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幼馴染と友人と 3


 氷蓮に半ば強引に裸足のまま外へと連れ出された加江須。

 素足のため地面に足をつけると僅かな凹凸のある地面に少し足の裏が痛み、そしてひんやりと冷たかったがそれよりも今は言い争っているらしい仁乃と黄美の方が気になった。


 家を出てから先程まで氷蓮が隠れていた物陰に移動した二人。そこから顔を覗かせてみると氷蓮の言っていた通り仁乃と黄美が何やら話し込んでいる姿が確認できた。


 「お、おい。二人とも泣いてるじゃないかよ。一体何が…」


 加江須が目を凝らすと、視線の先の二人の瞳からは涙が零れており、地面へとポツポツと落ちていた。

 明らかに何かしら重大な事を話しているその様子に加江須は少し不安そうに呟く。


 「……二人とも何を話しているんだ?」


 「気になんなら聞いてみろよ。俺らの聴覚ならこの距離でも耳を澄ましゃあ聴こえんぜ」


 氷蓮にそう言われて加江須は意識を少し前方に居る二人の会話に集中し始める。




 ◆◆◆




 自分たちの話の中心である加江須が聞いているとも知らず、仁乃と黄美は尚も話を続けていた。


 「私はもう二度とカエちゃんにあんな冷たい言葉を掛けられたくない。私が言えた義理じゃない事は分かっているけどそれでも……それでも……」


 黄美は涙を零しながらそう言うと、仁乃は自分の瞳に残っていた涙を拭って彼女の両手を掴んだ。


 「まったく…不器用なんだから。あなたも…私も…」


 先程まで怒り心頭と言った具合だった仁乃であるが、言いたい事を全て言ってスッキリしたのか今はもう困り顔をしながら笑っていた。


 「ごめんなさい愛野さん、少し熱くなり過ぎたわ。あのバカの幼馴染であるあなたからすればいきなり出て来た私は気に食わなく感じるのも無理ないわよね」


 「……いいえ、私の方こそごめんなさい。カエちゃんをとられたくないが為にあなたに対して強く敵意を抱いてしまって……いい迷惑だったわよね」


 握られた仁乃の手を同じように握り返す黄美。

 しばらく互いの手を握った後、ふたりは同時にぷっと吹き出した。


 「あはは……さっきまであれだけ熱く言い争っていたのに不思議ね」


 「言いたい事を全部言ったからスッキリしたんでしょうねきっと…」

 

 そう言うと二人はもう一度揃って小さく笑い合った。




 ◆◆◆




 二人が口論が収まった事を物陰から見ていた加江須は安堵の息を吐いた。


 「どうやら収まったようだな。でも…」


 「でも随分と恥ずかしい事言っていたなあの二人。それで、お前はどうすんだよ?」


 「え…?」


 一緒に二人の行方を見ていた氷蓮が加江須にこの後どうするのかを問う。

 

 「あの二人がお前の事をどう思っているかは全部もう聞いたはずだろう。別に今すぐどちらかと付き合えとは言わねぇけどよ、取り合えずあの二人にお前から何か言ってやる事ぐらいは出来るんじゃねぇの?」


 「そ、それは…」


 氷蓮の言った通り、加江須の耳にはあの二人の会話が全て聞こえていた。そして知ってしまったのだ。黄美と仁乃は自分の事が好きであると言う事実を……。


 「まっ、これはお前等3人の問題だからな。俺は邪魔でしかねぇから今日は当初の予定通りネカフェに泊まりに行くわ」


 欠伸を1つしてから氷蓮は加江須を残してこの場を立ち去ろうとする。

 

 「お、おい、今日は俺の家に泊まるんじゃないの…いたっ!」


 加江須が最後まで言い切る前に氷蓮が小さな氷を作り出してソレで加江須の頭をぶっ叩く。

 頭部に小さなタンコブを作りながら涙目になる加江須に氷蓮があきれ顔で説教交じりに言った。


 「バーカ、オメーを好きだと言っている女があそこに二人もいんだぜ。それなのに俺なんかがお前の家に寝泊まりしていいと思うか? もう少し考えろや」


 流石の氷蓮も空気を読んで今日は帰ろうとしているのに呼び止められて呆れてしまう。

 そんな白けた目を向けられ加江須も流石に自分の発言の愚かさに気づき縮こまる。

 

