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転生戦士と根暗女

今回からまたあの転生戦士、河琉君のお話になります。復讐物語の方は次の次かな……。


 ありふれた授業風景、教師が黒板に数式を次々と書き込んで生徒達はノートにソレを書き写している。どこにでも見られる学校風景の1ページだがその中に1人だけ他の生徒達とは異なる行動を取っている生徒が居た。


 「ぐー…ぐー……」


 それはこの神正学園の転生戦士の1人である玖寂河琉。

 彼は机の上でノートは広げているがその開かれたページは全てまっちろ。それどころか教科書を机の上に立てて目隠しにし堂々と居眠りをしている。まあこの風景も学校生活あるあるだが……。

 

 「やだ、河琉君寝てる♡」


 「かーわーいいー♡」


 彼の周囲の席に座って居る女子達はそんな彼の居眠り姿を見てメロメロとなっていた。年齢よりも幼く見え、尚且つ顔立ちが端整な彼は女子人気が非常に高いのだ。だがそんな事が通用するのはあくまで女性だけ、担任である男子教師はバキリとチョークをへし折ると無言で河琉の前まで歩いて来た。


 「おい玖寂、俺の授業はそんなに退屈か?」


 額に青筋をビキリと立てて彼にそんな質問を投げかける教師だが当然夢の世界に居る彼にはその言葉は届かない。しかし不幸な事に彼は寝ぼけながら返事を返して無駄な軌跡を発動してしまう。


 「ん~…たい…くつ……」


 「ほぉ~~~~?」


 まさか言葉を返されるとは思わなかった教師。その額に浮き出ている血管の本数が増殖。

 手に持っていた教科書を丸めるとそのまま眠っている河琉の頭部に叩き込もうと振り下ろす。


 「……ハッ!」


 だが振り下ろされた教科書は河琉の頭部に叩き落とされるよりも早く受け止められる。しかも何と河琉はそのまま教師の掴んだ腕を捻ると手に持っている教科書を落とさせる。そして素早くその教科書を掴むと彼は恐れ多くも教師の額をバシーンッと叩いたのだ。


 「……あれ?」


 未だに半ボケの状態である彼は完全に無意識に動いていた。それ故に自分が何をしたのかまだ把握しておらず眠そうな目をしている。


 「え~…と~……?」


 目をゴシゴシと擦りようやく眼が冴えて来た河琉。

 周りを見てみると教室内のクラスメイトは全員目を丸くしており、そして謎の静寂に教室全体が包まれている。

 そこへ低い声を出しながら教師が彼の名前をゆっくりと呼んだ。


 「玖寂…お前良い度胸しているなぁ……」


 その怒りに満ちている声に真正面を見てみるとそこには鬼の様な形相で自分見ている担任の教師。

 そしてここに来てようやく自分が何をしたのか思い出した彼は口からあっと漏らすとしばし無言となり、そして自分の幼さを利用して出来る限り愛想よく謝罪する。


 「ごめんなさい先生。許してください」


 首を横にコテンと傾けて謝る彼の姿に周囲の席の女子が頬を染めてキュンキュンする。だが残念ながら目の前の教師は火に油を注がれた気分となっただけ。

 

 再び振り下ろされた教科書による面は今度はまともに河琉の頭頂部に叩きこまれるのだった。




 ◆◆◆




 「はあ~…居残りで教室掃除なんてマジかよ……」


 放課後となってもう空となったクラスでは河琉がブツブツと文句を言いながら箒をせっせっと動かしていた。

 授業中の教師に働いた無礼によるペナルティとして彼は放課後の居残り掃除の罰を与えられていた。


 何でオレがこんな下らねぇ事しなきゃ……と言いたいとこだがこの程度で済んで良かったとむしろ幸運に思うべきなのかもな。


 普通に考えれば軽く額を叩いた程度とは言え教師相手に暴行をしたのだ。むしろこの程度の軽い罰しか与えられないのは異例だろう。


 「しっかし……相変わらず周りの女子は五月蠅いな……」


 掃除をダラダラとしながら彼はクラス内での女子とのやり取りを思い出していた。

 自分が教師に頭部を軽く叩かれた、彼にとっては撫でられた様なものだがその事を授業終わりに女子達に過剰に心配されたのだ。

 相変わらずこの童顔は女受けが良いらしく毎日が戦いとは関係なく精神的に疲労が募って行く。


 「はあ、こんな事しているくらいなら戦いてぇなぁ……」


 もういい加減に面倒臭くなったのか彼は箒を掃除用ロッカーに仕舞い込んだ。どうせ罰を与えた教師が見張っている訳ではない。

 

