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全部見られてしまった……


 黄美と仁乃、その二人が自分を好きでいると分かったが未だに答えが出なかった加江須は結局答えを保留してしまったが、むしろその返答によって黄美はそれならば自分と仁乃の二人を選んでくれればいいととんでもない事を言い出した。しかもその後に黄美の妄想はどんどんと広がっていき、彼女は最後は結婚まで話を拡張させていた。それを傍で聞いていた仁乃は顔を真っ赤にしてあうあうとしか言えなくなっていた。


 その場を何とか収めた加江須はその後に自宅へと戻ったが、では仁乃と黄美の二人はどうしたのかと言うと……。


 「じゃあ今日は私も泊まらせてもらうわねカエちゃん♪」


 「お、おお…」


 「(結局また加江須の家に戻って来たけど…まさか黄美さんも泊まり込むなんてね…)」


 二人は加江須の家へとまた戻ってきており、そして今日は仁乃だけでなく黄美もこの家に泊まる事になったのだ。

 仁乃は事前に泊まり込む為に着替えなども用意していたが、黄美は夕食を作るために食材だけしかもってこなかったが着替えなどは運よく都合が付いた。


 「ありがとう仁乃さん。私の分の着替えまで貸してくれて」


 「別にいいわよ。同じ男を好きになった者同士、私だけこいつの家に宿泊するのは卑怯だからね」

 

 今日は元々仁乃と氷蓮の二人が泊まり込む予定だったので、仁乃は事前に自分の分だけでなく氷蓮の分の着替えなども用意しておいたのだ。しかし氷蓮が帰ったために無駄に余った着替えなどを黄美に貸す事にしたのだ。


 しかし仁乃と黄美のやり取りを見て、この時に内心で加江須はこう思っていた。


 「(氷蓮が帰ったのならそもそもウチに泊まる必要がなくなった気もするが…)」


 そもそも仁乃が自分の家に泊まろうと決心した理由は氷蓮と自分が二人だけで一夜を過ごす事を監視する為だったはずだ。しかしその氷蓮は結局夕食後はネカフェへと行ってしまったのでそうなると仁乃がこの家に泊まる理由はない筈なのだが……。


 「(だけどここでその事を言ってしまえば何だか面倒ごとに発展しそうだ。ここは黙っておこう…。)」


 加江須の視線の先では黄美と仁乃が何やら話し込んでおり、何を話しているのか気になり近づくと仁乃が手の平をビシッと向けてそれ以上近づかないようにと警告する。


 「盗み聞きしない! 今入浴後の着替えについて話し合っているんだから!!」


 「え、ああそうなの。でもそれなら俺の目の前でしなくても…」


 「はいはいごめんなさいね。とりあえずこの家のお風呂借りるわよ。最初は私たちが入浴するから加江須は後で入ってね」

 

 「別に順番は好きにしてくれていいけど…」


 加江須が先に入っても構わないと言って風呂場の場所まで案内する。


 「……覗かないでよ」


 黄美と仁乃が風呂場へと入って行き、風呂場に続くドアを閉める際に仁乃が加江須に対して忠告を入れておく。

 ドアを閉めた後、加江須は頭を掻きながら居間の方へと戻って行った。


 「たくっ…いくら何でも覗きなんてするかよ」




 ◆◆◆




 覗かれないように風呂場へと続くドアを閉めた仁乃は今着ている服を脱ぎ始める。それと同時に黄美も着替え始めるが、彼女は仁乃の胸を見て羨ましそうな眼をする。


 「仁乃さんバストサイズ凄いのね。少し羨ましいかも…」

 

 「ど、どこに注目してるのよ。それに黄美さんだって全体的にプロポーションがいいじゃない」


 そんな事を言いながら二人は浴室の中へと入って行こうとする。

 

 「…え?」


 しかし浴室に入ろうとする手前で仁乃が洗面台の方に何か怪しげな影が見えた気がし、目を凝らして洗面台の方に視線を向けた。そんな仁乃の行動を不思議に思い黄美も同じく流しの方を見てみる。


 しかしその瞬間――二人の悲鳴が浴室内に響き渡った。



 ◆◆◆




 居間で次の入浴の順番待ちをしている加江須は時間をつぶそうとテレビを付ける。

 この時間帯なら面白い番組もいくつかやっているはずなのでチャンネルを適当に変えて行くが、風呂場の方から仁乃と黄美の悲鳴が聴こえてきて手の持っていたリモコンを落とす。


 「悲鳴!? 何だ!!」


 テレビもつけっぱなしにして加江須は急いで風呂場の方へと向かう。


 「(今の悲鳴、二人分の物だった!! まさか今度こそ本当にゲダツが現れて!!)」


 もしそうだとすれば不味すぎる。仁乃は自分と同様にゲダツと戦う為の力が備わっているいるが黄美は違う。戦う力どころかゲダツを視認する事すら出来ないのだ。


 もしあの二人の身に何かあったら……。そう考えると自分の中の血液がまるで凍り付いた様にすら感じてしまう。


 閉じられている風呂場に続くドアを蹴り飛ばし、強引に開けて中へと飛び込んでいく加江須。


 「大丈夫か二人と…も…」


 扉を開けるとそこには身に纏っていた衣服を脱ぎ捨てた仁乃と黄美が立っていた。


 「……ぅぉ」


 二人の少女の裸体をモロに見てしまい、加江須の思考は白一色に染まり、逆に顔は炎の様な真っ赤に染まる。

 しかしいきなり加江須が乱入してきたにもかかわらず、黄美も仁乃も彼が現れた事で逆に一瞬だけ安堵した顔をし、そのまま二人は加江須の背中に隠れる。


 「か、加江須、ちょうどいいところに来たわ!」

 

