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転生前の情報を確認


 加江須が転生を受け入れ、彼女の言う〝転生戦士〟とやらになると伝えるとイザナミの表情が一変した。オドオドとしていた表情から、満面な笑顔へと急変したのだ。


 「あ…ありがとうございますぅ!!」

 

 「わぶっ…お、おい」


 瞳をキラキラと輝かせながら加江須へと飛び込んできたイザナミ。柔らかな双璧が顔面に押し付けられ少し鬱陶しく思いイザナミを引きはがす加江須。

 力強く引きはがされ迷惑をかけた事を今更認識して再び弱気モードへと戻るイザナミ。


 「ご、ごめんなさい。嬉しさのあまりつい…」


 「まあ別に気にしてないから謝るな。それで…具体的にそのゲダツとはどう戦えばいいんだ?」


 転生戦士とやらになるとは言ったものの具体的にどう戦えばいいのか分からない加江須。異形との戦いどころか自分は生前では喧嘩すらほとんどした事が無い。本気で誰かと喧嘩した事なんてせいぜい小学生の頃くらいだ。

 少なくとも自分が戦士として送り出されても大丈夫なのかと遅れながら考えているとイザナミの手元が光り輝く。


 「まず加江須さんには戦うための力を選んでもらいます」


 「……箱?」


 イザナミの手元が光り輝いたと思うといつの間にか彼女は1つの箱を持っていた。

 その箱は全体が真っ白で、?マークが描かれている。よくバラエティ番組などで見かけるありふれた箱を不思議そうに見ているとイザナミが加江須の前にその箱を差し出してきた。


 「それでは加江須さん。この箱の中から一枚紙を引いて下さい。それが加江須さんの戦うための力となります」


 「またベタな…」


 こんなところまで漫画の様なシチュエーションで思わず苦笑してしまう。

 加江須のそんな心情など知らずイザナミは主に転生した際の戦い方を教えてくれる。


 「転生した際には私の神力で肉体や身体能力が強化されます。その力プラスここで一つ特殊能力をプレゼントするのでその力を組み合わせて戦ってください」


 「肉体面が強化されるのは平等だが特殊能力に関してはギャンブルか…」


 ――もしも変な能力が当たってしまえば戦う気力が削がれそうだが……。


 とは言いつつ引かないことには始まらない。もしかすればチートじみた最強能力が手に入るかもしれない。そう思い彼は箱の中へと手を入れる。


 「(頼むから変な能力だけは当たるなよ~…どれにしようか)」


 ガサガサと箱の中の紙をまさぐる加江須。

 しばらく箱の中を混ぜ返し、そしてその中から1枚の紙を選んで引き抜いた。


 「…これが俺の選んだ特殊能力」


 箱の中から取り出した紙は折りたたまれておりまだどんな能力なのかは分からない。

 

 ゴクリと唾を呑み込みゆっくりと紙を開く加江須。そこに記載されている能力を見た。


 ――『炎を操る特殊能力』


 そこに記載されていた能力を見て思わずホッとする加江須であった。

 訳の分からぬ能力に比べて極めてまともな能力を引くことが出来た。それに純粋な戦闘でこの能力は中々に使えそうだ。


 加江須が自分の能力が記載されている紙を見つめているとイザナミがどんな能力を引いたのか訊いてきた。


 「あのどんな能力を引きましたか?」


 「…ん」


 「え~っと…『炎を操る特殊能力』…ですね。中々強い能力ですよコレ!!」


 笑顔を向けてそう言うイザナミ。

 変な能力を引かなかった事に安堵できたが、こうなると他にどんな能力があったのか気になり尋ねてみる。


 「一応聞くがその箱の中、他にどんな能力が用意されていたんだよ?」

 

