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レフトVS烈火


 「さて、ここならば周りには迷惑を掛けずに済むだろう!」


 必要以上に大きな声を張りながら烈火は全身から神力をたぎらせて目の前のレフトを強い瞳で睨みつけていた。

 あの後しばし歩き続けて二人は広々とした駐車場を見つけるとその場所で互いに向かい合っていた。幸いな事に今この駐車場には車は1台も無く周囲には人の気配もない。この場所ならば思う存分に暴れる事が出来ると烈火は構えを取る。


 「やる気満々と言った感じだな。だがそれにしても一体どこから俺の存在を突き止めた?」


 転生戦士からは目を付けられないように動いていたつもりだった。一体どこから自分の情報が漏れたのかを知る必要がある。もしかすれば目の前の女以外にも自分たちを捜索している転生戦士が居るかもしれないなら対策を打っておく必要もあるからだ。

 普通は敵対している相手ならば敵である自分にむざむざ情報を与える様な事は口にしないだろう。しかし目の前のどこか馬鹿正直そうな女ならば多少は情報を絞れるかもと言う淡い希望がレフトの中にはあった。


 そんな彼の打算など露知らず烈火は馬鹿正直にレフトの質問に答えた。


 「ここ数日前から私の近隣で生活している住人の家族構成に変化が現れていてな。家族の1人が消えてもその事実に気付きもしない。それも複数件の顔馴染みの方々にそのような異変が顕著に起きていればいくら愚鈍な私でもゲダツが裏で活発に動いている事に気付くさ」


 彼女は近隣で暮らしている住人達とは年齢差など関係なく深い交流があった。とくにご年配の方達には学校が休みの日などはよく庭の掃除などを手伝ってもらって感謝されている。それ故に烈火は周辺の住人からも評判が良く深いつながりがあった。しかしここ最近、彼女の周辺で暮らしている住人達の家族構成が変化している事に彼女は気付いたのだ。


 例えばよく庭の手入れを手伝っている老婦はよく自分と旦那さんの若い頃の思い出話を烈火に聞かせてくれていた。だが対数日前に彼女は旦那さんの存在を完全に忘れてしまい、それどころか自分は今までずっと独り暮らしだったと言っていた。

 他にも息子を持っていた奥方が早く子供が欲しいと愚痴っていた。新婚だと言っていた男性が妻の存在を忘れてしまっていた。


 「私の周りの親しい人達が自分の大切な者を忘れており、そしてその事実にすら気付かずいつもと変わらぬ顔で私に笑って声を掛けてくれてた。その事がたまらなく私には苦痛で仕方が無かった。だから私は被害を受けて消えて行った方々の行動パターンを計算し、被害のあった人物達の重なる共通ルートを割り出したのだ」


 烈火は周辺の住人と深く繋がりを持っていた。だからこそ彼等の買い物や散歩などのルートなど大まかながら頭に入っていたのだ。そして被害にあった人物達が利用するルートをいくつか割り出しその周辺を探っていたのだ。


 烈火からの話を聞いて内心でレフトは遅れながら後悔していた。


 「(くそ…ある一定の周期で狩りの場所は変えていたが…まさか前の狩場として目を付けていたルートを利用する連中とこの転生戦士が繋がっていたとは……)」


 こんな事ならばもっと慎重を期して一定の周期ではなく狩りを一度行うたびに獲物を吟味するルートを変えるべきだったと後悔する。とは言え今更その事を嘆いても仕方がない。それに今の話から目の前の女は複数でなく単独で行動している事も理解できた。つまりここでこの女さえ消せば自分たちの存在を知る相手はもう居なくなると言う事だ。


 それにしてもコイツ…本当に分かりやすい奴だな。


 今の話を聞く限りではこの女は自分の身近な人達に被害が出たために必死に動いていたと言うことだ。いくら顔見知りと言っても所詮は赤の他人のはず、そんな連中の仇討ちの為にここまで身を粉にして自分を捜し続けていたとは……。


 「随分と損な性格しているな。自分の知り合いの為に命かけてまで俺と戦うか?」

 

 「何を当たり前の事を。お前に亡き者にされた人達の中には私も色々と世話にもなっている人達も居た。いや、それ以前に転生戦士として何の罪もない人々が親しい者の記憶にすら残されず消されて行く事実を見過ごせるか!」


 そう言うと彼女の怒気はさらに膨らみ、その憤怒に比例して彼女から放たれている神力もどんどんと力強さを増していく。


 「報いはキッチリと受けてもらうぞ!」


 そう言うと彼女は自らの大地を操る特殊能力を解放する。

 レフトの真下の地面がいきなり盛り上がり彼は上空へと吹っ飛ばされる。例え地面が純粋な土でなくコンクリートであっても能力の応用で操れるのだ。


 いきなり天高く吹き飛ばされたレフトは少し驚きながらも眼下に居る烈火を睨みつける。


 「いきなりご挨拶だな! だがこの程度で俺が怯むか!!」


 空中で体制を整えたレフトは一気に地上に居る烈火目掛けて急降下していく。

 

 「甘い! 空中では逃げ場がないだろう!!」


 そう叫びながら烈火は能力を全開、自身の周辺の地面に神力を流し次々と大量のコンクリートの槍を空中にいるレフトへと伸ばしていく。

 

