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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十三章 転生戦士激闘編 序章
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少しずつ過激になる元神様


 転生戦士の報酬制度変更の知らせを受けたその後、加江須たちはそのまま別れて各自帰路へと着いた。

 加江須の事をずっと監視し続けていた相手が一応は敵でない事も判明したのでひとまずは安心だと思ったのだろう。だが黄美だけは恋弧に対してかなりの警戒心を抱いていたが……。


 家に戻るとアルバイト先から既に帰宅していたイザナミに今日一日の出来事を話していた。


 「そ、そんな人が加江須さんに迫っていたんですか。願いを叶えて自分の肉体年齢まで成長させるとは凄い執念ですね…」


 実はイザナミも今朝の学校の登校前に自分が誰かに狙われているかもしれないと言う話を加江須から聞かされていたのでアルバイト最中は気が気ではなかった。だがどうやら尾行者の正体はゲダツなどではなかったので取り合えずは胸をなでおろす。とは言えイザナミだって加江須の恋人の1人なのだ。あまり加江須に妙な事をされてはかなわないと思い一応釘は刺しておく。


 「相手が敵意の無い転生戦士だったとは言え警戒はしておいてくださいね。話を聞く限り別の意味で少し危ない人の様な気もしますし……」


 とは言えイザナミは実際に恋弧をその眼で見ていないのでイマイチ恋人としての危機感が薄かった。


 だがすぐに恋弧の異常性をイザナミは知る事となる。


 「あ、またメール……うわぁ……」


 机の上に置いていた自身のスマホが震えて手に取って中身を確認する加江須だが、画面に移された文章を見て思わず引いてしまう。

 自分の対面であからさまに複雑な表情をする加江須が気になり背後に回り込んでスマホを見てみた。


 『申し訳ありません加江須さん。先程にメールしたばかりですがもう辛抱が出来なくなってしまいました♡ ところで最初のメールには返信がありませんでしたね? 出来る事ならあなたのお返事を返してもらいたい所存です♡ 折角お近づきになれたんです。もったあなたと交じり合いたいです♡ 密接に絡み合いたいです♡』


 「「………」」


 メールの内容を見てイザナミはどこか乾いた瞳をし、そして加江須はもうどうしたら分からず死んだ目をしている。


 「とりあえず返信はした方がいいんじゃないでしょうか? 返事が返って来ないと何度も頻繁にメールが来るかもしれませんし…」


 「……はい」


 そう一言だけ返事をすると加江須は当たり障りのない文章を恋弧へと発信した。

 

 「とりあえず今のメールを見て恋弧さんとやらがどのような人かは分かりました。なんだが加江須さんって癖のある娘に好かれやすい体質なんですかね? それとも無意識に女性を口説いているんでしょうか?」


 「お、おいやめろってイザナミ。お前たちがいながら他の女性を口説くような真似なんてしないさ」


 「ふ~ん…そうですかねぇ……」


 どこか不貞腐れた様な口調で疑惑の目を向けつつも彼女は信用をする。


 まあこの少女については今は良いだろう。それよりも気になるのは加江須から聞かされたもう一つの報告の方だ。


 「転生戦士に対しての金銭による報酬制度変更ですか……」


 加江須から聞かされた新たな報酬制度に対してイザナミが小さく呟く。

 

 願いを叶える権利はゲダツサイドに悪用されてしまえば世界にとって大きな痛手となりかねない。それならば報酬を金銭に変更すると言う点は多少の引っかかりはあるが頷ける。それにゲダツを退治する度にこの報酬なら転生戦士の戦いに対するモチベーションの低下も防げるかもしれない。

 だがこの報酬に対してイザナミにはある不安が拭いきれなかった。


 「何だか不安そうな顔をしているなイザナミ」


 「……正直に言えばそうですね。確かに金銭目当てのゲダツは少ないので転生戦士とゲダツの共謀対策にはなるかもしれません。しかし……」


 「今度は金目当てで転生戦士同士がいざこざを起こしかねない…とでも言いたいのか?」


 加江須の言葉に対してイザナミはどこか悲しそうに頷いた。

 

