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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十三章 転生戦士激闘編 序章
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勝利の為の逃走


 こちらへと短刀を握って突っ込んで来る阿蔵に仁乃は糸の槍を空中に大量展開して次々と射出する。

 幾重にも風を切り裂いて向かってくる槍の軍勢を阿蔵は全て紙一重で回避、しかも少しずつ距離を縮めて来る。

 そして懐の近くまで寄って来られた仁乃は遠距離攻撃を中断し、接近戦へと移行して糸を集約して槍を形成。


 両者の振るった獲物がぶつかり合い衝撃が発生する。


 二人は自らの足場に亀裂を作りながら互いに踏ん張り合って獲物を押し合う。


 「へえ、糸を束ねて槍を作り出すか。面白い能力の応用の仕方だな。しかし……思った以上にパワーあんだなお前。簡単に押し切れると思っていたが……!」


 「舐めるんじゃないわよ。私だって伊達に修羅場を潜って来てはいないわ……!」


 二人は顔を近づけながらそのまま鍔迫り合いにもつれ込んでしまう。だがしばし拮抗状態であったパワー関係に次第に優劣が生まれ始める。


 「な…マジかよ……!」


 なんと仁乃のパワーは僅かに阿蔵を上回っており徐々に彼女は阿蔵を押し込み始めて言っているのだ。

 両手で握りしめている彼の短刀は少しずつ押しのけられ、このままでは押し飛ばされると思った阿蔵はここで完全に奇想天外な行動を取って来た。


 「ぐっ、良いモン持っているじゃねぇか。少し触らせてくれよ」


 「なっ、きゃああああああああ!?」


 両手で短刀を握りしめていた阿蔵は何を思ったのか短刀から片手を放したのだ。ただでさえ力負けしているにも関わらず片手を武器から手放すなんて自殺行為だと思った仁乃が内心では首を傾げていた。実際に短刀から片手を放した途端に一気にグイッと阿蔵は押し込まれて体制も崩れかけている。

 だが何と阿蔵は自由になった片方の手を前に伸ばし仁乃の豊満な胸を掴んで来たのだ。

 

 「こ、コイツ!?」


 自分の胸を加江須以外の男に鷲掴みにされ彼女は羞恥心以上に怒りで顔が真っ赤に染まる。思わず彼女も片手を槍から放すと自分の胸を腕で隠す。だが鍔迫り合いの最中に彼女のこの行動は完全に大きな隙を生んでしまう。

 計算通りの反応を見せて隙を作りだせた阿蔵は醜悪な笑みを浮かべると強烈な蹴りを仁乃の腹部へと突き出して来たのだ。


 神力の加わっている蹴りは仁乃の鳩尾にめり込んで大きなダメージを与えてしまう。


 「あ…がはっ……!」


 圧迫感と痛みに思わず槍を完全に手放してしまう仁乃。

 その悶絶しているチャンスを見て阿蔵は嘲るような笑みと共に短刀を彼女の首元へと振るって来た。


 「もらった!!」


 勢いよく横薙ぎされた短刀の刃はなんと仁乃の首にぶつかりそのまま一閃されてしまう。しかし完全な致命傷を与えたはずの阿蔵だがその顔は疑念に溢れていた。


 「(何だ今の刃越しに手に伝わった感触は? 肉を切り裂いた感触と言うよりも分厚い糸の束を刃でなぞった様な……)」


 自分の手の中に伝わって来た違和感を確かめようと横薙ぎした彼女の首を見てみるが頸動脈を切るどころか血の一滴すら出ていない。いや、もっと言うのであれば短刀で斬った切り傷すら見当たらないのだ。

  

 「げほっ…この、ド変態野郎め!!」


 今度は致命傷を与えられなかった阿蔵が隙を見せてしまう。

 一気に稲妻の様な鋭い踏み込みを見せて来た仁乃が拳をガッチリと握りしめて怒りのままに阿蔵の顔面に拳を振るって来た。

 

 ――ガヅンッ!