 まあ…さっきからジロジロとオレを見ているヤツは居るが……。


 適当に掃除を切り上げると河琉は教室を出ようとする。その際に廊下の物陰から自分を見ていた女に少し声を張って話しかける。


 「それで、お前は一体何なのかな?」


 「ッ!?」


 姿こそは見えないが物陰から感じる気配の揺らぎを敏感に察知した河琉は改めて声を掛けてやる。


 「もう一度言うがオレに何か用か? さっきからずっとジロジロと見られて気分が悪いぜ」


 少し威圧感を含めてそう言うと観念したのか一人の女子生徒がようやく姿を現した。


 「お前は…猪錠刹那……」


 「………」


 自分を覗き見していた相手は同じクラスの女子生徒の猪錠刹那であった。

 別段彼女とは仲が良い訳でも何でもない。ただクラスが同じと言うだけで会話すらした記憶もない。つまり自分を覗き見する動機も分からない。


 「何でオレを見ていた? 他の女子達とは明らかに視線の種類が違ったと思うが?」

 

 普段から女子に囲まれてはいるが彼女は明らかに自分を探るかのように見ていた。

 すると刹那は無言のままゆっくりと河琉の方まで歩み寄って来て、そして目の前まで来るとスマホを開いてその中のある映像を見せて来た。


 「……おい、コレは何だ?」


 彼女が見せて来た動画はハッキリ言ってかなりの衝撃映像であった。


 彼女のスマホの画面内では40代位の中年の男が眼鏡を掛けている如何にもお利口さんと言う風体の少年に何やら説教をしている。だがよく見ると少年の手には煙が立ち昇っている煙草があり、大方未成年の喫煙に対して怒っているのだろう。

 だが彼が目を見張ったのはその後、少年が眼鏡を外すと中年男が石化したのだ。そしてそのまま石像と化した男は少年の手によって粉々に破壊された。


 「お前…この映像はどうしたんだ…?」


 そう言いながら河琉の眼が一気に鋭さを増す。

 普通の人間ならば間違いなくこんな映像は作り物の偽物だと思うだろう。だが転生戦士たる河琉にはこの映像がノンフィクションであると理解できる。


 「この映像は私が偶然にも撮影できたもの。まさかこんな非日常が現実で起きるなんて……」


 そう言いながら刹那は頬を紅く染めて興奮し始める。

 この映像をスマホに撮る事と言い、そしてこの嬉しそうな反応と言い随分と目の前のクラスメイトは頭のネジがトンでいるようだ。


 「どうしてこんな映像をオレに見せた?」


 自分の知る限りではこの猪錠刹那はクラス内の誰ともコミュニケーションなど取ってはいなかった。そんな人物がこんな映像を何故自分に見せたのか理由を問うと彼女はまたしても無表情に戻りこう言って来た。


 「あなたならこの現象について何か知っているでしょ?」


 刹那の確信を持っているその問いに対して河琉は誤魔化す事はせず素直に認めた。

 ここで下手に誤魔化してもこの様子ならしつこく追求してくる事は目に見えている。それに何よりこんな映像を撮影していると言う事は彼女は一般人でありながらかなり〝自分たちの世界〟に踏み込んでいるのだろう。

 それなら一切取り繕う事無くこちらも訊きたい事を素直に訊くとしよう。


 「確かにオレはこの映像に映っている異常現象について心当りはある。でもお前はどうしてオレがお前の求める情報を持っていると知った?」


 河琉は少なくとも一般人の前で特殊能力などは一切見せていない筈だ。もちろん刹那に転生戦士としての力を披露した記憶も一切ない。一体この女はどこから自分の正体を突き止めたと言うのだろうか?

 だが彼女は決して彼が転生戦士であると言う事実は一切知らなかった。


 「ここ最近のあなたはどう考えても変だったから。ずっとビクビクしていた癖にいきなり誰が相手でも不遜な態度、そして異常な身体能力の向上。そして何より……あなたの眼は別人の様に変わっていた。私からしたらまるで別世界の住人がいきなりこの学校に現れた気分だった」


 「おいおい…じゃあお前はただ直感でオレなら動画内の非日常と関わりがあるとかまかけたのか?」


 河琉が呆れ気味にそう尋ねると彼女は無言で首を縦に振る。

 

 「それにネット内でとある噂も広まっていた。この神正学園以外でもいきなり別人の様に豹変した学生が居る。しかもいきなり常軌を逸した身体能力を手に入れて危ない薬でも使っているんじゃないかって……今のあなたのように……」


 「なるほど、まあ町中でドンパチする事だってあるだろうしな。都市伝説的な噂が広まる可能性はオレも考えてはいた。だがまさかそんな噂を鵜吞みにする輩がウチのクラスに居るとは思いもしなかったがな」


 そう言いながら河琉はどこか目の前の彼女を小馬鹿にするように見つめる。


 「お前も随分と暇なんだな? こんな裏の世界について熱心に調べ物なんてつまらない事に精を出しているんだから」


 「私にとってはつまらない事なんかじゃない。自分たちの知らない場所でイカれた力を持つ人間の存在、そして世間では認知されていない殺人、この上なく私には興味をそそる内容で調べれば調べる程に私の心を躍らせてくれた」


 そう語り出し始めるとまたしても彼女の表情は醜く歪んでいく。

 今までクラス内で見せていたあの能面の様な顔は偽物、この醜悪な微笑を浮かべている彼女が本当の姿だったのだろう。


 だがそんな彼女を見ても河琉はまるで動じない。むしろ新たな遊びを見つけた子供の様に彼も三日月に口に弧を描き笑うのだった。



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