 過去に神界から追放される前までは神の1人として人間を見守り続けていた彼女だが、決して綺麗な面ばかりを見ていた訳ではない。時には醜さから眼を背けたくなる一面だってあった。そんな人間の悪行の中には金に目がくらんで非道を働く人間の負の部分も何度も見て来たし、そんな人間に裁きが下される瞬間もこの瞳に焼き付いている。


 「お金は確かに大事かもしれません。でも時に人をどこかまでも歪める魔力を秘めているんです」


 「言いたい事は凄い分かるよ。実際にこの現代社会で金銭問題なんて星の数ほどあるしな……」


 生きて行く上で生活基盤を整えるために金を得ようとする事は決して間違いではないだろう。だが時に人は金の魔力に取り込まれ、身の丈に合わない金銭を得るために人としての一線を超える事もある。それは強盗、詐欺、挙句には殺人にまで発展する事だって珍しくはない。高々万札と言う名の紙切れの為に人は堕ちるときにはとことん堕ちるだろう。


 「まあお前がそこまで気苦労を背負う必要はないだろ。だからそうしけた顔をするなよ」


 何だか変に背負い込んで暗くなっている彼女が見ていられず無意識に彼女の頭を優しく撫でて上げる。すると途端に悲しそうな顔をしていた彼女の表情は和らいだ。

 いつもであればこのまま乗せられている手の温もりに身を委ねている所だが、新たな恋のライバルの出現に焦ったのかイザナミが予想外の行動を取って来た。


 「本当に加江須さんは女性を誑しこむ事が上手です。……ん……」


 「んむ! イ、イザナミ……」


 いつもであれば頭を撫でられている最中は大人しくなる彼女であるが今回はやけに積極的になって加江須の唇を奪って来たのだ。

 柔らかな唇を押し当てられ思わず戸惑う加江須に彼女は少し悪戯っ子の様な口調でこう言った。


 「他の女性に目移りしない為に私の特別な魔法をかけて起きました。なーんて…♡」


 そう言いながら間近で微笑みを浮かべる彼女は思わず見とれる程に妖艶な雰囲気を醸し出しており、無意識に加江須はゴクリと唾を呑んでいた。

 するとその場の雰囲気に当てられたのか更にイザナミは過激な事を囁いてきた。


 「加江須さん。そんなに緊張しなくてもいいじゃないですか。恋人同士なんです…もっと過激になっても私は良いんですよ……」


 そう言いながら彼女からは更に怪しげな雰囲気が出始める。

 しかも彼女はいつも以上にドンドンと過激となって行く。


 「私は……加江須さんの事を受け入れる準備なんて既に整っています」


 耳元でそう囁かれた加江須の顔からは真っ赤な湯気が出始める。

 このままでは自分の理性が不味い事になると思った加江須は勢いよく立ち上がりわざと大きな声で叫ぶ。


 「ああそう言えば氷蓮に少し連絡したい事があったんだった!! いやー悪いなイザナミ、そう言う訳で少し席を外すわ!!」


 どう考えてもこんな近い距離で上げる程の声量とは思えない大声でそう言うと会話を強引に切る加江須。そしてそのままスマホを片手に慌てながら部屋を出て行く。

 独りポツンと取り残された彼女は少し頬を膨らませながらそっぽを向いた。


 「……意気地なし」




 ◆◆◆




 「はあ…はあ…あ、危ない所だったぜ……」


 イザナミの前から一旦姿を隠した加江須はようやく落ち着きを取り戻していた。


 さ、さっきのあのイザナミの態度、まさかそういう事を望んでいるって事なのか? いや、いくら何でも考えすぎだよな……。


 正直に言えばさっきのあの状況はかなり理性が揺さぶられかけた。

 加江須だって思春期真っ只中の男子高校生なのだ。自分の恋人にああまで迫られてしまえば意識してしまう。


 「と、とにかくイザナミが落ち着くまでは顔を合わせない様にした方が良いよな」


 明らかに体温が上昇している自分の顔を何度かパンパンと叩いて己の中の邪気を追い払う。