 「え…えっとそうですね…。もう能力が決まった後ですので公開してもいいですかね」


 そう言うとイザナミは箱の中に手を入れて何枚か紙を取り出し、それを開きいくつか能力を口にしていく。


 「え~っとですね…『透明人間になる特殊能力』、『髪の毛を操る特殊能力』、『動物と会話が出来る特殊能力』……あはは、こ、こんな感じですね」


 「……化け物と戦わせる気あんのか?」


 イザナミの読み上げた能力名を聞いて心底自分が引いた能力が大当たりであると思った加江須。今彼女が言った様なクソな能力を与えられていれば転生した後戦わずに普通に過ごしていたかもしれない。


 自分のくじ運に感謝しているとばつが悪くなったイザナミは箱の中に紙をぐしゃぐしゃと押し込んで話題を変える。


 「そ、その、これで加江須さんの特殊能力が決まりました。では加江須さん、背中を向けてください」


 「背中だぁ?…こうか」


 クルリと後ろを向いて背を向ける加江須。

 彼の背中に寄ったイザナミは服をまくり上げ直接加江須の背中に自分の手を押し当てる。


 ――次の瞬間、加江須の背中から何やら妙に暖かな熱を感じた。


 「…何をしてんだ?」


 「…今、加江須さんの体内に私の神力を流し込んでいます。私の送り込んだ神力が加江須さんの霊力と絡み合い加江須さんに戦う為の力を引き出させます」


 しばらくの間背中に手を当て続けるイザナミ。

 最初は背中が少し暖かく感じていた加江須であったが、その熱が徐々に全身へと周っていく。


 「これで良し…私の神力と加江須さんの霊力が融合しました。これで加江須さんには戦う為の力が備わったはずです」

 

 「本当か? 自分では特に何も変わらないように思うんだが…」


 まくり上げられていた服を戻しイザナミに対して訝し気な視線を向ける加江須。

 疑ぐるかのような眼差しに晒され少しビクつくイザナミであるが、そんな彼の疑問を拭わせる為に彼女は加江須にこう言った。


 「加江須さん。軽くでいいのでジャンプして見てください」


 「ジャンプ? せーの…ふっ――」


 意味は分からないがとりあえず軽くジャンプしてみる加江須。

 言われた通り加江須は大して膝も曲げずに跳躍したつもりであった。しかし彼が軽い気持ちで跳んだにも関わらず――彼は10メートル以上の跳躍をしていた。


 「………ハアッ!?」


 自分の桁外れの跳躍に思わず間抜けな声を出してしまう加江須。

 大して力も込めていないにもかかわらずビルの3、4階に匹敵する高さまで跳んだのだ。そのまま一気に地面へと降下していくが、10メートル以上の高さから落下したにもかかわらず着地しても特に足も痛みはない。


 「…信じらんねぇ。なんだよ今のジャンプ力は……」


 未だに自分の異常な跳躍が信じられない加江須。試しにもう一度跳んでみるが先程よりも更に高く跳躍をし、そのまま地面へと降り立つ。


 「マジか…俺凄ぇ…」


 「ど、どうですか加江須さん」

 

 「ああ、自分が常人離れした身体能力を手にしたことは良く分かった。しかし力加減が少し難しいな」


 最初のジャンプでは自分はそこまで力を入れていなかったにも関わらず10メートルのジャンプを披露したのだ。この分だと筋力も相当上がっている事だろう。下手に力加減を間違えたら普通の人間相手なら取返しのつかない大怪我を負わせかねない。

 

 加江須が少し自分の過剰に上がった力に恐れていると今度は特殊能力についての説明をし始めるイザナミ。


 「じゃあ今度は手に入れた特殊能力についてです。でもこれは簡単で、加江須さんの場合はただ炎をイメージしてみてください」


 「炎をイメージね…」


 自分の拳を握りそこに炎が出てくるイメージをする加江須。

 すると加江須の握った右拳からメラメラと炎が沸き立ち燃え上がる。


 「うお、アチッ! ……いや熱くねぇな」


 思わず熱いと叫んだが冷静になれば全く熱を感じない。拳が今もメラメラと赤い炎に包まれているが肌が焼ける様子もない。


 「(本当にコレ炎か? ただの幻影じゃないだろうな)」


 そう思いながら無言でイザナミに炎を纏った拳を近づける加江須。

 勢いよく拳を動かしたため火の粉が飛んでそれがイザナミの肌へと飛んだ。


 「あつい!! 何をするんですか加江須さん!!」


 素肌に火の粉が飛んだイザナミはその部分を高速で擦りながら加江須に非難を送る。涙目で肌を擦るイザナミを見てどうやら能力者本人の自分は熱くないだけであると解った。

 

