思っていた。


 炎や氷を操る少年少女、仲間を数人素手で殺した謎の女、そして…少し前までは普通に話していた仲間が物言わぬ死体へと変わり果てた事。そのどれもが非現実的すぎて自身の脳の受け入れる許容量を軽々と突破している。

 今この廃校で何が起きているのかまるで分らない。だが、ただ一つだけハッキリとしている事がある。


 「このままこの学校に居たら殺される! 早く逃げねぇと…!」


 それは自分同様に全速力で逃げている仲間達全員も共通の思いであった。


 「よし、もうすぐ校庭に出るぞ!!」


 生き残った仲間の1人が前方を指差しながら玄関を抜け、そのまま外の校庭へと出た。


 空は相も変わらず曇り模様で、しかも今は小雨が降り注いでいた。 

 だが雨に濡れる事などあの女に殺される事に比べれば何の問題も無い。そう思い1人が校庭を突っ切ろうと先陣を切った。


 ――その時、真横から飛び出してきた影に先陣を切った青年が襲われた。


 「ぐわぁあああああああ!?」


 飛び出してきた影の正体は加江須達が廃校内に入る前に倒した個体と同じゲダツであった。

 ゲダツは大きな牙を不良の肩に突き刺し、そのまま牙に突き刺した不良の体を地面に引きずり回し始める。それはさながら猫がネズミをいたぶって遊んでいる様であった。


 「だ、助けでくでぇぇぇぇ!!」


 肩を真っ赤な血で染めながら襲われている不良は仲間達に助けを求めるが、人の事より我が事の方が大事に決まっている。残った不良達は襲われている青年を生餌とし門を抜けようと全力疾走する。しかし更に反対方向からまた別の個体が飛び出してきて、そのまま更に1人の不良に襲い掛かる。


 「ひっ、あそこにも居るぞ!!」


 一番最初に門を抜けようとしている不良が指を差す方には、門の前をまるで門番の様にゲダツが立ちはだかってた。


 「くそっ、逃がさねぇつもりかよ!!」


 無理に門を通ろうとすれば間違いなくあの狼の様な化け物に食い殺されかねない。しかし門の前に居るゲダツはたったの一体だ。最悪、生き残っている不良の誰かが身を挺して犠牲になれば最大で3人の青年は助かる。だが、この中で誰がそんな自己犠牲精神を持っているだろうか。


 案の定、囮役を誰も買う事もなく生き残っている不良達は廃校内へと引き戻って行く。見晴らしのいい校庭よりも複雑な校内の方が逃げ切れる可能性があると思った結果の行動であった。

 校内へと戻る途中、今現在もゲダツに襲われている仲間二人を不良達は横目で見ていた。


 「うぐっ…!」


 逃げている不良の1人が思わず胃の中の物を吐き出しそうになる。

 ゲダツに襲われている仲間は二人とも仰向けに倒れており、その周辺は真っ赤に染まっている。よく見るとまだ仲間の体は微かに動いており、その瀕死の生々しい動きが余計に嘔吐間を増長させる。


 大勢いた不良達は謎の女、そして校庭に居る狼の様な獣に襲われ既に4人まで人数を減らしていた。


 「くそっ、玄関に戻って来たけどどうするよ!? 奥に進めばあの女とまた遭遇しかねないぞ!」


 「なら2階や3階まで移動すれば…」


 「バカ! その道中で遭遇したらどうすんだよ!! 大体学校の中で奥へ奥へ進めば進むほど外に逃げにくくなんだろうが!!」


 廃校の玄関で騒がしく喚き合う不良達。

 その時、彼等の怒声よりもさらに大きな、何かを破壊するかのような音が奥の通路から聴こえて来る。


 「やべぇ! またあの連中が近くで戦ってんじゃねぇのか!?」


 「ぐっ…外に出たら狼にやられる。とにかく今は上の階に上がれ!!」




 ◆◆◆




 不良達と同じ1階の廊下上では加江須達がゲダツと戦闘を繰り広げ続けていた。


 「おおおッ!!」


 加江須が意気込みと共に炎の纏った拳で怒涛のラッシュを繰り出しており、その拳を足蹴りで迎え撃ちゲダツは相殺させ続ける。

 そんなゲダツの真上に氷蓮が現れ、空中から大量の氷柱を展開し、そのままゲダツ目掛けて振り注がせる。

 

 「危ないわね!」


 ゲダツは加江須との打ち合いを止め、後ろへと跳んで氷柱を回避する。


 「隙ありだ!!」


 加江須が右手から特大の火炎弾を放ち、その攻撃は凄まじい速度でゲダツへと向かって行く。しかしゲダツに攻撃が直撃する直前、彼女の腹から何かが飛び出し盾となった。


 「な、なによアレ!?」


 一番後方に居た仁乃がゲダツの腹部から飛び出してきたモノを見て驚愕する。 

 ゲダツが自らの腹部から出してきたのは校庭で戦ったゲダツだったのだ。


 「うげ、腹からゲダツが飛び出て来たぞこの女!?」


 氷蓮が舌を出しながらうえっと言った感じでそう言いつつ距離を取る。

 加江須の炎が直撃した狼の様な個体のゲダツは焼ける肉体に悲鳴を上げ、そのままもがき苦しんだ後に動かなくなる。

 