 しばらくしてようやくクールダウンした彼は持ち出したスマホの電源を入れるとある人物へと連絡を取り始める。

 イザナミから慌てて距離を取った加江須であるがあの時に言った氷蓮に連絡をしたいと言うのは建前であると同時に本当の事でもある。


 しばしのコール音の後、スマホの画面越しに目的の人物が電話に出てくれた。


 『はいよー。どうかしたのか加江須』


 「こんな時間にいきなり悪いな氷蓮」


 彼が氷蓮と連絡を取りたかった理由、それはもうゲダツを討伐しても願いを叶える権利が存在しなくなったからだ。

 ヒノカミから報酬制度変更の話を聞かされた時に真っ先に彼女の事が頭に浮かんだのだ。その理由としては彼女には叶えたい願いがあると彼は知っていたからだ。


 氷蓮はずっと家族を生き返らせる為に戦い続けて来た…。でも今後はどれだけゲダツを討伐しても手に入るのは金だけ、もうアイツの家族は……。


 氷蓮の過去を知っている加江須からすれば彼女の今の心情が不安で不安で仕方がなかった。


 しかし電話をしたはいいが何を話せばいいのだろうか? 自分から電話を掛けておきながら今更何を言っているのだろうと自分の後先考えない浅慮さに思わず呆れてしまう。

 中々本題に斬り込めずに適当に別の話題で話を濁していると、スマホの向こうから呆れた様な溜め息が聴こえて来た。


 『お前が連絡して来た理由は何となく分かるぜ。どうせ転生戦士の報酬制度の変更についてだろ?』


 「……ああ、お前が心配になってな」


 加江須のその言葉に氷蓮はしばし無言となる。言葉の主語はないが彼が何を心配しているのかは理解しているからだ。


 『まあ不満がないと言えば嘘になるな。俺はこれまで家族を生き返らせたくて頑張って来たってのによぉ……何だよそれって感じかな……』


 そう吐き捨てるように口にする彼女であるがその声色は言う程失望の色が強くなかったかのように思えた。加江須としてはこの制度変更に彼女がかなりの憤りを抱いているとばかり思っていたが何だか余裕そうに思えるが……。

 思いのほか冷静である恋人に首を捻っていると彼女がその理由について話始める。


 『まあ両親ともう逢えないのはショックだぜ。でも……もう独りじゃねぇからな……』


 そう口にする彼女の言葉からは強がりの類は一切感じられなかった。


 『今の俺にはもう家族が居る。ただいまと、そしてお帰りと言ってくれる相手が居る。だから…そう心配するなよ』


 自分の事を心配してくれている加江須へと氷蓮は落ち着いた声でそう言った。


 彼女の口から出たこの言葉は決してやせ我慢などではない。

 実の両親ともう逢えない事実には胸が痛んだ。でもその寂しさを癒してくれる家族が今の自分には居るのだ。もし時折かつての思い出に涙をする事があってもそんな自分を支えてくれる家族が今の自分にはちゃんと居てくれる。

 

 氷蓮は無言で小さく笑いながら台所で夕食の準備をしてくれている余羽を見つめる。


 『それに家族だけじゃねぇ。俺には頼もしい彼氏様だっているからな。いざと言う時は慰めてくれんだろ?』


 「ああ…そうだな。お前は独りじゃないもんな……」


 どうやら自分はいらぬ心配をしていたようだ。氷蓮が、自分の恋人がこの程度の事で挫ける訳が無いと少し考えれば分かっていた事だろうに。

 何だか氷蓮のいつも通りの元気な声を聴いて加江須は無意識に笑顔を浮かべていた。


 『あっ、そう言えば黄美から連絡あったんだけどよ、お前また女絡みの問題抱えてんだって?』


 「え、あー…恋弧の事をもう聞いていたか……」


 どうやらもうすでに彼女の存在は黄美の手によって氷蓮にも行き届いていたようだ。まあ氷蓮にとっても加江須は大切な恋人、そこに言い寄る女性の影を知らせるのはある意味当たり前と言えるだろう。

