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初心者と熟練者の違い


 転生者である氷蓮、彼女は高校には言っておらず、バイトのシフトも今日は組まれてはいなかったために近くのゲームセンターへと遊びに来ていた。

 時間には暇があり、そして金に余裕がある時はいつもこのゲームセンターに来ており退屈をしのいでいた。


 「おっ、クレーンゲームか…」


 あまりクレーンゲームはやらないのだが、なんとなく手を出した氷蓮。すると運が良かったのか一発でぬいぐるみをゲットすることが出来た。

 取り出し口に手を入れてぬいぐるみを取り出す氷蓮。


 「ヨッシャ取れたぜ。ラッキー、あのじゃじゃ馬おっぱい星人はぬいぐるみが好きだって加江須にメールでこっそり教えてもらってるからなぁ。いざと言うときはコレ使って取引とかできそうだ」


 加江須と連絡先を交換した後、ちょくちょく彼とは連絡やメールを取っている。

 その際、あのじゃじゃ馬の仁乃がぬいぐるみが好きであると言う情報も掴んでいる。今度噛み付いてきたときはその事でからかうのも一興かもしれない。


 「さーて、じゃあ次はレースゲームでもしようかな」


 それからしばらく他のゲームを点々とプレイし満足した氷蓮はそろそろ時間も時間なので今日の寝床を確保しようとゲームセンターを出る。


 「今日はカプセルホテルにでも泊まろうかな……ん?」


 今日の寝床を決めた彼女はカプセルホテルに向かおうとするが、その道中で足を止める。

 

 「この気配…近いな…」


 今自分が居る場所からそう遠くない距離にゲダツの気配を感じ取った氷蓮。

 これからゆっくりしようと思っていた所ではあるが……。


 「まっ、願いを叶えるためには出来る限りゲダツの退治はした方がいいし…行くか…」


 周囲に誰も居ない事を確認するといつもの様に電柱の上へと飛び乗ると、気配を感じる元まで一気に跳躍した。




 ◆◆◆




 気配を辿ってその場所に到着した氷蓮、しかし彼女が到着した時には既に1人の少女が襲われている真っ最中であった。

 

 「(ちッ! やべぇ状況じゃねぇか!!)」

 

 氷蓮は自身の能力で氷柱を作り出し、倒れている少女に振り下ろそうとしているゲダツの腕目掛けて氷柱を投げ飛ばす。

 

 空気を切り裂き投げ飛ばした氷柱はゲダツの腕を貫き、ゲダツの狙いが足元の少女でなく自分を狙う氷蓮へと移った。


 「そうそうこっち見ろや。俺の方が遊びがいがあんぜ」


 そう言いながら手に持っているぬいぐるみを道の端に置き、ゲダツへと歩み寄って行く。


 「たくよぉ、ゲダツの気配を感じて来て見りゃ随分危機一髪みてーなシチュじゃねぇの」


 両手を合わせてコキコキと指を鳴らしながらゲダツに近づき、その足元で倒れている少女へと語り掛ける。


 「そこで倒れているお前、ちょっと待ってろよ。すぐにそこのゲダツぶっ殺してやるからよ」


 そう言うと氷蓮は一気にゲダツまで跳躍し、間合いを詰めつつ自身の周囲に大量の氷柱を発射体制で準備する。

 

 だがここで相手のゲダツは体が薄くなっていき、そして完全な透明化をした。


 「ちぃッ、特殊能力持ちか!!」


 ゲダツの中には今姿を消したゲダツの様に特殊な能力を持っている個体も居る。

 以前戦ったゲダツの中には相手の心を読んでくるゲダツも居た。


 「厄介な相手だな。シンプルな能力程意外とつえーもんだからな」


 そう言いながら周囲を警戒する氷蓮。

 しかし彼女が気にしているのはゲダツだけでなく、近くで倒れているあの少女の容態も気にしていた。


 「ちっ…アイツ大丈夫か? けっこー血で汚れてんぞ…」


 未だにうずくまっている少女の腹部は赤く汚れており、放っておけば命の危険も十分あるだろう。

 

 「ちゃっちゃと片付けねぇとな……」


 そう言うと氷蓮は全神経を集中してゲダツの攻撃を待つ。

 

 しばし道の真ん中で留まる氷蓮であるが、彼女は獣の小さなうめき声を聞いた。

 

 ――ガギィンッ!!


 獣のうめき声が聴こえた直後、氷蓮は自身の右側に氷壁を張った。そしてその直後、作り出した氷壁にヒビが入り、さらに氷に赤い血が数滴付着する。


 「見つけたぜ、死ねや!!」


 氷蓮は壁を作り出した右サイドに大量の氷柱を射出した。

 撃ち出された氷柱は何もない空中に撃たれたが、その氷柱の群生は何やら生々しい音を立てて空中で止まった。いや…姿を透明化したゲダツの肉体に突き刺さった。

 透明となっているゲダツはみるみる内に姿を現し、そこには氷柱に貫かれたゲダツが立っていた。

 

 「黒ひげ危機一髪ってか?」


 そう言うと同時に全身を氷柱で貫かれたゲダツは後ろ向きに倒れ込み、そのまま肉体は光の粒となり消えて行き始める。


 「ま、普通の獣より知性は備わっているんだろうがやっぱ獣は獣だ」


 何故透明なゲダツの攻撃を防御することが出来たのか、それは氷蓮が視覚情報ではなく聴覚に対して意識を割いていたからである。あのゲダツが出していた呻き声を頼りにし、その声がすぐ傍で聴こえ、なおかつ攻撃の際の空気の揺れを敏感に感じ取り氷蓮は氷の壁を張って攻撃を防いだのだ。もし相手が人間並みの知能ならわざわざ近づかず、透明化の利点を最大に生かせるように遠距離から攻撃を仕掛けていただろう。まあもっとも、このゲダツにそのような攻撃手段が備わっていればの話ではあるが。