 「があ……?」


 顔面の中心を的確にとらえた仁乃の拳はかなりの衝撃を阿蔵に与えた。


 な…何だ今の一撃は? とても拳で殴られた様な感じじゃなかったぞ……!?


 阿蔵の顔面に叩きこまれた一撃は明らかに拳で殴られた様な感触ではなかった。まるでガチガチに固められた物体で殴られたかの様な衝撃だった。それに殴られながらも阿蔵は見ていたのだ。彼女の拳が自分の顔面に触れるよりも先に痛みと衝撃が走ったのだ。


 「ぐは……そうか…そう言うカラクリか」


 今の一撃で鼻骨が砕け鼻血を滴らせながらも阿蔵は先程の一撃で彼女の首が切り裂けなかった事、そして今の拳が触れる前に痛みが走った理由を理解できていた。


 「随分とセコイ真似してんだな。大方無色透明の糸でも首や拳に巻いているんだろ?」


 「……何の事かしら?」


 まさかこの短時間で見抜かれてしまう事に内心で動揺しかける仁乃であるが何とか表情に曝け出す事だけは押しとどめる。しかし一瞬だけ返答に間を置いてしまった事でどうやら図星だったと見抜かれた様で阿蔵は嫌らしく笑みを浮かべて指を差す。

 

 「どうやら図星みたいだったようだな。糸を操る能力、かなり応用が利くな」


 まさか無色の糸まで作りだせるなんて中々に便利な能力だと感心する阿蔵。それと同時にこれだけの力を持つ転生戦士を逃して敵対チームに取り入れられては面倒だとも判断する。


 「しょうがねぇな。できれば能力を使いたくなかったんだけどな……」

 

 そう言うと彼は折れた鼻をコキッと軽く捻り位置を戻して神力を高めた。

 相手の力が上昇している事を察知した仁乃は追撃を加えようとしていた拳を引っ込めそのまま後方へと跳んで距離を置く。


 アイツの神力がどんどん大きくなっていっているわね。どうやらアイツも特殊能力を発動しようとしているみたいね……。


 ここまでの戦闘では与えたダメージは自分の方が大きいのは明白だろう。だがここまでの戦いで阿蔵はまだ一度も特殊能力を発動していないのだ。つまりはまだ底が見えていない。

 警戒をより一層に強めている彼女に対して阿蔵は鼻血を流しながら不敵に笑う。


 「もし特殊能力無しの戦闘で片が付いていりゃ全治一ヶ月程度で済んだかもしれないが……ここまでやるヤツなら手加減できないよなぁ?」


 そう言うと阿蔵はその場で拳を構えたのだ。


 「(人の頸動脈狙って何を……しかしどう言うつもりよ? こんな距離の離れた位置で拳なんて構えて……?)」


 腰を深く落として威力を底上げした拳を構えているが自分と相手との距離はかなり離れている。どう考えてもあの拳が自分の体を打つ事は物理的に不可能だろう。まさか漫画の様な拳圧でも飛ばして来る気だろうか?

 そんな事を考えつつ相手の出方を窺っていた仁乃。だが次の瞬間――彼女の腹部には拳が突き刺さっていた。


 「な…に……?」


 何が起きたのかまるで分からないまま仁乃は阿蔵の拳を腹部にモロに受け吹き飛んでいく。そのまま彼女は屋上の入り口の扉に背中を強打する。

 抉り込まれた拳と背中を扉に強打したせいで彼女は肺の中の空気を一気に吐き出す。


 「ゴホッ! げほげほ……」


 殴られた腹部を押さえながらその場で膝をつく仁乃。

 

 ど、どう言う事よ? 私はアイツから一切目を離してはいなかったわよ。なのに気が付いた時には拳がお腹にめり込まれていた。


 この時に彼女の頭の中にはあの狂戦士である仙洞狂華の姿がよぎった。


 「(まさか時間を停止するタイプの能力? もしそうだとするなら確かに今の不可思議な現象に説明もつくけど……)」


 相手の能力のカラクリを解こうと必死に頭を回転させている仁乃だが、驚いているのは相手の阿蔵も同じであった。


 「(今の一撃、腹を抉って風穴を空ける程の威力の拳を叩きつけたつもりだったがダメージが予想よりも小さいな。それに腹部を殴ったあの感触、何か分厚い繊維を殴っている感じだった。恐らくは透明な糸を事前に腹に巻いて簡易的な防具を付けているんだな……)」