 「危ない危ない。何とか防御が間に合ったわ」


 そう言いつつ彼女は腹から出ているゲダツを片手で引き抜き。それを地面に叩きつける。

 床に叩きつけられた瞬間、ぐちゃっと言う不快な音と共にゲダツの肉体は光の粒となり辺り一面に散らばって消えて行く。


 体の中からゲダツを出す人の形を持つゲダツ、その不可解な存在に加江須は燃えている拳を鎮火し少し対話を試みる。


 「お前…本当に何者だ?」


 「あら、今更私の正体を訊くのかしら? 私がゲダツだと分かっているからこそ攻撃して来たんじゃないのかしら?」


 「ああそうだな。だがお前が普通のゲダツとは明らかに異なるからな…」


 目の前の女性から感じる濃厚な気配は間違いなくゲダツ特有の物だ。しかしそもそもが一見は人間と同じ容姿、それにまるで人間同士と会話している様な軽い口調、そして今も腹からゲダツを出してくるなど今までのゲダツの常識が何一つ通用しない存在……素直に今までの様にゲダツと戦っている感じがしないのだ。


 加江須のこの思いは仁乃と氷蓮も同様であり、ここまで二人もゲダツと言うよりも同じ転生者と戦っている気分であった。


 「お前…本当にゲダツか? こうして普通に意思疎通できる時点で人間にすら思えるぞ」


 「そうよね。それに少し変じゃない? ゲダツは普通の人間には見えない筈よね。でもさっきの逃げて行った不良達にはアンタの姿も声も普通に認識できていたじゃない」


 仁乃がそう言うと、加江須と氷蓮も今更ハッとなり気付いた。

 

 確かにその通りである。転生前のイザナギの話ではゲダツは普通の人間にはその存在を認識する事が出来ない筈だ。だが先程の不良達は彼女の存在をハッキリと認識していた。その中の1人は彼女に対して手を出そうとすらしていたのだ。


 加江須達が何故彼女がゲダツでありながら普通の人間にもその姿を認識されるのか疑問を感じていると、それに答えるかのように髪をかき上げながらゲダツは真相を明かし始める。


 「ゲダツは普通の人間には見えない。確かにそうね。私も最初は誰にも気づかれずに過ごしていたからね。でも…ある日を境に私の環境は激変した」


 そう言いながらゲダツは自身の隣の荒れ果てた空き教室を見つめながら続きを話す。


 「この学園がまだ健在だったころ、私はちょくちょくこの〝餌場〟で人間を隠れて喰らっていたわ。その時の私は今の様な人の形はしておらず、今のお腹から飛び出したあの個体と似たような獣姿だったわ」


 そう言いながらゲダツは自身の腹部を撫でて怪しげに笑った。


 「ひとり…またひとり…次々に人間を喰らって言ったわ。でもある日を境に人を喰らうごとに私に知性が芽生え、そして100を超えたあたりから姿にも変化が生じた」


 そう言うと彼女は自身の淡いピンク色の髪を撫でながらうっとりとした表情をした。


 「醜くおぞましい獣姿が人の体へと変化したの。そして…ある転生者を喰らって自らの糧にしたとき、ただの人から今の美しい姿の人へと生まれ変われたの」


 そう言うと彼女は窓ガラスの映る自分の姿に酔いしれるかのように髪を指でかき上げる。

 まるで本物の人間の様なその仕草を見て加江須は無意識に戸惑ってしまう。ここまで流暢に話している存在が元々は獣姿をしたゲダツだったとは思えなかった。


 目の前の人間ゲダツの立ち振る舞いに驚きながらも彼女の話は続く。


 「今、転生者を糧にした…と言ったわよね。この今の美しい姿、実はその転生者と少し似ているのよね。まあそこはいいとして…最大の変化はその後、私はこの世界の全ての人、あなた達転生者に限らず普通の一般人にもその姿を認識されるようになったわけ」


 そう言うと彼女は両手からゲダツを出し、この力についても説明を加える。


 「私が食べた女の子は『分裂体を作り出す特殊能力』を持っていてね。彼女を食べた後にこうしてゲダツを作り出す能力を手に入れたのよ」


 「なるほど……それでゲダツを手だの腹だのから生みだせる様になったわけか。だが普通の人間に見えるようになった訳は何だ…?」


 加江須がさらに踏み込んで質問をするが、ゲダツは両手をでやれやれとジェスチャーをしながら返答した。


 「生憎それについては私も分からないわ。でも個人的には普通の人間に見える様になったのも悪くはないわ。街に繰り出せば異性も同性も注目してくれるし気分も良いものよ」


 「ま、街に繰り出して? アンタ普通にそう言う場所に出歩いている訳?」


 仁乃が驚いて聞くと、彼女は口元を隠しながら小さく笑った。


 「まあね、こう見えても今は彼氏だって居るのよ」


 「なぁ!?」


 ゲダツの言葉に仁乃は顎が外れる程の驚きを顔に出した。

 未だに自分の恋路が上手く進んでいないにもかかわらず、まさかゲダツに先を越されている事実にショックを受ける。

 そんな仁乃を見てゲダツが小馬鹿にする様に口元を手で隠しあざ笑う。


 「あらあらあら、そこのツインテールのあなた、随分と驚きに染まった顔をして……そんなに羨ましいのかしら? 私が彼氏持ちである事実が…」


 「だ、誰があぁぁぁぁぁぁ!!!」


 仁乃は大量の糸を手から出し、ソレを束ねてひとつの巨大な糸で作られた大玉をゲダツ目掛けて振り下ろす。


 「潰れろおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 叩き落された透明な巨大玉はゲダツの付近の壁や床も一緒に破壊し、大量のホコリと破壊された木材が宙を舞った。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