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二人の少女の想いと俺が見た夢と……


 入浴が終わった後、三人は軽い談笑をして夜を過ごした。

 黄美から昔の加江須の話を聞いたり、加江須と仁乃はどの様な経緯で出逢ったかなど、それなりに楽しい時間を過ごした三人。

 それから時間はさらに経過し、いつも加江須が就寝する時間帯になった。


 「いつもならそろそろ寝てる時間だけど…二人はどうなんだ? いつもはまだ起きているのか?」


 加江須がそう言うと二人も部屋の時計の時刻を見てもう随分と時間が経った事を理解した。


 「私もいつもはもう寝てるわ。なんだかんだで相当時間経っていたのね」


 そう言うと彼女は事前に教えてもらった寝室の方へと移動する。それに続いて黄美も可愛らしい欠伸をしながら後に付いて行く。

 一方で加江須は寝室にはいかず、居間のテーブルの場所をズラし、部屋の隅に移動させていた。


 「…? 何やってのよあんた?」


 今から寝ようと言っているのにテーブルを動かしている加江須の行動に疑問を抱く仁乃。

 テーブルを横に動かしながら加江須は逆に仁乃に対して不思議そうな顔をして言い返す。


 「何って寝るんだよ。お前と黄美は寝室で寝て、俺がこっちで寝るから。流石に男の俺がお前たちと同じ部屋で眠るのは色々と問題もあるだろう」

 

 そう言ってテーブルを部屋の隅まで動かし終わると寝室にある布団を一式押し入れから出そうとするが、布団を持っていこうとする加江須の事を黄美が引き留める。


 「ちょ、ちょっと待ってよカエちゃん。カエちゃんが居間に移動する必要はないでしょ。この寝室の広さなら三人で寝るにはスペースも十分にあるし…」


 「いやでもな、男と女で同じ空間で寝るのは…」


 やっぱり遠慮しようかと思う加江須であったが、そんな彼に対して声を掛けたのは黄美ではなく仁乃の方であった。

 彼女は普段のツインテールから髪を降ろしており、毛先をいじりながら黄美の意見に賛成した。


 「私も別に同じ寝室で寝るくらいいいわよ。別に同じ布団で寝る訳でもないし、それに知らない仲じゃないし、なにより――」


 ――『なにより裸まで見られて今更…』


 「っ……」


 言葉の途中で先程目の前の少年に全て見られた事を思い出し、仁乃は小さく咳払いをして言葉をそこで途切らせた。

 不自然に言葉を切った仁乃が何を言おうとしたのか気になりその先の言葉を促す加江須。


 「なにより…何だ?」


 「何でもないわよ!!」


 「あじぃッ!? な、何れひっ張るんだ!?」


 加江須の頬を両手で左右に引っ張り無理やり誤魔化そうとする仁乃。


 「と、とにかく、同じ部屋で寝るくらいは何でもないわよ。それにこの家の住人差し置いて自分たちだけ寝室で寝るのも気が引けるのよ」


 「そうよカエちゃん。だからあなたもここで寝ればいいじゃない♪」


 「そ、そうか。ならお言葉に甘えようかな」


 こうして結局は全員で寝室に布団を敷いて横になった。

 加江須は真ん中で布団を敷き、その両隣に仁乃と黄美が布団を敷いている。


 「………」


 自分に好きだと告白した女性二人に挟まれて何となく落ち着かない加江須。右隣にこっそり視線を向けると黄美はこんな状況でも安らかな寝息を立てており、もうすでに夢の世界へと旅立っていた。


 「(多分もう仁乃の方も寝ているんだろうな)」


 自分もさっさと寝てしまおうと瞼を閉じるが中々眠れず、ついには古典的だが羊でも数えようかと思い始めた時……。


 「…ねえ加江須、起きてる?」


 「……ん、起きてるよ」


 もうとっくに寝ていると思っていた仁乃が声を掛けて来た。

 顔は天井に向けたままで加江須と仁乃は黄美を起こさぬように小声で話をし始める。囁くほどの声量で話しても二人は転生者なので距離が近いこの状態なら会話もできる。


 「今日さ、まあ結局色々とあんたに聞かれちゃったわけだけど……あんたはどう思ったの?」


 「え…?」


 「だから…私や黄美さんがあんたを好きである事を知ってどう思ったの? 嬉しかったのか…それとも迷惑だったのか?」


 「迷惑なんてあるわけないだろ。それに…正直俺なんかを好きでいてくれた事を嬉しく思った」


 加江須が素直な気持ちでそう言うと、仁乃は体を動かし加江須に背中を向ける。


 「そ、そうなんだ。じゃあさ……」


 布団の中で硬く両手を握って仁乃は思い切って聞いてみた。


 「そ、それじゃあ黄美さんの言った事はどう思うの。そ、その…私と黄美さんの二人と一緒に付き合えば良いって彼女言っていたじゃない。そ、それはどう思うの…?」


 「え…そ、それは…」


 数時間前までの黄美の言っていた言葉が加江須の頭の中で繰り返される。

 あの時、自分は余りにも常識はずれな彼女の言葉に考えが纏まらなくなっていたが、もし自分が黄美と仁乃、そのどちらかを選んで片方と結ばれ、もう片方を切り捨てる事になると考えると胸が激しく痛み出した。