 阿蔵のこの予想は大正解であった。彼が能力を使うと宣言した時に彼女はクリアネットを首元だけでなく腹部にも巻いて防御力を上げていたのだ。そんな機転を働かせたからこそ今の一撃でも仁乃はダメージを比較的に軽減させれたのだ。

 とは言え仁乃の方は未だに阿蔵の能力の謎を解明できていない状態だ。それに引き換え阿蔵は仁乃の能力が糸を操る力である事をもう把握済みだ。


 「このままじゃ私が不利ね……」


 相手の手札が未だに未解明な状態でこのまま戦闘を続行するのはかなり不味い。下手をしたら次の一撃で勝負を決められる可能性だって十分にある。


 そんな事を考えていると再び阿蔵が距離が開いているのも関わらず攻撃の構えを取る。しかも今度は拳ではなく短刀を構えているのだ。


 「(ぐっ、不味いわね。またあの瞬間移動みたいに目の前にいきなり現れて攻撃したら防げる自信が無いわ。それにアイツも私がクリアネットを首元や腹部に巻いている事は分かっているだろうし……)」


 仁乃は何も全身に糸を巻いている訳ではない。もしも全身にクリアネットを巻いたりしようものなら糸が絡まり満足に動けなくなり自滅だってあり得るからだ。

 いつ来るか分からない攻撃に仁乃は冷や汗を掻きながら視線を目の前の阿蔵に集中、ではなく背後の扉に目を向ける。


 そして仁乃はタイミングを見計らうと勢いよくその場から立ち上がった。そして立ち上がると同時に背後の扉の取っ手に手を掛けてそのまま扉を勢いよく開く。


 「ぐっ、逃がすか!」


 仁乃の次の行動が逃亡である事を察した阿蔵は能力を発動して再び仁乃のすぐ間近まで迫る。

 だが仁乃はそんな阿蔵に背を向けてドアを通過し屋上から離脱しようとしている。その無防備な彼女の背中に一瞬で距離を詰めた阿蔵が短刀を振るい背中を裂こうともう1歩前進した。

 だが阿蔵が足を1歩前に踏み出すと同時に仁乃の仕掛けていたトラップが発動した。


 「なっ、うお!?」


 阿蔵は情けない声と共に何かピンと張っている物に足を取られてそのまま前のめりに倒れてしまったのだ。その結果彼の振るった短刀の刃はギリギリで仁乃の背中に届かず、しかも彼女が屋上を出ると同時に扉をしめてしまい、足を獲られて前のめりで倒れた阿蔵は顔面から扉に激突してしまった。


 「ぷあっ……!?」


 鼻骨が砕けてる彼の鼻が扉に激突しまたしても大量の鼻血が噴き出る。

 

 仁乃は背後の逃走用にと扉を観察しつつも自分の目の前のクリアネットを設置していたのだ。もしも阿蔵がまたしても距離を一瞬で詰めて来た時に足を引っ掛けて躓く様にと。

 その狙いに見事に引っかかった阿蔵はまたしてどす黒い鼻血を垂らす事になる。


 「……ぶち殺してやる」


 まんまと相手の策に引っかかり醜態を晒してしまった阿蔵は額に血管を複数本も浮き出しながら口元に垂れている鼻血を舐める。

 そして怒りのままに閉められた扉を足で蹴破るとそのまま階段下に逃げたであろう仁乃に向かって激情を叩きつける。


 「必ず殺してやるからなぁ!! このくそホルスタイン女がぁぁぁぁぁぁ!!!」


 そう怒鳴った直後に阿蔵は階段を一気に駆けおりて行った。



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