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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十三章 転生戦士激闘編 序章
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戦闘狂の救世主現る


 無事に阿蔵を撃破した仁乃が拘束した彼から情報を得ようと歩を進めようとした瞬間、背後から女性の声が聴こえて来て反射的に彼女は振り返った。


 だが彼女が体を声の方角へと向けたと同時に腹部に灼熱の激痛が走った。


 「悪いけどあなたとお喋りする気はないわ。大人しく寝て居なさい」


 仁乃の目の前には長く美しい金髪にエメラルド色の瞳を携えている一人の女性が立っていた。そして彼女の右手は仁乃の腹部を抉り指先が彼女の内部へと僅かに埋まっていた。

 自らの腹部に他者の親指以外の4本の指が喰い込み肉を抉る痛みは想像を絶する。あまりの激痛と異物感から脂汗がダクダクと流れ、呼吸も上手く整わずリズムも狂う。


 「う…この……」

 

 腹部を指先で貫かれている痛みを堪え糸で目の前の謎の女を拘束しようとする。だが彼女が能力を使おうとしている事を察した相手は腹部に抉り込んでいる指を動かして腹の肉をかき回した。

 ただでさえ激痛だと言うのに抉られた指を内部で動かされ痛みの度合いが一気に高まり、しかも仁乃の口からは僅かに血が垂れる。


 「あ…あぐ……」


 腹部の内側を爪で削られる痛みに耐えきれず仁乃の瞳の端には涙が滲み出し、さらに意識まで朦朧としていく。

 

 「無駄に我慢しないでくれる? とにかく寝ていなさいな」


 痛みに悶えつつも抵抗しようとする仁乃を面倒に思った女性はもう片方の空いている手で拳を形作ると仁乃の腹部にキツイ一発をくれてやった。

 重たいボディブローに仁乃の意識はそのまま薄れ、そしてその場で前のめりになって倒れ込んだ。


 「さて……随分と情けの無い恰好ね阿蔵」


 「さ、沙羅さん。どうしてここへ……?」


 自分たちのチームを纏め上げているリーダーの登場に阿蔵は恐る恐ると言った感じで沙羅へ何故この場に居るのかを問う。だがその疑問に対して返って来たのは言葉ではなく容赦のない蹴りであった。

 

 「ゴボォッ!?」


 仁乃の糸で縛られている阿蔵は手加減無しに振るわれた蹴りを避ける事も受け止める事も出来ずにモロに顔面に叩きこまれてしまう。そのせいで前歯が全部へし折れてしまい、細かく砕けた歯の残骸が屋上の地にばら撒かれる。

 苦痛に顔を歪めている彼の顔を踏みつけながら沙羅と言われた女性はまるで氷の様に冷たい眼で足元で這いつくばっている阿蔵を見つめる。


 「確かアンタはこう言っていたわよね? 俺が新たな新戦力を勧誘してこのチームを強化して見せますと。にもかかわらずこの体たらくぶりは一体何なのかしら? 私の事を馬鹿にしているの?」

 

 「い、いや…決して沙羅さんの事を馬鹿にしている訳では、ゴフ」


 必死に言い訳を述べようとする阿蔵の顔をさらに力強く踏みつけてやる。そのせいで頬が靴の裏で圧迫され血みどろの顔が更に不細工に歪む。そんな彼をまるでゴミでも見るかのような眼で相変わらず沙羅は冷淡に見つめ続ける。


 「いいやアンタは私をバカにしているわ。そもそもこの焼失市に踏み込んでからアンタは連絡ひとつ私に寄こさなかったじゃない。定期的に連絡は入れるようにと私は命令していた筈よ。転生戦士の勧誘となれば想定外のアクシデントだって起こり得るでしょ? 現に私が現れなければアンタはこのツインテールに何をされていた事か……」


 「そ、それは申し訳ありません。で、でもどうやって俺の居場所を?」


 「アンタには小型の発信機を付けていたのよ。ほらコレ」


 自分の居場所をどうやって捜し出したのか不思議に思っている阿蔵のコートに手を入れる沙羅。そして彼女がコート内から腕を引き抜くと小さな発信機を指で摘まんでいた。


 「い、いつの間にそんな物を……」


 「言っておくけど随分と前からアンタには定期的に発信機を取り付けていたわよ? いや、もっと言うなら私のチームのメンバー全員に取り付けているわよ。まあ何人かは気付いているのでしょうけど」