 

 ゲダツも無事に倒し、次は倒れている余羽の容態を見ようと視線を彼女の方へと向けるが……。


 「おお~…見事に串刺しじゃん。グロ…」


 「ああ!? 何で立っていられんだよお前!!」


 先程まで腹部から大量の血を流し蹲っていた余羽はどういう訳か当たり前の様に立っており、消えゆくゲダツを呑気に眺めていた。

 彼女のすぐ傍まで駆け寄ると、氷蓮は余羽の服をまくり上げて直に彼女の腹部の損傷を確認し始める。

 突然制服をめくられ、いくら同性とは言え恥ずかしく氷蓮の行動に戸惑う余羽。


 「ちょちょちょ、いきなり何!? 恥ずかしいんだけど!!」


 「お前…さっき腹割かれて血ぃ流していたはずだよな? それが何でこんな綺麗な肌してんだよ?」


 先程切り裂かれていた筈の彼女の腹部を見ても、そこには傷など一切なく綺麗な肌であった。しかもよく見れば全身の打撲の跡も消えており、まるでゲダツに攻撃される前まで彼女の肉体の時間が戻っている様に見えた。だが、衣服の汚れや切り裂かれた部分はそのままであり、先程彼女が襲われたのは間違いないだろう。


 「腹からダクダクと血ぃ流していた筈が無かった事に……それがお前の特殊能力か?」


 「ちょちょちょ、ひとりで話を先にズンズン進めようとしないでよ。…多分間違いないだろうけどあなたも転生者?」


 「そーだよ。ゲダツも見え、しかも今ソレを俺が倒したんだぜ。分かりきってんだろ?」


 そう言うと彼女は手の平を上に向け、そこから氷の塊を作り出し自分の能力を改めて見せてやる。

 氷蓮の作り出した氷を見て余羽が羨ましそうな表情をする。


 「いいなぁ…私の能力なんかよりもよっぽど戦いに向いてるじゃん。転生特典の能力はくじ引きだったからなぁ…くじ運ないな私……」


 同じ転生者でも自分よりも殺傷力のある能力を羨やんでいると、改めて氷蓮は彼女の能力について聞こうとする。


 「ゲダツに襲われたにも関わらず今はピンピンしている。回復系統の能力者か?」


 氷蓮が半ば確信を持ちながら訊くと、余羽は正解と言って答える。


 「私の能力は触れた物を修復をする能力。この両手で触れた物を修復できるわ」


 そう言うと彼女はゲダツが砕いた地面に手を置くと、まるでビデオが巻き戻されるかのように砕かれた地面は徐々に元に戻って行き、彼女が地面に手を離した時には砕かれていた地面は戦闘前の元の綺麗な状態に戻っていた。


 「てっ、私の傷だけじゃなくてこの制服の方も修復しないと…」


 そう言いながら切り裂かれた制服を握ると、彼女の制服は徐々に修復されていき最後は元の状態、いや新品同様にまで元に戻った。


 「これで良し…」


 「おいおい…どこがくじ運ないだよ。スゲー能力じゃねぇかよ」


 余羽は自分の能力を大したことは無いみたい言っていたがとんでもない。単純な回復能力ではなく、今の様な砕けた地面すら元の状態に修復できるなら色々と応用もきくだろう。全身に負っていた打撲も、致命傷であった腹部の傷もこの力で元の状態に修復したのだろう。


 氷蓮が彼女の能力について考えていると、余羽が近づいてきて話しかけてくる。


 「それにしても本当にありがとう。あと一歩あなたが来るのが遅かったら今頃……うわっ、今更震えて来た…」


 何だか緊張感が少し抜ける女だと思う氷蓮。

 加江須や仁乃と比べて頼りなさそうに見えるのは決して気のせいではないだろう。


 「あん、つーかお前のその制服…」


 能力や性格の方に注視しすぎて彼女の服装に今更気づく氷蓮。彼女が着ている制服は加江須の学園の女子達と全く同じ物、という事はこの女は加江須の学園の生徒という事になる。


 「見覚えある恰好だと思ったが、あいつらと同じ学園の生徒かよ」


 「あいつらとって…もしかしてウチの学園の生徒と知り合い? とゆーかウチの学園にも転生者が居る訳?」


 「まあな。しかし透明化の能力を持っているとはいえゲダツ相手にああまでやられていた所見ると、お前まだ転生してから日が浅いんだろ?」


 「それどころかゲダツとの戦闘だって今日が初めてよ。もう最悪…」


 そう言って彼女は自分が先程切り裂かれた腹部を撫でながら自分の体験を思い返すと気分が悪くなり始める。柔らかな肉の中に爪が食い込む感触、そこから走る激痛と、そしてそれ以上に強い熱を感じた事。

 明らかに憔悴し始めた彼女を見て氷蓮がめんどくさそうにしながらも彼女の容態の心配をする。


 「大丈夫かよお前。顔色わりーぞ」


 「ああ…うん、身体は大丈夫なんだけど精神的にちょっと来た…」


 そう言いながら彼女は気分が悪くなったのか、口元を押さえて座り込み始めた。


 「(おいおい…どうすりゃいいんだよこの状況……)」


 面倒な状況に絡まれたと思いながら氷蓮は道の端に置いていたぬいぐるみを拾い上げると、しゃがみ込んでいる余羽を見てため息を吐くのであった。




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