 「とにかく、あそこのお姫様二人にお前からも何か言ってやれよ」


 そう言うと氷蓮はその場で跳躍し、加江須の家の屋根に飛び乗った。

 もう夜になって辺り一面が暗くなっているため人目も気にせず神力で強化された身体能力を発揮できるため、そのまま彼女は他の家の屋根や電柱に飛び乗って姿を消していった。

 夜の世界で照らされた暗闇の中に氷蓮が消えた後、加江須は視線を黄美と仁乃へもう一度向ける。


 「俺から何か言ってやるべき…か…」


 先程の氷蓮の言葉を復唱する加江須。

 

 まさに彼女の言う通りだ。あそこに居る二人の少女は自分に対して好意を抱き、その結果ああして言い争いまでしてしまった。


 「………」


 しばし目をつぶり無言で考え込んだ後、加江須は物陰から出て二人の元へと向かって行った。


 話が終わった後、しばし笑い合っていた二人だが先に仁乃が近づいてくる気配に反応した。


 「(……え、加江須! な、何でここに!?)」


 人の気配を感じて振り返ると家で待っているはずの加江須がこちらへと向かって歩いて来ていた。

 黄美も遅れて加江須の存在に気付き、何故今この場に彼が居るのか疑問に思い慌ててまだ少し濡れている目元を拭う。


 「カ、カエちゃん! どうしてここに…」


 「そ、そうよ。何しに来たのよ? それに何で裸足なのよあんた?」


 二人はしどろもどろとしながら加江須に話し掛ける。

 もしや今までの会話を聞かれていたのではないかと思い内心焦る二人に対し、加江須は二人の傍まで近づくといきなり頭を下げ始めた。


 「「え…?」」


 間抜けな声を漏らしながら首を傾げる二人。

 突然頭を下げられて不思議に思っていると、下げていた頭を上げ、加江須は二人の事を真剣な面持ちで見つめる。


 「悪いな二人とも…今の話の一部始終を聞かせてもらってたんだ」


 加江須がそう言うと仁乃は顔を真っ赤にし、そして黄美は頬を薄く赤色に染めて俯く。

 まさか張本人が近くに居るとは思いもせず、二人とも加江須が好きだと言う事実を大声で露呈してしまったのだから無理ないだろう。


 「かかかか、加江須? 一部始終って…じゃあ私たちが…その…あ、あんたを…」


 「…ああ、俺を好きでいる事も聞いた」


 「ははは、ハッキリと言うなバカぁッ!!!」


 仁乃は顔から火が出る思いでうがーっと口を開いてぶんぶんと腕を振り回す。

 

 しかし仁乃の反応を見ても加江須は焦りも戸惑いもせず、依然真面目な顔で仁乃と黄美の事を見ていた。


 「俺は駄目だな本当。ここまで…お前たち二人が言い争うまで至ってようやく気付くなんて…」


 「カ、カエちゃん?」


 「黄美、仁乃…」


 加江須は二人の事を数秒見つめた後、それぞれの手を片方ずつ取ると――


 「すまない、今すぐ答えを出すことが俺にはできない」


 全てを知ってもなお答えを出せない自分を恥じながらもう一度頭を下げた。


 「二人が俺を好きだと知っても俺には今すぐ答えは出せない。男として不甲斐ない答えであることは分かっているが、これは…そう簡単に決めていい事じゃないと思うんだ」


 そう言って加江須は二人の握っていた手を離し、夜空を見上げながら目をつぶり独白した。


 「黄美とは色々あったが和解も無事に終わり、また昔と同じ仲の良かった幼馴染に戻れた。そして仁乃とは出会ったばかりではあるがその短い間に色々と救われた。その二人の想いを即決で決めるなんていい加減な事は出来ない。だから…だからもう少し待ってくれないか」


 加江須はそう言って閉じていた瞼を開くが、その視線は依然夜空に向いたままであった。それはこんな情けない答えを出した自分を見る二人の目が怖かったからだ。軽蔑されるかもしれない…そんな考えが頭に浮かんで仕方が無かった。