 沙羅にとって自らのチームに所属している転生戦士達は貴重な戦力だ。そんな戦力達の行動を沙羅は逐一把握できるようにしている。何しろ今の自分たちは別の転生戦士チームと抗争一歩手前までの状態だ。本格的に開戦する前に臆病風に吹かれて逃げ出さないか? また相手のチームにスッパ抜かれないかを監視する必要もある。

 そして今回の阿蔵の様に連絡が途絶えた場合に位置を探る為にも発信機を秘密裏に取り付けて置いたのだ。


 まあ沙羅がこの焼失市に居たのは彼女も彼女でチームを強化する為の勧誘活動を行っていた事もあった。何も自分の下に付いている者だけに戦力の拡充を任せる気はない。そしてこの焼失市内で彼女は阿蔵とは違い新たな転生戦士をひとり味方に付ける事に成功していた。

 まあその話はさておき今はあそこで倒れている少女の方が重要だ。


 沙羅は阿蔵に背を向け仁乃の傍まで寄ろうとする。

 視線が途切れた事で阿蔵は沙羅の背中を睨みつけ心中で毒づいた。


 「(クソ…一体いつからあんな物を潜ませてやがった。 このアマ…俺の行動をずっと監視していたのかよ。このストーカー女が…)」


 自分の行動を逐一調べられ続けていた事実を知った阿蔵は無意識に表情をしかませていた。仮にも同じチームに所属している味方を覗き見するような真似をされていたと知れば嫌悪感を抱くのも無理はないだろう。


 だが阿蔵が不満をほのかに臭わせる顔をした瞬間、背を向けているにもかかわらず彼の心の濁りを察知した沙羅の蹴りが再び阿蔵の顔面を捕らえた。その蹴りでさらに数本の歯が砕けて四散する。鼻の方も完全にねじ曲がってしまっていた。


 「勝手に発信機を付けられた事に不満を言う様ならお門違いよ。今回アンタが助けられたのは私のこの行為あっての事でしょう?」

 

 「は、はい…ずいばぜん」


 もはや生えている歯の本数の方が少ない阿蔵が呻きながら謝罪の言葉を述べる。


 「とにかく人が来る前にこの屋上から立ち去るわよ。ほら、アンタもいい加減に自由にしてあげる」

 

 そう言うと彼女は神力で手を強化すると阿蔵を縛っている糸を軽々と切断してしまう。

 自分がどれだけもがいても自力では抜け出せなかった拘束を手刀ひとつでアッサリと解放してしまう沙羅に彼は改めて思った。この女はやはり怪物だと。

 糸による拘束から解放された阿蔵はそのまま立ち上がろうとするが両腕をへし折られているので起き上がりに苦労する。だがそんな彼に対して沙羅はめんどくさそうに一言こう言うだけ。


 「早く立ちなさいよ愚鈍」


 傷だらけの体を必死に動かそうとしている彼に対して補助もしなければ応援の言葉も送らない。ただ冷淡に早く立ち上がるように命令を出すだけ。

 そんなぜえぜえと荒い呼吸で必死に痛む体に鞭を打つ彼を無視して沙羅は倒れている仁乃の方へと歩み寄る。そして彼女の頬を優しく撫でると意識の無い彼女に話し掛けた。


 「本当に凄いわねあなた。少なくとも阿蔵よりも遥かに優良物件よ」


 阿蔵本人が背後に居る事もお構いなしに沙羅は仁乃に賞賛の言葉を送った。


 出来る事なら彼女をチームへと引き抜きたい。だが阿蔵の勧誘を断った以上は自分が誘っても結果は同じだろう。自分のチームに相手の心を操る能力者でもいればもっと勧誘活動もスムーズにいくのだが……。