 「わ、分からないよ」


 今の加江須にはこの返答が精一杯であり、確固たる答えを出す事が出来なかった。

 またしても不甲斐ない返事をした自分に嫌悪感に近い感情を抱くが、彼のその答えに対して仁乃は思わず笑ってしまった。


 「あはは、何を真面目に考えているのよ。冗談よ冗談…」


 そう言って仁乃は加江須の方へと体の向きを変える。加江須もそれに合わせて体制を変えて仁乃の方を向くと、彼女は加江須の顔を見てクスっと微笑んだ。


 「どんな答えを出すにしても真剣に考えてよね。悩みに悩んだ結果ならどんな答えを出しても納得できるからさ…」


 「ああ…分かってる」


 「そう、じゃあおやすみ」


 そう言うと仁乃はまた体制を変えて天井をしばし見つめた後に目をつぶる。

 

 「(……真剣に悩んだ結果なら受け入れる…か…。でも…)」


 ――もし俺が片方だけの想いに答える事が出来ず、ダラダラといつまでも答えを先延ばしにし続けたら……。


 「(長い時間答えを出さず二人を待たせ続けるなんてある意味酷な事だよな)」


 そう考えていると加江須の脳裏に黄美の言葉が浮かんできた。


 ――『二人まとめて選んでくれれば解決でしょ』


 その言葉を頭の中で繰り返すと加江須の顔が熱くなり始めた。


 「今日はもう寝よ…」


 布団を頭から被って大人しく羊を数える事に専念する事にした加江須。

 

 彼が布団を被り羊を大体1000匹近く数えた辺りでようやく加江須は眠りの世界へとダイブして行く事が出来たのだった。




 ◆◆◆




 「起きて…ほら早く起きてカエちゃん」


 「んん…んあ?」


 何やら柔らかな声で名前を呼ばれ目を開ける加江須。布団をめくって起き上がるとすぐ隣で黄美が笑顔を浮かべていた。


 「そろそろ起きないと〝会社〟に遅刻してしまうわよ。早く起きないと」


 「んん、ああそうだな。眠いけど学校に遅刻する訳にはいかな…ん、会社?」


 欠伸交じりに返事をした加江須であるが、聞き間違いかそれとも黄美の言い間違いか〝会社〟と聴こえた気がする。


 「何言ってるんだよ黄美。会社じゃなくて学校だろ」


 加江須がそう言うと黄美は一瞬キョトンとした顔をするが、すぐに口元に手を当てて笑いながら言った。


 「あらあらまだ寝ぼけているの? もう…もうすぐ〝パパ〟になるのにだらしないわね」


 「へ? パ、パパぁ?」


 黄美の言っている事が分からずに混乱していると、寝室のドアが開かれてある人物が入って来た。


 「もうまだ寝てるの? いい加減に起きなさいよ」


 「仁、仁乃…?」


 寝室へと入って来たのは仁乃であり、彼女はエプロンを着けて片手にはお玉が握られている。しかしそれ以上に加江須は彼女を見て気になる部分があった。


 仁乃の腹部は不自然に膨らんでおり、その姿はまるで……。


 「仁、仁乃。そのお腹は…?」


 「今更何言ってるのよ? まったく…早く顔洗って来なさいよ。だらしないパパよねぇ…」


 そう言って仁乃は自分の膨らんでいる腹部を撫でながら、まるでそこに人が居るかのように話しかける。その姿を見て加江須はますます混乱していると……。


 「ところでカエちゃん。実は私も先週病院に行ったら……できていたの」


 「な、何ができていたんだ?」


 加江須がそう言うと黄美は少し恥ずかしそうに、しかしそれ以上に嬉しそうな顔をしながら言った。


 「仁乃さんに続いて私にもできたの――赤ちゃんが……」


 「な、何だッてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」




 ◆◆◆




 「何だってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 「きゃっ!?」


 「ッ! 何よもう!?」


 加江須が叫び声を上げながら目を覚ますと、先に起きて布団を片付けていた仁乃と黄美が驚きながら加江須の事を見る。


 「ど、どうしたのカエちゃん?」


 「あんたビックリさせないでよ! 心臓止まるかと思ったわよ!!」


 「え、あれ…?」


 目覚めた加江須はこちらを見ている二人の姿を見てそれぞれに質問する。


 「あれ仁乃…お前膨らんでいた腹が元に戻っているぞ?」


 「!? それどういう意味よ!! 私の体重は極めて一般女子高生の標準範囲内よ!!」


 そう言って腕まくりをして握りこぶしを固める仁乃。

 怒り心頭の彼女を見て加江須は後ずさりながら誤解を解こうとする。

 

 「違う違う! 太っているとかじゃなくてお前赤ちゃんは? お前と黄美の二人が俺の子を……」


 「は……はあああああああああ!? なななな、何を言って!?」


 「カ、カエちゃん? 赤ちゃんって何!?」


 今まで般若の様な恐ろしい顔をしていた仁乃の顔はパニックに陥り、目をグルグルと回してその場で尻もちを着く。黄美の方も加江須の言葉を聞き、自分のお腹を押さえながらどういう事なのか尋ねる。

 この二人の混乱した反応を見てようやく自分が見ていたあの光景は夢であり、今この状況が現実である事を理解した。


 「ああそうか。二人とも悪い、ちょっと夢を見てて勘違いしていたようだ」


 「ど、どんな夢見てたのよ。あ、赤ちゃんなんて…」


 仁乃は加江須から顔を逸らしながらボソボソと小さな声で言う。

 その近くでは黄美が自分のお腹を押さえてうわ言の様に赤ちゃんと顔を赤く染めて繰り返していた。


 「(……告白されたからか。まさかあんな夢を見るなんて……)」


 自分の見ていた夢の内容に思わず頭を押さえる加江須。

 このままでは黄美の言う通り二人と付き合う未来が実現するのではないかと思った。


 「ふふふ…カエちゃんの赤ちゃん♡」


 何やら黄美の怪しげな笑い声が聴こえて来た気がする……。




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