 「ぐっ、次から次へとキリがねぇな…」


 自分に伸びて来る先端部の尖っている石槍を宙で身体を捻って避け続けるレフトであるがその内の1本が彼の脇腹を掠める。だが直撃はせず破れた衣服からは少量の血液が漏れている程度の軽傷であった。

 

 「身軽なヤツだな! ならばこれでどうだ!!」


 そう言うと彼女は周辺の隆起していた地面を元の平面に戻す。そして今度は両手を地面にしばし固定し続け、そのまま両手を持ち上げると彼女の両手の平にはコンクリートの塊がまるで畳の様に剥がれへばり付いていた。


 「この攻撃は回避し続けれるか!!」


 彼女は自分の両手に貼り付いているコンクリートの塊をレフトに向ける。そして両手の平に神力を集約すると手の平に貼り付いているコンクリートの塊が振動し、細かく分解されるとそのまま大量の石礫がレフト目掛けて発射された。

 振動によって細かく分解されたコンクリート片がマシンガンの様に大量にレフト目掛けて飛んで行く。


 「ぐっ、範囲が広すぎる!」


 先程までの石槍はまだ隙間も多く脇腹を掠める程度で済んだが今度の攻撃は範囲が広く手数も多い。全て避けきるのは不可能と判断して彼は顔面と腹部などを両手でガードしながら大量の投石攻撃を身に受ける。

 たかが小さなコンクリートの破片と言えどもその1つ1つには微量ながらも神力が含まれており、それも数が多ければダメージも募る。


 「(ぐっ、予想以上に厄介な能力者だ! 遠距離勝負じゃ一方的に俺が嬲られるだけだ。なら接近戦しかねぇ!!)」


 彼は大量の飛礫をガードしながら地上に着地すると一気に烈火へと向かって行く。

 こちらへと駆けて来るレフトに対して烈火は飛礫による攻撃を止める。そして両腕にコンクリートを纏わせて簡易的なガンドレッドを作り出す。

 

 一気に距離を詰めて来たレフトの蹴りを烈火はコンクリートの防具で武装した腕でガードする。


 「ぐ…マジで応用力がある能力だな…!」


 能力で腕に纏ったコンクリートには神力が練り込まれておりレフトの蹴りはまるで通じず、逆に蹴りを放ったレフトの脚に鈍痛が走る。逆に防具を身に着けた彼女の拳がレフトの頬を貫き彼を吹き飛ばした。

 重たい衝撃を頬に感じながらレフトは駐車場の金網に背中からぶつかった。

 殴られた際に頬を切り裂かれダクダクと赤い果汁が地面に染みを作る。


 「くそ…何でよりによってこんな強い転生戦士に目を付けられんだよ…」


 ここまで戦ってレフト自身もう分かっていた。自分の実力ではこの転生戦士には勝てないという事が。今の短い接近戦での攻防だけでもよくわかる。身のこなしからして自分よりもハッキリ言って相手の方が上だろう。

 

 「(やっぱり〝今の状態〟の俺じゃ勝ち目はねぇな。あわよくばここでコイツを仕留められれば、なんて甘い考えだったな…)」


 自分の勝率が低い事を薄々は感じていながらもレフトが烈火と戦ったのは出来る事ならばここで自分の存在を認知している彼女を始末しておきたいと思っていたからだ。しかし現実はやはり厳しいようだ。


 「(勝ち目がない事は十分理解できた。だがそれは真面目に戦闘を行っている場合のみだ)」


 まともにやり合っても勝ち目がないと確信した彼は一度小さくニヤリと笑うといきなり烈火に対して背を向けたのだ。そしてそのままレフトは金網を乗り越えてその場から逃走し出したのだ。


 「なっ、逃げるか!?」


 まさか堂々と敵前逃亡するとは微塵も思っていなかった彼女はコンマ数秒遅れながらも慌てて後を追い掛ける。だが戦闘力は自分が勝っていても流石は人型ゲダツ。相手の身体能力も常人離れしているために姿を見失う事はなくとも中々追いつけないでいた。

 しかも厄介な事にレフトはわざと人混みのありそうな場所を目指して移動をしている気がする。


 「くそ、ここで仕留める!」


 大量の飛礫を飛ばすが距離があり過ぎてほとんど命中しない。こうしている間にも人の気配の多い場所まで相手は避難を続けている。


 「くそっ、何としても人混みに紛れる前に勝負を付けなければ……!」


 だがこの時の彼女は目先の敵に意識が行き過ぎていた。


 それ故に背後から逆に追いかけてきている敵の存在に気付くのが遅れた。


 「なっ、後ろ!?」


 背後から僅かに感じた殺気に反応して足を動かしながら振り返った烈火。

 そして彼女が後方を確認するとこちらへと目掛けて紅蓮の火炎砲が飛んできた。


 「ぐっ、今度は何だ!!」


 彼女は咄嗟に背後の地面を操り壁を形成、こちらへと螺旋を描いて伸びて来た火炎砲を防ぐ。

 だが炎の威力は想像以上に強力で形成した壁は簡単に崩れていく。


 ボロボロの壁を取り払い炎の出所に目を向けると一人の眼鏡を掛けて青年がこちらへと歩み寄って来ていた。


 「まったく、帰りが遅いと思ったらいきなりの呼び出し、面倒ごとを運んで来やがって」


 そう言いながら現れたのはレフトの仲間であり同じ人型ゲダツであるライトだった。



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