 そんなない物ねだりをしながら沙羅は倒れている仁乃の首筋に手刀をかたどった手を押し付ける。このままこの手を彼女の首の上で引けば首を切断する事も彼女には出来る。


 「悪いんだけどあなたが敵対チームに加入される可能性は見過ごせないわ。可哀そうだけど二度目の死をプレゼントしてあげる。大丈夫、意識の無い今なら恐怖も無く逝けるわ……」


 そう言いながら沙羅は仁乃の首の上に置いてある手刀を一気に引き切ろうとした。だが彼女が腕を後ろに引こうとした刹那、沙羅は仁乃の止めを見送って後ろを振り返る。


 「え…何でトドメを刺さないんですか?」


 仁乃の処刑を中断した事に阿蔵が疑問の声を苦悶と共に漏らす。

 そんな彼の反応に対して沙羅は呆れたように溜め息を吐きながら彼が破壊した入り口を指差した。


 「まったくアンタは相変わらず気配探知がへたくそね。意識を集中させなさい」


 そう言われて阿蔵は向けられた彼女の指先に視線を移してみる。すると屋上の破壊された入り口から一人の少女がゆっくりとこの空間内に足を踏み入れて来た。


 「へえ…かなり面白い状況ね」


 いきなり現れた謎の少女に阿蔵は眉を寄せる。だがすぐに相手の全身から僅かに神力が漏れている事を遅れながら気づいた。


 「て、転生戦士…?」


 阿蔵が確認の意味を込めてそう呟くと沙羅は小さな声で『今更何を言っているのやら…』と口にしていた。

 そんな阿蔵の間抜けな反応はさておき、沙羅は目の前で薄ら寒くなる笑みを浮かべている少女から神力以上に強い狂気をしっかりと見抜いていた。


 「随分と危なっかしい娘が来たわね。それで、あなたはどうする気なのかしら?」


 「あら、危ないなんて言いつつも余裕そうな顔をしてるじゃない」


 そう言いながら新たな訪問客である仙洞狂華は口で弧を描き笑う。

 この状況で不気味に笑う狂華に阿蔵はまるで人の姿をした別のナニかが目の前に現れたような薄気味悪さを肌で感じた。

 

 そんな本能で狂華のヤバさを感じ取って内心でビクついている阿蔵は置いておき沙羅が一歩前に踏み出し彼女と対話を始める。


 「私としては出来れば今あなたの様な転生戦士とは揉めたくはないわね。本音を言うのであればここで戦えばかなりの痛手を負いそうだもの」


 「あら、逆に言えば深手は負うが勝負には勝てるとも聞こえるけど?」


 「さあどうかしら?」


 互いに値踏みするかのような視線を送りながら二人の女性が笑う。それと同時に屋上内の空気がドンドンと重苦しくなり後方で見ているだけの阿蔵が息苦しそうにする。

 しばし口だけ笑みを浮かべたまま睨み合う両者だが、先に緊張を解いたのは意外にも狂華の方であった。


 「やーめた。あなたは殺し甲斐がありそうだけど今はそっちで苦しそうにしている彼女を貰おうかしら?」

 

 そう言いながら狂華は気を失っている仁乃を指差した。

 当然だがいきなりそんな要求をされても従う事など出来る訳もないと阿蔵が声にして否定しようとする。だが彼よりも先に沙羅が口を開いた。


 「良いでしょう。でも代わりに私とこのバカを大人しく逃がしてくれる? さっきも言ったけど今はあまり大きな負傷はしたくないのよ」


 「オーケー…交渉成立ね。それじゃあその娘は貰うわよ」


 「お好きなように。さて、行くわよ阿蔵」


 そう言いながら沙羅はそのまま何食わぬ顔で狂華の隣を通り過ぎて行く。 

 その際に狂華は一瞬の邂逅の際に一番言いたい事を告げて置く。


 「いずれあなたとは命懸けで殺し合いたいわね」


 その挑発じみたセリフに対して沙羅はふっと小さく笑みを零しそのまま屋上から姿を消した。そのまま阿蔵も両腕をダランと垂れ下げながら慌てて後を追う。

 

 そして屋上には意識を失った仁乃と沙羅の力に興味を持ち怪しく笑う狂華だけが残った。



 

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