 加江須の答えを聞いてからしばし静寂が流れた後、先に動いたのは黄美の方であった。


 彼女は加江須の言葉を聞いて――彼の胸に抱き着いてきたのだ。


 「黄美…?」


 突然の彼女の行動に戸惑っていると、自分の胸に顔をうずめている黄美の体が微かに震えている事に気付いた。

 そして体だけでなく唇も震わせながら黄美は言った。


 「良かった…」


 「え…?」


 「私の事…ちゃんとまた見てくれていた…よかったよぉ…。ぐすっ、もう私は…私はカエちゃんの隣には立つチャンスすらないんじゃないかと思っていたから…ぐずっ。ま、まだ私を見てくれていて本当に嬉しい…」


 黄美の瞳からは再び涙が零れてきて、そのまま加江須の服に涙の染みを作ってしまう。しかし加江須はそんな事など気にせず黄美の頭を優しく撫でる。

 そして仁乃も近づいてきて、加江須の頭を軽く指でツンと突っついてやる。


 「まったく、女の子二人が好きだって言っているのに情けないわね」


 「す、すまん。でも盗み聞きみたいに聞いていたとはいえ直接二人に告白されたわけじゃ…いちちちち」


 「はいはい屁理屈言わないの」


 仁乃は加江須の頬を引っ張って不満顔を向ける。だがすぐに困り顔で笑うともう隠すのをやめたのか素直に加江須が好きである事を告げながら話す。


 「ええそうよ。私も愛野…いや黄美さんと同じであんたが好き。でもあんたが今言った通りに簡単に決めてほしくもないから今はそのみっともない答えで納得してあげるわよ。まったく…感謝しなさいよね!」


 「仁乃…悪い…」


 黄美の頭を撫でながら加江須も仁乃と同じような表情で笑っていると、自分の胸に顔を押し付けていた黄美が離れ、加江須の顔を見る。


 「黄美…お前にも悪いな。今すぐ決断できない俺の事を許してくれ」


 「謝る必要なんてないよカエちゃん」


 そう言うと黄美は仁乃の隣まで行くと彼女の手を握り始める。

 突然の謎の行動に加江須も仁乃も不思議がっていると、黄美は微笑みながらとんでもない発言を口から飛び出させた。


 「だってカエちゃんは私と仁乃さんを選べないって事は私たち二人とも嫌いではないんでしょ? じゃあ私と仁乃さんの二人まとめて選んでくれれば解決でしょ♪」


 「「………え?」」


 加江須と仁乃の頭が真っ白になるが、そんな二人とは違い黄美は両手で自分の頬を押さえながら妄想を加速させる。


 「私も仁乃さんと話して彼女がカエちゃんの事を本気で好きである事を知れたから、そんな人とカエちゃんを取り合いたくはない。それなら私と仁乃さん、二人でカエちゃんと付き合えば万事解決だと思うの。そうすれば1人が泣いて1人が喜ぶ事もなく三人で幸せになれるんだから♪」


 「な、何を言っているの黄美さん!? そそそそそ、そんな事はさすがにダメでしょ!?」


 「じゃあ仁乃さんはもし私の方が選ばれたら心から納得できる? それに私だってたった今カエちゃんに対する私にも負けない熱い想いを口にしたあなたが選ばれなかったらきっと苦しくなるわ。なら二人で一緒にカエちゃんと付き合えば丸く収まるでしょ♪」


 「いやいやいやいや黄美! ひとりで話を進めないでくれ!! 俺もそろそろ考えが纏まらなくなり始めている!!」


 加江須も流石に口を出して意見して来たが黄美は頬を赤く染めつつ、しかし瞳からハイライトの消えた状態で相も変わらず自分のトンデモ考えを口に出し続ける。


 「私と仁乃さんなら二人でカエちゃんと付き合っても上手くやっていけると思うわ。そしてゆくゆくは私と仁乃さんは学校を卒業して彼女から妻へとなり、そして子供が出来て…うふふふふふふ♪」


 「「頼むから落ち着いてくれ(ちょうだい)!!!」」

 

 夜の町に黄美の妖しげな笑い声と加江須と仁乃の焦り声が響き渡った。

 



今回の話で主人公の正式ヒロインが二人決まりました。ちなみに現状では氷蓮もヒロイン候補に入っています。この先の話ではまた新キャラも出すつもりなのでその中からも恐らく新たなヒロイン候補が現れると思います。今後もこの作品をよろしくお願いします。

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