 「え、い…いや…それはどういう…」


 「カ、カエちゃん! あそこにいるアレ何とかして!!」


 加江須の背に隠れながら黄美は洗面台の方を指差していた。

 後ろに隠れている二人の方には絶対に振り向いてはいけないと自分に言い聞かせながら、加江須は洗面台の流し部分を見てみると何か黒い物が動いていた。


 「ゴ、ゴキブリ?」


 洗面台の上を歩いていたゴキブリを見て思わず肩の力が抜けて行く加江須。

 先程の二人の大きな悲鳴から只事では無いと思ったが、蓋を開けてみればただのゴキブリで少し拍子抜けしてしまうが、その時に加江須は思い出した。


 「(そう言えば黄美は昔からゴキブリが大の苦手だったな。しかしまさか仁乃までそうなんて…。ゲダツの様な化け物と戦えても女の子という事か)」


 そう思いながら洗面台に備え付けてあるティッシュを4、5枚手に取ってゴキブリを包んで処理すると、後ろで隠れている二人がその様子を見てホッとする。


 「ふぅ~…。助かったわ加江須」


 「ありがとうカエちゃん」


 「い、いやどういたしまして。そ、それより二人とも……今の恰好……」


 「「え?」」


 今までは不気味なゴキブリに気を取られ過ぎており二人は現在の自分たちの恰好を完全に忘れていた。仁乃と黄美は互いに今の恰好を確認すると、その直後に二人の顔がドンドンと赤みを帯び始める。


 「カ、カエちゃんのエッチ…」


 黄美はそう言いながらタオルを一枚取るとソレを巻き付けて今更隠し始める。

 一方で仁乃はブルブルと体を震わせており――ありったけの力で加江須の頬を掴むと鼓膜を破るほどの大きな声を出しながら叫んだ。


 「こ、こ、こ……このド変態めえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 「ぐわぁ!? み、耳がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」




 ◆◆◆




 風呂場での騒動の後、加江須はまた居間の方へと戻って行った。その時の彼の右頬は仁乃の神力を籠めた力で引っ張られたため肌の色が赤く変色していた。

 

 浴室に入った二人は先に仁乃が浴槽の中に入り、黄美はシャワーで髪を洗っていた。


 「もう……全部見られちゃったじゃない……あのバカ…」


 仁乃は先程の事を思い出して湯船の中で体育座りをして口元まで沈み、水面の下の浸かっている口元からブクブクと泡を出していた。

 

 「でも悲鳴を上げた私たちを心配しての事だったから……」


 「うぅ…まあね…」


 加江須を庇う様に自分たちにも問題があったと言う黄美の言葉に湯船に浸かりながら確かにと頷く。

 仁乃は昔からゴキブリだけは駄目であり、あの時は思いっきり叫んでしまっていた。ゲダツの様な化け物と戦う力を兼ね備えているが幼い頃から苦手なゴキブリだけはやはり慣れるものじゃなかった。


 そんな事を考えているとシャワーにうたれながら黄美は自身の頬に手をやって怪しげな笑い声を漏らし始めた。


 「それにしても私も仁乃さんもカエちゃんに思いっきり裸を見られてしまって…これはもう責任取ってもらうしかないかな。ふふふ……」


 「せ、責任って!?」


 その言葉に湯船の中で慌て始める仁乃。

 そんな彼女を見ながら黄美はまたしてもとんでもない提案を仁乃へと持ち掛ける。

 

 「ねえ仁乃さん、ここはカエちゃんに今の事で責任を取ってもらう様に迫って見ない。そうすれば私が外で言っていた通り私と仁乃さん、その両方と恋人になってくれるかも」


 「じょ、冗談きついわね黄美さん」


 仁乃は小さく笑いながらそう言うが、彼女の目はマジだと言っており完全には笑い飛ばす事が出来なかった。

 黄美は全身の泡を洗い流すと仁乃の手を掴んで彼女の瞳を見て言った。


 「ねえ仁乃さん。私は相当本気で言っているわ。私もあなたも一緒にカエちゃんと結ばれるように手を組まない?」


 「そ、そうは言うけど…」


 「でもカエちゃんの事は好きでしょ? それなら選ばれないよりも私と二人でカエちゃんに選ばれた方がいいでしょ?」


 「と、とにかくその考えはいったん置いておきなさいな」


 黄美の手をそっと離すと今度は仁乃が体を洗う為に浴槽から出て、代わりに黄美が湯船の中に入って体を温め始める。

 ツインテールを解いた長い髪を丁寧に洗いながら仁乃は黄美の考えに対して色々と考えを巡らせていた。


 「(私と黄美さんで一緒にか……。確かに片方が結ばれず失恋の苦い想いを背負うくらいなら……)」


 そこまで考えが及ぶと仁乃がハッとなる。


 「(な、何考えてんのよ私は!? そりゃ加江須の隣には立ちたいけど…でも…うぅ~…)」


 先程の黄美の顔を見れば十分に分かる。

 彼女は冗談でも何でもなく本気でそう言っていた。


 「前途多難の恋をしたものね、私は…」


 シャワー音に交じり、仁乃の疲れ切った声が思わず零れ落ちるのであった。


 


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