 

 『しっかし加江須は本当におモテになりますなぁ。俺を含めてすでに5人も恋人が居るってのによ』


 「べ、別に俺から口説いた訳じゃないぞ……と言うのは少し苦しいか」


 『なんか俺の直感なんだけどよ、お前には何だか今後も恋人が増えて行きそうな気がして仕方ねぇんだよな。もしかして最終的には10人以上の二桁の恋人が出来るんじゃねぇの?』


 「それはさすがに言い過ぎだろ…」


 前半の湿っぽい雰囲気はもう完全に消え去っており楽し気に会話を二人は楽しみ続けたのだった。




 ◆◆◆




 日が沈み夜になると活発に活動し始める怪しげな店が立ち並んでいる歓楽街、そんなネオンの光に照らされながら多くの人間が己の欲望を満たすために行き交っていた。

 そんな夜の街から少し外れた路地では一人の男性が会社帰りにこの街に立ち寄った男性二人に恐喝を働いていた。


 「そら、お前もこんな愉快な顔面になりたくないなら財布を出せ」


 「は、はい」


 フードを被っている一人の男性がスーツ姿の暴行を加え終えた男を突き出す。すると一緒に居た男性は大人しく財布をフード男の前へと差し出す。


 「チッ、しけているな。もう行っていいぞ」

 

 「あ、ありがとうございます。おい行くぞ!」


 財布の中の金を全て抜き取ると危害を加えられていない方の男性は痛めつけられた同僚に肩を貸してその場を立ち去る。

 

 抜き取った紙幣を乱雑にポケットに押し込みながら男は舌打ちをした。


 「くそ、何で俺がこんな真似を……」


 このフードを被った男、実は以前に氷蓮との戦闘で敗北をした転生戦士であった。

 何故彼がこんなチンピラの様な真似を、それには理由があった。


 あの廃倉庫で氷蓮に敗れた後、彼はそのまま自分を雇っている行李組の本部へと連れて行かれそうになっていた。しかしギリギリのところで意識を取り戻し、そのまま能力を使って逃亡した。もしあのまま組に連れていかれれば自分は粛清を受けて命は無かっただろう。

 だが当然ながらもう彼は行李組には戻れず、収入源を失った彼の金策が略奪であった。

 だがその手段は今の様なカツアゲ、他には能力を利用しての窃盗などいかにもちんけな小悪党そのものであった。


 「くそ、あの氷蓮とか言う小娘のせいで全て台無しだ」


 自分の収入源を失っただけではなく、彼はあの敗北を機に完全に自信喪失してしまっていた。元々能力に依存していた転生戦士、あの敗北から今まで以上の小心者に成り下がってしまい派手に動く事を恐れる様になってしまった。その結果が今の落ちぶれた彼であった。


 「チクショウ…どうにかしてここから成り上がれないか……」


 今の自分の惨めな立ち位置に悔しさから拳を握り震える彼の独り言。だがそんな彼の独白に返事を返す者が現れる。


 「そんなにこの掃き溜めから抜け出たいなら協力して上げましょうか?」


 「だ、誰だ……」


 声の聴こえて来た方向は路地の向こう側、そこにはまるで悪魔の様な赤い瞳が二つ自分を覗いていた。


 「転生戦士は選ばれた存在、私たちが今の世界の生態系の頂点なのよ。もっと自信を持ちなさい」

 

 そう言いながら路地の影から現れる一人の女性。

 その美しくも怪しげな雰囲気に呑まれた男はただ無言でその人物を見つめる事しか出来なかった。



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