 「悪い悪い本当に熱いかどうか確かめたくてな」


 「うう…だからって無言で火の粉を散らすなんてひどいです。ぐす…」


 「悪かったよ。今のは完全に俺に非があった、火だけに」

 

 「ふえ…?」


 突然のギャグに思わず涙が引っ込んでキョトンとするイザナミ。別段受けを狙ったわけでもないのでギャグを拾われ恥ずかしくなる加江須は誤魔化したいがために思わず大声を出す。


 「それより! 成果を収めると願いが叶う件に関しての説明もしろ!!!」


 「はひっ! は、はいです! ゲダツを一定の数、もしくは強大な力を持った個体を倒せばこちらから連絡します。その時に願いを言ってくれればその願いを実現します」


 「そうか…。じゃあ最後にゲダツについてだ。やっぱり化け物みたいな姿をしているのか。主な戦闘方法は?」


 今度はゲダツについての詳細を求めるとイザナミは少し困り顔になった。 

 

 「ゲダツの容姿は加江須さんの世界に存在しないおぞましい見た目なので一目見れば分かると思うのですが…その力は個体によって違うんです。加江須さんの特殊能力がランダムで決まったように…」


 「……まあ今強大な個体とか言っていたからな。全部が全部同じ姿をしている訳じゃないという事か……」


 「そ、そう言う事です」


 できる事なら生き返る前にゲダツに関する事前情報を多く仕入れておきたかったのだが大した情報は得られなかった。せいぜい容姿が化け物であることが判った程度だ。

 しかしゲダツとは別にもう一つ気になった事を思い出し質問を続ける。


 「俺以外にも転生した奴はいるんだよな? さっき過去に願いを叶えた人間もいたとか言っていたしな。俺の住んでいる町にも居るのか?」


 「た、確か加江須さんの住んでいる焼失市にも転生した人は居たと思います。ただ…その時担当していた神様は私以外の方なので何とも言えませんが……」


 「…まあそれはいい。もしかしたら何処かで出逢うかもな」


 正直質問してみたが自分以外の転生した人間を探そうなんて考えは無い。自分以外の人間が転生していようがしていまいが自分の今後の生き方に支障があるわけでもない。


 一通りの聞きたいことを聞いた加江須はこの後はどうすればいいのかを尋ねる。


 「とりあえず力の使い方、願いを叶える条件、ゲダツについて知りたいことは大分知れた。それでこの後俺はどうすればいいんだ?」


 「この後、加江須さんはこのまま元の世界へと生き返らせて送り届けます。ただ本来加江須さんはもう死んでいるので混乱を避けるため死んだ時より1週間ほど時間を巻き戻した状態で生き返らせます」


 「時間を巻き戻す…いや、死んだ人間を生き返らせれるのだから不思議ではないけどな」


 「はい、では加江須さん。もうこれで転生を始めても構いませんか?」


 「ん、ああ頼む」


 イザナミの確認に頷く加江須。すると突然自分の全身がまばゆい光に包まれ足元から徐々に塵となって消えていき、さらには意識も朦朧とし始める。

 自分の肉体に訪れた現象に戸惑っていると不安を消すかのようにイザナミが説明をし始める。


 「だ、大丈夫です。加江須さんの魂が現実世界へと送り届けられているだけです。次に意識が戻った時には現実世界に戻っているはずです」


 「そう…かよ…。焦らせ…ん…なよ…」


 途切れかけた意識の中で不満を零しながら瞼をゆっくりと閉じていく加江須。強烈な睡魔に襲われるかの如く意識が深い闇の中に落ちていく。


 ――彼の意識が完全に闇に沈んだ直後、この空間から加江須の姿は完全に消失した。

 

 


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